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竜王の館(後編)(03)

「おお・・・これはこれは」
 ややあって、遅れて入って来たのは、これは今度こそ、偉大なる竜王その人とその妃だった。そしてその後ろに――たぶん今しがた合流したのだろう、竜王の息子が、打ちひしがれた様子で立っている。彼は目を上げて、ミルガレーテから離れた青い髪の姫君を食い入るように見つめた。フィリシアはその視線を避けて目を伏せた。
 竜王が言葉を続けていた。
「では、倅の奴め、本当に・・・。いや、ご友人には実に失礼なことをした、光り姫。お許し願いたい」
 ミルガレーテに軽く頭を下げる。白髪と長い白い髭をした、おそろしげな顔の王であったが、見かけよりはずっと話のわかる賢い王であることは、その言葉の端々から察することができた。
 ミルガレーテは上品に挨拶を返し、
「いいえ。こちらこそ、いろいろと勝手ばかり申しあげて、申し訳ありませんでした。友人も良い待遇を受けておりましたようで、改めて竜王様ご一族のお心遣いに感謝いたします」
「なんの、勝手にひっさらって来ておいて、待遇も何もあったものではない。誠にすまなかった」
 竜王はそう言って、フィリシアのほうに目を移した。フィリシアは、努めて心を落ち着かせようとしながら、うつむき加減にそこに立っていたのだが、気が付いて目を上げ、静かに会釈を返した。竜王はそれを鋭い目で眺め、
「ほう。なるほど、これはお美しい方だ。このたびは倅が失礼をしたが、許してやってくださいますかな」
 フィリシアは初めて竜王と話すのに緊張したが、何とか微笑らしきものを浮かべて、優雅にお辞儀した。
「ご子息様には、何から何まで、すっかりお世話になりました。今こうして、元いた場所に帰していただけます以上、何をお恨みすることがございましょうか」
「さようか。そう言っていただけるとありがたい――おお、これ、どこへ行くのだ」
 最後の言葉は、くるりと背を向けて立ち去った息子に向けられたものだった。フィリシアの胸がずきりと痛み、彼女は切ない思いでうつむいた。あの方には、もっときちんとお礼がしたかったし、お別れも言いたかったのに、と彼女は思った。

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