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竜王の館(前編)(05)

 ・・・目が覚めると、見慣れない部屋のベッドの上にいた。失神する直前の記憶がよみがえり、フィリシアははっとして身を起こそうとした。
「お目覚めでございますか?」
 すぐ横で、細い女の声がした。反射的にそちらを向くと、美しい娘が一人、おどおどと心配そうにフィリシアの様子をうかがっていた。
 フィリシアはともかくも起きなおり、ひとつ深呼吸をして気を鎮めると、穏やかに尋ねた。
「ここはどこ? ・・・あなたは?」
 娘は目を伏せた。
「ここは、偉大なる竜王さまのお館の、若様のお住まいになる離れの一室でございます。わたくしはここにお仕えしている、ナミと申す者。このたび、姫様のお世話を承りましてございます。以後よしなに」
 不吉な胸騒ぎがした。フィリシアは、気を確かに持って、できるだけ落ち着いた声を出そうと努力した。
「それでは、ここは水の底ですか?」
「はい、姫様」
「わたくしは、いつ、帰ることができるでしょうか?」
「さあ、それは・・・」
 ナミは口ごもった。フィリシアの表情が硬くなる。ナミは彼女のほうを見ないまま、かすれるような声で、
「わたくしには、わかりかねましてございます」
 かろうじてそう言うと、取り繕うように、
「いま、若様をお呼びして参ります。お待ちくださいませ」
 言って、逃げるように部屋を出て行った。
 館の若い主が、今は人の姿に戻ってやって来たのは、それからいくらも経たぬうちだった。
「どうだ、気分は」
 ノックもせずに彼がずかずかと入って来た時、フィリシアはまだ、やっとベッドから下りて服を直しているところだった。この「若様」にさらわれたのだと知らぬまま、彼女は急いで立って、姿勢を正した。
「おかげさまで、だいぶ落ち着きました」
 まずは礼儀正しく答えてお辞儀する。状況がのみこめないので、それ以上の言葉は出て来なかった。
「何よりだ」
 若い主は満足げに言って、
「おお、ともかく座るがいい。私もかけるから」
 二つある椅子を指し示し、まずは自分が腰かける。フィリシアも遠慮せずに座ることにした。彼は上機嫌で彼女を見ている。

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