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2011年1月

赤い小鳥の姫君(03)

 そういうわけで、フルートとフィリシアは日が落ちる前にミイスの街に入り、王城を訪れた。滞在予定は今日を入れて3日間。4日目の朝に発つ。
 フルートの故郷リーデベルクとも、フィリシアの故郷クルシュタインとも交易の盛んなこの国は、小国ながら大変豊かで安定しており、国王夫妻は旅する二人を歓迎してくれた。
 もっとも、よく話を聞いてみると、驚いたことに、その歓迎にはもっと特別な意味があったのだった。
「実は、私達の姫が三日前、このような姿に変えられてしまい・・・。魔女は、『三日後に訪れる旅人が呪いを解くだろう』と告げて去ったのです。きっとあなたがたのことだと思い、心よりお待ちしておりました」
 目の前には金の鳥かご。中では赤い小鳥が愛らしい仕草でこちらを見上げていた。国王の言によると、王女は名をアマラといい、フィリシアより二つ年下で、それはそれは可愛らしいので魔女の嫉妬を買ったのだという。「王よ、可愛い子には苦労も必要です」と、そう言って魔女が杖を振った瞬間、アマラは小鳥に変わってしまったのだと。
「呪いを解く方法はわかっているのですか」
と、フルートが尋ねると、
「わかっています。中庭に出ましょう」
 一行は中庭に出て、見た。暮れなずむ空に高く浮かぶ、星のように小さな金色の光を。
「姫の指輪です。あの指輪を取って、小鳥のくちばしに嵌めればいいのです。魔女は、指輪を取るための弓矢も置いていったので、皆で試したのですが、誰ひとり当てることはできず・・・」
「君の領分だね、フィリシア」
 フィリシアの弓の腕前を知るフルートは、さっさと荷を預けた。
「やってみます。その弓矢をお貸しください」
 フィリシアは矢をつがえ、狙いを定めた。的は小さいが、魔法の力が働いているのか、外す気がしない。ヒュン、と風を切った矢は、まるで決まっていたことのように指輪の中心に突き刺さり、矢羽根に指輪をひっかけて落ちて来た。
「おお!」
 王は指輪を取ると、つんのめるようにして屋内に駆け戻った。他の者もあとに続く。
 赤い小鳥をかごから出して、指輪をくちばしに嵌めると、次の瞬間。
 そこには、華奢で愛らしい王女がひとり、すんなりと立っていた。

 

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赤い小鳥の姫君(02)

 川辺で焚き火をして、服を乾かすことになった。
「この季節に、焚き火とはね!」
 ゼラルドは髪を絞りながらつぶやいたが、ふと顔を上げて、
「フルート。君とフィリシアは、今日中にミイスまで行き着かなければならないね?」
「ああ、できれば。すでに先方に知らせを出してしまっているから」
「では、ぼくとセレンを置いて、先に行ってくれていい。ゆうべ宿で話したとおり、別行動を取ろう。黒髪に黒い目でミイスには入れない」
「ちょっと待てよ」
 脇で聞いていたセレンが割り込んで、
「別行動は君だけでいいだろう。どうしてぼくまで」
「誰のせいでこんな目に合ったのだったかな」
 ゼラルドは冷笑した。そして、セレンが言葉に詰まっているうちに、フルートは決断を下していた。
「わかった。では、ぼくとフィリシアはミイスに行って社交辞令をこなしてくる。ゼラルドとセレンは迂回してくれ。一週間後にサイカの街で会おう。ただし」
 真面目な顔をした。
「仲が悪いのはかまわないけれど、そのせいで万一、どちらか一人が欠けることでもあったら」
 セレンを見て、それからゼラルドを見つめて、低く言った。
「許さない。いいね?」
 有無を言わせない響きに、気が付くと二人は自然とうなずいていた。
 フルートはにっこり笑った。
「では、お互いに、楽しい旅を!」

 

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赤い小鳥の姫君(01)

 大きな川だった。しかし、橋が壊れたままなのだという。
 つい修理が先延ばしになるのは、最近の雨不足のせいで岩がところどころ顔を出し、それを伝って向こう岸に渡れるから、なのだそうだ。水は深いが、流れは穏やかで、万一落ちても、多少なり泳げる者なら問題ないと、橋近くの住民は笑って言った。
「渡るしかないか・・・。フィリシア、君は大丈夫?」
「やってみる」
 馬たちには荷物を積んで泳がせた。フルートの白馬を川に入れ、進むように指示すると、他の馬を先導して泳ぎ出していく。あとは人だ。
 最初にフルートが、ひょいひょいと危なげなく岩を渡った。あとに続く者のことは考えていない様子で、あっさり渡りきってしまう。対岸に着いてから気付いたようで、後続を気遣わしげに眺めている。
 フィリシアはセレンに助けられて、一歩ずつ足場を確かめながら渡っていた。ゼラルドはそれを追い越して、川の中ほどまで来て立ち止まり、たゆたう水の流れを眺めている。
 ハプニングが起こったのは、それからまもなくだった。
「きゃっ」
 フィリシアが足をすべらせ、
「あぶない」
 セレンが踏み出してそれを助け、支えを求めて手を伸ばした先に、
「えっ」
 ゼラルドがいて、感心にも避けずに支えた代わりに、自分がバランスを崩して川に落ちた。フィリシアとセレンのほうは岩の上に残った。
 ゼラルドは少し泳いで、あとは歩いて対岸にたどりつき、フルートのことをちらりと不機嫌そうに見たが、とくに何も言わなかった。フルートも何も言えなかった。
 対岸に到着したフィリシアは泣きそうな顔で謝ったが、ゼラルドはそれを、
「君はいい」
と退けて、最後に到着したセレンをにらみ、半ばあきれ口調で、
「どうしてぼくがこんな目にあわなくてはならないんだって?」
 言葉のとおり、ゼラルドは全身、濡れねずみだった。

 

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作者より:(海辺にて)

主要登場人物の中で、一番悲劇的な事情を抱えているゼラルドの話でした。
国を出るに至った事情のほうも、そのうち。

「太陽神の印(いん)」も「月の女神の印」も、
具体的にどんな形なのかは考えていませんcoldsweats01

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(海辺にて)(05)

「さあ、早く教えて! かあさまをどこへ連れて行くの?」
 誇り高い幼い王子の目が、やがてうるんだ。
「ねえ、おねがい。どこへ、行くの・・・」
「ゼラルド」
 王妃はこみあげる悲しみをこらえた。
「ゼラルド、城へお帰りなさい。とうさまが心配するといけないから」
「でも。でも。かあさまは?」
「またあとで会いましょうね」
 あとで。それは、なんという悲しい言葉だったろう。その時にこそ、王妃は火の中へ消えてしまうのだ。そしておそらく、王子は父と、その火を高みから見下ろすことになるのだ。けれど、少なくとも今は、その言葉は王子を安心させた。
「さあ、お行きなさい」
 優しく、王妃は言った。別れと、そして新しい出発の道を示して。
「さあ」
 長い旅の始まりを祝福し、愛しい子どもを送り出す。永遠の別れを前にして。
「行きなさい、ゼラルド」

 そして、無実の王妃は炎の中で死んでいった。ほほえみながら。罪人の赤い花ではなく、真っ白な花を髪に飾って。周囲の者はみな、国王さえも、王妃が本当は無実であることを知っていたのだった。
 内乱を鎮めるための美しいいけにえを包んで、炎は燃えた。そして、王子の思い――かあさまは、いつ帰っていらっしゃるのだろう・・・。
 王妃ロザリアの処刑、ウェルザリーンの歴史に残る「太陽の王妃の処刑」は、こうして、冬の終わり、悲しいほど空の青い、海が紫にたそがれた日におこなわれた。のちに、国を捨てたとして歴史に名を残すことになる王子は、まだ母の死もわからぬほど幼かったのだった。

 

  海が数回たそがれてのち、
   ウェルザリーンは滅ぶであろう。
  海が紫にたそがれるとき、
   聖なる国はその一部を失っているのである。
     ――ウェルザリーンの予言の書より

(完)

 

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(海辺にて)(04)

「ゼラルド。かあさまのことは、忘れてもいいの。もっと周りに目を向けて、そして見るのです。あなたはいまに、その肩に重荷を負うかもしれません。けれど、決して立ち止まらずに、大きな視野を持って進みなさい。この広い海を想いなさい。あなたの美しい力を汚さないようになさい。あなたの前に開ける道を、自ら壊さないようになさい。
 あなたの道は、あなたが選びとるものです。道が長いか短いかは問題ではありません。ためらわずに、いつもあなたの望む道を、美しく清い道を行きなさい。飾り立てられた偽りの道でなく、白く光る道を行きなさい。そして、友に出会いなさい。
 かあさまには見えるのです。いつかあなたは友を得ます。人を心から愛することができるようになります。あなたが正しい道を行けば、必ずあなたは安らぎを得ます。いつも自分を見つめていなさい、ゼラルド。自分を見失わないようになさい。
 あなたはまだこんなに小さいのに、かあさまはもう、あなたを守ってあげることができません。さっき、かあさまはあなたに、≪太陽の力≫をあげました。かあさまにできることは、これでおしまいです。かあさまはもう、行かなければなりません。とうさまを責めないであげて。とうさまは悪いかたではないのです。
 かあさまが言ったこと、すこし難しかったわね。でも、心のどこかに覚えておいてほしいの。道を選ぶときが来たら、あなたが望む道を。目の前に開けている道を。清らかに光る道を選んで。さようなら、愛しいゼラルド。さようなら」
 向こうから、侍女たちが迎えに来るのが見えた。王妃は涙をぬぐって立ち上がった。
「かあさま? かあさま、どこへ行くの? かあさま!」
「王妃さま。お迎えにあがりました」
「ええ、わかっています」
 王妃は王子を離した。王子は母にすがりついた。
「かあさま! どこへ行くの、ねえ、かあさま!」
 一人の侍女が、王子の肩に手をかけた。王子はそれをはねのけた。
「かあさまをどこへ連れて行くの? どこへ!」
「王子さま・・・」

 

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(海辺にて)(03)

「かあさま・・・今の、何?」
 王妃は王子の手を離した。王子は自分の両手を眺めた。
「そうね、すこし、お祈りをしたの。気分は悪くない?」
「だいじょうぶ」
 王子は不思議そうな顔で母親を見て、
「でも、かあさま、つかれたのではない?」
「いいえ」
 そう答えた王妃は、しかし、膝をついたまま、確かにひどく疲れて見えた。
「かあさま」
 王子は何か、幼心に不安を感じて王妃の手を引いた。
「かあさま、帰りましょう。とうさまも、待ってらっしゃると思うよ」
「とうさまが?」
「うん。このごろずっと、とうさまは何か考えてらっしゃるの」
「そう・・・」
 王妃は遠い目をした。王妃に判決を下したのは、国王そのひとだった。
「だからかあさま、早く帰りましょう。ねえ、かあさま・・・」
「城へは、帰れないのよ」
 王妃は悲しそうに言った。
「どうして!」
「どうしても。そのうち・・・あなたにもわかります」
王子は黙った。が、すぐに、
「はい、かあさま。では、いつになったら、帰って来られるの?」
ひたむきな目で見つめられて、王妃は何と言おうかと迷った。
「ゼラルド・・・。今日のこの海の色を、よく覚えておきなさい。海は、あなたを守るものです」
「かあさま・・・?」
 王妃は幼い息子を胸に抱きしめた。泣くまいと思っても、涙がこぼれた。王妃は涙を流しながら、静かに微笑んだ。

 

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(海辺にて)(02)

「かあさま・・・この海・・・!」
 海は、見慣れた青緑色ではなかった。海は、嵐の時のように紫にたそがれ――しかし、とても静かだった。
「そうね。海が、とてもきれい」
「・・・うん。でも」
 王子は母親ゆずりのつややかな髪を風に吹かせて、
「でも、かあさま、ぼくはね」
「いつもの青い海のほうが好き?」
「うん」
「かあさまもよ」
 王子は母親を見上げて笑った。王妃も笑顔を返した。
「ゼラルド、月の女神の加護を、受けられるようになった?」
「うん、見ていて」
 王子は神妙な可愛らしい顔をして、ゆっくりと空中に聖句を綴ってみせた。速度は遅かったけれど、完璧な形をしていた。
「がんばったのね。とてもきれいだわ。もう、とうさまにも負けないわね」
「ほんとう?」
 誉められて、王子は嬉しそうだ。
「太陽神の加護について、教わったことはある?」
「ううん。ぼくは月の聖者になるのだもの」
「そのうちに、太陽神の加護についても、誰かに教えてもらってね」
 王妃は砂浜に膝をついてかがむと、王子の小さな両手を取って、しばらく目を閉じていたが、
「いいこと、すこし、じっとしていてね」
そう言って、何か聖句をつぶやいた。そして。
 王妃の体は、徐々に、金色の光に包まれていった。まばゆいばかりの光は、つながっている手と手を伝い、驚いて立ちすくんでいる王子をも包みこんだ。優しくあたたかい光の流れ。――どれほどの時間が経ったものか、王子が我に返ったとき、金色の光は消え去っていた。

 

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(海辺にて)(01)

 王妃ロザリアの処刑がおこなわれたのは、悲しいほど空の青い日だった。閉じ込められていた塔から手をひかれて出て来た王妃の黒髪に、日の光はもつれてきらめいた。
 日差しはあまり強くない。聖なる国は、まだ冬だった。
「ああ・・・なんてきれいな空!」
 王妃はまぶしそうに空を見上げて微笑んだ。その明るい、はかなげな微笑に、侍女たちはみな胸をしめつけられた。
「王妃さま・・・」
 ともすれば途切れがちになる声を励まして、
「王妃さま。これから半時間は、どうぞご自由になさってくださいまし。それから」
 処刑場へ、とは、誰も言えなかった。王妃は侍女たちの泣きはらした赤い目に、にっこりと笑いかけて見せた。
「そうね・・・わかっています。王子は?」
「今、お連れいたします」
 冬の終わり。冷たい潮風が横をすぎる。一か月の間幽閉されていたため、青白い肌をしてはいたが、そしてまた、つややかな髪は結われても編まれてもいなかったが、それでも、そうやって立っているだけで、≪太陽の王妃≫として慕われてきた王妃は、際立って美しく見えた。
「王妃さま、お連れいたしました」
 やがて、王子を連れた侍女が戻って来る。ただ一人の王子は、まだ幼い。
「ありがとう、お下がり」
 王妃は駆け寄って来た息子に笑いかけ、その手を引いて、海岸のほうへ歩き始めた。
「かあさま、海へ行くの?」
 黒い瞳をきらきらさせて、王子は無邪気に尋ねた。
「そうよ、ゼラルド。かあさまのいない間、何をしていました?」
「なんにも。かあさまがいらっしゃらなくて淋しかった。かあさまのことを話そうとすると、みんな黙ってしまうの」
 そんなに長いこと母親と引き離されていることが、何を意味しているのか、まだ幼い王子にはわからなかったのだ。王妃は悲しく微笑した――王子はあまり感情を外に表さない子どもだったが、その子が母との再会をとても喜んでいることがわかったのだ。
 王妃は黙って海岸に降り立った。王子はやっと母から海へと目を移し、とたん、砂浜に立ちつくした。

 

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作者より:(夏の訪れ)

ティルの実は、リンゴのようなスモモのような果物のイメージ。
多品種あり、年間を通して手に入るので親しまれています。
果実酒にしたもの(ティル酒)も一般的。wine

同じくらいの年頃の二人は、セレンのほうが1才年上です。

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(夏の訪れ)(06)

 セレンが思わず聞き返すと、ルークは真剣な声音で語った。
「言っただろう、仲間みたいなものなんだ、ぼくも。都にいる友達は、みんなぼくのことをルークと呼ぶけれど、それは本当の名前ではない。君は、君の名前のことで迷ってくれたのに、ぼくだけ隠しておくのは不公平だ。だから、ぼくも君に聞くことにした。ぼくの名前を、君は知りたい?」
 ルークが今までになく緊張しているのがわかった。
 セレンは笑った――優しい表情だった。さっきから時々、彼はそんなふうに笑っていた。
「ルーク。ぼくは名前なんて、どうでもいい。そして、ぼくは君を信じることにする。ぼくの名は、セレン。セレン・レ・ディア」
 ルークは微笑んだ。
「君の本名か。ならば、ぼくも迷わない。ぼくの名は」
 ゆっくりと息を吸って、彼は言った。静かに、そして、はっきりと。
「ぼくの名は、フルート。フルート・セア・リーデベルク。この国の正当なる後継者。やがてリーデベルクの――王となるべき、第一王位継承者だ」
 フルートは、まっすぐにセレンを見つめた。セレンはわずかに目を見張って、視線を受け止め、身動きできずに固まった。
 静けさの中で、時がゆっくりと、ゆっくりと流れていき・・・
「――そう。では、またね、フルート」
 沈黙は去った。
「時々来るから」
 セレンは笑って手を振った。
 フルートは何も言わなかった――言えなかった。その代わりに、彼は微笑み返して手を振った。

 セレンが行ってしまうと、王子はふわふわと仔馬に近寄った。たてがみが手に触れて、彼は仔馬の首を抱きしめた。
「よかった・・・。怖かった・・・」
 彼は仔馬に話しかけ、声を途切らせた。仔馬はおとなしく主人の言葉を聞きながら、耳としっぽを振った。
 彼らは夕暮れの光の中で、まるで一枚の絵のように、しばらくそこに、そうしていたのだった。

(完)

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(夏の訪れ)(05)

 ・・・ルークはこの森のことを、実によく知っていた。何を目印にしているのかセレンには少しもわからなかったが、森のどこに何があり、何が手に入るかを、きちんと把握していて、セレンに案内してくれた。やがて、セレンの服の袖口が、木の枝に引っかかって破れた。セレンはそれを機に、服の汚れや髪のもつれを気にかけるのをやめた。
「じゃ、二個落とすから受け取って」
 木の上から、ルークの陽気な声が聞こえる。それは実をつけたティルの木だった。
「ひとつめ」
 ぱしっ。受け取れた。
「ふたつめ」
 ぱしっ。受け取れた。よかった。
 ルークはするすると木から下りて来て、
「一個はぼくのだ」
 セレンから受け取って、服のすそでキュッキュと磨き、皮ごとかじりつく。セレンのほうはためらいながら、
「ルーク、これ、勝手に食べていいの? ここ、王家の森だよ」
「そうかもしれないけど、ぼくの森。うん、甘い。食べなよ」
 言われて、おそるおそる皮ごとかじってみたティルの実は、甘くて酸っぱくて、でも今までに食べたどの果物よりも美味しく感じられた。
 虫を捕まえたり、鳥を捕まえたり、草笛を作ったり。あちこち駆けまわってから泉に帰りついたときには、もうだいぶ日が傾いていた。仔馬はおとなしく二人の帰りを待っていた。
 ルークは笛を吹いてくれた。楽しげな旋律は耳に新しく、何という曲かと尋ねてみると、ルークの即興だった。今日楽しかったから、と、彼はこともなげに言うのだった。
「じゃ、今日はこれで。時々来てくれたら、また会えるかもしれない・・・それから」
 ルークは真面目な顔をした。どきっとしたセレンへ、ためらいがちに続けた。
「セレンは、ぼくの名前・・・知りたい?」
「・・・え?」

 

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(夏の訪れ)(04)

 身分――。セレンの新しい母親は、平民の子供たちを、子供だからといって容赦しなかった。セレンが誰かと一緒に遊ぶと、遊んだ子供は必ずひどく怒られた。手を鞭打たれることさえあった。噂は火のように広まって、すぐに、誰一人としてセレンと遊んではくれなくなった。それどころか嫌悪のまなざしを向けるようになった。そうして、セレンは逃げる場所を失い、籠から出ない小鳥となったのだ。
 なぜ、もっと早く気付かなかったのだろう、と、セレンは肩をぎゅっと掴んで考えていた。誰もいない場所を求めてやってきた場所で、思いがけず出会ったこの少年も、セレンが本当は誰なのかを知ったら、去って行ってしまうのだろう。自分では気づかぬまま、セレンは、いつもの冷たい無表情に戻ろうとしていた。
 ルークは、黙ってセレンを見ていた。彼は、セレンの変化に気付き、失言を心から悔いていた。友達になれそうだと思ったのに、信頼を築くより前に失おうとしている。
「・・・ごめん。見なかったことにする。もう言わない」
 沈んだ口調でルークは言い、未練を持って続けた。
「ただ、それを見ても見なくても、君に会えてうれしかったし、友達になりたいと思った。それは本当のことだから」
 にこ、と笑ってみせる。穏やかで淋しげな微笑みに、セレンは思わず見とれた。しばしの沈黙のあと、ぽつんと言った。
「ぼくには友達って、いないんだ。ひとりも。君は・・・いいの?」
 ルークは一瞬、何を言われたのかわからないような顔をしたが、すぐに、きらきらした笑顔になって立ちあがり、セレンの手を引っぱった。
「もっと、森の奥まで遊びに行こう、二人で」

 

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(夏の訪れ)(03)

 いつものセレンなら、同じ年頃の少年に興味などなく、自らも名乗ることなく、黙って立ち去っていただろう。けれども、ふだん来ない場所で偶然出くわした目の前の少年は、なんだか特別な存在に見えて、セレンは言葉を失ってしまった。
 ルークは、そんな彼を、いぶかしむように見ている。セレンは困り、ようやくのことで、
「あの・・・名前、言わなければいけない?」
と言った。
「その・・・あの、名前を言ったら、良くない、気がして」
 うつむき加減に、懸命に言葉を探す。自分の言葉のつたなさを情けなく思いながら、そっと相手の顔をうかがうと、美しい少年はきょとんとした顔をしていた。そうして、こちらも迷うようにしながら口を開き、
「もし、何かの理由があって、名前を教えられないと言うなら、それでもいいよ。ぼくも、仲間みたいなものだと思うから」
 ルークは、明るい青い目を、まっすぐセレンに向けた。
「でも、そうしたら、ぼくは君のこと、何て呼べばいい? 月光くん、とか? きれいな月の色の髪をしているから」
 少しふざけているようで、青い目がくるくると輝いている。セレンはほっとして、それから、家の名を出さなければよいのだと気づき、
「セレン、と呼んでくれる?」
「わかったよ、セレン」
 ルークは即座に応じた。それから、仔馬を木につないで、そばの草の上に、すとんと足を投げ出した。
 セレンは自分の服を見た。汚して帰ったら何か言われるだろうな、と思いつつ、ルークの隣に、少し離れて、そっと腰を下ろす。
 ルークはセレンのほうを見て、興味深そうに言った。
「セレン、君が名乗らないのは、もしかして、その肩の印のせい?」
 はっとして、セレンは思わず身を固くした。貴族の服には、左肩に金色の線が織り込まれるのが、この国の習わしだ。セレンの白い手が、服の肩を隠した。

 

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(夏の訪れ)(02)

 夏の初めの森の中を、奥へ向かって少年は歩き出した。進むにつれて、少年の魂は束縛から解き放たれ、その瞳は次第に明るくなってゆく。
 どれくらい歩いただろう。不意に木々が開けて、美しい泉のほとりに出た。セレンは水面の輝きに心を打たれ、立ち止まった。
(何て・・・何てきれいな泉なんだろう。あんな窮屈な家よりも、こんな泉の中で暮らしてみたい。水底には、きっとガラス細工のような町があって)
 一人でいるときにしか見せない、うっとりとした目で、セレンは泉を眺めた。
(ああ・・・こんな泉になら、ときどき天馬だって水を飲みに来るだろうな。静かな夜に、そっと翼を広げて。その場に居合わせることができたなら、ぼくも遠くへ連れて行ってもらえるだろうか・・・)
 しばらくぼんやり眺めていると、不意に背後で、草を踏む音がした。セレンははっとして振り返った。瞬間的に、再び氷が張り詰める。が、振り向いて、彼は思わず目を丸くした。そこにあったのは、宮廷画家の描く絵画のような光景だったからだ。
 見たことのない少年、それもとびきりの美少年が、白い仔馬を連れて、木々の間に立っていた。年のころは同じくらい。陽の光を思わせる見事な金髪に、澄んだ青い目をしている。先客がいることに戸惑うようにこちらを見ている彼らは、セレンの目には、おとぎ話から抜け出して来たかのように映った。
 しばらくの間、二人の少年は、お互いにまじまじと見つめあったまま黙っていた。どこかから木々の間を抜けて来た風が、セレンの長い髪をふわりとなびかせた。
「・・・誰」
 先に口を開いたのは、セレンのほうだった。ささやくように、ただ一言。
 仔馬を連れた少年は、片方の眉を微妙にひそめた。
「・・・君こそ。まあいいや、ぼくはルーク。君は?」
「ぼく――ぼくは・・・」
 セレン・レ・ディア。そう答えようとして、セレンは迷った。ディア家の名前を出すことは、そのまま別れを意味していた。この身分のせいで、今までどれだけの友達と別れて来ただろう。

 

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(夏の訪れ)(01)

「セレンさまあ。セレンさまあ。どこにおいでですかあ――」
 遠くに聞こえる呼び声に、少年は眉をしかめた。とても綺麗な少年で、背中まである長い金髪が日の光にきらめいているのが、まるで森の中の妖精のように見える。
 年のころは十ばかり。瞳は深い緑色。
(どうしようか)
 ほっそりとした体に、うすい緑色の服を着て、妖精は少し思案した。春が終わり、そろそろ暑くなり始める時期だったが、森はひんやりと心地よく、この珍しい小さな客を迎え入れていた。
(まあ、いいか。なんだか一人で散歩したい気分だから)
 少年は長い金髪をもてあそび、歩き出す。
 決して、明るいといえる表情ではない。何かを思いつめながら、瞳だけが夢を追っている、そんな雰囲気の少年だった。
 このリーデベルク国で最も王家に近い血を持つ、ディア家。それが、少年の家だった。彼の生母は、彼がまだ幼いころに病でこの世を去り、そのせいで、彼の日常生活には影が差すことになった。
 父は、政務で忙しかったため、息子のためを思い、ほどなく再婚した。新しい母は、真面目で賢かったが、家柄で前妻に引け目を感じていた。「この子を立派に育てなければならない、前の方よりも」という思いが、若い母親を常に追い立てた。
 義母は、セレンを立派な後継者とすることに心を砕いた。たくさんの教師を集め、朝から晩まで時間割を組んだ。そこに遊びやゆとりはなく・・・幼い子どもは自由を奪われた。来る日も、来る日も、きっちりと組み上げられた計画が、確実に消化されていった。明るく、素直で、よく笑っていた子どもの顔からは、日ごとに微笑みが消えていった。
 数年の年月が流れ去った今では、屋敷でのセレンの評判は、冷たく無感動な少年だとして一致していた。最初は同情的だった者も、少年の心がだんだんと閉じ、その氷のような視線が自分に向けられるようになると、そっぽを向いた。
 少年は、亡き母から受け継いだ豊かな想像力と、幼い時に覚えたたくさんのおとぎ話を支えにして、今にも崩れそうな生活の均衡を保って生きていたが、それを知る者はなく。少年は広大な屋敷の中で、大勢に囲まれて、ひとりぼっちだった。

 

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