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ひとこと通信欄

  • (2017/12/11朝)また休日出勤などあったので、本編進んでおりません…。ふえーん…。

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2012年8月

救出の報酬(04)

 セレンが抜剣して踏み込むと同時に、中で待ち伏せていた賊どもが、わらわらと斬りかかって来た。が、セレンが剣を合わせると、みな、2合ともたず、剣を取り落とし、腕を押さえて、あとじさる。ひとり、ふたり、3人、4人、5人。
「なんだよ、こいつ・・・」
 はいはい、どうせ見かけと違いますよ。というより、君たちは弱すぎ。気楽でいいけど。
「おい、相手はひとりだぞ! 何やってる!」
 後ろのほうから出て来た賊どもが、さらに斬りかかって来るが、数を頼もうという割に、まるで連携がなっていない。それぞれ、やはり2合ともたずに、剣を取り落として呻き声をあげる。6人、7人、8人、9人、10人。数だけ集めたって、駄目なものは駄目だ。
「ねえ、君たち、おかしらが逃げようとしているけど、いいの?」
「なんだと」
 男たちは振り返り、裏口から逃げようとしていた女を捕まえた。
「おい、逃げるなよ、ミーナ! 楽な仕事だって言ったの、あんただろ」
「ちょ、離しなさいよ、ばか!」
「その女性をこちらに引き渡してくれたら、君たちは逃げていいよ」
 男たちはミーナをセレンのほうにドンと押しやり、先を争うようにして裏口から逃げて行った。ミーナはたたらを踏んだ――が、両手で腰の左右から、それぞれ棒のようなものを引き抜き、チャッと刃を振り出して、見慣れない車輪のような形の武器をふたつ構えた。
(おや、これは確かに、今までのごろつきとは違うようだ)
「あたしはお嬢様の用心棒も兼ねてたのよ。甘く見ないで!」
 ザッと斬りつけて来ようとするのを、カシンと剣で弾き返すと、ミーナは意外そうな顔をした。さらに速度を上げて懐に飛び込んで来ようとするのを、セレンは全部、きれいに弾き返した。カシン、カン、カン、カシン、カシン、カン、カン。ミーナは思わず母国語で、
『ちょっとあなた、何者?』
『すごい剣の達人。の、稽古友達』
 もし傍から見る者があったら、二人が舞っているように見えたかもしれない。しかし、ミーナの動きは確かにトリッキーで素早かったが、一撃あたりの重みは当然セレンのほうが重く。すべての攻撃を受け止められれば、ミーナの動きはやがて鈍り、ついに車輪状の武器はふたつとも弾き飛ばされて、セレンがミーナを捕えた。
『さあ、捕まえたよ、お嬢さん』
『はあ、はあ、はあっ・・・あなたみたいな、人と組めたら、良かったのに』
 セレンは笑って、
『ぼくが人さらいなら、君を商品にしているさ。こんなに美人で、腕が立つんだから。それで、君はこれからどうするの』
『どうって? そんなの、あなたが決めることでしょ』
『ぼくは戻ったら、君のお嬢様に、こう報告する。あなたの侍女は自力で脱出していて、もういませんでした、って。君だって、悪の親玉になるのは難しいとわかっただろう?』
『見逃してくれるって言うの?・・・ありがと。でも、あたしは戻らないわ。お嬢様には、たぶんもう、気付かれているから』
『何を?』
『今日までに、あたしがお嬢様を始末しなくちゃいけなかったってことを。あたし・・・』
 言いさして、ミーナはしばし黙ったが、再び口を開いたときには、さばさばした口調で、こう言っただけだった。
『少ししゃべり過ぎたわ。じゃ、行くわね。お嬢様のご無事を祈ってるわ』

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救出の報酬(03)

 案内役が不要になったので、見張りからは見えない場所で、セレンは一気に距離を詰めて、大男と令嬢に追いついた。
「ねえ、そこのおにいさん」
 後ろから声をかけると、大男は跳びあがって振り向いた。
「なっ・・・おまえは」
と言って、大男はぶんと腕を振り回したが、セレンがひょいと身をかがめて避けて、ちょっと強めに当て身を食わせたら、ぐうと呻いて、あっさりのびてしまった。少し拍子抜けだ。本当は、一味の情報など聞き出すつもりだったのに。まあいいか。
 おあつらえむきに、大男は腰にロープを携えており、セレンはそれを拝借して、大男の手足を手早く縛り上げた。
『お待たせ、お嬢さん』
『さっきの方・・・?』
『うん。それでね、申し訳ないけれど、君は、ぼくが悪者をやっつけて来るまで、このあたりで――ええと、この壁の陰あたりがいいかな――、一人で隠れていられる?』
『はい。心細いですが、足手まといにはなりたくありません』
『ごめんね。ぼくが戻って来るまで、ここでじっとしていて』
 娘が隠れるのを手伝ってやってから、セレンは縛り上げた大男を、見張りから見える位置まで転がした。能天気な見張りが気付かない様子なので、こちらが歩いて行くことにした。隠れ家の規模からして、中にいるのは、せいぜい10人前後だろう。
 歩いて来るセレンに気付いた見張りは、ちょっと扉を開けて声をかけてから、また扉を閉め、警戒態勢で待ち受けた。セレンはそのまま近付いて、にこりと笑い、
「やあ。向こうに倒れている大男は、君たちの仲間?」
と、自分の来たほうを指差した。見張りは疑わしそうにじろじろとセレンを見てから、指差されたほうに視線を投げて、そこに本当に仲間が倒れているのを見て、ぎょっと目を見張った、その瞬間、首元にヒヤリとした刃物の感触を感じることになった。セレンが後ろに回り込んで、ナイフを突き付けたのだ。
「大声を出したら殺すよ。中の人数は?」
「・・・じ、11人」
「人質の数は?」
「いない。あそこに倒れている奴が連れて来るはずだった」
「リーダーの名前は?」
「ミーナ」
「女か・・・人質にするはずだった令嬢の、侍女で間違いないか」
「そう聞いている」
「なるほどね。ありがとう」
 ナイフを引っ込めて手刀を落とし、見張りを気絶させてから、セレンは扉を開けた。

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全4回→全5回に変更します。

救出の報酬(02)

「おい、何をコソコソ話してんだよ」
 連れの男が慌てたように割って入って来るところを見ると、この男にはシャガラ語は通じていないようだ。セレンは動じず、赤毛の娘に、
『この男を追い払えばいいの?』
『いいえ、また違う人が来るだけ。悪い人たちがどこかに集まっていて、わたくしの侍女が人質に――んん』
「何を話してんだ、って言ってんだよ!」
 男に口を押さえられて、彼女は沈黙した。
 セレンは男に向かって、
「邪魔して悪かったね。面倒事はごめんだ」
と言い、赤毛の彼女に対しては、
『またあとでね』
と言って、道を空けた。彼女は意図がわからなかったらしく、失望した表情でうなだれた。
「おう、わかればいいんだ」
 男は横柄に言うと、娘を連れて去った。
 一味の集まっている「どこか」の場所が分かっていれば、この場で保護するほうが楽だったのだけれど。捕まっている侍女とやらも助け出すなら、この二人のあとをつけて行くほうが早い。
 セレンは自分の長い髪を、ひとつに束ねて三つ編みにした。そのほうが動きやすいので。

 だいたい、人さらいにとっての大事な「商品」の移送に、こんなごろつきひとりを当てている時点で、娘の言う「悪い人たち」は、誘拐の素人に違いなかった。どう見ても「高級商品」なのだから、もう少し人を割いて、しっかり守らせたらいいのに、とセレンは思う。しかも、「商品」自身に歩かせているとは、あきれて物も言えない。薬でもかがせて、袋に詰めて、かついで運んだほうが、よほど安全だし道もはかどるだろう。目の不自由な女性だからと、甘く見すぎじゃないのか。
 などと、身も蓋もないことを考えながら、セレンはのんびり、前方に見える大男の背中に付いて行った。大男は、なりは大きいものの隙だらけで、背後への注意もすっかりお留守。典型的な、ただの力自慢のごろつきのようだ。どうやら近くに仲間がいる様子もない。
 そうこうしているうち、周りはだんだん、ひとけがなくなって、街外れに近付いて来た。荒れた建物がぽつりぽつりと点在している。さすがに物陰を選んで移動しながら、さて、人さらいたちの根城は、と。
(――あそこか。何人くらいいるかな)
 まだ離れているが、行く手に、誰も住んでいなさそうな荒れ果てた家があり、見張りが立っている。出入口は表と裏の二ヶ所ありそうで、今回のところは都合が良い。というのも、寄せ集めの不良相手に手加減してやるなら、逃げ道を断たないことが重要だからだ。

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救出の報酬(01)

 知らない街をひとりで歩くのは、あまり好きではない。フルートやフィリシア、もとい、ルークやフィアは、新しい街に着くと喜び勇んで飛び出していくが、セレンに言わせれば、よくそんな無茶ができると思う。
 文化も風習も異なるに違いないのだから、「現地の誰か」に案内してもらうのが一番いいに決まっている。その「誰か」は、どうせだったら可憐な女の子がいいなあと思うし、こちらに好意を持ってくれていたら、なお嬉しいと思う。ついでに言えば、案内してくれたお礼がキスひとつで済んだら手間がなくていいし、それで相手も喜ぶんじゃないかと思うときもあるのだけれど、そこは最近すこし考えを改めて、何か記念になりそうな装飾品を買ってあげるようにしている。捨てたくなったら捨てればいいし、換金したくなったら換金すればいい。

 そんなわけで、セレンがいつものように、「ひとりで歩いている、急いでいなさそうな、可愛い女の子」を探しながら、ふらふら歩いていると、なんだかちぐはぐな男女二人連れに遭遇した。
 カップルに声をかけたって意味がないから、普通なら気にせずすれ違うところなのだが、すこぶる柄の悪い大男――長身のセレンより背丈があるうえ、がっちりと厚みのある体つきで、人相が凶悪だ――が、可憐そのものの彼女――きれいな赤毛が印象的で、長い睫毛を伏せ、思いつめたように下を向いている――を、しっかり背中に手を回してエスコートしているさまは、恋人同士というより、むしろ、誘拐犯が人質を連行しているような不自然さだった。
 仮に恋人同士だったとしても、彼女のほうが楽しんでいないのは明白だ。ぼくと歩いてくれたら、そんな顔はさせないのに。
「こんにちは、お嬢さん。デート中?」
 気易く声をかけると、赤毛の娘は顔を上げ、困惑したような瞳をセレンのほうに向けて、心細そうに、両手を胸の前で重ね合わせた。連れの男が、凄みをきかせた声で、
「わかってるなら、声かけて来んじゃねえよ」
と吐き捨てる。ふうん。
 わかったことはみっつ。ひとつめ、この可愛らしいお嬢さんは目が不自由らしく、視線の焦点がうまく結べていない。ふたつめ、このお嬢さんには、たぶん内陸の標準語が通じていない(が、連れの男には通じている)。みっつめ、このお嬢さんは、おそらく西方の国から来た、そこそこ身分の高いご令嬢だ。右手の小指に二連の指輪は、西方の上流階級で、成年に達した未婚女性のしるし。
 西方で一番広く使われるシャガラ語なら通じるだろうか。セレンは言葉を変えてみた。
『こんにちは、お嬢さん。この野蛮な大男は、君の何?』
 すると、赤毛の娘の表情が変わった。焦点の合わない目を見開くようにして、
『お願い、助けて。人さらいです』

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予告:「救出の報酬」

お待たせしました~。
明日から、セレン単独の本編です。
全4回の、軽いお話になる予定です。

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作者より:(幼きもの)

ページ数の計算を完全に間違えた!お話でしたsweat01
ほぼ倍に延びてしまいました・・・。すみません・・・。
せめてフルートのファンの方には、喜んでいただけていると良いのですが。

どこまで子供時代を遡っても、フルートはフルートらしいなあ、と思いながら書きました。
ともあれ、そういうわけで、最初に都に現れたときの「ルーク」は、まだまだ子供で、保護者付きであったと思われます。が、きっと、それでフルートは世界が変わっただろうと、作者は思っています。

マシュモッシュ氏に対しては、「フルートに賭けごとを教えたのはおまえか~」という気持ちですが、振り返ってみると、まだルークが賭けに興じているところは書いたことがなかったのでした。
そのうち書きます。ま、ルークのことですから、心配は無用です。

そして次回は本編に戻ります。
リクエスト対応&並び順のバランスもまあまあ良いので、セレン単独のお話になります。
準備のため、お時間を1週間ほどいただきたく、よろしくお願いいたします。
(飽くまでも準備であって、書き上げているわけではないということは、今回のページ数の誤計算からもおわかりいただけるかと思いますsweat02

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(幼きもの)(09)

 その夜。マシュモッシュ博士とドゥーイット博士は、食後のお茶を飲みながら、フルート王子のことを語り合った。
「いや本当に、ドゥーイット殿からお聞かせいただいていたとおりの、素晴らしい王子殿下でいらっしゃいました。明るくて、素直で、思いやりがあって・・・そして、稀有な資質を備えていらっしゃる」
「では、やはり、あの聡明さは稀有な資質でありましたか」
 ドゥーイット博士がうなずくのに向かって、
「聡明というより、私には、直感が鋭くていらっしゃるように思われました。嘘を見抜くのも、カードを当てるのも、頭で考えているのではなく、息をするのと同じくらい自然に、直感でひらめいているようにお見受けします」
「なるほど。して、危ういとは、お思いになりませんでしたでしょうか。潔くありすぎると言いますか、その、直観、が、過ぎると言いますか、傍で見ているこちらがハラハラさせられることも多いのですが」
 心配そうなドゥーイット博士に、マシュモッシュ博士は、
「おおよそのところは心配ありません。なぜなら、殿下の危うさとは、『怖れを知らないこと』によるもの――すなわち、まだ幼くていらっしゃる、まさにそのことによる危うさだからです」
「怖れを知らないこと・・・」
と、ドゥーイット博士は繰り返した。マシュモッシュ博士はうなずいて、
「さよう。言い換えるなら、まだ守るべき大切なものがないのです。だから、嘘のつきかたもご存じないし、他人の嘘にも厳しくていらっしゃるし、ご自身の利害を考えずに感じたまま行動される。時には危うく見えることもあるでしょうが、子供たちにはよくあることで、たいていは年を重ねるとともに守るべきものを見出し、思慮分別が身について、自然とバランスが取れるようになるものです」
 ドゥーイット博士は、ほっとした顔になった。
「では、このまま見守っていれば良いのでしょうか」
「ひとつ気にかかることがあります」
と、マシュモッシュ博士は言った。ドゥーイット博士がおもてを引きしめる。
「と、言いますと?」
「フルート様には、あの城ひとつは狭すぎると思うのです」
「?」
 当惑顔のドゥーイット博士に、さらに説明する。ここは肝心なところだと、マシュモッシュ博士は思う。
「城の中で大切に守り育てられたフルート様は、あれだけ優れた資質をお持ちにもかかわらず、普通の7才の子供に比べて、経験が少なすぎます。だからこそ、幼く、危ういのです。また、ご本人の心情的にも、外に出たいお気持ちが強いご様子。できれば国外への旅行をお勧めしたいところですが、一人きりの王子殿下ですから、なかなかそうもいきますまい。であれば、せめて時々、信頼できる護衛をつけて、おしのびで都にでも出かけられると良いと思います」
「なるほど・・・そのようには考えてみたこともありませんでした。さっそく検討してみます」
 ドゥーイット博士は真面目な顔でうなずいた。このぶんなら、きっと実行してくれそうだ。マシュモッシュ博士も安心して、微笑んで言った。
「まだお小さいですから、仮の名をお使いになるなら、本名と響きの似た名前がよろしいでしょうな。たとえば――ルーク、とか」

 数年後、ボンダバンの国王は病に斃れ、政情は不安定になって、マシュモッシュ博士がフルート王子に再会できたのは、何年も後のことになった。再会した王子に、博士は尋ねてみた。
「ところで、フルート様は、何か怖いものはおありですか?」
 王子は立派な若者になっていたが、不思議そうな顔で、
「怖いもの? 特に思いつきませんが」
「大蛇や、大蜘蛛はどうですか?」
「気持ち悪いですが、怖くはありません」
「ああ、なるほど・・・いかにも、そうでありましょうな」
 王子は当惑顔だったが、マシュモッシュ博士は満足した。なぜなら、その答えは、怖いとは何かを知っている人の答えであったから。また、そのうえでなお、怖いものはないという豪胆さが、いかにも王子らしいと思ったからであった。

(完)

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(幼きもの)(08)

 マシュモッシュ博士は、予定どおりに帰ることにした。研究に戻りたいこともあるが、気候的にも、これから寒くなるリーデベルクは、南国生まれの博士にはつらい。
 登城する最後の日。マシュモッシュ博士は、夜になったらドゥーイット博士に自分の所見を述べようと思っていた。頭の中で、述べるべき内容はだいたい固まっていたが、自信があるかと言われるとそうでもなく、どことなくモヤモヤする気分のまま、博士は王子の部屋を訪ねた。
 王子はずいぶん別れを惜しんでくれた。それから、机の引き出しから笛を取り出して、
「先生のために吹きます。こっそり練習していました」
 そう言って、曲を奏でてくれた。
 子供の手習いだから、たいしたことはあるまい、と踏んでいた博士は、すぐに驚かされることになった。どうやら昨日今日に始めた楽器ではないらしく、上手に音をつなげていく。
 曲の内容も、素晴らしかった。空に歌うヒバリのように始まった曲は、やがて異国の雰囲気へと変わって行き、はっきりと、マシュモッシュ博士の冒険談をイメージしていた。そこに歌われているのは、冒険への憧憬、だった。
 曲が終わると、博士は大きく拍手した。
「初めて聞いた曲ですが、素晴らしかったです! なんという曲ですかな」
「あっ、まだ名前がなかった」
 ひるんだ王子の言葉に、思わず目を見張る。
「なんと、フルート様がお作りになったのですか」
「うん」
「笛はいつから始められたのですか」
「5才から。ドゥーイット先生がね、なるべく歌に近い楽器がいいでしょうって、勧めてくれたのです」
 マシュモッシュ博士は、ドゥーイット博士に感謝した。この曲のおかげで、胸の中のモヤモヤは、すっかり晴れ渡っていた。
 王子のほうは、あまり元気がなかった。
「ぼくも先生といっしょに行けたらいいのに・・・」
「もう少し大きくなったら、いらっしゃればいい」
 博士はにっこり笑った。
「ボンダバンの王家にも、ヒズサ殿下という、フルート様より少し年上の王子殿下がいらっしゃいます。大変まっすぐな方ですから、きっとフルート様と気が合うと思いますよ」
「そうなのですか? お会いしてみたいです」
「お伝えしておきましょう」
 博士は約束し、心をこめて、深くお辞儀した。
「それでは、また会う日まで、ごきげんよう、フルート様」

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(幼きもの)(07)

 そんなこんなの毎日が続いて、マシュモッシュ博士は、おおいに感嘆し、また、おおいに困惑した。ドゥーイット博士は、そんなマシュモッシュ博士を見て、うんうんと頷きながら、マシュモッシュ博士の見解がまとまるのを待っているのだった。

 たとえば、こんな日があった。マシュモッシュ博士と王子は、城の女官たちが悲鳴をあげて逃げ回っているところに遭遇した。彼女らの足元には、どこから入って来たのか、大きな蛇が一匹、長い体をのたうたせていた。
「先生、あの蛇、毒はある?」
と王子が問うので、
「ありませんよ」
と答えながら、博士が蛇を取ってやろうと近付いていくと、王子はその脇をタタッと走り抜けて、自ら両手で蛇をつかみあげた。
 女官たちの悲鳴がひときわ高くなったことなど気にもとめない様子で、
「この窓から捨てればいい?」
「そうですね、なるべく遠くに投げてください」
 言われて、ぽいっと窓から蛇を放り投げた。
「フルート様は、蛇は怖くないのですか?」
と、博士が感心して言うと、王子は眉をしかめ、
「にょろにょろして、きもちわるいです。怖い・・・とは、そういうことですか?」
と言った。

 また、別の日は。博士はこっそり、王子に賭けカードを教えてみた。手元に配られたカードと、山札のカードを、捨てたり引いたりして、強い役を作ったほうが勝ち。役に自信があれば賭け金をつりあげて良いし、自信がなければ勝負から降りてよい。もちろん、今回は本当に金銭を賭けるわけにはいかないから、小枝で代用した。
 最初のうち、王子は「ええと、ええと」と考えながら、出来やすい役を作るのに専念しているようだったが、勝負が終わるごとにお互いの手の内を見せあっているうち、「あ、そうか」と何かに納得した。以降、カードを引くのも捨てるのも、迷いのない手つきになって、博士はほとんど勝たせてもらえなくなってしまった。
 たった一時間遊んだだけだったが、小枝をみんな取られてしまったマシュモッシュ博士は、内心で、「この小さな王子様は、賭博師になっても食べて行けそうだな・・・」と思ってしまったくらいだ。

 そしてある日、王子が象の絵(たぶん)を落書きした紙を、何気なくひっくり返したマシュモッシュ博士は、またもやびっくり仰天した。その紙は、以前に博士が王子にやった紙で、博士が動物をスケッチするとともに、遺跡の壁画もスケッチしてあったのだが、博士が意味を見つけられなかった壁画の模様に、王子はいくつかの点を描き足して、線でつないで、立派な象の絵を完成させていた。
 この壁画は象だったのか? 象だったのか? ――マシュモッシュ博士の頭の中で、他の壁画の記憶がぐるぐると回って、検証を始めようとする。いやいや、落ち着いて考えなければだめだ。この壁画のきちんとした模写は自宅に置いてあるのだから、自宅に帰ったときに、あらためて考えよう。

 ・・・王子と約束した1ヶ月は、もうじき終わろうとしていた。

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(あと2回だと思います)

(幼きもの)(06)

 次の日、博士は、南国の動物を描いた手書きのスケッチを何枚か持って行った。王子は喜んで、本棚からきれいな動物図鑑を取り出し――こういう立派な書物を持っているあたりは豊かな国の王子ならではだ――、博士のスケッチと見比べながら、いろいろ質問したり、自分も真似て紙に描いてみたりした。
 博士は、スケッチについて説明しながら、冒険の話をぽつりぽつりと話し、わざと少し短い時間で切り上げて、カード遊びができる時間を作った。
「そんなにお気に召したなら、私の絵はさしあげますよ、フルート様。それと、新しいお話を始めるには中途半端な時間になりましたから、あとはババ抜きでもして遊ぶことにいたしませんか」
「あのゲームは、つまらなくて嫌いです」
と、王子は即座に言った。マシュモッシュ博士はあきらめず、
「そうですか? 私は、フルート様とババ抜きをして遊んでみたいですなあ」
と交渉した。いや、ババ抜きを二人で遊んでも確かにつまらないだろう、が、これはきっと、ドゥーイット博士がくれたヒントなのだ。
 王子は、なにげない様子で、マシュモッシュ博士の目をじっと見た。無邪気なのに、なんでも見透かしてしまいそうな青い瞳。しばしの沈黙のあと、にこりと笑って言った。
「わかりました。それでは、やりましょう。ババが最後に残ったほうが負け、ですよね」
 カードを配って、場に捨てて、相手のカードを引いては捨て、引いては捨て・・・。
 最後に王子のカードが一枚、博士のカードが二枚になった。博士はわざと、ババのカードを、王子が取りやすいように押し出した。王子は頓着することなくそのカードを引き、ババだとわかると手元でカードをよく混ぜた。博士が引くと、またババだったが、切り混ぜたあと取りやすいように押し出してやると、王子はそのカードを引いてくれる。
 次に博士が引いたカードも、またまたババだった。博士はカードをよくよく混ぜてから、今度はババでないほうを押し出した。本当に「聡明な」王子なら、そろそろ学習して、押し出されていないほうを取るはずだ。あるいは、「裏の裏をかいて」と考えるかもしれないが、迷う様子くらいは見せてくれるだろう。
 実際、王子は初めてためらった。小さな手を伸ばしかけて、ひっこめる。うんうん、それで、どちらを取るつもりかな?
「・・・あのう、先生」
 王子は困ったように言った。
「何でしょうか、フルート様?」
「そのう・・・」
 王子は、かわいらしい、ささやくような小さな声で言った。
「札が逆ですよ?」

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(延びてます…。)

(幼きもの)(05)

 申し訳ないことをした、と、退出してからマシュモッシュ博士は深く反省した。あんなに歓迎してくれた王子殿下に、あんなに残念そうな顔をさせてしまった。ドゥーイット博士もお人が悪い。あのとき「ひとつだけ気をつけるように」と言いかけたのは、嘘を混ぜるな、ということだったに違いない。もっとも、最初からそのように話を進めていたら、なるほど、これほどの衝撃は受けなかったことだろう。――ああそうか、それで、話がもたなくなったらカードを、と言われたのか。しまった、カード遊びを試してみればよかった。
 幸い、「もう来るな」とは言われていない。挽回のチャンスはある。
 翌日、また出かけて行ったマシュモッシュ博士を、王子は前の日ほど歓迎してはくれなかったが、博士は今日は、実際に体験したことしか話さないと心に決めていた。話し始めてすぐに、その効果は歴然として現れた。王子は前の日とは違い、身を乗り出し、夢中になって博士の冒険譚に耳を傾けていた。時折り、がまんしきれないように質問もした。
「本当にそのような花があるのですか?」
「その動物は何と鳴くのですか?」
「どこまで行けば見ることができますか?」
 博士に与えられた時間は1時間だったが、定められた時間はあっというまに過ぎて、王子は最後に尋ねた。
「マシュモッシュ先生は、いつまでリーデベルクに居てくださるのですか?」
「さあて。ひと月ほどは、おりますでしょうねえ」
「良かった!」
 大喜びする王子を見て、マシュモッシュ博士も安心した。
 博士のほうからも、尋ねてみることにした。
「フルート様は、今日のお話の、どのへんがお気に召しましたか?」
「ぜんぶ! ぜんぶ本当のお話だったから」
「ぜんぶ本当だと、なぜおわかりになりましたか?」
「ひとつも嘘をつかなかったもの」
「嘘をつくと、嘘だとおわかりになりますか?」
「子供にだって、そのくらい、わかります!」
 むきになったように答えてから、王子ははっとしたようだった。今度は、しゅんとして体を縮めながら、
「でも、気付かないふりをするのが礼儀なのだと教わりました。ごめんなさい。私はまだ、嘘のつきかたも、嘘のつかれかたも、よくわかっていなくて・・・」
「大丈夫でございますよ。また明日、違うお話をいたしましょうね」
「はい! 楽しみにしています」
 王子は朗らかに笑った。この美しい王子の、この笑顔のためになら、きっと多くのひとが、何だってすることだろうなあ――そう思いながら、マシュモッシュ博士は、王子の「聡明さ」と「危うさ」について、すこしだけ、分かり始めたような気がしていた。

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(幼きもの)(04)

 マシュモッシュ博士は、王子を椅子に掛けさせて、いつも各地で子供たちに聞かせるのと同じように、冒険の話を始めた。身振り手振りを交えて、八割くらいは本当のこと、二割くらいは楽しいホラ話。
 題材は、とりわけ子供たちに人気のある、「南の海の島々を渡って財宝を見つけた話」にした。故郷の子供たちも、異国の子供たちも、飽きずに何度でも「あの話をもう一度聞かせて」とねだる話だ。
 しかし、話し始めて十分も経たないうちに、マシュモッシュ博士は気がついた。冒険の話が好きだと聞いていたのに、王子は明らかに退屈し始めていた。口元に笑みを残しているのは、単なる社交辞令だ。足をぶらぶらさせて、視線はすっかり床に落ちてしまっている。
「・・・失礼。フルート様は、このような物語はおきらいでしたか」
「え。ああ、はい、いえ」
 王子は目を上げて、あいまいな返事をし、にこりと笑った。
「すみません、今日は少し、疲れたようです」
 なんと! それは「退出しろ」という意味ではないのか!
 自分の話術に自信を持っていたマシュモッシュ博士は仰天した。しばらく絶句してから、ようやくのことで言った。
「それでは、今日はこのあたりで終わりにして、明日はもっと、フルート様のお好きな話にいたしましょうね。海の話、砂漠の話、動物の話。どのようなお話がお好みですか」
「私は・・・」
と、王子はためらいがちに言った。何か適切な言葉を探しているようだったが、所詮は7才の子供のこと、語彙は少なかったようで、結局、こんなふうに言った。
「私はただ・・・冒険家の先生がいらっしゃるというので・・・本当にあった冒険のお話を聞きたかったのです」
「ははあ」
と、博士はうなずいたが、言われたことの意味がよくわからなかった。王子のほうも、言葉が足りなかったと思ったのか、一所懸命に続けて、
「先生のお話が、あまりにも、ええと、お上手なので・・・本当のことが分かりません」
 それはつまり、たくさんの事実にちょっぴり嘘を混ぜたことで、ふつうは嘘まで本当に聞こえるところが、王子には事実までもが嘘に聞こえた・・・という意味か?
「フルート様、正直に教えてください」
 マシュモッシュ博士は尋ねた。
「今日、殿下は、この私、マシュモッシュについて、何を学ばれましたか」
 王子は自分の小さな白い手をしげしげと眺めてから、しょんぼりと言った。
「先生のお名前がマシュモッシュだということ。お肌が黒いということ。それから、先生が私に会うために遠い南の国から来てくださったということ。・・・それだけです」

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(幼きもの)(03)

 そうして、マシュモッシュ博士が王子の勉強部屋に通されたとき、博士が抱いた第一印象は、
(なんと美しい子供だろう!)
ということだった。
 椅子にちょこんと掛けていた王子は、案内されて入って来た博士を見ると、びっくりしたように目をぱちぱちさせたが、すぐに満面に笑みを浮かべて立ち上がり、駆け寄って来た。
「こんにちは! あなたがマシュモッシュ先生ですか? お会いできてうれしいです!」
 やや癖のある金色の髪は陽光のよう。青い瞳はきらきらと輝いていて、もともと整っている顔立ちを、より印象深く魅力的なものに見せていた。
 マシュモッシュ博士は、自分も自然と笑顔になりながら、膝をつき、目線を王子と同じ位置に合わせた。お辞儀をして、挨拶を述べる。
「こんにちは、フルート様。いかにも、私がマシュモッシュですよ。フルート様にお会いするために、はるばる南のボンダバンからやって参りました」
「わあ・・・ありがとう! すごい、すごい! 握手してもいいですか?」
「よろしいですとも。光栄です」
 人見知りもしないし、物怖じもしない、元気な男の子だ。肌の色が違うことに頓着する様子もない。黒人と会うのは、初めてではないのかな?
「フルート様は今まで、私のような黒い人にお会いになったことはありますか?」
「こんなに間近で会ったのは初めてです。うれしいです!」
と、王子はにこにこ答える。マシュモッシュ博士は、感心しながら、ちょっと意地悪してみたくなった。実は時々このいたずらで子供を泣かせてしまうこともあるのだが、王子があまりにも無邪気で好奇心旺盛だから、どうしても試してみたくなったのだ。
 博士は、しっかり握手しながら、笑顔で言ってみた。
「黒い人と握手すると、自分の手も黒くなることはご存じですか?」
 さあ、どうする?
 王子は、とくに慌てる様子もなく、ただ不思議そうに、
「そうなのですか?」
と言って、繋がったままの二人の手を見た。それから、
「ええと、どれくらい長く握手していれば、黒くなりますか?」
と言った。このように対応されたのは初めてだったが、博士は平気な顔をして続けた。
「みっつ数えるくらいです。それ、ひとーつ、ふたーつ・・・」
 しかし、王子が逃げようとする様子はみじんもない。それどころか、王子自らが、
「みっつ!」
と声をかけて、そっと手をひらいた。仕方なく、マシュモッシュ博士も、ひらいた。
「・・・黒くなっていません」
と、王子が自分の手をしげしげ眺めながら、残念そうに言った。
「そうですね。フルート様は、そういう体質なのかもしれませんね」
 マシュモッシュ博士も残念なふりをして言った。そして、どうしても不思議だったので、訊いた。
「フルート様は、ご自分の手も黒くなったほうが嬉しかったのですか?」
「いいえ」
というのが、王子の答えだった。目を上げて、マシュモッシュ博士を見て、にこりと笑った。相手を責める色は欠片もなかったが、気のせいか、その青い目に「うそつき」と言われた気がして、博士は「聡明に過ぎる」という噂の子供に意地悪しようとしたことを反省した。
「こほん」
 気を取り直して、博士は仕切りなおすことにした。
「それでは今日は、私の冒険の話をいたしましょうね」

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(幼きもの)(02)

 リーデベルクのドゥーイット博士は、思い描いていたとおりの好人物だった。
「やあ、マシュモッシュ殿、ようこそいらしてくださいました! ああ、なんだか初めてお会いする気がしませんね!」
「まったくです、ドゥーイット殿。こうしてお会いすることが叶って、本当に良かった」
「このあたりには南の方はあまりお見えにならないので、お肌の色のことでご不快な思いをすることがあるかもしれませんが、どうかお許しいただきたく」
「なあに、ご心配なさらず。あちこち行きますから、そんなことには慣れっこです」
 二人の博士は、すぐに打ち解けて、荷ほどきもそこそこに、様々なことを話した。
 食事の間も、最近発見された古い書簡や、南国に見られるレティカ風の副葬品などについて、大いに議論した。
 食後に、お茶を飲んで一息つきながら、ドゥーイット博士が、
「さて」
と言った。いよいよ、ここからが本題なのだ。
「あらためて貴殿にお願い申し上げます、マシュモッシュ殿。どう説明したものかと私もいろいろ迷いましたが、かえって何の予断もないほうがよろしいだろうと思うようになりました。実はもう、昨日のうちに、陛下にはお話を通してしまいました。いつでもご登城いただけますから、ご都合さえよろしければ明日にでも、王子殿下にお会いいただけないでしょうか?」
「かまいませんよ。しかし、何をお話したらよろしいのでしょう?」
「何でも、お好きなことを。王子殿下には、マシュモッシュ殿のことを、『有名な冒険家がもうじきいらっしゃる』と説明してあります。殿下は冒険の話が大好きでいらっしゃいますから、きっと楽しみにお待ちになっていることでしょう。ただ、ひとつだけ気をつけていただきたいのは・・・」
 言いかけて、ドゥーイット博士は、いやいやと首を振った。
「すみません、今は何も言わずにおきます。直接お話ししていただければ、じきにマシュモッシュ殿にもおわかりになると思いますから・・・といいますか、むしろ、マシュモッシュ殿が何にも気付かれず、これが普通だとおっしゃるならば、それはそれで良いのです。とにもかくにも、私は小さいひとたちに教えた経験があまりないので、殿下がどのくらい珍しい例なのかもよくわからず・・・もし万一、お話では間がもたなくなったりした場合は、カード遊びでも教えてさしあげてください。私がババ抜きをお教えしたときのカードをお持ちのはずですから」
「ふむ。ハッキリしないおっしゃりようですが、わかりました。それでは先入観なしで、さっそく明日、お話に伺うことにいたしましょう」

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(幼きもの)(01)

 マシュモッシュ博士は、南国ボンダバン出身の著名な学者である。古代レティカ王国が南方諸国に残した足跡をたどり、遺跡をめぐり、文献をまとめている。
 マシュモッシュ博士は、したがって、必然的に、冒険家でもある。海を渡り、ラクダに乗り、象に乗り、どこへでも出かけて行く。
 また、マシュモッシュ博士は、子供が大好きだった。だから、冒険の道すがら、言葉の通じる地方でさえあれば、近くにいる子供たちを呼び集めて、色々なめずらしいものの話を聞かせた。八割方は本当のことを、二割くらいはちょっぴり大仰に。
 そんなマシュモッシュ博士の物語を、どの国の子供たちも皆、目を輝かせ、喜んで聞いてくれるのだった。

 さて、そのマシュモッシュ博士が、このたび内陸のリーデベルクまで足を延ばすことになったのは、かねてより文通によって親交を深めていた、リーデベルク在住、ドゥーイット博士の招きに応じてのことだった。
 ドゥーイット博士は、内陸における古代レティカ王国の遺産を調査しており、これまた高名な学者であるが、近年では、それと兼務して、リーデベルクの王子付き教育係になっているらしい。手紙には、こうあった。
「・・・マシュモッシュ殿とは、ぜひ一度お会いして、互いの研究成果を語り明かしたい所存です。また一方、実のところを申し上げれば、貴殿が小さき人たちと親しいことを見込んで、我が国の王子殿下について、ご相談いたしたきことがあり。
 百聞は一見にしかずと申します。私が紹介状を書きますゆえ、ぜひとも我が国の王子殿下とお話しくださって、貴殿の所見をお聞かせいただけないでしょうか。というのも、殿下は大変に聡明でいらっしゃるのですが、あまりにも聡明に過ぎて、私には却って何か危ういように思われるのです・・・」
 よく読めば、リーデベルクのフルート王子は、この夏、7才になったばかりだという。明るくて、素直で、思いやりがあって・・・と、ドゥーイット博士は自慢するかのように褒め言葉を並べているが、反面、学問について一言も触れていないところを見ると、とくに抜きんでて勉強ができるというわけでもなさそうだ。なのに、その年で、ドゥーイット博士をして「あまりにも聡明に過ぎ」と言わせしむるとは、一体どのような御子であろうか?
 いずれにしても、ドゥーイット博士とは、一度直接会って話がしたいと常々思っていたところだった。マシュモッシュ博士はさっそく旅の準備を整え、はるばるリーデベルクの都へと向かったのだった。

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