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勇者パックス(01)

「昼飯買って来たけど――」
 食う?と言いかけて、相手を考え、
「食べるかい?」
と、ルークは部屋の戸口で訊いた。
 ゼラルドは、「昼飯」などという言葉遣いを特に気にする様子もなく、そうだね、と答えたが、ルークが入って来ると、
「セレンは?」
と尋ねた。一緒だと思っていたのだろう。
 ルークは食べ物の包みをほどきながら、
「デート。ほら、昨日会った旅芝居の一座に、ふわふわの金髪の美人がいただろ。セレンが口説いてた、ちょっと気の強そうな。彼女と約束してて、朝から出かけてった。昼からは舞台だって。もう始まってるかもな」
「君は芝居を見るのは嫌い?」
「そんなことはないけど」
 ルークはパンをかじりながら言った。
「ぼくがいると邪魔だって言うからさ、あいつ」

 その頃、街の外れの広場では、今しも舞台の上で、古代の英雄パックスにまつわる劇が始まったところだった。
 勇者パックスは、国王の命により、さらわれた王女プルセウネの救出に向かう。彼に付き添うのは、パックスの姉ロミーナと、プルセウネの侍女ルルサーナだ。
 ロミーナは非常な美女であるが、神殿に使える巫女であり、それというのも、幼くして両親を亡くした姉弟が無事に生活を営んで行くために、少女のうちに進んで神殿に入り、娘らしい青春と引き換えに、神殿の庇護と予知予言の能力とを授かったのだった。
 一方の侍女ルルサーナは、良家の出で、プルセウネの幼友達であるため供を申し出たものの、美しい巫女ロミーナのことは内心疎んじている様子。
 さて、王女プルセウネは魔物にとらわれており、さすがのパックスも苦難の連続である。そこに現れたのが謎の男ラダオーンであり、これは実は、生き別れて行方知れずになっていた、王女の兄なのである。彼はパックスに力を貸してくれ、巫女ロミーナはいつしかラダオーンに恋するようになるが、神殿に仕える身には禁じられた恋であり、ましてや彼女は巫女の戒律により、異性とは弟のパックスとすら、ルルサーナを通じなければ口をきくこともできない。
 そうこうするうち、パックスのほうは、ラダオーンの助力とロミーナの予言の力によって、王女プルセウネを助け出し、一目見て互いに恋に落ちる。そしていざ帰還というとき、魔物の最後の抵抗があり、ラダオーンはロミーナをかばって命を落とし、彼も実はロミーナを愛していたということが明らかになる。
 悲しみにくれるロミーナを見た侍女ルルサーナは、すでに感情のわだかまりも消えており、国に帰ったら自分も神殿に仕えようという決意を固める。
 そして、一行は国に帰りつき、パックスは王の許しを得てプルセウネと結婚し、ロミーナとルルサーナは神殿の中へと戻って行く。ラダオーン亡き今、パックスはやがて国王となるのである。
 観衆は、パックスの勇気に喝采し、ラダオーンの英知に感嘆し、名場面では舞台に貨幣を投げ込んだ。今回、とりわけ人気を集めたのは、憂わしげな美女ロミーナだった。彼女は役柄上、パックスの陰にひっそりと控えて、ろくに台詞もなければ(ルルサーナに耳打ちするだけだ)、派手な立ち回りも少なかったのだが、本当に美しく、それにたいした存在感で、彼女の一挙手一投足が観衆の目を引きつけるのだった。
 ロミーナの足元に、銅貨や銀貨に交じって、金貨が投げこまれたことさえあった。ロミーナは最初、目もくれなかったが、パックス役が促すと、気が付いて、それの飛んで来た方向に向かって優雅にお辞儀した。白い衣装の上にさらさらした金髪が流れて、観衆は手を叩いて喜んだ。
 やがて舞台では、王女プルセウネが助け出され、王女の兄ラダオーンが命を落とし、パックス達は国に帰りつき――めでたい結婚式で幕が閉じると、観衆はやんやの喝采だった。実際、このような旅芝居は、街の者たちの格好の気晴らしなのだった。明日から普段の生活に戻っても、しばらくは今日の芝居が話の種になるのである。

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