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ひとこと通信欄

  • (2017/8/13朝)創作活動が進みません~。少しばかり夏休みをいただきます~。

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SF「夜景都市」(未完)

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2012年1月

暖炉(05)

 翌朝、ゼラルドは目を覚まし、身を起こして、戸惑ったようにあたりを見回した。フルートはもう起きていて、窓を開け、外を眺めている。
 ゼラルドは何気なく自分の手に目をやって、はっとした。左手にあったはずの傷は、跡かたもなく癒えていた。
「傷が・・・」
 呟いてから、ゼラルドは、さあっと青ざめた。
「フルート! ぼくが傷口を縛っていた布を知らないか。あれにはぼくの血が付いている。王家の血を使えば、悪霊を呼び出すことも、大きな呪いをかけることも、天災を呼び寄せることもたやすい。大変なことに――」
「落ち着いて」
 フルートは振り向いた。穏やかに、
「おはよう。ぼくもすっかり眠りこんでしまって、起きたときにはずいぶん慌てた。でも、こちらに来て、窓の外をごらん」
「何を悠長に」
「大丈夫、君の血は悪用されてなどいないよ」
「・・・」
 ゼラルドは起き出して、窓の外を覗いた。
 ――窓の外は、花の咲き誇る里だった。白い花を敷き詰めたような花畑の中に、一筋の小川が流れ、その流れに沿って桃の木が花を咲かせ、あちこちにぽつぽつと小屋が点在している。
 開いた窓からは、やわらかな春の風と、軽やかな鳥のさえずりが流れ込んで来た。
「フルート。それでは、ぼくたちは・・・大いなる再生の夜に居合わせたのか」
「うん。きっと夜中に何らかの方法で、君の血の付いた布を持って行ったのだろう。聖者ならたやすいことだ」
 二人が居間に入ると、半ば予期していたとおり、老人の姿はなかった。もうどこにもいないのだと、口には出さなかったが二人とも悟っていた。罪深き聖者の使命と償いは完了したのだ。
 食卓の上には、湯気の立つ朝食が乗っていたので、二人はそれを食べた。食べ終わると、外套を取って外に出た。馬たちはおいしそうに青草を食んでいた。
「隠れ里に捕らわれていたとは。道理で、湖にも町にも行きつかなかったはずだ」
 馬を木から外しながら、フルートが一人ごちた。彼はふだん、昼だろうと夜だろうと、天気が良かろうと悪かろうと、方角を間違えることがない。
「行こう」
 老人に言われたとおり、馬に乗って北へ。ほどなく春の野を過ぎて、木枯らし吹く冬の荒野に出た。
 振り返ると、もう花の里は影も形もなく。
 試みに馬を戻しても、もうあの常春の場所に行くことはできなかったのだった。

(完)

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暖炉(04)

 暖炉の火を見ながら話し終えた老人は、旅人たちのほうに目をやって、ふと口元をゆるめた。
「お連れ様は、だいぶお疲れのようじゃの。もう休まれたほうが良かろう」
 言われて、フルートがかたわらを見ると、黒髪の若者は珍しく、うつらうつらと居眠りをしていた。あたたかい部屋で、気がゆるんだのだろうか。
 フルートは手を伸ばして、ゼラルドの肩を軽くゆすったが、起きる気配はなかった。フルートは、自分の手の中にある椀と、老人とを見比べた。
「あいにく、ぼくは薬が効きにくいたちだ。あなたの狙いは何です?」
 老人は目を見張り、首を振り、手を振った。
「めっそうもない。緊張をほぐして体をあたためる茶じゃよ。何の悪さもせん」
 フルートは老人をじっと見てから、うなずいた。口調をやわらげ、
「あなたからは悪意を感じない。薬効はともかく、信用しましょう」
「ほ、やれやれ。ところで、お連れ様のその手は、怪我をしておられるのかな」
 ゼラルドは今朝、左手の指先に傷を負って、白い布を巻いていた。他人の傷ならたちどころに治せる彼だが、自身の傷は治せない。
「わしは多少、医学の知識がある。拝見しようかの」
「いえ、けっこう。手当てはしてあります」
 フルートは断った。浅い傷であることは知っていたし、ゼラルド自身が手当てしたのだから間違いはないだろうし、何より、ゼラルドは他人に触れられるのが大嫌いだ。見知らぬ他人に傷口など触れさせたら、どれだけ怒るか見当もつかない。
「ほう、そうかね・・・。それでは、隣の部屋で休まれるといい。寝台が一つしかなくて申し訳ないが」
「あなたが休む場所を奪うわけにはいきません。ぼくたちは部屋の隅にでも置いてもらえれば」
「心配は無用じゃ。わしゃ最近、この安楽椅子の上で寝とる。隣の部屋は使っておらんよ。狭い部屋だが、好きにしておくれ」
「では、遠慮なく」
 フルートは、目覚める気配のないゼラルドを隣の部屋に運び、寝台の上に乗せた。そして、老人に挨拶をすると、自分も寝室に引っ込んで、壁にもたれて座り、剣を抱えて眠りについた。

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暖炉(03)

 老人の話は、だいたい次のようなものだった。
 ダイヨル湖には、古くから、隠れ里の伝説があった。すなわち、ダイヨル湖に行こうとする者は、十年にいっぺんほど、なぜか湖ではなく、小さな無人の里に着いてしまうのだった。
 その里は、一年中いつでも暖かく、花が咲き乱れているのだという。また、何軒かの無人の家があり、不思議なことに、中にはできたての食事が用意されているのだという。
 迷い込んだ者は、何を飲み食いしても良い。だが、この里の物を何であれ持ち去ろうとすると、まるで見えない壁に阻まれるようにして、里から出られなくなる。何かを持ち去ろうとさえしなければ、いずれ里から出ることができるが、あとで再びその里に行こうと探しても、もう二度と見つけることはできないのだった。
 ここで終われば幸せな里の言い伝えだったが、続きがあった。
 あるとき、旅の聖者がこの地を訪れ、隠れ里の噂を聞いた。まだ若いが強い力を持つ、太陽の聖者だった。彼は伝説に興味を持った。
 若き聖者は、ダイヨル湖の手前にある広い荒野を隈なく調べ、来る日も来る日も通い詰めて、ついに、隠れ里に入ることに成功した。
 聖者は里に何日も滞在し、美しい景色や珍しい食べ物を楽しんだ。とりわけ聖者の興味を引いたのは、隠れ里の持つ自己修復の力だった。たとえば、食卓にある食べ物を食べたあと、いったんその家を出てもう一度入り直すと、また食べ物が出来ているということ。あるいはまた、ひと群れの花を手折って、後ろを向き、しばらくしてから振り向くと、再び花が咲いているということ。
 そして、聖者はあることを思いついた。それは、世界の破壊と再生を、隠れ里を使って実現してみるということだった。いっぺん全部破壊したあと、それらが再生する様を眺めることができたなら、どんなに心震える感動が待ち受けていることか。
 聖者は里の真ん中で、おそろしい破壊の呪文を唱えた。見渡す限りの景色は、炎に包まれ、焼け落ちた。焼け跡をじっと見ていても再生は始まらなかったので、聖者はしばらく目を閉じて待ち、それからそっと目を開けた。するとそこには再生された花畑が――なかった。あるのはただ焼け野原のみ。聖者は、今度はもう少し長い時間、目を閉じて立っていて、そののちゆっくりと目を開けた。するとそこには再生された花畑が――やはり、なかった。あるのはただ焼け野原のみ。後ろを振り向いてみた。そこも焼け野原だった。
 聖者は一晩、焼け跡で眠った。起きているうちに再生が見られなかったのは残念だったが、目が覚める頃には里は元通りになっているだろうと思った。しかし、目が覚めたとき、里はやっぱり焼け野原だった。その次の日も、次の次の日も。
 里を壊し過ぎたのだ、と、ついに聖者が悟ったときには、季節さえも移ろって、かつて常春の里だった場所には冷たい風が吹くようになっていた。聖者はその手で、楽園をひとつ葬り去ってしまったのだ。その後、聖者の行方は杳として知れない――。

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暖炉(02)

 部屋の中では、暖炉に火が赤々と燃えていた。旅人たちは、ほっと一息ついて外套を脱いだ。
「外は寒かったろう。ほれ、もっとこっちに来て火にあたりなさい。いま茶を沸かしてやるからの」
 老人は旅人たちにそれぞれ小さな丸椅子を与えてから、鍋に、水と、青い花びらのようなものを入れて煮立て、ふたつの椀に注いでくれた。
 旅人たちは礼を言って飲んだ。良い香りのする青い茶は、冷えた体を芯から温めてくれた。
「行き暮れていたので、本当に助かりました」
と、金髪の若者が言った。困ったように笑いながら、
「行けども行けどもダイヨル湖にたどり着かないため、いったんカラクの町に戻ろうと引き返したのですが、今度はカラクにもたどり着けず、頭をひねっているうちに日が暮れてしまったのです」
「ほう、ほう」
 老人はうなずいて、
「湖に出るなら、明日、明るくなってから北を目指せば良いじゃろう・・・ところで」
と、声を低め、
「そちらの方は、もしやローレインのお人かね」
と、黒髪の若者に向き直った。声を震わせ、ささやくようにローレインの言葉で尋ねた。
「ダダ・ザナン・ルーゼン?(もしや王家の方ではありませんか)」
「・・・なぜ、そう思う」
と、黒髪の若者は内陸の言葉で静かに応じた。
「それに、連れはローレインの言葉がわかる。秘密の話はできない」
「これは失礼を」
 老人は金髪の若者に目を戻した。彼はすました顔で茶を飲んでいた。
 老人は二人を見比べながら、
「あなたがたは・・・」
と、つぶやいたが、自分も安楽椅子に座ると、
「ダイヨル湖に行けなかったのだとすると、知らぬうちに隠れ里に行って来たのかもしれんよ。いつでも誰でも入れるわけじゃない。その隠れ里というのはの・・・」
 暖炉の前で、ぽつりぽつりと語り始めた。

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暖炉(01)

 冬の冷たい風が吹きすさぶ荒野。
 空には厚い雲が垂れこめ、日も暮れて、あたりは夜の闇に塗りつぶされていく。
 その荒れ果てた野の中に、ポツンと一軒、粗末な小屋が建っていた。窓から漏れる明かりが、住む人のあることを告げている。
 今、その明かりを頼りに小屋を訪ねて来た、二人の旅人があった。

 風の音に負けないよう、ドンドンと戸を叩いても、しばらく戸は開かなかった。
 旅人があきらめずに何度か叩くうち、やっと戸が開いて、中から老人が顔を出した。いったい何才なのか見当もつかないほど年老いて見えるその人は、目を見張るようにして、しゃがれた声で、
「ほう、どちらさまかのう」
「夜分にすみません」
 答えたのは、金髪に青い目の若者だった。
「ダイヨル湖に向かう途中で、立ち往生してしまいました。ご迷惑でなければ、今夜一晩、泊めていただけないでしょうか」
「ほう、ほう」
 老人は曖昧に言いながら、もう一人に目をやって、さらに目を見開いた。もう一人の若者は、黒髪に黒い目をしており、先の若者の陰にひっそりと立っていた。煙るようなまなざし。
 老人は二人に向かってうなずいた。
「この天気じゃからの。狭い家じゃが、外よりはマシじゃろ。お二人とも泊って行きなされ。そのへんの木に馬をつないで、早く中へお入り」
 金髪の若者はにこりと笑った。
「ありがとうございます」
 二人の若者が小屋の中に入ったあとを、北風がビュウビュウと音を立てて通り過ぎて行った。

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予告:「暖炉」

いつもランキングの応援ありがとうございます。
どんな方が読んでくださっているんでしょう。
よろしければお気軽にコメントをくださいねconfident

ただいま新作準備中です。
今回はフルートとゼラルドの話。
全5回の予定です。タイトルは変わるかも。

来週からアップできるかな?と思いつつ、
来月にずれこんだらごめんなさいsweat01

それでは、しばしお待ちくださいませ。

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