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2011年4月

化身の魔女(06)

 ルークは不服そうにしていたが、そこまで聞いて、
「じゃ、ともかく行こうぜ」
 馬の首を巡らせて、左の道――魔女のいる道――へ向けた。
「ルーク」
「兄ちゃん?」
 二人に同時にとがめられて、苛立たしげに応じた。
「何だよ、問題はないじゃないか。君も君だぜ、セレン。それで俺たちにどんな不都合があるって言うんだ」
「君は物事を軽く考え過ぎるきらいがあるからね」
 セレンは眉をしかめた。ルークは相手にせず、
「はん、何をまた。君だって、そこらの石ころの中に一つだけ俺が化けたのがあったら、見分けがつくだろう」
「・・・たぶんね」
 セレンはキートに気兼ねして控えめに言った。ルークは続けて、
「砂利の中に一粒だけって言われても、やっぱりわかるだろ」
「・・・たぶんね」
 セレンはいっそう控えめに言った。もっともキートのほうは、どうやら気を悪くする様子はなく、どちらかといえば、不審そうな、疑り深い表情で成り行きを見守っていたのだ。
「だろ、だから行こうぜ」
 ルークは愛馬の脇腹をとんと蹴った。
「仕方がないな」
 セレンがため息をつきながら自分の馬の向きを変える。キートを振り返って、
「じゃあ行こうか」
「・・・ちょっと待てよ!」
 キートはそこで初めて、戸惑った声で二人を引き留めた。
「あんた達、何考えてんだよ! できっこないよ、そんなの!」
「うん、でも君に迷惑はかけないから」
 申し訳なさそうにセレンが言う。ルークのほうは、ちょっと先から振り返って、
「何だよキート、おまえ、友達を取り返したくないのか? 俺達はどっちだっていいんだぜ?」
「だって・・・困ることになるのはあんた達なんだぜ」
 キートのためらいがちな声に、笑って、
「気にするなって。いいから、友達を助けたいのか助けたくないのか、どっちなんだよ?」
 キートの返事も聞かずに、あごをしゃくった。
「ほら、行くぞ」
 それで、キートはやや気圧された格好で、二人の若者の後について行ったのだった。

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化身の魔女(05)

「ふうん。なるほどね」
 ルークが不謹慎なほど興味深げに言った。
「それで友達の身代わりに、面倒がないような一人者を探してたわけか」
「あんた達がもっと嫌な奴だったら、二人まとめて魔女に差し出してたかもしれないけどさ」
 キートは力なく笑った。ルークも笑って、
「それで、もし俺が一人だったら、俺はどんな目に会うところだったんだよ?」
「・・・一人だって、やっぱり俺、あんたのことは連れて行けなかったと思うよ」
 キートはちょっと考えてから言ったが、質問に答えて、
「魔女はね、つかまえた奴を、何か別のものに変えてしまうんだ」
と言った。
「別のもの?」
 ルークが訊き返すと、うなずいて、
「うん。動物とか、鳥や木や花や、何でも。俺、一所懸命に探したけど・・・だめだったんだ」
「探した?」
 キートのため息まじりの言葉を、ルークが聞きとがめた。キートは素直に、
「うん。どれが友達か、探したんだよ。見つけられれば、助けられたんだ。他につかまってる人も全部さ。でもあんなの、わかりっこないよ。魔女だって、だからそんなこと言ってるんだし、現に、今まで誰もできなかったんだ」
 ルークは――彼としては慎重なことに――ひと呼吸おいて、さらに確認した。
「ひとり探し出せれば全部助けられるっていうのか?」
「うん、でもあんなの無理だよ」
「どうやって探すんだ?」
「無理なんだよ。チャンスは一度だけでね。魔女は、つかまえた人間の姿を変えて隠してしまってから、その仲間を、ある時には花でいっぱいの原っぱに連れてって、この花の中から見つけ出せって言う。ある時には、空に鳥をたくさん飛ばせて、その中から探せって言う。俺の時は、森を自由に歩いて木の中から探せって言ったよ。あんちくしょう」
 わずかな間、曖昧な沈黙が落ちた。そして、セレンがはっと気づいて止めるよりも早く、
「それだけ?」
と、ルークが口にしてしまっていた。
「それだけ、だって!」
 少年は打たれたように顔を上げ、かっと怒りに顔を染めた。
「それだけ、だって! 俺がどんなに・・・」
「いや、つまりね」
 セレンが急いで割って入った。
「こいつが言いたかったのは、それで本当に全部かってことだったんだ。たとえ探し出せたって、その後にもどうせ、いろんな面倒があるんじゃないかって」
 セレンはルークの不満げな顔には気づかないふりをした。キートは納得のいかない様子だったが、
「・・・ああ。ううん、それだけだよ。あんな魔女の言うことが信用できたらだけど」
 一応は気を静めたようでそう言った。

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化身の魔女(04)

「大丈夫だよ、君、落ち着いて」
 懸命に逃げ道を探すキートの行く手を上手にさえぎりながら、髪の長い若者は柔らかな口調で言った。
「君が正しい道を教えてくれたのはわかってるんだ。ぼくらはただ、話を聞かせてほしいだけなんだよ」
 その言葉は辛抱強く繰り返されることになったが、そのうち、ようやく、少年は自分が安全なことを理解して、不安そうにしながらもおとなしくなった。
「・・・どうすればいいんだい」
 しょんぼりとなったキートに、ルークは笑って、
「何をしょげてんだよ。しゃんとしろって。たださ、もしおまえの気が変わらなかったら、俺達がどうなるはずだったのか、気になるじゃないか。その魔女っていうのは、結局のところ、何をするんだ?」
「うん・・・」
 キートは若者の真意を探るように、上目づかいにルークを見上げたが、ルークの楽しそうな青い目に見つめ返されて、ため息をひとつついて降参した。
「あーあ。どうしてばれたんだろ」
「悪いことは隠せないのさ。ほら、話せって」
「うん。・・・そうだなあ」
 どこから話そうかと迷いながら、キートはぽつぽつと話し始めた。
「とにかくさ。魔女が出るっていうのは、それは本当に、本当の話なんだ。初めて話を聞いたのは、ひと月くらい前だったかな・・・町から近道を通って来た商人たちが、気味悪そうな顔して言ったんだ――道の真ん中に魔女がいて、仲間を一人置いてけと言ったって。実際、置いて来るしかなかったって。でも、その時はみんな、たいして気にしてなかったんだ。変な話で、よくわからなかったからさ。
 だけど、そのうち、だんだん同じような話が多くなって、俺んとこの村でも、何人かそうやっていなくなっちまった。話を知ってる奴はみんな、その道を通らなくなって、魔女につかまるのは他所の奴らだけになった。
 ところがある日、鍛冶屋のおじさんが、魔女につかまったはずのおばさんを、連れて帰って来たんだ。実のところ、それまでにも何回か、誰かが身代わりになって助け出すっていうことはあったんだけど、鍛冶屋のおじさんが他の人と違ってたのは、おばさんの身代わりにしたのが、まるきり何も知らない他所者だってことだった。だまして置いて来たんだよ。みんな、おじさんは卑怯だと思ったけど、仕方ないとも思った。他の人も真似を始めて、そのうちに村の人はみんな戻って来た。それから、俺達はみんな、魔女のことには目をつぶって、忘れることにしてしまったんだ。近道が通れないから、なるべく町には行かないようにしてさ。
 それで、つい三日前だったよ、俺、たまには友達に会おうと思って、遠回りして町まで行ったんだ。そしたら、あいつ、その日は何だか機嫌が悪くて、それでついこっちも腹が立って、だって遠いのにわざわざ会いに行ったんだぜ、それで大ゲンカしちまったんだ。俺はすぐに村に引き返した。頭に来てたんだ。でも途中まで来て、ふいと、あいつ魔女のこと知ってるかなって思った。それだけは教えとかなくちゃと思って、もう一回町に戻ったんだ。そしたら、あいつは入れ違いで俺の村のほうに行ったっていうんだよ。途中で会わなかったんだから、魔女のいる道に行ったんだってわかった。俺、一所懸命追いかけたんだ。魔女が出るっていう道を、走って、走って、やっと追い付いて、ああよかった間に合ったって、思ったときに・・・」
 キートは絶句した。続きは、聞かなくてもわかった。

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化身の魔女(03)

 しかしながら。
 実際に一緒に道を進み始めてみると、この栗色の髪をした少年には、どうやら、ひどく気にかかることがあるらしかった。彼は一人だけ馬を使わずに徒歩のままだったが、二人の若者が馬上から世間話の水を向けても、その場はちゃんと受け答えするものの、やがて上の空になって沈みこんでしまう。そうかと思えば、ときどき我に返って、親しげに話しかけて来ることもある。
「兄ちゃん達、町に何しに行くんだい」
 ともかくも折り合いよく進んで行くと、ごく自然な成り行きとして、話はそんなふうなことになった。ルークが気さくに、
「知り合いがいるんだ。おまえは? どこに住んでるんだ?」
 尋ね返すと、
「いま来たほうだよ。町には友達がいるからね。よく行くんだ」
 少年は答えながら、その目に不思議な暗いかぎろいを浮かべた。
「ちょっと生意気だけどね、いい奴なんだ。こないだ、けんかして」
 少し黙った。それから、
「でも、いい奴なんだ」
と言った。誰にも文句は言わせないといった口調だった。そして、またしばらく物思いに沈んでしまった。
 ルークは、おやおやと言いたげに眉を上げたが、何も言わずに口元をほころばせただけだった。セレンも、微笑して黙っていた。そのまま、三人とも何もしゃべらなくなってしまったのだが、少年は一向に気付かない様子で、半ば無意識のように案内を続けていた。
 そうして、一時間ばかりもやって来ただろうか、ひとつの分かれ道にさしかかったとき。
「ここは、右」
 キートの様子は少し前から変わっていた。何かが吹っ切れたような顔つきで、ぴんと背筋を伸ばし、誇らかにそう宣言する。そして、今までと同じように、先に立って進もうとした。
 ルークはセレンと目を見交わしてうなずいた。馬を止め、少年に呼びかける。
「キート、ちょっと待て」
「え?」
 少年がいぶかしげに振り返る。ルークはごく軽い口調を保って言った。
「左に行くと、何があるんだ?」
 少年はびくっとした。その瞳に、暗い影が戻った。
「・・・そっちに魔女がいるんだ」
「で、俺たちを連れていくと、何かいいことがあるのか?」
 少年ははっと目を見開いた。次の瞬間、身をひるがえして逃げだそうとした、その目の前に、セレンの馬が素早く回り込んでいた。

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化身の魔女(02)

「で、キート」
「え?」
「紹介するよ、あれが俺の相棒」
「え・・・」
 キートは振り返り、ぽかんとなった。指し示されたのは、人をよけながらこちらに近づいてくる、背の高い、上品な感じの若者だった。ルークがありふれた旅装をしているのに対し、この「相棒」のほうは、こんな安宿にはまるで不似合いな、明るい緑色の良さそうな上着を着ている。さらに、肩にはオレンジ色のスカーフまでかけて、その上を、ルークよりも淡い色の金髪が、さらさらと腰のあたりまで伸びているのだった。
 その若者は、やっとテーブルまで来ると、
「だから両替くらいしておけって言ったのに。ほら」
 ぽんと革袋をルークに渡しながら、見知らぬ客に気付き、緑の瞳でキートににこっと笑いかけた。
「こちらは?」
「道案内を頼んだんだ」
と、ルークが言うと、
「道案内?」
 不思議そうな顔をする。
「魔女が出るんだってさ」
「魔女?」
「ほんとの話らしいよ」
「・・・それならいいけど」
 得心のいかない顔でそう言ったが、ともかくもキートに向き直り、人当たり良く、
「よろしく、ええと」
「・・・キートだよ」
「よろしく、キート。ぼくはセレン」
 差し出された手を、キートはじいっと見て、おずおずと手を出して握手した。それからルークのほうを向いて、
「兄ちゃん、一人じゃなかったのか・・・」
 心なしか沈んだ声でそう言った。
「なんだ、不都合でもあるのか?」
「そういうわけじゃないけど」
 キートはそれでも何か迷うように、
「俺・・・」
 つぶやくように言って二人の若者を見比べていたが、やがて思い切ったようで、
「何でもないよ。いつでも行こうぜ!」
 笑顔を作り、元気にそう言った。

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化身の魔女(01)

 朝食をとる客で混み合っている宿屋の食堂で、隅の粗末な木のテーブルに席を占め、行儀悪くひじをついてパンをかじりながら友達を待っていると、
「なあ――兄ちゃん」
 一人の少年がテーブルに寄って来て、緊張した面持ちでそう声をかけて来た。
「何だい」
 ルークは気軽に返事をしてそちらに顔を向けた。少年がさっきから自分を見ていたことは知っていたし、それがこちらへ向かってくる様子も視界に入っていて、物売りにしては変だなと思っていたところだったのだ。
「あのさ・・・兄ちゃん、きっと、レギの町に行くんだろ?」
「だったら?」
「そのう、道案内、いらないか?」
「売り込みを聞こうか」
 ルークはパンの最後のひとかけを口に放り込んで手をはたいた。あっさり応じられて、少年は少し戸惑ったようだった。
「あの、ええと」
 言い淀んだが、そのうちに、意を決した様子で、
「ここらへんは、危ないんだ」
 そう断言した。
「なぜ?」
 ルークのまっすぐな青い目を、一所懸命に見つめ返して、
「このあたり・・・魔女が出るんだ。通りかかる人間を、取って食うんだ。俺、それがどこに出るか知ってる。――ほんとだぜ?」
「どこまでいくら」
 ルークの軽い対応に、少年は拍子抜けした顔をした。
「なんだ、兄ちゃん、ひょっとして・・・この話、もう聞いてたんだ?」
「いや。でも、そう言うからには嘘じゃないんだろ」
「もちろん」
 少年はほっとしたようだった。上目づかいに相手の顔をうかがいながら、
「レギの町の入り口まで、金貨一枚、後払い。・・・高いかなあ」
 聞いているルークの目に、おかしそうな色が浮かぶ。しかし、少年が怯むのへ、
「よし、乗った」
 ルークはにやっと笑って言った。
「俺はルーク。おまえは?」
「キートだよ」
「よろしくな、キート」
 手を差し出す。キートは少し照れて、ばつが悪そうにうなずきながらその手を握った。

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予告:「化身の魔女」

(ちっちゃい二人じゃなくて)本編の、ルーク&セレンのお話です。
ルークがメインで。という話、まだなかったですよね。

ありふれた筋立てですが、雰囲気を楽しんでいただけたらと思います。
ちょっと長めの、全20回くらい。
コメントくださる方は、どの記事にでも、どうぞお気軽にnote

ゴールデンウィーク中は、原則「火・木・日」のまま通す予定ですが、
もうすこし増発できれば増発しますね。土曜とかwink

(今回から、まえがきは「予告」というタイトルにしてみました。)

 
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作者より:(月の娘)

・・・という小品でした。今までで一番短いかも。
評判が良くなかった(バナークリックが少なかった)のは、各回の短さゆえでしょうか。

ゼラルドには、そういうわけで、血のつながらない妹が一人います。
フィリシアに弟がいるのは前に述べたとおりとして。
フルートとセレンは、いずれも一人っ子です(親戚は多そう)。

「火・木・日」の更新は、まあまあ悪くない感じです。
作品と作品の境目にあたるところだけ、まえがき・あとがきで立て込むことがあるので、イレギュラーにさせていただきますね。

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(月の娘)(03)

国王レイラームの再婚相手は、病弱で王位を継げなかった兄王子が、ひっそりと生涯を閉じたことにより残されていた妻だった。
兄王子とその妻との間には、ゼラルドより遅く生まれた姫君が一人あり、世が世なら第一王位継承権を持っていたはずのその姫君は、ゼラルドの義理の妹になることになった。
今まで社交の場に出てくることのなかったその少女を、初めて紹介されたとき、ゼラルドは驚いた。それは、あの晩の「月の娘」だった。
公の場ゆえ、白い正装をふわりと着て、装飾品を身にまとい、慎み深く目を伏せていた姫君は、おもてを上げてゼラルドを認めるや、顔を輝かせた。
「おにいさま!」
・・・ああ、この子がぼくの妹になるのか――
――そう思ったとき、再会の喜びもありながら、自分が失望を感じてもいることに、ゼラルドは戸惑った。どうやら彼は、「月の娘」が正体不明のままであることを望んでいたらしかった。あるいはせめて、親族以外の誰かであるようにと。
複雑な思いを振り払い、にこと微笑んでみせると、姫君は、さあっと頬を染めて、もじもじとうつむいた。ゼラルドは居心地の悪い思いをした。
あの月夜とは、何かが違ってしまっていた。
目の前にいるのは、もはや「月の娘」ではなく。
王女ユリア。それが、姫君の名前なのだった。
そして、まだ誰も。
ユリア本人さえも。
これから宮廷に訪れる悲劇を知らなかったのだった。

(完)

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(月の娘)(02)

少女はこちらに気づくと、先に挨拶を寄越した。
「こんばんは」
「こんばんは。君はどこのお嬢さん?」
ゼラルドがそう訊いたのは、少女の身なりがきちんとしていて、良い家の令嬢であろうと思われたからだった。
少女は笑った。美しい少女だった。長い黒髪はいったん結い上げられたあとに垂らされている。年はゼラルドより二つ三つ下だろうか。
「わたし? わたしは、月の娘。おにいさまは?」
「では、ぼくは太陽の息子だ」
言ってから、大仰な言葉の響きを恥じたが、あながち間違いではないのだった。亡き母は生前、太陽の王妃と呼ばれていたのだから。
「すてきだわ。でも、わたし、ふざけているのではないの。ほら」
少女は指先で、すばやく何かの文字を綴った。すぐに、一抱えもある大きな月のような光球が生まれて、少女の黒髪と繊細な顔立ちを明るく照らし出す。
ゼラルドは驚いていた。満月の晩とはいえ、少女はこの年で、すでに強力な<月の力>を使いこなしている。
「ね。今日は満月。わたし、うれしくて月から下りて来たの」
「ぼくもふざけてはいないよ。ほら」
ゼラルドは同じように指先で聖句を綴った。少女の抱えていた月が、徐々に赤みを帯び、燃えさかる太陽のようになる。
するとどうやら、他人の力への干渉は、まだ少女の知らぬ領域らしかった。
「すごいわ!」
少女は目を丸くして驚いた。その無邪気な驚きぶりは、好ましいものだった。
「わたしね、今度、新しいお兄様ができるの。あなたのような人だったらいいのに」
「光栄だ。でも、今日はもう夜も遅いから」
「そうね・・・またお会いできたらいいわね」
「そうだね。気をつけてお帰り」

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(月の娘)(01)

ウェルザリーンの国王レイラームは、寡黙な王だった。
もともと無口だったのが、王妃を喪って以来、さらに口数が少なくなったようだった。
彼は、その年齢と地位から考えると異例なほど長い期間を独り身で通したが、ある年、周囲からの再婚の勧めをこれ以上断ることができなくなると、一人息子を呼んで言った。
「すまない」
と、一言だった。
呼ばれた王子ゼラルドは、ふだんから疎遠な父が、なぜこの件について謝るのか理解しかねた。が、おそらく亡き母の代理を求めているのだろうと推測し、こちらも言葉少なに、
「お気になさいませぬよう」
と答えて微笑んだ。国王はうなずいた。

父王の再婚が決まったこの夜、ゼラルドは城を抜け出して海岸を歩いた。
波の音を聞きながら、父のことと、亡き母のことを考えた。
内乱を鎮めるため、無実にして処刑された母。
親子というには遠い仲の父。
だが、父は父なりに、償いを生きている。と、聡い王子は知っていた。
物思うのにちょうどよい月夜だった。
満月の明かりが、砂浜をしらじらと照らしている。
ゆっくりと歩を進めていたゼラルドは、しかし、思いがけず思索を妨げられることになった。
いつからいたのだろう、砂浜に、少女がひとり、月を見上げていた。

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作者より:(仲たがい)

フルートは城を抜け出すのに、王室に伝わる秘密の抜け道など使っていそうです(ワープする魔法付き)。

きっと、隣の国ではフィリシアも、同じように秘密の通路でおしのびに出かけているのでしょう。

 
次回はゼラルドのエピソード。本編より数年前のお話。これも短いです。

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(仲たがい)(03)

 森の泉でルークに出会ったあの日から、世界はまるで変わってしまった。まぶしいほどに色鮮やかな日々。なのに、そのすべては幻だったのだろうか。
(ああ、ぼくが鳥だったなら)
 窓の向こうの青い空を眺めて、セレンは夢見るように思った。
(そうしたら、今すぐ、城まで飛んで行くのに。たとえフルート自身に弓で射殺されるとしても、それでもまっすぐ飛んで行くのに)
 どこかで、ひどく性急な笛の音がしている。聞くともなしに聞いていたセレンは、はっとしてガタンと立ちあがった。
(笛の音、だって!)
 部屋を出て、階段を駆け下り、玄関を飛び出し、屋敷の門にたどり着くと――そこに、その開け放たれた門の脇に、ルークはいた。
「・・・セレン」
 笛を離して、ほっとした顔で呼んだルークは、セレンが恐れたあの鋭い怒気を、もう身にまとってはいなかった。
「セレン。よかった。もう会ってはくれないかと思って・・・」
「ぼくのほうこそ! 君が何日も来なかったから・・・」
「来られなかったんだ! 見張りが増えて」
と、ルークは応じた。真剣な顔で、
「ずっとセレンのことを考えてた。この前会ったとき、ひどいことして、ごめん。きっと怒っているだろうと思って、謝りたくて、本当は飛び出して来たかったんだ。なのに、ずっと抜け出せなくて、会えなくて、ぼくはもう気が気じゃなくて」
「同じだ。ぼくも、何も手につかなかった」
 セレンは笑った。ルークは表情を和らげたが、少し視線を落として、
「街のみんなのことはさ。セレンとぼくでは立場が違うから、考えも違っていて当たり前だって、気付いたんだ」
「うん」
「無理強いするようなことを言って、あと色々、勝手なこと言って、ごめん」
「ぼくも。色々ひどいこと言って、勝手なことして、ごめん」
 二人の少年は、互いに胸のつかえが取れて、心から安堵して笑いあった。
 ルークが残念そうに、
「もう帰らなくちゃ。しばらく来られないかも。でも、来て良かった」
「うん。来てくれて、ありがとう」
 会っていたのはほんの短い間だったけれど、二人の少年が心の平穏を取り戻すには、それで十分だった。

 セレンは憑き物が落ちたように元気になった。きちんと食事をし、夜もぐっすり眠れるようになった。
 そう、おそれなくとも大丈夫。けんかしたら、仲直りすればいい。
 この友情は、きっと変わらないから。

(完)

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(仲たがい)(02)

 そうして、あくる日、セレンは気が重かった。あんな別れ方をして、今日ルークに会ったら、どんな顔で何を言えばいいだろう。
 家を抜け出し、街の中、前日と同じ場所で待っていると、そのうちにルークがやって来て――そのまま、知らん顔をして通り過ぎた。一瞬、何が起こったのか、セレンにはわからなかった。
「ルーク」
 追いすがって呼びかけて、初めてわかった。振り返ってセレンを見たルークの青い瞳は、鋭く尖っていた。
「ぼくなんかに、何か用?」
 その言葉とともに放たれた稲妻のような怒りに打たれて、セレンは言葉を失った。
 ルークは怒っていた。たぶん、セレンが前日に聞く耳を持たなかったから。ルークのことを「君なんか」と貶めたから。ルークの呼ぶ声を無視して走り去ったから。
 動けなくなったセレンを一瞥すると、ルークは再び向きを変え、すたすたと歩き去った。セレンは遅れて後を追おうとしたが、ルークのほうは素早く知り合いの子を見つけて駆け寄っていた。その子もかつて、セレンを仲間外れにした子どもだったし、ルークには友達なのだった。
 セレンは近づくことができなかった。来たときよりもさらに重い足取りで、セレンは屋敷に帰った。

 そして、次の日も、その次の日も、ルークは来なかった。あるいは、ルークは回り道をして、セレンに会わないように街に出ているのかもしれなかった。
 ルークに嫌われたのだろうか――。そう思うと、血の気の引くような思いがした。いてもたってもいられずに、セレンは街の中をうろうろと歩き回っては、気落ちして家に戻った。
 胸がふさがって苦しかった。食べ物もろくに喉を通らない。枕は涙で濡れるようになった。数日たつと、セレンは魂を失った人のように無表情になり、もはや外にすら出なくなった。どうせ、ルークはもう会いに来てはくれないのだ。街にいても知らん顔で通り過ぎるのだ。それを、わざわざ確かめに行ってどうするというのだ。
(それとも、ぜんぶ、夢だったのだろうか・・・)
 机の上に、読みもしない本を広げて、セレンはぼんやりと考える。
 セレンの様子が尋常ではないので、教師たちの授業は中止されている。
(夢なら、夢だと教えてくれたら良かったのに。そうしたらぼくは、二度と目覚めないようにしたし、でなければ夢を見る前に目を開けてしまったのに)
 慣れ親しんだ孤独が、ひっそりと自分に寄り添っているのを感じる。ルークに会うまでは、この冷たい孤独が、セレンの心を傷つかぬように守ってくれていたのだ。

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(仲たがい)(01)

 知り合ってからひと月過ぎて、季節は夏だった。
 二人の少年は、少しずつ、遠慮しない仲になりつつあったけれど、その代わり、軽い言い争いもちらほら起こり始めていた。それは主に、街の子供達と遊ぶことについてだった。
「だって、街にいる子たちはみんな、ぼくを見ると逃げるんだよ。ぼくはあの子たちと一緒に遊びたくなんかないし、向こうだって同じだと思う」
 そう話すセレンは機嫌が悪い。それでも、ルークが望むから、今日の待ち合わせは森ではなく街だ。
 ルークのほうも、いらいらと言い返す。照りつける太陽の下を二人で歩きながら。
「ぼくにとっては、みんな友達だ。それに、みんなは君の母上が怖いだけで、君自身を嫌ってるわけじゃないだろ」
「同じことだってば。仲間外れにされたんだ。ぼくはもう、あの子たちとは口もききたくない。ルークさえいれば、それでいい」
「ぼくはみんなと遊びたいんだ!」
 ルークは強い口調で言った。セレンは傷ついた顔をしたが、すぐに冷やかに指摘した。
「君だって、正体がばれたら仲間外れにされるよ。それでも友達ごっこがしたいんだ?」
「何だよ、その言い方!」
 ルークはむっとしたようだったが、答えた。
「そうだよ、それでも今は友達だから」
 その答えはセレンを苛立たせた。胸の中で渦巻く不快感をもてあまして、セレンは目を伏せ、捨て鉢に言葉を吐き出した。
「いいよ、それなら、どこにでも行けばいいじゃない。ぼくは帰る」
「セレン」
「自分がばかみたいだ。君なんかに会うために、毎日苦労して家を抜け出して来て」
「ぼくだって!」
 ルークの口調が、さっと鋭くなった。
「同じように抜け出して来てるんだ。ぼくも大変だって、わからないのか」
 セレンが言い返そうとしたそのとき、悪いタイミングで、二人は知り合いと鉢合わせた。
「あ、ルークだ。久しぶり」
 それは、まさに街の子ども達のうちの一人だった。
「最近来なかったろ。みんな淋しがっ・・・えっ」
 最後の「えっ」は、セレンに気付いて発せられた奇声だった。声とともに、その子はぎょっとしたように二、三歩うしろに下がった。
「まさか、レ・ディアの・・・セレン・・・様?」
 セレンは弾かれたように、くるりと後ろを向いて駆けだした。ルークが呼ぶ声が聞こえたが、それすらもどうでも良かった。セレンはまったくの他所者なのだ!
 その日、屋敷に帰ってからも、セレンは一日中さびしかった。

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作者より:(仲たがい)

まずは更新スケジュールのお知らせです。
火・木・日の週3回で、しばらく試してみることにしました。
火と木の更新は夜になります。
うまくいかなければ再考します。

で、今日は月曜なのになぜ書いているかというと、
前書き記事は1日前に、あとがき記事は1日あとに出そうと思うようになりました。
というのも、前書きと連載初回を同じ日に出すと、前書きを読み落とす人がいるかもしれませんし、
最終回とあとがきを同じ日に出すと、最終回を見逃してしまう人がいるかもしれません!
(「竜王の館」の後編は16までありますよー、「(完)」で締めてますよー)
・・・と、心配になったからです。考えすぎ?coldsweats01

さて、明日からの連載について。
長いのをやった後なので、短い番外編を二つばかり予定しています。
ひとつめは、「(夏の訪れ)」の後に位置するお話です。

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作者より:「竜王の館」

「竜王の館」、終わりました~shine
2ヶ月弱、お付き合いくださった皆様、お疲れさまでした&ありがとうございます!
コメントも、ランキングの応援も、ほんとに、本当に、ありがとうございます!

前編の「竜年生まれ」について。
はい、ゼラルドとフィリシアは同い年です。生まれ月まで考慮するならゼラルドのほうが上。

同じく前編、フィリシアに「親も兄弟もいる」ことについて。
話に出て来ることはほとんどないと思いますが、5歳くらい違う弟がいます。いい子です。

後編、突如現れた<光り姫>は、「(妖精の首飾り)」で言及されていた光り姫その人です。
今後も本編および番外編で少しずつフォローして行ければと思っています。

更新スケジュールは、週3回に戻そうと思うのですが・・・
平日夜の更新も、やってみたら案外できた!ので、
火・木・日のようにバラけるスケジュールもありかなあと迷っています。
金・土・日という集中型と、どちらがいいでしょう?

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竜王の館(後編)(16)

「・・・やはり、光り姫に言って、あの姫をもらい受けたほうが良かったのであろうかな」
 その頃、「竜王の沼」の底では、かの偉大なる竜王が、妃と二人で静かに語らっていた。
「もらい受けて、せめてあの姫の寿命が尽きるまでくらいは、好きにさせてやれば良かったのかもしれぬ」
 あごひげをなでながら考え深げに言った彼は、客人達が帰った後も、息子を呼びつけて叱るようなことはしなかった。いずれは諭さなければならないだろうが、今はまだ、そのときではない。
「いいえ、これで良かったのです」
と、竜王の妃は、穏やかな物腰ながら、はっきりと答えた。尋ねられるまでもなく理由を述べて、
「ご覧になりましたでしょう。あの人間の二人は、とてもお似合いでしたわ。たしかに私達は、人間より聡く力ある種族ですけれど、それで人間と張り合っていつも勝てるとは限らないのですわね。あの姫に関しては、あの子に勝ち目があったとは思えませんでした」
「つまらぬことを」
 竜王は仏頂面で言った。妃はまだ十分に青い髪を揺らして笑った。
「でも、あの子は立派でした」
と、彼女は続けた。感慨深げに、
「ナミから聞きました。十日余りも、あの気性の激しい子が、あの姫君に対して、それはそれは気を遣って、何を強いるわけでもなく、ただひたすらに待ち続けたそうですわ。そういえば姫君が帰るときも、とりわけ激して乱暴することもありませんでしたものね」
「あとでナミを寄越してくれ」
 竜王はぶっきらぼうに言った。
「あの親不孝者が、わしに隠れて十日も何をしていたのか、わしもよくよく聞かねばなるまい」
「そうなされませ」
 妃は優しく言った。
「あの子は、きっと良い後継ぎになります。もう少しあの子が落ち着いたら、今度はあの子を想ってくれるような、もちろん人間ではない、結婚相手を見つけてやりましょうね」
 そしてこのとき、当の竜王の息子はどうしていたかといえば・・・。
 偉大なる竜王の後継ぎたる竜王の息子は、自分の部屋に引きこもって、誰一人中に入れようとはしなかった。そして、暗い目をした彼の前に今まざまざと思い浮かんでいたのは、彼の愛しい姫君の姿ではなかった。そうではなく、彼を今ひどく苦しめ、傷つけ、悩ませていたのは・・・今日の昼、彼が船を見送ろうと館から船着き場を見下ろして、あの王子に気付いて思わずその姿をじっと見つめた時の――そして、姫君達を待っている様子だった王子が彼の視線に気づき、首を巡らせて迷いもせずに彼の姿を捉えた時の――、あの、恐れげもなく真っすぐにこちらを見返して、まじろぎもせずに凛と冴えていた、意思の強そうな、涼やかに澄み切った青い瞳の色だったのである。

(完)

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竜王の館(後編)(15)

 セレンはかまわず、軽い調子で続けて、
「フルートのことなら気にしなくていいんだよ。どうせ、誤解されて困るような想い人はいないんだから。君の所にはわんさと求婚者が押し掛けて来るだろうけれど、それを少しばかり待たせておいたって、こんな可愛らしい姫君のためだもの、誰も気を悪くしたりしないって。・・・ああ、そうか、それとも――待たせておけないような人が、君のほうにはもういるのかな? この美しい姫君の心を射止めた、幸運な想われ人がさ?」
「まあ、いないわ!」
 フィリシアは赤くなった。
「意地悪なひとね、セレン・レ・ディア!」
「君の名誉と、ぼくの悪だくみのためだからね」
 セレンは悪びれずに言って、さらりと、
「じゃ、約束してくれる? 国に帰ったら、とりあえずフルートを待っていてくれるって」
 フィリシアは押し切られたように、
「・・・ええ」
 困った顔をしながらうなずいた。
「ありがとう」
 セレンはにっこりして、
「このことはフルートには内緒に頼むからね。――さてと、それではぼくも失礼しようかな。君も、今日はゆっくりお休み。食事はこちらに運ばせるように手配しておいたからね。あとでフルートが謝りに来たら、どうせ気の利かない冴えない謝り方だろうけれど、今日のところは勘弁してやってよ、ね」
「ええ、それはもちろん・・・」
 フィリシアはとてもとても当惑した顔をしていた。セレンが彼女に考える暇を与えなかったので、彼女には、どうしてこんなことになってしまったのか、さっぱり理解できなかったのだ。
 そしてもちろん、セレンは要領よく部屋を出てしまったのだった。

 その夜は平和だった。フィリシアは夕食前にはフルートの訪問を受けていたし、ゼラルドの部屋にはこちらから挨拶に行って、ココアをごちそうになった。そしてその他の時間は、彼女は部屋に一人きりでいた。仲間達が冷淡だからそうなったのではなく、むしろ、彼らがフィリシアの精神的な負担を気遣って、そっとしておいてくれたのだった。
 フィリシアはぼんやりと椅子にかけて、いろいろなことについて思いを巡らせた。本当にこれで良かったのだろうか? 竜王の息子のあの真剣な青い目のこと、今も首にかかっている魔法のくるみのこと、それから・・・。
 彼女は早めに床についた。眠りに落ちるとき彼女が何を考えていたのかは、もちろん、誰も知らない。

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竜王の館(後編)(14)

 そういうわけで、セレンがフィリシアの部屋まで来てノックをすると、
「どなた?」
と、迷うような声が返って来た。それへ、軽い口調で、
「ぼくだよ、お姫様。ちょっといいかな」
 呼びかけると、中では少しためらうような気配があり、ややあって、
「どうぞ」
と返事があった。セレンはそっと中に入った。
 フィリシアは、少し目が赤い。たぶんそのために、セレンと会うのをためらったのだろう。
「聞いたよ。フルートが何かものすごくばかなことを言ったんだって」
 セレンは何気ない調子で切り出した。
「ごめんね、人の気持ちなんか全然わからない奴でさ」
「まあ」
 フィリシアは、この、友を友とも思わないようなセレンの言い方に、多少こちらが戸惑ったようだった。
「そんなことないわ。私が勝手に取り乱したのよ」
「あんな奴、かばうことはないよ。ほんと、繊細さのかけらもないんだから」
 セレンは言ってから、いたずらっぽく笑って、
「そのうちにあいつが君の所にプロポーズしに行ったら、今日のお返しに振ってしまっていいからね」
「あの人が来たらね」
 フィリシアは冗談だと受け止めて、くすくす笑った。セレンは内心、まったく前途多難な二人だと思ったが、調子を合わせ、いかにも罪の無さそうな笑顔を浮かべて見せながら、
「ぼくが行かせるよ。だから、他の誰かにプロポーズされても、とりあえず、あいつが行くまでは待っていてくれない?」
 フィリシアは何と言ったものか迷ったようだった。
「・・・だって、あの人が来なかったら、それじゃあ私、おばあさんになってしまうわ」
「ぼくが絶対に行かせるから」
 セレンはさりげなく強引に言った。
「それを振ったあとは誰のお嫁さんになってもいいから。あの王子様にはそれくらいさせないと、ぼくの気が済まないよ」
「でも、私はもう気にしていないわ」
 フィリシアはいくぶんおろおろして来ていた。

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