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ゆがんだ城(02)

 大きな扉は、すでに客を迎え入れるために開かれていた。しかし、城の中は暗く、扉が閉まると重たい闇となった。
 間をおかず、辺りがぼんやりと明るくなる。ゼラルドが力を使ったのだった。その明かりで、幅の広い短い下り階段と、その先の大広間が見えた。
 そして、その広間から、不気味な足音が聞こえてきたのだ・・・ひたひたという、たくさんの足音。
 セレンは思わず、ゼラルドに触れそうになるほど近づいて――もちろん、つかまるのは彼のプライドが許さなかったし、そんなことをしたら何をされるかわかったものではなかった――、そのがらんとした広間を見つめた。
 がらんとした、というのは適切ではない。そこにはたくさんの気配が満ちていたのだから。しかしまた、その気配は実体を持たず、目に見える形をとってはいなかったのだった。広間は、何もない空間の中に、よどみ、ねっとりした、不吉な匂いのする空気を抱え込んでいた。
「いやだね、ここは」
 セレンをすっとよけながらゼラルドが言った。
「ここに、なんとたくさんの魂があふれていることだろう」
 つぶやくようにそう言うと、先に立って階段を下り、広間の端のほうを歩きだす。急いでセレンが後を追う。
 ゼラルドが手でふわりと円を描くようにすると、あたりの明るさはゼラルドの手の上に凝結した光球となって、まばゆい白い光の輪を投げかけた。周りでは、眠りを妨げられた者たちの足音がひたひたと続いていたが、その音は明るい輝きの輪の中には入って来られないのだった。
 やがて、小さなドアが見つかった。ゼラルドは一瞬ためらって、それからドアを注意深く押した。それは簡単に開いた。ドアの外には、狭い上り階段が続いていて、壁にともっているろうそくが、絨毯を暗く照らしている。
 二人はドアの外に滑り出ると、用心しながら階段を上り始めた。ゆらゆらとろうそくの灯が揺れる。重い空気の中で、白い光球だけが、熱っぽく明るく輝いている。
 階段を上りきると、真っ暗な廊下があった。廊下を渡りきると、またろうそくの灯る階段があった。階段、廊下、階段、廊下、階段・・・。二人は無言でその繰り返しを歩いて行ったが、どうやらこの城は、だいぶ奇妙な造りの城らしかった。廊下は微妙に傾いていて、階段を上っても上っても、実際にはたいして上っていないようだった。ずいぶん長い間歩き続けて、さらに長い時間が過ぎても、部屋のひとつにも行きあたらないまま、それでも確かに前進していることの証に、あたりの空気はどんどん濃く不吉に淀んで来ている。
 廊下の途中で、ゼラルドはふと立ち止まって振り返った。セレンは足を止め、ゼラルドを見た。その目の中に、一瞬の安堵の色を見て、ゼラルドはぷいと顔をそむけた。周りの狂気は、セレンには少し荷が重いのだ。仲の悪いゼラルドと目が合って安堵してしまうほどに。心弱い者なら、とうに叫びだしているだろう。そうでない者の思考は麻痺させられる・・・。
 セレンを守るために、今できることは。とゼラルドは少し思案したが、結局何もせずに再び歩き出した。命には別条ない、放っておこう。フルートに約束させられたとはいえ、ぼくがセレンを守らねばならない理由は何もないし、それに・・・正気でいるほうが、これからもっと大変かもしれない。
 ゼラルドはセレンの心配をやめ、ただ後ろの足音だけは常に確かめるようにして、周囲に気を配りながら進んで行った。手の上の光球は、彼が一歩進むごとに、ぴりぴりと光を乱すようになっていた。城の狂気はどんどん強まっていく。聞こえる音といえば、二人分の足音と、ろうそくの燃える音、時々感じられるお互いの呼吸のみ。その暗い沈黙の中――
 ――突然、階段の途中で、パリンと音を立てて光球が割れた。かけらは飛び散って、不思議なゆらめきを残して消えた。ゼラルドは少しの間立ち止まって、光球の消えた自分の手を見つめていたが、すぐにまた階段を上り始めた。むろん、その表情には何の変化も表れてはいない。そして、その階段の終わりに。
 ろうそくに囲まれた細い長い廊下がまっすぐに続き、つきあたりに、ひとつの扉が見えていた。漂う凄まじい妖気・・・しかし、彼らは扉を開けなければならなかった。行き着くところまで行き着かなければ後戻りはできない。もっとも、行き着くところもまた、永久の眠りであるかもしれなかったが。
 ゼラルドはためらわずに歩き出した。セレンにちらりと無感動な目を向ける。セレンはぼんやりと虚ろな目をして、あとについてくる。
 妖気は、耐えがたいまでに強くなった。遠い記憶を振り払って扉に近づきながら、ゼラルドは扉に触れたくないと思った。
 しかし、扉は自然に開いた。音もなく、内側に。旅人たちは、中に入った。

 

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