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ゆがんだ城(01)

「またおかしなことになりそうだね・・・君といると、ろくなことはないな」
 黒髪の若者は低く言った。その涼やかな瞳は相変わらず何の感情も見せてはいない。
 彼より背の高い連れのほうは、長い金髪を耳の上にかきあげながら、むっとして言い返した。
「ぼくのせいじゃないさ。君が術者だから、こういう妙なことに巻き込まれるのだろう」
 というのも、この若い二人連れの周りには先ほどから濃い霧が立ち込めて、二人は馬をひいて立ち往生していたのだが、ようやくぼんやり周囲の様子が見えてくると、目の前にはなぜか、不吉に荒れ果てた姿の古城が出現していたのだ。
 錆びた門がギーッと軋んで開いてゆくのを見て、黒髪の若者は淡々と指摘する。
「どうやら、ぼくたちは招かれているようだ。無視してここで待っていても、霧の晴れる見込みはないだろう」
「どうして分かるんだよ」
 不満そうに言ったセレンは、しかし、実際のところゼラルドに頼るしかないと悟っていたから、軽くため息をついて、従った。
「仕方ない、行けばいいんだろう。今頃、フルート達はミイスでのんびりしているのかな」
 二人は近くに馬をつなぎ、門をくぐって、城へと続く曲がりくねった小道を歩いた。できるだけ穏便に何事もなく元の場所に戻れると良いのだが、と、ゼラルドは心の中で思う。怪異の類は確かにゼラルドの領分なのだが、セレンという足手まといがいる今は、若干、気が重い。なるほど、長身の華奢な若者は、ゼラルドが百歩譲れば、頭の回転が速いほうかもしれないし、剣の腕も立つほうかもしれない。けれどもセレンは、こうした奇妙な空間のゆがみ、狂気と怨念の世界には、まったく免疫がないのだ。
 城へと続く小道には、たくさんの薔薇の花が咲いている。見たところ葉も蔓もなく、ポツポツと空中に花開いているようだ。ビロードのようなつやのある銀色をしていて、時折、花びらの先が紅く染まってくるかと思うと、ぽたんと紅い滴が落ちる。あちらこちらで血の色の滴をしたたらせている銀色の花々は、不気味ではあったが、美しかった。
 セレンは、足を止めて薔薇を眺めた。したたる赤い滴はどこから滲み出るのかと、花を間近で見つめていると、見ている花がゆるゆると大きく広がるような錯覚に襲われる。むせかえるような薔薇の匂い・・・
 不意に、セレンの目の前が真紅に散った。手荒く突き飛ばされて、セレンははっとした。
巨大な妖花は、幻ではなかった。足元で、異様に大きな薔薇の花が、落ちて血しぶきをあげていた。そのまま、花はぐすぐずと溶けて地面に浸み込んでいき、あとには清らかな光を放つ短剣が一本残った。静かに歩みよってそれを拾い上げたゼラルドの冷たい黒い瞳と、動揺したセレンの緑の瞳が合った。
「セレン、少しは気をつけてくれないか。今度同じことをしたら、助けなどしない」
 そう言って、手をかざして短剣を清め、何事もなかったようにゼラルドは歩きだす。
 セレンは、長い髪を後ろに束ね、今度は気をつけて、止まらず歩いて行った。

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コメント

月路さん
おはようございます。
まったく まっさらな状態で この夢のような旅ものがたりを 
読ませていただいています。
本を閉じると崩れ去ってしまう砂の城・・
空中に浮かぶ銀色の薔薇ーヴァンパイアのように人を魅惑する・・
のっけから、芳醇なイメージの世界に引き込まれます。
これから、ゆっくりと、拝見していこうと思います。

p.p.montiさん、こんにちは。雪村@電車で移動中です。
コメントをありがとうございます♪
つたない文章で恥ずかしいですが、お気に召す話があればいいなと願っています。

私も、montiさんのブログ、最初から読ませていただいています。
ついつい読み急いでしまいそうになりますが、勿体ない気がして、よく味わいながら少しずつ、大切に読もうと思っていますconfident

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