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2011年7月

華飾の町(04)

「敵意の理由・・・」
 宿の主はつぶやくように言い、疲れたように続けた。
「決まっているだろう。嫉妬だ。あんたがたは、我々よりも美しい。それだけだ」
 低く太い声。それは、この町に入ってから初めて聞いた、偽らぬ、人間的な声だった。
 宿の主はそれきり黙ってしまった。セレンは先を促そうと口を開きかけたが、そのとき、ノックの音がして戸が開いた。
「何か物音がしたようだったけれど」
 ゼラルドだった。セレンが答えて、
「何でもない。君には関係ないよ」
 つっけんどんに言われても、ゼラルドは気にもとめなかった。宿の主人を見ると、
「ふうん、ご主人はこちらにいらしたのだね」
 つかつかと中に入って来ると、目を合わせない宿の主に、
「水差しに入っていた蛇は、いまお返ししてもよろしいですか?」
 差し出した白い手には、小さな黒い蛇が巻きついていた。宿の主は悲鳴をあげて後じさりし、足をもつらせて転ぶと、蛇をつきつけられて気絶した。
 蛇はすぐに、紙切れに変わった。
「猛毒の本物は処分済みだ。どこで調達したのやら。君たちのほうは?」
「こちらは問題ない。おそらく、君を一番恐れていて、顔を合わせずに始末したかったのだろう」
と、フルート。
「これだけ裕福な町だから、自衛のための手段は色々持っているはずだよね。表には見せないだけでさ」
と、セレン。
 ゼラルドは物憂げに頷いて、
「何事もないなら、それでいい。フィリシアのところにも声をかけて来たけれど、特に変わったことはないようだ。では、おやすみ」
 ゼラルドが去ったあと、フルートとセレンは相談して、宿の主を片方の寝台の上に乗せ、布団をかけてやった。そして、もはや害なしと判断して、自分たちも休んだ。

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華飾の町(03)

 その夜。フルートは人の気配に目を覚まし、体は起こさぬまま、そっと、横にある剣を引き寄せた。誰か殺意ある者が、この部屋に入って来ようとしていた。閂を外から操作する小さな音。そして、戸が開く気配。
 ――誰を狙って来たのだろう。ぼくか、セレンか、あるいは――。
 フルートとセレンは相部屋で、刺客がどちらを狙っているのかはわからなかった。窓から入る月の光が、刺客の剣に反射して光る。
 ――あるいは、おそらく、両方。可哀想に、人など襲い慣れているようでもないのに、相手が悪いな。
 刺客は寝台と寝台の間に立った。フルートは心地よい緊張に身を任せて、心の中でタイミングを計った。
 ――ひとつ・・・
 刺客はフルートの上に、そろそろと剣を振り上げる。
 ――ふたつ・・・
 刺客の剣が、ぴたりと止まり――
 ――いまだ!
 一瞬のうちに。新たな金色の光がふたすじ閃いたかと思うと、身を起こしざまにフルートは剣を受け止め、刺客ののどには後ろからセレンの剣がさしつけられて――それはまったく同時のことだったので、刺客、すなわち宿の主人は、何の行動を起こす暇もなく、ひっと悲鳴をあげることしかできなかった。フルートとセレンは目を見かわしてうなずいた。
「何か用がおありなら、起こしてくだされば良かったものを」
 青い澄んだ目を宿の主に移してフルートが言った。笑いを含んだ声だった。
「今度からは眠っている者にも背を向けないように。それがもし」
「ぼくのように一見、華奢で軟弱そうな人物だとしてもね。剣を捨てたら?」
 セレンに言われて、主が急いで剣を離す。フルートは自分の剣を収め、主の剣を拾ってあらためる。
「それでは」
 フルートは主に向きなおり、真面目な顔になった。
「早く済ませてしまおう。あなたはなぜぼく達を殺そうとしたのです?」
「首の剣を・・・離して・・・」
 主はあえいだ。首につきつけられているセレンの剣を恐れているのだった。
 フルートはセレンに目配せして剣を引かせた。そして少し口調をゆるめた。
「あなたに害を加えるつもりはないよ。ただ、あなたがたの敵意の理由を教えてほしい」

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華飾の町(02)

 通りを歩いている人々のほとんどは、周りの出来事に無関心なようだったが、それでも、ゼラルドの黒髪が見慣れないものであるせいか、旅人達とすれちがう者は振り返って彼らを眺めた。
 それはかまわないのだが、不可解なことがひとつあり、すなわち、人々の目が、彼らに対して憎悪に近い感情を浮かべるのだ。
 旅人たちは、時々いたたまれなくなって振り向くことがあったが――セレンが一番ぴりぴりしていた――、そうすると悪意はみごとに覆い隠されて、人々の顔にはただ麗しい微笑が残るだけなのだった。
 その町の宿屋を切り盛りしているのは、粋な服を着こなして、口ひげをぴんとひねりあげた初老の紳士だった。彼は部屋の手配をしながら四人をじろじろと見て、今までに訪れた中で一番美しいご一行だ、と褒めた。旅人たちのほうは、お世辞にはとことん慣れていたから、フィリシアが「ありがとう」と笑ったくらいで、特に反応を返さなかった。
「食堂で食事をいかがです」
と、宿の主は上機嫌に言った。意味ありげな光がその目を過ぎる。
「久しぶりのお客さんですから、私がおごりますよ」
 つくろったように澄んだ、単調な声だった。
 かくして食事が運ばれて来、主はそれを立派なテーブルに並べ終わると、旅人たちの様子をうかがっていた。その観察が非好意的なのがわかるので、旅人たちは判断がつきかねて、しばらく手をつけずに黙っていた――ひとりを除いて。
「毒入りのスープが嫌いな人は?」
 静かにゼラルドが言った。その場の全員が彼を見る。ゼラルドは銀のスプーンでスープをかきまぜながら、淡々と、
「いない?」
「では、まさか」
 フルートは言いかけて、セレンに続きを取られた。
「毒が入っているのか?」
 ゼラルドは微笑した。ぞっとするほど美しい、独特の冷たい笑い方。
「さあね」
 宿の主は明らかにぎょっとした様子だった。ゼラルドはかまわずに、手をのばして一人一人の器をかきまぜ、それが済むと、何事もなかったように自分のスープを口に運んだ。
 みながやがて食事を始め、宿の主は真っ青になって、穴が開くほどゼラルドを見ていた。

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華飾の町(01)

「なんだか・・・とても、きれいな町ね」
 フィリシアがそうつぶやいたが、その様子はどこかいぶかしげだった。
「そうだね」
 セレンも、同意しながら神経質に長い髪をかきあげる。フルートはゼラルドを振り返り、ゼラルドは町並みを静かに眺めている。
 その町は、確かに、大変美しい町だった。家々はまっすぐな列になって立ち並び、通りの敷石はすきまなくきっちりと敷き詰めてある。
 そしてまた、驚くほど豊かな町でもあるらしかった。あちこちの家の出窓には高価な金銀の細工が所狭しと並んでいたし、通りの敷石の中には、なんと宝石らしき物が混じってさえいたのだ。
 もちろん、通りには人々の姿も見えた。美しく着飾った娘たちや、立派な身なりの紳士たちが、きれいな身ごなしで歩いている。時々、優雅に挨拶を交わし、また、楽しげに談笑している。
 が・・・それらはみな、強いて言うなら、作りものめいていたのだった。きちんと整頓された家々はみな白く塗りたてられ、ぴかぴかで、町の歴史などみじんも感じさせないし、通りで話す人々の声は一様にとりすましていて、まるで下手な劇でも演じているようだ。
 夕暮れ時だった。たそがれた光の中で、町はひどく非現実的に見える。四人は通りの端にたたずんで、しばらくこの光景を見つめていた。
「ともかく」
と、やがてフルートが言った。
「今日はこのあたりで泊まろう。いいか?」
 問いかけはゼラルドに向けられていた。
「どうぞ。あからさまに見世物扱いもされないだろう」
と、ゼラルド。
 え? とセレンはゼラルドを見て、町並みに目を戻し、
「ああ、黒い髪の人間がいないのか」
 そう言って、次の瞬間、それだけではないことを理解した。いたるところに影がのびているせいで、すぐにはわからなかったのだ。つまり、この町並みのどこにも――
「黒がない・・・?」
 辺りをあらためて眺めなおす。店の看板。民家の柵囲い。窓枠やドアノッカー。
「今頃気づくとは鈍いことだね」
 ゼラルドに呟かれて振り向いて、文句を言いたそうにしたが、フルートがさえぎった。
「行こう。もう日が暮れる」

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予告:「華飾の町」

普通にいつもの顔ぶれ、フルート、フィリシア、セレン、ゼラルドのお話です。

旅の途中で立ち寄ったある町のお話。

没にしようか迷ったけど拾い上げました。

全9回の予定です。

作者より(始まりの物語)

プロローグに当たる話なので、いずれ目次の先頭に置こうと思います。

ただ、今それをすると、プロローグのあとに来る話が「金の砂の塔」。

あれは力の抜けた話なので、なんというか、みっしり詰まったプロローグとの落差が激しいというか…。

そんなわけで、いつ目次の先頭に持っていくかは、思案中です。

 

事務連絡:明日は木曜日ですが、更新お休みします。

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始まりの物語(02)

 他の三人が駆けつけて来たとき、マデリーンは小川のほとりで泣いていた。彼女はクルシュタインの王子を愛していたし、その花嫁になる資格がなくなったような気がしたからだ。アイリーンも話を聞いて顔を曇らせた。もしかしたら魔女の呪いは、名を呼ばれたアイリーンにかかっているかもしれなかったからだ。

 一行はともかく山を下りて、国王に報告をした。国王は魔女の滅んだことを喜ぶとともに、二人の姫君のことを心配し、呼び集めた魔法使いと、月の聖者と、太陽の聖者とに、呪いのかかり具合を調べるように命じた。二人の姫君は呪いの影響の少ないことを祈った。
 やがて結論が出ると、代表して魔法使いの老婆が報告をおこなった。
「申し上げます。魔女の呪いはお二方にかかっておりますが、名前を取り違えたせいで、だいぶ和らいでおります。
 まず、魔女の三つの呪いのうち、一つ目の、子が生まれない呪いは、アイリーン様にかかっております。が、和らげられておりますので、おひとりのお子を授かることはできましょう。そして、そのお子は健やかにお育ちになるでしょう。
 残りの二つの呪いは、マデリーン様の最初のお子にかかっております。
 二つ目の呪い、子が生まれてもすぐに死ぬる呪いは、和らげられておりますので、すぐに死ぬることはありますまい。ただ、代わりに、たいそう体が弱くてお生まれになるでしょう。よくよく気を付けてお育てにならなければなりません。
 最後の呪い、自分の国で気がふれて死ぬる呪いについてですが、これだけは、弱まることなく効力を発揮してしまいます。たとえお子が結婚して別の国に住まわれたとしても、今度はそこが、そのお子の「自分の国」。人間の国にいる限り、逃れることはできますまい。われらが知恵を絞って考えました結果、このようにするのはいかがでしょう。

 この三つ目の呪いは、お子の誕生日を契機として発動するものと見受けられます。われらは、これを事前に察知できるよう、ナイフを一本用意いたしました。お子が生まれましたら、このナイフにて、髪一筋を切り落としてくださいませ。その後、このナイフの刃が磨かれて泉のように清らかな間は、お子の身は安全でございます。しかし、このナイフの刃が血に濡れたように赤く染まりましたなら、次の誕生日を迎えさせる前に、必ずお子を国から出して、聖泉<真実の鏡>を目指させるのです。そして誕生日を迎えてから<真実の鏡>を覗けば、呪いは目に見える形で立ち現れることになりましょう。蛇か、鎖か、鍵か。いずれにしても、その呪いを滅ぼせば、お子は自由の身となりましょう」
 姫君たちは魔法使いたちに礼を言って、マデリーンはナイフを受け取った。アイリーンはマデリーンに、
「あなたの子が聖泉を目指すときには、私の子も一緒よ」
と約束した。マデリーンは力づけられ、ありがとうと微笑んだ。
 かくして、リーデベルクの王子はアイリーンを、クルシュタインの王子はマデリーンを、それぞれ伴って祖国に帰り、華々しい結婚式がとりおこなわれた。

 1年後、アイリーンは男の子を出産した。予言通り、健やかな王子だった。
 さらに1年後、マデリーンは女の子を出産した。予言通り、病弱な王女だった、が、数年後に妖精たちの助力を得、健やかに育つこととなった。マデリーンは毎晩、王女の髪を切ったナイフを眺めては、刃が泉のように清らかなのを見てほっとするのだった。

 そして月日は流れ、ある晩ナイフは血のように赤くなり、王子と王女は旅に出ることになる――。

(完)

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始まりの物語(01)

 あるとき、大陸の北東に位置するイルエンという国に、二人の姫君がいた。
 二人はいとこ同士で、北方特有の美しい青い髪と青い目をしており、顔かたちや雰囲気が良く似ていたので、周りの人々はしばしば二人を取り違えることがあった。また、二人のほうもそれを承知していて、わざとお互いに似せて楽しんでいるふうなところがあった。姫君たちは、年上のほうがアイリーン、年下のほうがマデリーンという名前だった。

 その頃、悪しき魔女がイルエンを訪れた。魔女は高い山の上に居を構え、国王を脅した。王家の財と、アイリーン姫、マデリーン姫を差し出さねば、国民をみな石に変えるというのだった。国王は、国で一番力のある、魔法使いと、月の聖者と、太陽の聖者を呼んで対抗しようとしたが、魔女の力は強大で、抗いようがなかった。かろうじて、魔女の魔法を退けることのできる盾が二枚用意できただけで、誰かがこの盾を持って魔女を倒しに行かなければならなかった。

 ところで、魔女が二人の姫君を望んだのは、自らの予言の力によって、二人のうちのどちらかが自分を滅ぼすと知り、己の手でこの姫君たちを葬ろうと決意したからだった。また、その予言は、国王側の術者たちにも知りうるものだったので、二人の姫君は予言どおりに魔女を倒しに行かなければならなくなった。しかし、どのようにすれば魔女を倒せるのかはわからなかったうえ、魔法を防ぐ盾は重すぎて姫君たちには使えなかった。

 ちょうどこのとき、内陸のふたつの国、リーデベルクとクルシュタインの王子は、それぞれ花嫁を見つけるべく、共に旅をしてイルエンにたどり着いたところだった。二人の王子は、アイリーンとマデリーンを正しく見分けることができ、リーデベルクの王子はアイリーンと、クルシュタインの王子はマデリーンと、それぞれ将来を誓いあった。二人の王子は、二枚の盾を持って、姫君たちとともに魔女を倒しに行くことにした。

 王子たちと魔女との間に、熾烈な戦いが繰り広げられた。だが、魔法を防ぐ盾が役に立った。石の魔法も、火の魔法も、雷の魔法も、王子たちを傷つけることはなかった。ついに、王子たちは魔女の首を胴から切り離し、勝利を収めた。予言とは異なる結末だったが、みな安心し、その場を離れて、疲れ切った体をしばし休めた。

 ひとり、マデリーンだけが、不安を覚え、勇気を振り絞って、魔女の首の転がっているところまで戻って行った。すると、どうだろう、魔女の首はぶつぶつと呪文を唱えている最中だった! マデリーンは悲鳴をあげて、魔女の首を、近くを流れている小川に押し込んだ。魔女は小川の中で、カッと目を見開いてマデリーンを見つめた。
「おまえだったのか。おまえが私を滅ぼす娘だったのか。おまえは・・・」
 マデリーンは、とっさに機転を利かせて、肩越しに振り返って叫んだ。
「こっちに来ちゃだめよ、マデリーン!」
「おまえは・・・アイリーンだね」
 魔女はにたっと笑った。
「おまえの現在ではなく、未来を呪ってやろう、アイリーン。おまえには子は生まれない。もし生まれたとしても、すぐに死ぬる。もし生き延びたとしても、年頃になったとき、自分の国の自分の城で、気がふれて、やっぱり死ぬるだろう」
 そして、魔女はごぼごぼと水を飲んで溺れ、今度こそ滅んだ。

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予告:「始まりの物語」

そもそも、この旅がなぜ始まったのかに関するお話が書けました。

いつものレギュラーメンバーはお休みして、その親の世代のエピソードです。

本編のプロローグにあたる短いお話で、全2回です。

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作者より:「花園の夢」

オチのあるような、ないような、微妙な話になってしまいました。
ともかく、ぐるぐると迷宮の中を歩き回る話を書きたかったのです。
色々と力不足ですみません…。

古語を解読する際に「ローレインの言葉と似ている」とセレンの言う、「ローレイン」とは、ゼラルドの故郷ウェルザリーンのことを指します。
「ジャパン」と「日本」のようなものです。

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花園の夢(06)

 ――出た先は、入ったときと同じあずまやだった。青い光の壁は消えており、瀟洒な扉も、閉まると同時に消えてしまった。
 あずまやから出てみれば、空は夜明け前の瑠璃色をしており、
「わあ・・・」
と、フィリシアが歓声を上げたのも無理はない、枯れ果てていた花園には、いま、夢のように美しい花々が咲き乱れていた。見渡す限りを埋め尽くす、赤、白、黄色、青、紫・・・。
 まだ日も当たらないのに目にも鮮やかなその花々は、いずれもきちんと手入れされており、良い香りがしていた。
「これは一体・・・」
と、花園を歩きながらフルートがいぶかったが、謎はすぐに解けた。朝日が昇ると、陽光の当たった場所から、花園は元の枯れ枝に戻って行ったのだ。
「百年をまどろむ花園の夢、か」
 花園の片隅に、ひと群れの薔薇の花があって、あの娘たちの挿していた頭飾りと同じ花、と思い当たったが、すぐにその薔薇たちも消えて行った。
 一行は、花園が再びすべて枯れ果てて行くのを、じっと眺めていた。
 枯れ果てて荒れてしまった草木の間には、気がつけばあちこちに古い骨のようなものが見てとれた・・・。

 ・・・日差しを浴びて、最後の花が消えた。
 旅人たちのまぶたの裏にだけ、色とりどりの花の残像が映っている。
 咲き誇る花の香りが、まだ残っているような気がしてならない。
 しかし、こんなふうに枯れ果てた庭園のなれの果てが、香るはずもなかった。
 セレンが思い出してあの招待状を出してみると、それはもう、ただの古い白紙だった。

(完)

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花園の夢(05)

 フルートはフィリシアを振り返った。招待状によれば、「扉を出る」のはフィリシアの役目だ。
 フィリシアはテーブルの上に目を留めた。三つの小瓶と、三つのスプーン。
「それは、何ですか」
「毎朝どこかから運ばれて来る。見ればわかるだろう、ミルクとはちみつとワインだ」
 フィリシアは微笑んだ。
「きっと妖精の魔法です。ひと匙ずつ、いただきます」
 果たして、全員の見守る中、フィリシアは一つの扉を指差した。
「あの扉が、外に通じています。妖精の書いた文字が、周りを取り囲んでいるわ」
「そんな・・・」
 男は愕然とした様子で、
「ここから外に出られる者があるなんて・・・ばかな・・・」
「そんなに言うなら、あなたも一緒に出たらいいでしょう」
 フルートが不思議そうに言うと、
「わしは、君たちと違って、魔法陣を踏んでいない。出られないのだ」
「魔法陣を踏んで来ればいいのでは?」
「娘たちは、わしを迷わせる。わしには、あれたちの区別がつかない」
「今なら」
と、セレンが言った。
「少しずつ髪型が違っているから、見分けがつきますよ。あなたも、娘さんたちの名前を聞きながら進めば、迷うことはないでしょう?」
「名前!」
 男は驚いたようだったが、すぐに納得したようだった。
「そうか、名前か。わかった、次はそうしよう」
「では、ぼくたちは行きます」
と、フルート。男はうなずいて、
「急いだほうがいい、じきに夜明けだ。夜が明けると道は閉ざされる」
「わかりました。娘さんたちによろしく」
 フィリシアが、妖精の示した扉を開ける。全員が外に出て、扉がパタンと閉まる――

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花園の夢(04)

 そのあとは、同じことの繰り返しだった。
 全く同じ背丈と顔つきをした娘たちが、入れ替わり立ち替わり現れて、お茶とお菓子をふるまってくれた。セレンは――フィリシアも手伝って――その一人一人を、少しずつ違う髪型にアレンジしてやりながら、名前を覚えた。娘たちの指示にしたがって部屋を通り抜けていくと、前と同じ部屋に行き当たることもあって、そんなときにセレンは間違えることなくその娘の名を呼んだので、名前を呼ばれた娘たちはとても嬉しそうだった。
「どうやら、何かの魔法陣のようだ」
と、あるときフルートが言った。フルートの頭の中には、今までに通って来た道順が思い描かれているようだったが、その道順をつなぐと、何か意味をもった模様になりそうだと言うのだった。
 娘たちは途中から、少しあわて始めていて、
「時間があまりありません。お茶とお菓子をすぐに食べてしまってください」
と、旅人たちを追い立てたので、旅人たちは途中から、お菓子を一口かじり、お茶を一口飲むだけになった。もっとも、旅人たちはそろそろおなかいっぱいになっていたので、一口で済むのは、かえってありがたかった。
 そうして、ついに、アニベルという娘が、扉を指し示して言った。
「最後の部屋の扉が開きました。どうぞお入りください。お父様には、娘たちからよろしくとお伝えください」
「ありがとう、アニベル。お茶とお菓子をごちそうさま」
 旅人たちは、最後の部屋に入った。

 今までと同じような部屋だった。四方に扉がある。違っていたのは、部屋の真ん中にあるのがテーブルではなく執務用の机であることと、そこにいるのがあの娘たちではなく、おそらく娘たちの父親と思われる、中年の男性であることだった。
 彼は旅人たちが入って来たのを見て、あんぐりと口を開けた。
「どうやって入って来たのだ」
「あなたの娘たちの導きによって。あなたによろしくと言っていました」
と、フルートが答えた。
「そんなばかな。あれたちは、もう、人を迷わせることしかしないはずだ」
「ぼくたちがここにいるのが何よりの証拠です」
「むう」
と彼はうなってから、
「なるほど、魔法陣を踏んで来た君たちは、この部屋のどの扉でも、もはや自由に開けられる。しかし、どの扉が正しいかは、わしからは申し上げられない。なぜなら、わし自身、どの扉が正しいかを知らないからだ」

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花園の夢(03)

 扉をくぐり抜けた先は暗かったが、さっきと同じように、扉を閉めると、ぼうっと明るくなった。
 そして、なんと、さっきと同じ部屋の中央に、さっきと同じ娘が、驚いた顔をして立っていた。テーブルに、新しいお茶の用意をしていたようだった。
「どういうことです、マリベル?」
と、セレン。マリベルは、少し悲しげな笑顔を作った。
「ここは、こういう造りなのです。どうかお気になさらず。お茶とお菓子を召し上がってください。そうでないと次の扉が開きません」
 一行はまたテーブルにつき、少量のお菓子とお茶をいただいた。どちらも先刻と同じように美味だった。部屋中の扉がカチリと鳴った。
「こちらにどうぞ」
と、マリベルは、さっきとは違う扉に案内してくれる。セレンが、
「さっきはなぜ、向こうの扉だったの?」
と尋ねると、
「近道だと思ったからです」
 きっぱり言い切った。
「今度の扉は?」
「さあ、どうでしょう・・・」
「待て、開けるな」
 フルートの鋭い声。全員が注目する中、
「ぼくでなくても『道に気付く』ことはできるだろうに。なぜ、この部屋がさっきと同じ部屋だと思うんだ? ふつうに考えれば、違う部屋のはずだ」
「でも、マリベルが」
「名前は聞いてない」
「! 失礼しました、あなたのお名前は?」
 マリベルのように見える娘は、セレンの問いに驚いた顔をした。
「お父様すら忘れた名前を、お尋ねになるのですか。私はフロリベルと申します」
「失礼しました、フロリベル。そういえば、『しるべを見分ける』のがぼくの役目だった。ああそうだ、あなたの髪を、少し編ませてもらえませんか。そうすれば、誰も間違えないし、あなたも可愛らしくなれるから」
 フロリベルは戸惑ったようだったが、セレンに髪をまかせたので、セレンはフロリベルの髪に、器用に細い三つ編みを二本作って、薔薇の頭飾りを挿しなおした。
「ほら、いっそう可愛らしくなりましたよ、お嬢さん」
 フロリベルははにかみながら、
「どうぞ、こちらの扉へ」
と、最初とは違う扉を案内してくれたのだった。

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花園の夢(02)

「ゼラルド、この光の壁は壊せるか?」
「試してもいいけれど、難しいだろう」
「では、招待状に書いてあった、最初に『扉を開ける』心当たりは?」
「・・・ある」
 ゼラルドは何かつぶやき、光の壁のうちのひとつに一枚の扉が出現した。小さめの、瀟洒な造りの扉だ。
「向こう側に通り抜ける扉ではないと思う。どこに迷い込むかはわからない」
 ゼラルドの言葉に、フルートはうなずいて、
「今はこの扉を通るしかない。行こう」
 火の始末をして、ゼラルドが扉を開け、全員が中に入り、パタンと扉が閉まる・・・。

 扉を入った先は暗かったが、扉を閉めるとぼうっと明るくなった。そこは窓の無い小部屋で、四方に扉がついており、壁には等間隔で明かりが灯されていた。
 部屋の中央では、テーブルの上にお茶の用意がしてあり、銀色の髪を後ろで束ねた娘が、にこにこと一行を出迎えていた。頭に薔薇の花の飾りを挿している。
「こんにちは、みなさん。お菓子とお茶をどうぞ。これを召し上がらないと、次の扉が開かないのです」
 そう言われては仕方ない。一行は挨拶すると、すすめられるまま席について、ほんの少量、丸い焼き菓子と熱いお茶をいただいた。どちらも、とても美味だった。全員がお茶とお菓子を口にすると、カチリと音がして、部屋中の扉の鍵が開いたのがわかった。
「扉が開きました。こちらへどうぞ」
と、娘は扉の一つに案内してくれる。
「これで外に出られるのですか」
とフルートが尋ねると、
「いいえ、まだ。いつかは出られるかもしれませんし、出られないかもしれません」
と、謎めいた答えを返す。
「可愛らしい方、あなたのお名前は?」
と、セレンが訊くと、娘は驚いた顔をした。
「お父様すら忘れた名前を、お尋ねになるのですか。私はマリベルと申します。・・・あっ、待って」
 次の扉を開きかけた一行を押しとどめ、
「こちらの扉へどうぞ」
と、別の扉を案内する。もとより、どの扉がどこに続くのか、こちらにはわからない。お菓子とお茶の礼を言って、指し示された扉をくぐった。

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花園の夢(01)

 夕闇に、薔薇の匂いがふわりと香った、気がした。
 気のせいだ、とセレンは頭を振る。どう見ても、目の前にあるのは、とうの昔に枯れ果てた、花園のなれの果てでしかない。中には薔薇の木もあるかもしれないが、こんなふうに枯れ果ててまで香ることはないだろう。
 あずまやでもあれば夜露をしのげるのではないか、と、一行は、今は誰のものともしれない、荒れ果てた庭園の中に入って来ていた。思惑通り、大きめの朽ちかけたあずまやがあって、まだ使えそうなので、そこに宿泊することにする。めいめい、馬を石柱につないで、あずまやの中に入る。
 床の中央に、古びた封筒が一通落ちているのを、フルートがなにげなく拾い上げて開き、そのままセレンに投げて寄越した。見ると、中の手紙は古語、しかも標準語とは少し違う、どこかで滅んでしまった言葉のようだ。
 セレンは焚火の横で解読を試みた。ゼラルドが後ろから覗いたので、話しかけるともなしに、
「命令形に尊敬語の概念が混じっているような気がする。案外、ローレインの言葉とも似ているのかもしれない。行頭の花文字のかたまりは、たぶん人名か・・・」
「花文字がいつも人名とは」
「わかってる、うるさいな」
 二人はそれからもしばらく手紙を検分していたが、やがて、しんと静かになった。フルートが、
「読めたかい?」
と尋ねると、ゼラルドが無言でうなずき、セレンが複雑な表情をして、
「ああ。じゃあ、読むよ・・・。
 <白き竜>よ、扉を開きたまえ。
 <赤き獅子>よ、道に気付きたまえ。
 <金の牡鹿>よ、しるべを見分けたまえ。
 <青き竜>よ、扉を出でたまえ。
 ようこそ、百年をまどろむ花園の夢の中へ。・・・以上」
「・・・なんだって?」
 フルートと、フィリシアの表情も変わる。セレンは困惑気味に続けて、
「そのとおり。これは、ぼくたち宛の招待状なんだ」
 ――すなわち。
 <白き竜>は、竜の年、白の月生まれのゼラルドを。
 <赤き獅子>は、獅子の年、赤の月生まれのフルートを。
 <金の牡鹿>は、牡鹿の年、旧暦で金の月生まれのセレンを。
 <青き竜>は、竜の年、青の月生まれのフィリシアを。
 それぞれ指し示しているのだった――偶然とは思えなかった。
 しかも、セレンが招待状を読み上げ終えたとたん、あずまやは青い光の壁に囲まれ、旅人たちは外に出られなくなってしまったのだった。

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予告:「花園の夢」

特に誰がメインということはなく、
フルート、フィリシア、セレン、ゼラルド、
4人の物語です。

きれいに話をたためるように努力中…coldsweats01
全6回の予定です。

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