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  • (2017/5/11夜) 春って、あわただしく過ぎて行くものなのですね。でも、ようやく身辺が落ち着いて来たような気がします。

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竜王の館(前編)(13)

 竜王の息子が言い淀むのへ、助け船を出して、
「どんな方達がおいでですの」
 聞くと、彼は気の向くままに話してくれた。どこの湖の貴族が気難しくて、どこの川の妖精が気立てがいいか。彼のどの伯父が威張り屋で、どの従姉が賢いと評判か。話の中には、フィリシアの知っている地名もあれば、およそ耳慣れない響きの地名もあった。他愛ない話ではあったが、案外おもしろかった。そうしているうち、また音楽が変わった。
「おや、これも・・・姫は踊れるのか」
 竜王の息子が、いったん踊りやめてフィリシアに訊いた。
「はい、踊れます」
 答えてから、フィリシアは質問の意味に気付いた。これも内陸の曲ではあるが、難しい曲なのだ。だんだん速度が速くなるので、最後のほうは踊れなくなる者が多い。城の舞踏会では、もっぱら若い者達が、競って踊っていたものだ。フィリシアは好きな曲だった。
「それは良かった」
 竜王の息子がにっこりと笑ったところを見ると、彼も別に不自由することはないらしい。二人は部屋の中央に出て、音楽に合わせて踊り始めた。
 ゆっくりとステップを踏んで振り付けが一巡すると、どうやらこの水の底でも、複雑なステップは地上とほとんど同じものらしく、二人はほっとしてお互いに微笑みかけた。それから先は、二人とも安心して踊り続けたが、いくら得意な曲ではあっても、旋律が次第に速まるにつれて口数は減っていき、しまいには黙って、けれど楽しげに、くるくると踊り続けることになった。浮き立つような軽やかな音楽は、どんどん、どんどん、速くなっていく。もっと速く――もっと速く――もっと速く!
「すてき・・・!」
 くるくると、くるくると踊り続けて、やっと音楽が派手な和音を響かせて終わったとき。息を切らせながら相手に笑いかけたフィリシアの、その上気した顔にも、青い澄んだ瞳にも、ついに、ここしばらくの憂鬱は、もはや影も留めてはいなかった。彼女はすっかり興奮して、無邪気な喜びと素直な称賛を、輝くばかりの笑顔でこのパートナーに振り向けていた。
「あなたはとてもとても、とても上手に踊られるのね! もっと速くなったって踊れたわ――素晴らしいわ!」
 この手放しの喜びように、竜王の息子は、少しひるんだようだった。彼は、愛しい姫君が急速に心を開いてくれていることに驚き、正直なところ、どうしたらよいのかわからなかった。彼はその端正な顔に、胸のつかえたような何ともいえない表情を浮かべて、ただまじまじと姫君の顔を見つめていた。いま何を言うべきなのか、どんなふうに振舞うべきなのか、彼は全く思いつくこともできなかった。

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