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  • (2017/4/29朝) そして、3月に続いて4月もまた、溶けるようにして消え去って行くのであった…。

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2011年8月

命令の指輪(01)

 店の出窓に飾られた髪飾りを見て、フィリシア姫は――というより今は町娘のフィアは、心惹かれて、目を離すことができず、その場に釘付けになった。
 髪飾りは、大きめの白い花が連なった意匠で、派手すぎず、地味すぎず、可憐で、流行にも合っている。フィアの青い髪にも、きっと似合うだろう。
 だが、フィアの旅費もお小遣いも、元をたどればクルシュタインの国民の税金から出ているものだ。こんなところで無駄遣いしてはいけないのではないか、と、フィアはためらった。
「そのくらい、買えばいいじゃない」
「セレン」
 背後から声をかけられて、フィアは振り向く。長い金髪の若者は、にこりと笑った。
「思い出して、フィア。君には君の義務がある。代わりに、君の権利を行使することができる。だから君は、気に入った髪飾りを買っていい。どう?」
「そう・・・そうね」
 ほっと微笑みながら、それでも動けないでいるフィアの肩を、セレンはぽんと叩いた。
「それならプレゼントしてあげる。待っていて」
「えっ」
 戸惑うフィアの脇をすり抜けて、店の中に入って行き、出窓の髪飾りを手にとって、店の奥の主人に声をかける。
 セレンがフィアに背を向けていた、その、ほんのわずかな時間に――
 ――事件は起きた。
「もしもし、お嬢さん」
「はい?」
 振り向いたフィアの額に、何か硬い物が押し当てられる。
 反射的に離れようとしたが、遅かった。
「我に従え」
 早口でそう言われて、次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
 これは何? と、言ったつもりが、声にならない。
 思考に靄がかかり、何も考えられなくなる。体から力が抜けて、立っていられない。
 どさり、と地に崩れ落ちたフィアの体を、銀髪の青年が担ぎあげて、傍らの馬車に乗せた。
「うまく行った。早く帰ろう」
 本当に、あっというまの出来事だった。
 店の中にいたセレンが、ただならぬ気配に振り向いたときには、すでに馬車は走り去るところで、セレンに続いて走り出て、同じく馬車を見送った店主が、
「ゴーエン公の馬車だ・・・」
と、つぶやいた。 

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予告:「命令の指輪」

このお話を書いたら、しばらく更新をお休みしようと思っています。復活時期は未定です。

まだまだ物語は未完成もいいところですが、モチベーションが低下したのと、アイデアに詰まったのとで。

今回は、フルートとフィリシアのお話。ちょっとだけ、フィリシアとセレンの話でもあります。

全8回の予定です。

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作者より:(仲直り)

というわけで、「(仲たがい)」はルークとのけんかの話でしたが、「(仲直り)」は都の子供たちとの和解の話でした。

このお話がないと、セレンはルーク以外の人間に心を開かないままになってしまい、本編でセレンが社交的な理由がわからなくなってしまいます。

正体を伏せているルークと違って、ありのまま受け入れてもらったセレンのことを、ルークは少しうらやましかったかもしれません。

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(仲直り)(03)

 数日後。ルークとセレンが喋りながら街を歩いていると、目の前に立ちふさがった人影があった。
「どうしたんだい、ロダン」
と、ルーク。
 それは、ルークたちより少し年上の、言ってみれば、このあたりの子どもたちを束ねる大将だった。背が高く、面倒見がよく、みんなから慕われている。
「セレン様に話がある」
「ぼくに? 何、ロダン」
 セレンは警戒した。小さい頃は、セレンもよく面倒を見てもらったものだ――が、あの新しい母が来てからは、都の子供たちが叱られないよう、鞭打たれないよう、ロダンが率先してセレンを避け、音頭を取って仲間外れにしたのだ。もしかして、今回ルークが鞭打たれそうになったことについて、大将として文句を言いに来たのかもしれない。
「セレン様。俺、いまさらだけど、どうしてもセレン様に一言、謝りたくて」
「え?」
 ロダンは緊張して青ざめていた。セレンと直接話すのは数年ぶりだ。セレンがロダンを、今では敵とみなしていることも知っている。
「こないだの、俺、見てました。俺らは、ルークみたく、打たれてもいいなんて思ったことなかったし、セレン様のことも、あんなふうに、身を呈して人をかばってくださる方だなんて、思ってなかった。もう何年も前のことだけど、あの頃、セレン様が俺らを頼って遊びに来たとき、邪険にして、みんなで仲間外れにして、ほんとに、ほんとに・・・」
 ロダンは石畳の上に膝をつき、セレンの前に頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!」
「ロダン!」
 セレンはあわてて自分もしゃがみこんだ。
「いいから、立って。みんなが見るじゃないか。君の権威にかかわるだろう」
「いいんです、みんな見ればいいんだ。俺が悪かったことを、俺が認めたって」
「でも、いやなんだ。ロダンに頭を下げさせるなんて」
 セレンは、自分の中にそんな気持ちが残っていたことに、自分でびっくりした。
 そうして、ルークと二人でロダンを立たせてから、セレンは聞いてみた。
「ロダン。都では今、どんな遊びが流行っているの」
「え・・・追跡ゲームです。暗号を残すチームと、それを追いかけるチームで遊びます」
「ふうん」
 それを聞いてどうしようというのか、セレンは自分にもよくわかっていなかった。けれど、悩むセレンの傍らで、察したルークがロダンに目配せした。ロダンは戸惑ったが、やがて驚きとともに理解した――おっかなびっくり、笑顔を作り、勇気を出して言った。
「よかったら、これから一緒に、遊びま・・・遊ばないか? ・・・セレン!」
「・・・いいの?」
 セレンはおずおずと受け入れた。ロダンは二人を仲間たちのところに連れ帰った。先日の件でセレンを見直していた皆は、歓声とともにセレンを迎え入れてくれた。
 その日はみんなで暗くなるまで遊んだ。遊び過ぎて、家に帰ってから叱られた子が多かったくらいだった。その親たちは、自分の子が「お屋敷のセレン様と遊んだ」と言うのを聞いて面食らうことになったのだったが。
 こうして、セレンは街の子どもたちと和解し、再びその仲間となったのだった。

(完)

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(仲直り)(02)

 無理もない、ディア家の夫人なら、この国の王子には何度も会っている。ただ、目の前にいるルークとは雰囲気がまるで違うから気付きにくいだけだ。
 だが、夫人が記憶を呼び覚ますより前に、ルークの陽気な一言がすべてを吹き飛ばした。
「俺のほうはあんたに見覚えなんてないぜ、くそばばあ!」
「な・・・な・・・」
 夫人は赤くなったり青くなったりした。見物人たちの抑えた笑い声が、余計に彼女を追い詰めた。
 夫人はキッとなって、供のほうに手を伸ばした。
「鞭を!」
 差し出された細い鞭を手にして、命じた。
「前に出なさい、ルークとやら。不敬の罪で打ちます!」
 セレンがルークをかばおうと手を広げたが、ルークはそれを押しやって前に出た。
「いいんだ、セレン」
 その目がきらきらと輝いているのを、セレンは不思議な思いで見た。
「両手を出しなさい」
 言われてルークは素直に手を出した。夫人が鞭を振り上げる。
 その瞬間――セレンは理解した。「不敬の罪」はどっちだ? 今ここでルークが手に傷を掲げて自分の身分を明かしたらどうなる? 身分差を理由にセレンから友達を取り上げて来た夫人に、ルークは一矢報いようとしているのだ・・・彼が都で築いて来た「ルーク」のすべてと引き換えにして!
「だめだ!!」
 気がつけば、セレンは母親とルークの間に無理やり割り込んでいた。ルークと母親のどちらを守りたいのかは、自分でもよくわからなかった。
 すでに力いっぱい振りおろされていた鞭は、セレンの頬をかすめた。
 頬が熱い。触れてみた手には、血が付いた。
 セレンの柔らかな頬には、一筋の真っすぐな傷がついて、血がにじんでいた。夫人は鞭を取り落とし、悲鳴をあげた。
「セレン! いやあああ!」
「セレン、どうして!」
 動転しているのはルークも同じだった。向き合って、セレンの頬の傷を認め、目を見開いた。
「どうして、こんなことを! ぼくは良かったのに!」
「良くない。いいから、ここを離れて。今のうちに」
 夫人は卒倒して、供のものに介抱されている。
「でも、セレン」
「大丈夫。ありがとう」
 二人の目と目が合って――ルークは黙ってうなずいて、その場を離れた。
 夫人は馬車に乗せられ、「セレン様も」と、セレンも乗せられた。
 屋敷に帰ると、医師の診察を受けさせられた。幸い、傷跡は残らないだろうとのことだった。

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(仲直り)(01)

 夏のある日、都の真ん中で、自分の家の紋章をつけた仰々しい馬車が目の前に止まったとき、セレンは、来るべき時が来たことを知った。家を抜け出し始めてから一ヶ月半。いろいろ叱られてはいたが、この実力行使は予想よりも遅かったくらいだった。
 隣にいる友達がすみやかに立ち去ってくれることを願って、彼は静かに言った。
「逃げて、ルーク」
 しかし、返って来たのは、
「どうしてさ」
という、要領を得ない返事だった。
「母上だ。きっとひどいことをされる。逃げて」
「ひどいことって?」
「鞭で打たれたりとか・・・いいから早く逃げて!」
 セレンはルークを押しやろうとした。通りに居合わせた都の子どもたちも、「ルーク、逃げろ」と切羽詰まった声をかけて来る。止まった馬車からはもう、セレンの母親が下りて来るところだった。
「いやだ、逃げない」
と、ルークは言って、その場にとどまった。セレンは焦れたが、もう間に合わなかった。
 馬車から下りて来たディア家夫人は、二人の目の前に立った。若い小柄な夫人は、髪を結いあげ、レースのショールを羽織って、きちんとした装いをしていたが、顔色は怒りに青ざめていた。
「セレン、あなたは今の時間、お勉強をしているはずではなくって」
と、彼女は口を開いた。言葉も怒りのために震えていた。
「申し訳ありません、母上」
とだけ、セレンは言って、ルークをかばうように立った。夫人はセレンの肩越しにルークをにらんだ。
「あなたが、うちのセレンを悪い遊びに引き込んでいるのね。名前を言いなさい」
 ルークは澄ました顔で、
「ルーク」
と名乗り、続けて、
「悪い遊びって何さ、おばさん」
と、おそれげもなく言って笑った。
「俺、セレンを酒や賭博に引き込んだりはしてないぜ。引き込もうか?」
 周りに集まって来た見物人の間から、かすかに笑い声がした。
「大人をからかわないで!」
 夫人はヒステリックに叫んだ。じろじろとルークを眺めて、そのどこにも、貴族を示す印がないことを確認すると、
「あなたは、うちの子とは身分が違います。今後、一切の付き合いを禁じます」
と宣言した。
「禁じるって、どうすんのさ、おばさん」
「今後、一緒にいるところを見かけたら、痛い目に・・・あら?」
 ルークの顔を見て話しているうちに、夫人は妙な顔つきになった。
「あなた、どこかで・・・」

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予告:(仲直り)

出会ったころのルークとセレンの話、第3弾。

(夏の訪れ)(仲たがい)→(仲直り)、という流れです。

小さいルークとセレンの話は、ここで一区切り。

全3回の短いお話です。

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作者より:「邂逅」

光り姫の話が一段落ついたら書こうと思っていた、闇姫の話でした。

こののち闇姫は何度かパーティーの前に立ちはだかることに・・・なると思うのですが、
それらの話については、まだたいして構想がありません。

次に闇姫の話を書くのはいつになるかな・・・coldsweats01

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邂逅(02)

目の前の空間がゆらゆらと揺れて、闇がひとところに凝ったかと思うと、その中からひとつの人影が現れ出る。
「わらわの出兵を妨げるのは、そなたらか」
青白い肌、黒い髪、濁って焦点の定まらない黒い瞳。顔の下半分を黒いベールで覆い、黒いドレスを着ている。
彼女はゆらゆらと宙に浮き、二人の剣の届かない高さに上った。
ゼラルドが、身を守るための呪文を何かつぶやいて、二人の周りに半球形をした金色の壁を作ったが、彼女は嘲笑った。
「そんなもの! おまえたちは、闇の力に呑みこまれ、息が詰まって死ぬがいい!」
彼女が両手を広げると、闇そのものと思われる漆黒の靄が降りて来て、ゼラルドの作った防護壁をも越えた。
剣では靄は切れないだろうと思いつつ、二人は反射的に黄金の剣を抜いて身構える。
すると、迫って来た闇は、びくりと震えて二人から離れた。
「何?」
彼女が驚いた気配があり――闇は霧消した。何が起こったのかわからないのは二人も同じだった。
「・・・そなたら、そこに何を持っている」
低い声で彼女が問うが、二人には何のことかわからない。
「・・・レティカの宝剣か!」
彼女はあえぐように言った。二人ははっとした。抜き放った宝剣が守ってくれたのだ。
「くっ・・・わらわには手出しのできぬさだめ。詮無きかな。しかし、いずれまたあいまみえようぞ」
悔しそうに言って、再びもやもやと固まった闇の中に消えてゆこうとする彼女に、
「待て! おまえは何者だ!」
と、フルートが問うた。
「わらわか。わらわは・・・闇姫」
その言葉だけを残して、彼女は消えてゆく。
闇姫が消えてしまうと、草原は明るくなり、さきほどまで垂れこめていた黒い雲も、ちぎれて風に乗り、飛び去っていった。
明るい陽光が戻った下で見る草原は、とてもさっきまで影に埋め尽くされていたようには見えない。
自分一人が幻を見たのでないことを確かめるように、二人は顔を見合わせた。
そして、これが、闇姫との最初の出会いだった。

(完)

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邂逅(01)

草原には、黒い雲が垂れこめていた。
道を確かめるために二騎、先行して馬を走らせているフルートとゼラルドは、嵐が来ないことを祈った。
草原には、ところどころに立ち枯れた木々がある他、何もない。
しかし、無言で馬を駆っていた二人は、草原を分ける細い川のほとりで、驚いて手綱を引くことになった。
「なんだ・・・これは!」
フルートが低く呻く。
川の向こう岸には、異様な光景があった。
影だ。人のかたちをした影が、野原を埋め尽くし、這うように進んでいる。
影の群れは川の流れと同じ方向に移動していたが、いくつかはこちらに気付き、川を渡って来ようとしていた。
ゼラルドは馬から下りた。
「ぼくを」
守れ、と、反射的に母国語で言いかけて、一緒にいるのが故郷の従者ではなく、友であることに思い至る。守れではなく、守ってくれと言うべきだし、内陸の言葉で言わなければならないし、そもそも守ってもらいたい理由を説明しなければならない。
「わかった」
と、しかし、フルートは、こちらも馬を下り、ゼラルドの前に出て剣を抜き放つと、こともなげに応じた。
「どれだけ持ちこたえればいい?」
「100数えるだけの間」
「了解」
言いながら、フルートの剣は最初の影を叩き切っている。口元には不敵な笑み。
ゼラルドは<太陽の力>を利用した術の詠唱に入った。敵が本当に「影」であるなら、殲滅に効果的なはずだ。
詠唱が進むにつれ、二人の足元には金色の光がゆらゆらと溜まっていく。フルートが切らずとも、光に触れて消滅していく影もある。
100数えるだけの時間をかけて、川のこちら岸に金色の光を十分に溜めてから、ゼラルドは一気にその光を向こう岸に押し流した。
光は、燃えさかる火のように、草原じゅうを舐めつくす。這う影の群れは呑みこまれ、あとかたもなく消滅していく。
金色の光の洪水はやがて消えたが、消えたあとには、ひとつの影も残らなかった。
二人は息をついた。
が、そのとき。
ぞわり、と体中が総毛立つ感覚があって、二人は身構えた。

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予告:「邂逅」

一時的ではない「敵」が、初めて登場するお話です。

参加する登場人物はフルートとゼラルド。

全2回の短いお話です。

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作者より:夏休み&ブックマーク

8/14(日)、8/16(火)は、本来更新日ですが、お休みをいただきます。

最近、感想らしい感想を頂戴することもなく、そろそろ充電期間に入ろうかなあと思いつつ・・・。

長期休養に入るときにはブログランキングへの登録も解除する可能性が高いので、

いつもランキングからお越しくださってる方は、念のため、ブックマークをお願いいたします。

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作者より:「華飾の町」

タイトルは、「うつくしい町」とどちらにするか迷って決めました。

住人たちが正気に返った町には、テーマパーク感覚で遊びに行ってみたいものです。

町がどうやって自衛しているかは謎。

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華飾の町(09)

 そして、次から次へと、笛の音は曲を紡いでいった。どんな曲でもフルートは吹いた。もうこれは、単なる気分転換と呼べるようなものではなかった――フルート自身はどのくらいその素晴らしさを知っていたのかわからないけれども。だんだん、明るい、陽気な曲が多くなってきていた。楽しい踊りの曲、軽やかなワルツ。
 不意に、何を思ったのか、フィリシアは窓際に立っていき、そして・・・歓声をあげた。窓の下の群衆は、いつしか、みな踊っていたのだ! 広がるドレス、風に舞う髪、そして、笑いさざめく、様々な声――様々な声――様々な――様々な!
「きれい・・・」
 ミルガレーテが、フィリシアの陰で感嘆のため息をついた。窓のそばに集まって、全員がその光景に見入った。もちろん、フルートは笛を吹き続けながら。
 宿の主人も、群衆の中で踊っていた。老いた者も、幼い子供も、すべての町人は通りに出ていた。やがて踊りに変化が訪れた。決まった型どおりの踊りが、輪の中心から崩れて、華やかなバリエーションを形作った。
「彼らは確かに、何かを見失っていたのかもしれないけれど」
と、ゼラルドが言った。
「まだ、美を感じ取る心は失っていなかったのだね――」
 ――疲れを知らぬ笛の音は、高らかに軽やかに響き続けている。なぜ、あの何の変哲もない一本の横笛が、これだけ多くの人々の心を和ませることができるのかは、大いに不思議なことであったけれども。そして、フルートがとうとう笛を吹きやめた頃には、すでに別の楽器の音が、いくつも鳴り始めていた。
 その様子は、町が丸ごと、一つの音楽と化してしまったかのようだった。永遠に続くかと思われるように、活気づいて、華やかに、美しく。永遠に、永遠に。

 そして、旅人達は再び、身支度をし、馬を連れて立っていたのだった。町中が踊りの渦に巻き込まれた、その翌日の朝だった。
「ではお気をつけて」
 宿の主は、決して宿代を受け取ろうとせず、心底驚いたように首を振り、心づくしの見送りをしてくれた。
 通りでは、作業着姿の住人たちが、めいめいの仕事に打ちこんでいた。大工や、仕立屋や、絵描きや、音楽家たち。そういった人々は、旅人達が通り過ぎると、気恥かしげに微笑んだり、一礼したりした。
 フィリシアが、歩きながら、そっと言った。
「うつくしい町だわ」
「そうだね。たぐいまれな町だ」
 セレンが応じて微笑んだ。
 そうして一行は、生まれ変わった芸術家たちの町をあとにしたのだった。

(完)

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華飾の町(08)

 フルートは、むっとしたが、自制して、続けた。
「子守唄でも吹いてあげようか」
「・・・子守唄!」
 セレンはぱっと身を起こした。フルートは一瞬、怒らせたかと思ったが、セレンの目は輝いていた。
「笛を吹いてくれるの!」
「ご希望があれば」
「子守唄なんて言わず、もっと吹いてよ」
 こんな町中でフルートの笛が聞けるとは思ってもみなかった。もっとも、考えてみれば、おかしなことは何もない。フルートはいつも、人が集まって来るのがわずらわしくて笛を吹かないのだが、今の場合、人はもう集まってしまっているのだ。
 フルートは少し音階とアルペジオを吹いていたが、やがて練習をやめ、
「では・・・最初の曲は君に」
 故郷リーデベルクの習慣どおりにそう言って、静かに吹き始めた。静かに、けれど、澄みきった、よく通る音。外のざわめきなど気にならなくなる。
 いつもと同じだ、と、セレンは涼やかな調べを聞きながら思った。いつでも、フルートが彼のためにといって吹いてくれる最初の曲は決まっていた。そして、フルートはセレン以外にはその曲を捧げない。
 高く低く、湖の上を渡る風のように、笛の音は響いていった。旋律は次第に明るくなり、春の森の若草色を思わせた。春、そして、夏。セレンはいつでも思い出すことができる。森の泉のきらめきと、その泉で振り向いたときに目に映った、白い仔馬と少年の姿を。
 セレンはふと、部屋の入口に目をやって、仲間達が遠慮がちにのぞいているのに気が付いた。
「入っておいでよ」
 ためらわずに声をかける。
「独り占めする気はないからさ」
 フルートはちょうどそのとき、最後のフレーズを奏で終えたところだった。顔を上げ、一同を見渡すと、
「次は何がいい?」
 フィリシアとミルガレーテは、部屋に入ってきてベッドに座った。ゼラルドはまだ戸口でためらっていた。それへ笑いかけながら、
「何もないなら、適当に選ぶよ――ゼラルド、君もおいで」
 ゼラルドはおとなしくそっと部屋に入って、戸口近くの壁に寄り掛かった。フルートが次の曲を始めると、はっとした様子をする――それはゼラルドの故郷の曲だったのだ。紫色の旋律と呼ばれる、独特な悲しげな節回し。

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華飾の町(07)

 それなら試しに外に出てみようか、と軽く言ったのはフルートで、みなが引きとめるのをかわして外に出た。彼は、みっつ数えるより早く戻ってきて、直後、宿の扉にたくさんの石が当たる音がした。
「信じられない」
と、彼は一個持ち帰った石をみなに見せた。それは、こぶし大ほどもある宝石だった。
「こんな高価なもので人を追うなんて。しかも、ガリアやルフィードは落としたら割れるんだぞ。いくら裕福だといったところで、正気の沙汰じゃない」
 律儀に、扉の外へと転がしてやってから、方針を決めた。
「幸い、中までは入って来ないようだ。三日のうちに状況が変わらなければ四日目に強行突破、それまでは自由行動。で、いいかな」
 異議は出なかった。

 一日目、二日目は適当に話をして紛らわせた。しかし、三日目になっても、群衆は依然としてそこにいた。
「入れ替わり立ち替わり、か。一体どういうつもりだろう」
 方針を決めたフルートが、最初に退屈して苛立ち始めた。セレンも、こちらは人の悪意に疲れて機嫌が悪くなっていた。ゼラルドは屋内で一人で過ごすのに慣れているため、特に問題なく自室で過ごしており、フィリシアも、生来の無邪気な落ち着きでもって、主の作業を眺めてみたり、部屋でミルガレーテとおしゃべりに興じたりして、これもそれなりに過ごしていた。
 結局、一番おもしろくないのはフルートとセレンだった。本でもあればよいのだが、ここには不幸にも一冊もない。二人はカードにもチェスにも飽きて――カードはフルートが強くチェスはセレンが強い――、とりわけ話すようなこともなく、めいめい不機嫌に宿の中をうろついた。こんなときに一緒にいると喧嘩になりやすい、ということは承知していて、しかし一人でいるのも退屈で、最後には二人とも部屋に帰って来るのだった。
「セレン」
「・・・何?」
 セレンは返事をしたが、疲れているように見えた。
「少し眠ればいい。ゆうべもその前もほとんど寝てないだろう」
「昼も夜も、眠るにはうるさくてさ」
 セレンは投げやりに言った。フルートはたしなめて、
「明日は出発だ。今日のうちに休んでおいたほうがいい」
「余計なお世話だ」

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華飾の町(06)

 そうして、皆が台所に集まっていた。台所は、もともと主の作業場を兼ねていたものらしい。広々として、工房の設備を備えている。
「芸術家たちの町だったのだよ、ここは」
 主は静かに話しながら、次々にガラス細工を作り続けていた。色とりどりの塊が、みるみるうちに何かの形になっていく。
「私たちは美しいものを作りだすことに誇りを持っていた。絵を描き、楽器を鳴らし、彫像を作り、そうやって暮らしていた」
 一頭の馬を生み出して、主の手は次のガラスに伸びる。
「それで満足していたはずだった・・・なのに、それが、いつのまにか・・・私たちは、生み出すばかりでなく、自らとこの町そのものを、何よりも美しいものにしたくなった。完璧な美の町を作りたくなったんだ。その結果・・・」
 主は手を休め、ため息をつき、また手を動かし始めた。
「その結果・・・生み出すことを忘れてしまった。いつでも、いかに美しく見えるかということにのみ気を取られて、芸術の女神への敬意を忘れてしまった」
 主は深いため息をついた。宿屋の外のざわめきは、心なしか大きくなってきたようだった。
「それでも私たちは信じたのだよ。これが、自分たちの求めたものなのだと。この町は完璧に美しいと。自分たちの演じるものに、長いこと満足していたのだ」
 悲しみに沈む乙女の像を形作る。乙女の頬には小さな涙の粒。
「そこへ、あなたがたが来たのだ。町は混乱に陥った。他所者が自分たちより美しいことの衝撃。黒という色が美しかったことの驚き。金にあかせて豪奢にどれだけ美を装っても、装わずして美しいものには到底かなわないことを思い知らされて、町は自己満足から現実へと引き戻されてしまった。そうして・・・完璧に美しくあろうとする中に、反発と怒りと嫉妬が芽生えた。そういうことなんだよ」
 めいめいが、それぞれの物思いに沈んだ。
「もうみんな、自分たちがなぜ怒っているのか、なぜあなたがたを憎く思うのか、理由などわからないだろう。ただ腹が立つ。ただ憎い。それだけだ」
「でも、あなたは?」
 フィリシアが言った。主は手を休めて、その青い目を見た。
「――私は幸運だった」
というのが、主の答えだった。ぐるりと一行を見渡した。
「みなさんに対して働いた愚行の数々、どうかお許しください。外に集まっている者たちが何をするつもりかはわかりませんが、いま外に出るのは危険でしょう。どうぞしばらくご滞在ください」

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華飾の町(05)

 宿の主は、翌日、階下に戻ると、熱を出して寝込んでしまった。
 フィリシアが看病を引き受けて付き添った。そのうちに、妖精を統べる姫、ミルガレーテも姿を見せたので、他の者たちは主の看病をすっかり二人に任せてしまった。
 夕方頃、熱が下がり、主は正気づいた。
「お目覚めですか?」
 フィリシアは主の顔を見て微笑み、ミルガレーテは台所で熱いティル酒を入れて来ると、どこへともなく消えた。
 主はティル酒を飲むと、少し元気になった。低い声で、ぽつりと言った。
「夢を見ていました・・・さまざまな色の光が降ってきて、目の前でやわらかに渦巻いていく夢を」
 いつわらぬ声だった。昨日までのわざとらしい、とってつけたような愛想のよさは消え、けれど、こちらのほうが親しみの持てる声だった。
「若いころにはよく見た夢でね。目が覚めると、体の底から意欲が湧いてくる。どれ、ちょっとばかり」
 主はよろよろと体を起こし、広い台所の奥に行って何かを取りだした。それを、棒につけて火であぶったり、道具を使ってつまんだり引っ張ったりしていたが――
 それはまるで、手品を見ているようだった。わずか十数分ののち、主の手の上には、バラ色をしたガラスの人魚が乗っていた。優しい表情で歌を歌っている、ように見える。
「さあ、できた。どうぞ、あなたにあげましょう」
 まだあたたかい人魚を手の上に乗せてもらって、フィリシアは顔を輝かせ、礼を言って、皆に見せるために台所を駆けだしていった。

 フルートとセレンは二階の一室で、窓の外に見えるものについて話していた。窓の外に見えるもの――すなわち、この宿の周りに集まってきた人の群れについて、である。なぜそんなふうに人が集まって来たのか、よくわからない。
 開け放してあった部屋の戸からフィリシアが駆けこんできたのは、そんなときだった。
「フルート! セレン! 見て、これ! なんてきれい!」
 およそ王女らしからぬはしゃぎぶりで飛びこんできて息を切らしている。
 フルートとセレンはいったん話を止め、フィリシアが差し出した人魚を見て、たしかに感嘆せざるをえなかった。それは本当に美しいガラス細工だった。愛らしく、このうえなく繊細で、フィリシアの手の上で、みずみずしい生命を宿していた。
 フルートは、ひゅうっと口笛を吹いて、
「これを彼が?」
「ええ」
「話を聞きに行こう。先に行っていてくれ、ゼラルドを呼んで来る」

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