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2011年6月

作者より:(凶宴)

この話のあと、ユリアの呪殺はどんどんエスカレートしていき、

ゼラルドはどんどん自分の感情を押し殺していき、

ある日、「それとも?」に対して自分なりの決断をして、

国を出て・・・そして出会う。

彼の過去は、そういう物語です。

---
事務連絡:明日は木曜ですが更新お休みします。

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(凶宴)(04)

「・・・お許しください」
 自らの不敬におののきつつ、レムルスは深く頭を垂れ、正直に言った。
「身の程知らずにも、殿下を試そうといたしました」
「そうか」
 王子はふっと息を吐いた。静かに、気を悪くした様子もなく、
「どうやら私は、そなたを怒らせてしまったらしい。すまない」
「殿下のお役に立つことが、わたくしの喜びでございますゆえ」
 思ってもみなかった言葉が、レムルスの口をついて出た。レムルスは自分でも驚いたが、口先ばかりの追従を言ったつもりもなかった。
「そうか」
と、王子はもう一度言った。レムルスは下を向いていたので王子の表情を見ることはできなかったが、感謝のこもった、やわらかな声だった。
 その声は、しかし、すぐにまたいつもの冷淡さを取り戻した。
「ともかく、今日は世話になった。金品を贈ると怒らせそうだから、言葉のみだが――感謝している。ありがとう」
 そして、レムルスの目の前で、王子は何事かつぶやいて、その足元がポウッと光ったかと思うと、次の瞬間、王子はもうそこにはいなかったのだった。

 ・・・ゼラルドは自室に帰ると、椅子にかけて、ぼんやりと宴の出来事を思い返した。
 駆け寄ったときには既に絶命していた貴族。ユリアの仕業に間違いなかった。今までユリアは、人を呪いはしても絶命させることはなかったのに。
 そして、あのとき聞こえて来た予言の声。<太陽の力>による予言は、忘れたころに突然訪れて、ひどく消耗させられる。
≪其は最初のひとり。これより先、あまたの血の流るるを見よ≫
≪汝が道を選べ。犠牲の上に立つか。愛しきを弑するか。生ける屍となるか。それとも≫
 予言はそこまでで途切れていた。ゼラルドは漠然と未来を予感して身震いした。「最初のひとり」とは、「あまたの血」とは、一体どれだけの人が死ぬことになるというのだ。
 自分が好意を見せれば、妹の嫉妬により呪いが発動する。自分が嫌悪を見せれば、妹の怒りにより呪いが発動する。そうして、自分のせいで多くの人が死んでいくというのか。
≪汝が道を選べ。犠牲の上に立つか。愛しきを弑するか。生ける屍となるか。それとも≫
 ・・・それとも?

(完)

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(凶宴)(03)

 人気のない裏廊下で、王子はがくりと膝をついて、ぐったりとなってしまった。
 レムルスはそれを抱えあげて、まるで自分が王子を拉致しているように見えはしまいかと心配しながら、実際には誰にも見とがめられることなく、騎士隊長の控室にたどり着いた。父は控室などほとんど使うことはない。
 長椅子にそっと王子を横たえ、そのまま落ち着かない気持ちで待機していると、半刻ばかりして王子は気がついた。体を起こして、不思議そうに、
「ここは・・・」
「騎士隊長控室です」
「そうか・・・」
 額に手を当ててうつむき、しばらく沈黙する。なぜあの子は、と、ささやくような声が漏れ聞こえた気もしたが、レムルスは礼儀正しく、聞こえないふりをした。
「・・・世話をかけたね、レムルス」
 やがて王子は立ちあがった。少し休んだためか、さきほどよりは顔色も良く、声もしっかりしている。レムルスをまっすぐに見上げて、
「助かった。ありがとう」
「もったいないお言葉です」
 レムルスは王子の前にひざまずき、忠誠の礼をとった。王子は続けて、
「欲しいものは」
「・・・はい?」
 レムルスは聞き返した。
「欲しいものは何か、言ってごらん、レムルス」
「見返りなど欲しくてお連れしたのではありません」
 レムルスは頭に血が上った。王子は気にせず、
「よい。王家の財は山とあるのだから、何でも言ってごらん」
 なんだ、結局、そういう方なのだ。と、レムルスは皮肉に思った。人が何でも金品に換算すると思っている。では、決して与えることのできないものを要求したら、この方はどうするだろう?
 レムルスはひざまずいたまま王子を見上げ、腹立ちにまかせて、たいして考えもせずに、思いついたことをそのまま口にした。
「では・・・あなたの唇を」
 王子はわずかに目を見開いた。レムルスはそれを冷ややかに見守った。「何でも」などと言うから、こんなふうに返されるのだ。さあ、どうなさるおつもりか。
 が、しばしの沈黙ののち、王子はレムルスを悲しそうに見て、こう言ったのだった。
「本気で言っているのなら・・・立って、好きにすればいい」
 レムルスは天地が入れ替わるほど驚いた。そして、突然気付いた。王子がただ、単純に「礼をしたかった」だけだということに。「何でも」とは、救ってくれたレムルスに対する信頼の言葉ではなかったのか。

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(凶宴)(02)

 国王が再婚してから一年が経っていたが、義理の娘となった王女は、まるで、それまでの生活がひっそりと不遇だったぶんを取り返すかのように、宮廷の宴を愛した。きらびやかなドレスを着て、義兄となった人と踊ることが、何より楽しいといった様子だった。王妃は娘に甘く、宴の開かれる回数はおのずと増えた。
 今夜も宴が開かれており、騎士隊長の息子のレムルスは、広間の警護についていた。彼は、すらりと長身の好青年で、騎士隊長の自慢の息子だったが、実のところ、この国の王子のことがあまり好きではなかった。また確かに、ゼラルド王子については最近、関わり合うと呪われるというような、不穏な噂ばかりが広まっていたのだ。一方、レムルスの学究肌の弟リオンは、王子に対して常に好意的だった。レムルスは、その差は一体どこから来るのだろうと考えて、この夜、注意して王子の様子に気を配っていた。
 レムルスから見れば、いくつか年下の王子は、冷淡で、高慢で、およそ人間らしい温かみとは無縁のように見えた。ちらとでも笑わない。もちろんレムルスは知らなかった、もし王子が誰かに一瞬でも微笑みかけようものなら、そしてその光景を王女に目撃されようものなら、その誰かは王女の嫉妬によって呪われ、不幸を背負うことになるのだと。
 今も、外国の貴族が王子に話しかけているが、王子のほうはあからさまに迷惑顔で、早く話を切りあげたがっている。貴族はしつこく話を続けようとし、王子は無理やり話を終わらせて背を向けた。――事件はそのときに起きた。
 レムルスは見た。貴族が胸を押さえて硬直し、床に崩れ落ちるのを。そして、異変を感じた王子が振り向き、駆け寄って、「誰か医師を!」と声を張り上げるのを。さらに、王子が次に視線を投げた方向に、王女が陶然と立って、胸の前で手を組み合わせているのを。「ユリアを自室へ!」と王子の声が続く。それから王子は、はっとしたように、まるで人には聞こえない何かを聞いているかのように宙を見つめた。
 誰かが、ぼそりと「あの貴族は王子殿下の不興を買って殺されたのだ」とつぶやくのが聞こえた。なるほど、そう見えるかもしれない。だが違う、これは王子のしたことではない・・・とレムルスは思うが、証明する手立てはない。警護係として人々を落ち着かせようと振舞いながら、レムルスは考えていた――不穏な噂の真相はこれなのか? 王子が手を下したのではない様々な事象が、王子のせいにされているのか?
 王子が、ふらふらと人ごみを抜けて来た。顔色が真っ青だ。
「王子殿下」
 声をかけると、目を上げて、
「レムルスか」
 こちらの名前を知っている。では、弟リオンの言うとおり、宮仕えの者の名はほぼ把握しているのかもしれない。
「レムルス。私は少し休みたい。自室ではなく、どこか、ユリアの探さない場所へ・・・」
 力の無い声。足元もふらついている。
 レムルスは王子を助け、広間から連れ出した。

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(凶宴)(01)

 <月の力>の発動を訓練しているとき、扉の外からわがままな可愛らしい声が聞こえて来て、彼は思わずため息をついた。どうしても、妹は取り次ぎを通さずに直接押しかけて来たいらしい。こちらの都合はおかまいなしだ。
「お兄さま。お兄さま。ねえ、入ってもよろしくて?」
「・・・いいよ、お入り」
 発動中の術を解き、許可を与える。そう、許可を求めるようになっただけ、以前よりはましだ。以前の妹は、彼がいくら言っても我が物顔に部屋に入って来て、むしろそれが妹であることの特権だとでも思っているようだった。そしてある日、術の発動中だった彼が、途中で干渉されたことにより大怪我をして、やっと、この「入室の許可を求める」という当たり前の手続きを受け入れてもらえるようになったのだ。
 ユリアは、いそいそと部屋に入って来ると、
「ほら、お兄さま。今度のドレス、どうかしら」
 新しい紅色のドレスをふわりとなびかせて一回転した。ドレスの背に、漆黒の髪が踊る。回り終わると、明らかに何かを期待する顔で兄を見上げる。
「綺麗だね」
 ゼラルドは一言、それだけ言った。一瞬、いつも冷たい黒い瞳に、悲しみの色がよぎる――苛立たしげで、寂しげで・・・悲しそうな。
 王女のほうは、兄の気持ちには少しも気づいていなかった。ぷんと怒って、
「お兄さまったら。それしか言ってくださらないの。侍女たちはもっとたくさん」
「気が済んだら、もうお行き」
 無感動にゼラルドは言い、冷やかなまなざしで妹を見た。ユリアは文句を言い募ろうとしたが、相手が兄であることを思い出し、しぶしぶ返事をした。
「はい、お兄さま」
 そして、そう言いつつも、恨みがましく、
「でも、お兄さま、私つまらないわ。お兄さまは、いつもいつも、学問をしていらっしゃるか、力の研鑽をしていらっしゃるか、聖札を見ていらっしゃるかで、少しも私と遊んでくださらないんですもの」
 ゼラルドは無表情に見つめている。ユリアは黙った。
「・・・失礼しました」
 不機嫌にそう言って出て行く。ゼラルドはまたため息をついた。あの様子では、もしかして、もっと一緒に遊ぶよう命じてくれと、母親に頼みに行くかもしれない。するとゼラルドは義母から呼び出され、「血はつながらなくとも兄妹なのだから」と静かに諭される羽目になる。
 彼は頭を振ってその予想を振り払うと、中断した力の発動を再度試みた。が、一度乱れた集中は戻って来ることがなく、あきらめるしかなかったのだった。

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予告:(凶宴)

ゼラルドの過去の話で、「(月の娘)」のあとの話になります。

彼がいずれ国を出ることになる、その事情の発端にまつわるお話で、

本編よりもたぶん1~2年ほど前、の出来事になります。

全4回の予定です。

 
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作者より:(光り姫)

ミルガレーテは宝剣が全て揃うまでは年を取らないので、
このお話の時点ではフィリシアよりいくつか年上ですが、
本編ではフィリシアと同い年くらいです。

フルートとゼラルドは旅立ちの少し前に彼女に出会い、
セレンは「竜王の館」で語られたタイミングで出会っています。

宝剣が13本全て揃う予定はありませんcoldsweats01

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(光り姫)(05)

 妖精たちが、遠慮がちに声をかけて来た。
「光り姫さま、光り姫さま」
「なあに?」
「フィリシアさまの呪い、見てあげてください」
「呪い・・・」
 ミルガレーテは真剣な顔つきになってフィリシアに向き直った。フィリシアは少しの間おののいた。呪われた身で、友達になってはいけなかっただろうか。しかし、とがめられる気配はなかった。
「妖精たちから聞いているわ。強力な呪いがかけられているとか」
「私、よくわからないの。お父様もお母様も、教えてくださらなくって」
「見てみるわ。私、少し解呪の呪文が使えるの。両手を出して」
 フィリシアが両手を出すと、ミルガレーテはその手を取った。
「しばらく、静かにしていてね」
 そう言うと、柔らかな声で、魔法の呪文を唱えだす。フィリシアの周りに、ポウッと白い輪が浮かび上がり、複雑な模様を刻んでいく。
 ミルガレーテの声が、少し緊張して来た。フィリシアの周りに、二重目の輪が浮かび上がり、複雑な模様を刻んでいく。
 ミルガレーテの声が、苦しげになって来た。フィリシアの周りに、三重目の輪が浮かび上がったが、
「あっ」
 短い悲鳴とともに、三つの輪はカッと光ってかき消えてしまった。
 ミルガレーテは荒い息をしている。顔色が真っ青だ。
「大丈夫、ミルガレーテ」
「ごめんなさい、解呪できなかった!」
 ミルガレーテの目には、みるみるうちに涙が盛り上がって来た。
「ごめんなさい、フィリシア。せっかくお友達になってもらったのに、私、何もしてあげられなくて」
「呪いは解けなくても、やってみてくれたことだけで、私、すごくうれしいわ」
 フィリシアは本心から言った。
「呪いの中身はわかるの、ミルガレーテ」
「ええ、わかったわ。自分の国に・・・いられなくなるのよ」
 ミルガレーテは口ごもりながら、そう言った。それから、はっきりした口調で、
「たぶん、フィリシアはそのうち、旅に出ることになると思うわ」
「旅に?」
 そう聞いて、フィリシアの胸のうちに湧きあがったのは、しかし、おそれや不安ではなく、何かもっと、未知への期待に近いものだった。
「フィリシアがいやでなければ、私も一緒に行くわ」
「ありがとう。きっと一緒よ」
 話しながら、気がつけば、日が傾きかけている。
「今日はもう帰りましょう、ミルガレーテ。ちゃんと休んでね。明日、きっと呼ぶから」
「きっとよ、フィリシア」
 二人の姫君は、すでに友情で結ばれていた。

 幾年かののち、解呪の聖泉へと旅立つとき、フィリシア姫の荷物の中には、金色の宝剣がしっかりと収められることになる。

(完)

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(光り姫)(04)

 今度は逃げませんように、と思いながら、フィリシアはにっこり笑って手を差し出した。
「手、つないで行きましょう、ミルガレーテ」
 ミルガレーテはそうっと岩陰から離れて、フィリシアの手を取った。夏だというのに、指先のひんやりと冷えた手だった。
「さっき見たわ。私に花冠、編んでくださるの?」
 尋ねてみると、こくんとうなずく。見た目はフィリシアより大人で背も高いのに、まるでフィリシアのほうが年上であるかのようだ。二人は手をつないだまま、白い花の咲く岸辺まで戻って来た。妖精たちも一緒だ。
 ミルガレーテはフィリシアの手を離して、ふわりと座った。編みかけの花冠を手にとって、続きを編み始める。
 フィリシアも、隣に座って、新しい花冠を編み始めた。ミルガレーテのために。
「できたわ、フィリシア」
「ちょっと待って・・・うん、私もできたわ」
 二人はお互いに花冠をかぶせあった。目が合って、ミルガレーテは恥ずかしそうに微笑んだ。ああ良かった、笑ってくれた、とフィリシアは思う。なんて可愛らしく笑うお姫さまなのかしら。
「よく似合ってるわ、フィリシア」
「あなたもね、ミルガレーテ」
 二人は少し打ちとけた気持ちになって、ぽつりぽつりとおしゃべりをした。それでフィリシアは、ミルガレーテについて、いくつかのことを知ることができた。
 ミルガレーテが、古代レティカ王国の、最後の王の一人娘だったこと。
 東方の反乱によって王が亡くなる直前に、妖精王のもとに預けられたこと。
 その際、13本の宝剣に魔法がかけられ、世界中に散らばったこと。
 13本の宝剣が再び一堂に会するとき、ミルガレーテも人の身に戻ること。
 フィリシアが手に入れた剣は、その宝剣のうちの一本であること。
「宝剣は、私の友達を選んでくれるの。これが最初の一本目」
と、ミルガレーテは黄金の剣の鞘を撫でながら言った。すでに剣は鞘の中に収められている。
「この柄の青い宝石の意味は、誓いと友情。私を呼び出せるのは、この最初の剣だけよ」
「呼び出すって?」
「もし・・・もし、フィリシアが私に会いたいと思ってくれることがあったらね。そうしたら、この剣を抜いて、私の名を呼んでくれればいいの。月が満ちて行く時期なら、それで私、あなたのもとに現れることができるわ」
「月が満ちて行く時期って?」
「新月を過ぎてから、満月までの間。それ以外のときは私、何もわからずに眠っていて、動くことができないから」
「勝手に呼び出したら、迷惑したりしない?」
「ぜんぜん迷惑なんかじゃないわ。うれしい・・・と思う」
「それなら、呼ぶわ。明日も、あさっても。また一緒に遊びましょう」
「ありがとう。待ってるわ」
 ミルガレーテはにっこりと笑った。ああ良かった、また笑ってくれた。

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(光り姫)(03)

 フィリシアは、導かれるまま、剣を鞘に収めて手に持ち、小舟に戻った。
 小舟は再び、ひとりでに動き出し、さっきとは違う岸辺に寄りついた。
 岸辺には白い花がたくさん咲いていて、そこに、編みかけの花冠が置いてあるのがフィリシアの目に止まった。
 そっと拾い上げたフィリシアに、妖精たちは微笑んだ。
「光り姫さまが編んでいたのだと思います」
「新しいご友人のために。初めてのご友人のために」
「剣を抜いて、ここに置いてください、フィリシアさま」
 フィリシアが言われたとおりにすると、妖精たちは呼ばわった。
「光り姫さま。光り姫さま!」
「どうぞおいでください」
「フィリシアさまがお待ちですよ」
 すると、背後でさらさらと時の砂が流れるような感覚があって、フィリシアははっとして振り向いた。
 が、誰もいなかった。ぐるりと見回したが、やっぱり誰もいなかった。
 妖精たちを見ると、困ったような顔をしていた。
「いま、一瞬おいでになったのですが」
「緊張して逃げてしまわれました」
「どうしましょう、きっと近くにいらっしゃると思うのですが」
「・・・探しましょう!」
 フィリシアは言った。光り姫に会ってみたい気持ちが強くなっていた。妖精たちから慕われている、やさしい光り姫。緊張して逃げてしまった光り姫。花冠を編んでくれていた光り姫に。
 フィリシアと妖精たちは、呼ばわりながら岸辺を歩いた。
「光り姫さま。光り姫さま」
「どうか出て来てください」
「フィリシアさまがお待ちですよ」
「そうよ。私に花冠、編んでくださいな」
 歩いているうちに、小さな洞窟があった。その陰から、白いドレスの裾がのぞいているのを、フィリシアが見つけた。
 妖精たちに、シーッと言って、フィリシアは話しかけた。
「こんにちは、光り姫さま。フィリシアと申します。私」
 どきどきしながら、息を吸って、相手に届けと想いをこめて言った。
「私、あなたのお友達になりに来ました!」
 白いドレスの裾が、ふわっと揺れた。それから・・・おずおずと、本当におずおずと、岩陰から、その人が出て来た。白い肌、金色の髪、金色の瞳、薔薇色の唇。光り姫の名の通り、輝くような美しさだった。フィリシアよりいくつか年上に見えるが、ひどく緊張しているようだ。その唇が開いて、かすかに震える声が告げた。
「こんにちは。私の名はミルガレーテ。お会いできて嬉しいです」
 それが、フィリシアと、<光り姫>ミルガレーテとの出会いだった。

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(光り姫)(02)

 城を取り巻く緑を抜けると、さほど遠くないところに丘があり、丘を下ると湖がある。
 以前、ばあやと一緒に遠足に来たことのある道を、フィリシアは妖精たちに導かれて歩いた。なぜか誰にも出会わない。
 道すがら、妖精たちはフィリシアに話した。
「私たち、フィリシアさまにお願いがあるのです」
「フィリシアさまのお年を数えて待っていました」
「光り姫さまのご友人になって差し上げてほしいのです」
 光り姫さま。たしか、小さい頃にもらった光の首飾りは、本当はそのひとのためのものだった。
「光り姫さまって、どんな方?」
 訊くと、妖精たちは口々に答えた。
「お優しい方」「お可愛らしい方」「お淋しい方」
 それなら友達になれるかもしれない、とフィリシアは思った。妖精たちは補足して、
「元は人間でいらしたのに、人間のお友達がいらっしゃらないのです」
「人間の目に触れてはならないきまりがあるのです」
「選ばれた人間とだけ、お会いできるのです」
「私、選ばれたの?」
 フィリシアは尋ねた。妖精たちは、少し緊張した声で答えた。
「いいえ、まだ」
「でも、私たち、フィリシアさまが選ばれると信じています」
「選ぶのは、剣なのです。これからご案内します」
 話しているうちに、湖についた。岸には、小舟が一艘、夏の風に揺れていた。
「どうぞお乗りください」
 言われて乗り込むと、ひとりでに動き出す。
 湖の真ん中の浮島で、小舟は止まった。
「どうぞお降りください」
 言われて降りると、浮島には、小さな石造りの祠があった。きっと、この中に。
 果たして、フィリシアが祠を開けると、中の台の上には、燦然と輝く黄金の剣が、鞘に収まった状態で乗っていた。柄の部分には、深い青色をした宝石が嵌め込まれている。
「どうぞ剣を抜いてください」
 妖精たちが、さやさやと囁きかける。フィリシアは剣を持ち上げた。見た目よりも、ずっと軽くて、子供のフィリシアでも容易に扱える。装飾用の剣なのかもしれない。
 鞘と柄を持って、思い切って引き抜くと、剣はすらりと抜けた。刀身も金色だった。
 妖精たちは、わっと喜びに沸いた。
「抜けたわ! ああ、やっぱり!」
「フィリシアさまは、剣に選ばれました!」
「光り姫さまに会って差し上げてください。どんなにお喜びになるでしょう!」

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(光り姫)(01)

 幼いころに、静養のための城で、一度だけ妖精の姿を見たことを、フィリシア姫はその後もちゃんと覚えていた。
 妖精たちが、月の光で作った首飾りを自分にかけてくれたことも、その結果、自分の病が瞬時に癒えたことも、とうてい忘れることのできない強烈な体験だった。
 城には、静養の必要がなくなったあともよく訪れたが、あれ以来、妖精の姿を見ることはなく、月日は流れ、青い髪の姫君は幼さを残しながらも、次第に娘らしく成長していた。

 その夏も、フィリシアは静養の城に滞在していた。
 ある夜、夢の中で、妖精たちの声を聞いたように思った。
「お久しぶりです、フィリシアさま」
「時が満ちました、フィリシアさま」
「明日の午後、お迎えにあがります」
「ミルクをひと匙、はちみつをひと匙、ワインをひと匙用意してお待ちくださいね」
 翌朝、目を覚ましたフィリシアは、言われたとおり、ミルクをひと匙、はちみつをひと匙、ワインをひと匙用意した。これがただの夢ではないと信じて。
 いよいよ午後になった。
 突然、ぱたりと周りの時間が止まったかのように、特別に静かな時間が訪れた。
 フィリシアがどきどきしながら待っていると、部屋の中で、小さな声がした。
「フィリシアさま、私達の姿が見えますか」
 声のするあたりを眺めてから、ぐるりと部屋を見回して、もう一度よくよく見たあとに、フィリシアは悲しそうに言った。
「いいえ、見えないわ」
「悲しまないで。もうそういうお年なのです」
「でも」
「大丈夫。ほんの少しの間、魔法の力で見えるようにします。このミルクとはちみつとワインに・・・」
 その言葉とともに、何かの滴が垂らされたように、それぞれの液体が揺れた。
「・・・さあ、これで良し。全部舐めてくださいな」
 フィリシアは言われたとおりに、ミルクとはちみつとワインを舐めた。すると、部屋の中にぼんやりと漂う、いくつかの小さな人影を見分けられるようになった。透き通った羽を震わせ、ふわふわと浮いている。
「ああ、妖精さん! 見えるわ!」
「よかった、魔法が効きましたね。では、参りましょう」
「どこへ?」
「まずは、湖へ」

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予告:(光り姫)

フィリシアと<光り姫>の出会いの話です。

本編の始まる数年前のお話で、流れとしては、

(妖精の首飾り)」→「(光り姫)」→本編となります。

「竜王の館」で突然登場した、謎だらけのミルガレーテですが、

このお話で、少しは身近な存在になれたらいいと思います。

そのうちに目次を手直しして、「竜王の館」より前に置きたいと思いますが、

その辺りの並びのバランスの都合上、しばらくはこのままの位置で。

全5回の予定です。

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作者より:「三つの果実」

姫君たちの通訳は、本当を言えば、セレン一人いれば事足ります。
でも、せっかくなので、めいめい得意な言葉の通訳をしてもらいました。

果物と小鳥のモチーフは「三つのオレンジ」から借りたもの、
尺取り虫のモチーフも、何だったか別のおとぎ話から借りてきたものですが、
どちらもカラフルにアレンジしてみました。
たまには、こんなお話もいいかなあと思っていますが、いかがでしょう。

事務連絡:明日の更新お休みします。あっ、サイト開設から半年過ぎた!

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三つの果実(02)

 予定にはなかったが、一行は行きがかり上、姫君達を王城まで送り届けることにした。旅人たちが三人の姫君を連れて王城の門の前まで来ると、驚いたことに、冠を戴いた国王自らが門のところに立っていた。
「ようこそ、旅の方々」
 王は一行を歓迎し、城の中に招き入れ、三人の息子に引き合わせた。三人の王子は、みな美しく、健康で、誠実そうだった。王曰く、
「昨日、旅の占い師が城を訪れ、あなた方が来ることを教えてくれました。姫君方を王子たちの花嫁に迎えるにあたっては、姫君方の美徳を見逃すことのないよう、特別な物を用意してくれました」
 王が大事そうに取り出したガラスの瓶には、あまりこの場には似つかわしくないものが入っていた。三匹の大きな尺取り虫。
「白い尺取り虫は、気立ての良さを。黄色い尺取り虫は、賢さを。黒い尺取り虫は、美しさを測ってくれるのです。お三方、一列に並んでくださいますか」
 三人の姫君は一列に並んだ。
「さて、女性でないと瓶から虫を出せぬそうなのだが・・・」
「では、私が」
 尺取り虫をこわがらないフィリシアが瓶を受け取り、三人の姫君の隣で、瓶を逆さに振った。尺取り虫たちは、ぽとりぽとりと地面に落ちた。
「これでいいのかしら?」
「大丈夫。君はこっちにおいで」
 フルートに呼ばれて、フィリシアが離れると、尺取り虫たちは尺を取って進み始めた。白い尺取り虫は、白銀の髪をした姫の前で止まって伸びあがった。黄色い尺取り虫は黄金の髪をした姫君の前で止まって伸びあがった。黒い尺取り虫は黒曜の髪をした姫君の前で止まって伸びあがった。
 王は手を叩いて喜び、三人の王子はそれぞれ、
「では、私は、もっとも気立てのよい、あなたを花嫁に迎えよう」
「では、私は、もっとも賢い、あなたを花嫁に迎えよう」
「では、私は、もっとも美しい、あなたを花嫁に迎えよう」
と、花嫁を選ぶことができた。花嫁たちも満足しているようで、城の通訳たちは大忙しだった。
 四人の旅人は、幸せいっぱいの城をあとにして旅に戻ることになった。国王は、
「あなたがたのおかげで、美徳ある姫君方を見逃さずに済みました。ありがとう」
と、旅の物資等をいくばくか持たせてくれた。
 ・・・城を離れてから、フルートとセレンは、こっそり言いあった。
「王は見逃したな」
「見逃したね。見逃された本人も気づいてないけど」
 ――地面に落とされた三匹の尺取り虫は、あのときフィリシアの足元で、三匹そろって懸命に伸びあがっていたのである。

(完)

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三つの果実(01)

 遠く聖泉<真実の鏡>を目指す一行は、あるとき、小さな泉のほとりに三本の樹の立ち並ぶところを通りかかった。
「ここで一休みしよう」
と、フルート王子が言って、四人は馬を下り、馬に水を飲ませ、自分達も一息入れた。
 三本の樹には、よく見ると、人の手の届くところに果実がなっていた。それぞれ異なる種類で、一本目の樹には白い梨のような果実。二本目の樹には黄色いオレンジのような果実。三本目の樹には黒い杏のような果実が、おいしそうに実っているのだった。
 四人はめいめい、樹から果物をもいだ。ところが、フルートが白い梨にナイフを当てると、梨はひとりでに割れて、中から白い小鳥が飛び出して来た。何かしきりにさえずる小鳥の声を聞いて、フィリシア姫が驚いたように、
「北方の言葉だわ。水を飲ませてほしいと言っているみたい」
と通訳した。フルートは小鳥を水辺に連れて行って、小鳥が水を飲むのにまかせた。
 次にフルートがオレンジにナイフを当てると、これもまたひとりでに割れて、中から黄色い小鳥が飛び出して来た。さきほどとは異なる響きでしきりにさえずる小鳥の声を聞いて、セレンが、
「西方の言葉だね。水を飲ませてほしいと言っているよ」
と通訳した。フルートは小鳥を水辺に連れて行って、小鳥が水を飲むのにまかせた。
 最後にフルートが杏にナイフを当てると、みたび果物はひとりでに割れて、中から黒い小鳥が飛び出して来た。前の二羽とは異なる響きでしきりにさえずる小鳥の声を聞いて、ゼラルドが、
「南方の言葉だ。水を飲ませてほしいと言っている」
と通訳した。フルートは小鳥を水辺に連れて行って、小鳥が水を飲むのにまかせた。
 フルートの一部始終を見ていた三人は、自分達のもいだ果物からも小鳥が出るのかと用心しながらナイフを当ててみたが、そんなことはなく、すべて中身の詰まった本物の果物だった。また、フルートが疑心暗鬼になりながら、樹から新しく果物をもいでみると、これも今度は普通に中身が詰まっていた。一行は珍しい果物を食べながら休憩した。
 すると、水を飲んでいた小鳥たちに変化が訪れた。三羽の小鳥は、もやもやと姿を変え、いつしか三人の姫君になった。白い小鳥は、雪色の肌に白銀の髪を持つ姫君に。黄色い小鳥は、バター色の肌に黄金の髪を持つ姫君に。黒い小鳥は、黒檀色の肌に黒曜の髪を持つ姫君に。小鳥たちの出て来た果物の皮も、地べたに落ちていたのが、むくむくと姿を変え、梨の皮は白い馬に、オレンジの皮は黄色い馬に、杏の皮は黒い馬になった。
 三人の姫君は、三人とも、いずれ劣らぬ美しい姫君だった。聞き出したところによると、どこかの魔法使いが、いたずらに魔法をかけて放置したものらしい。これからどうするのか尋ねてみると、三人の姫君は、自分の国に帰るのではなく、この国の王に会いたいと話した。王には三人の息子があり、運が良ければ自分達を妃として迎えてくれるのではないか、という。 

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予告:「三つの果実」

「三つの果実」は、メルヘンの様式美にあこがれて作ったお話です。
お姫様は三人、とか。(いえ、三人じゃないおとぎ話もあるけど)
有名な童話「三つのオレンジ」を、もちろん意識しています。

いつもと雰囲気は若干違うかもしれません。
お口に合えばよいのですが。
全2回の短いお話です。

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