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2012年9月

作者より:(従者試験)

もう少し明るい話になるかと思いましたが、そうでもありませんでした…sweat02
そのうち、「やっぱりもっと明るいエンディングにするっsweat01」とかいって書き換えてしまう可能性もあるので(ラスト7行)、初稿Ver.を見られるのは今だけかもしれません。
(いえ、しばらくはこのまま置いておきますよ~。)

ゼラルドの過去において、リオンはユリア姫に次ぐ重要人物です。
リオンの紹介が済んだことで、ゼラルドが国を出たときの話についても、書ける状況が整いました。
あとは作者の頑張り次第ですが、シビアな逃避行のお話は、もうちょっと間をおいてからにしようと思います。

ユリアの呪詛のエスカレート状況と、「凶宴」「従者試験」の各イベントの発生順については、いろいろ読み取りようがあるかもしれませんが、たとえば次のような順番になります。
もし混乱した方がいらしたら、参考になさってみてください。

---

国王再婚

ユリア、呪詛開始
(ゼラルドと仲の良い者を対象)

ゼラルド、お側仕え入れ替え
(ギースがゼラルドの従者に)

呪詛エスカレート
(ゼラルドと仲の良い者に加え、仲の悪い者も対象)

呪詛エスカレート
(「凶宴」にて初めて呪殺発生)

レムルスとギース、接触

ユリア、ギースに呪殺未遂
(初めてゼラルドが呪詛を返した?)

従者試験
(リオンがゼラルドの従者に)

---

最後に、次回の予定について。
「従者試験」を書いていたら、本編ゼラルドにも会いたくなってしまった作者ではありますが、フルートやフィリシアが恋しい気持ちもあるので、今度こそ、魔法のクルミがフィリシアの手に戻る話を書きたいと思います。
当初考えていた構成を作りかえる予定なので、いつもよりお時間をいただくことになるかもしれませんが、とりあえず1週間をめどに、何かご報告いたします。
また、「竜王の館」を前提として展開するお話になるため、「竜王の館」未読の方は、(長編で恐縮なのですが)できれば読了してくださることをお勧めいたします。

いつも応援ありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします。

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(従者試験)(08)

 月の塔に部屋の割り当てがあるリオンは、塔からの通いにしても良かったのだが、ギースにならって従者部屋に住みこむことにした。ギースは身辺整理を終えていたので、部屋の鍵はその日のうちにリオンのものになった。リオンは部屋によく風を通して、自分の荷物を運び込み、夜には王子に「おやすみなさいませ」を言って部屋に下がった――なんだか、まだ本当のことのような気がしない。
 しかし、翌朝、いつもどおり早朝に起きて身支度を整えてから、リオンは、はたと気がついた。じきに王子は隣の部屋で窓を開け、小鳥たちに餌をやるだろう。が、今日からリオンはそれを見られない・・・?
 今までよりもおそばにいられるのだから、仕方ない、あきらめよう、と思った矢先。
「リオン?」
 冷涼な声が、一度だけ呼んだ。眠っていたなら気付かなかっただろうくらい静かに。
「はい、ただ今」
 リオンは驚きつつ隣の部屋に入って、あるじの前に跪いた。部屋は朝日の光でうっすらと明るいが、まだ窓は開いていない。
 王子は静かに、
「そんなに畏まらないで良いから、いつも顔を上げていておくれ。――おはよう、リオン、早起きだね。ギースから聞いた。なぜ、私の起床時間を知っているのかな」
「おはようございます、ゼラルドさま。学問所に行く途中で、お見かけしたことがあったからです」
「・・・このような時間に? いつのことだろうか」
 問われたリオンは、ふと直感した。ここで中途半端な答え方をしたら、王子は今日から、朝の習慣を「無かったこと」にするつもりだ。せっかくの安らぎのひとときを。だからリオンは、腹をくくって正直に答えた。
「毎日この時間にお見かけしておりました。いつからかは、もう思い出せません」
 王子はわずかに目を見開いて、穴が開くほどリオンの顔を見つめた。予期せぬ答だったに違いなかった。しばらく沈黙が落ちたのち、王子はふいと顔を背けて、
「そうか」
とだけ言った。笑うとも泣くとも怒るともつかない表情をしている――と見ることのできたのは一瞬で、そのまま王子は踵を返して窓際に歩み寄り、窓を開けた。
「リオン、どこから?」
「失礼します・・・1階回廊の、あの端のところからです」
 リオンが立って行って指し示すと、王子は軽くため息をついた。
「あのような所から、よく。あの植え込みは取り除くように、あとで手続きを」
「かしこまりました」
 リオンは元の位置に戻って跪いた。王子は、集まって来た小鳥たちに餌をやり、それから、窓を閉めて向き直った。穏やかに、
「それでは、リオン。そなたには、この時間にここにいることを許そう」
「ありがとうございます」
「そなたは・・・おそらく、私の最後の従者になる」
「・・・え?」
「ゆうべ、聖札がそう告げていた。いずれ私の身にも何か起こるのかもしれない」
「・・・逆に、何事もなく、共に長い時を過ごせるのかもしれません」
 リオンが言うと、王子は寂しそうに笑った。その笑みと言葉を、リオンはその後、一生忘れなかった。
「ありがとう。そうだったなら、どんなにかいいだろうね、リオン」

 そしてリオンは忠誠を尽くした。王子と二度と会うことの叶わなくなった、その日まで。

(完)

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(従者試験)(07)

「・・・そうだったのですか。それで、術者の正体はわかったのですか」
 リオンが尋ねると、ギースは平板な調子で答えた。
「いいえ。わかっているのはただ、毎日のようにゼラルド様のお部屋に遊びに見える妹君のユリア様が、私と同じ時期に体調を崩されて、私が臥せっている間は一度もお見えにならなかった、ということくらいです」
「・・・」
「私も、もう少しの間、ゼラルド様のおそばで、事の成り行きを見極めたかったのですが」
と、ギースは言った。
「半年前、従者として指名されたときには、迷惑このうえないと思いましたけれどもね。あとから調べてみれば、その頃から既に呪詛は始まっていて、当時は、ゼラルド様と仲の良い方々が狙われていたのです。つまり、殿下としては、ご自身を慕うものを遠ざけ、慕わないものをそばに置くことで、できるだけ誰も狙われないようにしたかった。だから、近しい使用人たちが入れ替えられ、従者として私が選ばれたのです。
 けれども、呪詛の対象は徐々に広がり、最近は、仲が良くてもだめ、悪くてもだめ。しかも、病で済むなら幸運なほうで、命を奪われることさえあるのです。ゼラルド様はもう、人前で笑うことも怒ることもできません。おそばの使用人たちも、近く、もう一度入れ替えられることになるでしょう。今度はできるだけ感情の動かない、静かなものたちに。
 もう従者が狙われないというのなら、せめて従者くらいは、自ら希望する者をお連れくださいと、進言申し上げたのは私です。そのような者がいるだろうかと真顔でおっしゃるので、月の塔と王立学問所の成績優秀者を候補にと申し上げました。そうすればあなたが候補に入ると、私にはわかっていましたから。あなたのことについては、以前レムルス殿とお話する機会があったときに伺っておりました。
 ・・・さて。私はいったん実家に戻って養生しますが、元気になったら太陽の塔に戻ろうと思います。表向きは今までと変わらなくとも、本心はゼラルド様の味方です。今後、あの方に、太陽の塔の助力が必要になったときには、そこに私がいることを思い出してください。
 どうか、至らなかった私に代わって、あの方をよろしくお願いいたします」
 そう言って、ギースはリオンに向かい、深々と頭を下げたのだった。

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すみませんsweat02あと1回。

(従者試験)(06)

 リオンは従者控室で、ギースから仕事を引き継ぐことになった。
 起床の時間、食事の時間、就寝の時間。来客時の注意、外出時の注意、居室時の注意。等々、几帳面な小さい字でびっしりと書かれた引き継ぎ文書を、リオンはありがたく受け取って、説明を聞いた。無愛想・無遠慮に過ぎることを除けば、ギースはきっと有能であったに違いないと、おのずと理解できる内容だった。
「・・・説明は以上です。何か疑問点はありますか?」
「ひとつだけ。起床の時間が遅すぎるように思うのですが、間違いではありませんか」
 ギースは、ちらと紙に目を落として、心外そうに眉を寄せた。
「間違いありません。それともあなたは、当直か厨房でも手伝うつもりなのですか」
「いえ、失礼しました。私の思い違いだったようです」
 王子がもっと早く起きていることを、ギースは知らない、のか・・・?
 リオンが考えていると、ギースはいつもの不機嫌さで、
「では、最後に個人的な体験をお話ししますので、参考になさってください。十日ほど前の夜、私は、この部屋で、強力な呪詛を受けました」
 その言葉は淡々と述べられたが、リオンははっとした。今までに聞いたことのある、不穏な噂話が頭をよぎった。王子殿下にかかわると呪われるらしいよ――。
 ギースは続けて語った。
「左胸をドンドンと叩かれるような痛みが起こり、同時に息ができなくなりました。呪詛であることが明確な、悪意に満ちた力を感じました。とっさに、太陽の力を発動して呪詛を打ち消しにかかりながら、私はよろよろと歩いて、不敬を承知で、ゼラルド様の部屋の戸を開けました。というのも、周知のとおり、太陽の塔も、月の塔も、聖王家に関する占いはできません。が、呪詛を受けている、まさにこのときなら、もし犯人がゼラルド様であれば、この目で直接確かめることができると思ったのです。
 ゼラルド様は、机の上に聖札を並べていらっしゃるところでした。その時点で、ゼラルド様に対する疑いは晴れました。ゼラルド様が振り返って、『何かあったのか』とお尋ねになったので、私は状況を説明しようとしましたが、声が出ません。ゼラルド様は、しばらく私をじっとご覧になってから、『呪詛か!』と顔色を変えられました。そのあとのことは・・・正直、私は月の力について不案内なので、何がどうなったのか、よくわからないのです。ただ、抜き身の短剣を持たされて、ひたすら呪詛に抗い耐えていたら、急に体が軽くなって、自分が自由になったことを知りました。ゼラルド様がおっしゃるには、私に向けられていた呪詛を一度ゼラルド様に移し、術者がひるんだ隙に、呪詛を返したのだそうです。これでもう、自分の従者に呪詛が向けられることはないだろうとおっしゃっておられましたから、あなたは大丈夫だろうと思いますが・・・念のため、以上のことをお知らせいたしました。ちなみに私は、その後一週間、臥せっておりました。ゼラルド様も、三日ばかり、お加減があまりよろしくなかったようです」

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あと1回あります。

(従者試験)(05)

 どう説明したら、光球が壊れたのは他者の妨害のせいだと信じてもらえるだろう。
 それだけを考えてギースのあとを付いて行ったリオンは、自分がどこを歩いているか、まったく意識していなかった。
 気がつけば、ギースはひとつの扉の前で立ち止まり、ノックしていた。
「失礼いたします。リオン殿をお連れしました」
「お入り」
 静かに返された、この声は。
 ギースに促されてリオンが扉を入ると、そこでは、久しぶりに間近で見るゼラルド王子が、書き物机の前の椅子から立ち上がったところだった。
 王子の自室だ! リオンは慌てて跪いて頭を下げる。王子はリオンの前に立った。学問所で聞いたことのある、落ち着いた声が降って来る。
「すまなかったね、リオン。このような迂遠な手続きを取らせてしまって」
「いえ・・・」
「ゼラルドさま。さっそくですが、彼の異議申し立てをお聞きになってください」
「異議?」
 王子の声が怪訝そうな響きを帯びた。次には少し冷やかになった声が降って来る。
「では、そなたは単に、矜持が少し高すぎただけ、ということなのかな」
 矜持? いや、ともかく、言うべきことは言わなければ。リオンは勇気を出して言った。
「お預かりした光球が割れてしまったのは、わたくしの力不足ではございません」
「それで?」
 王子はあっさり応じて、続きを促した。リオンは戸惑った。これ以上続けても、未練がましい言い訳にしかならないのではないか。だが、促されたからには続けるしかあるまい。
「妨害を受けにくい場所での再試験を希望します」
「再試験か。光球が割れるまで部屋の扉が開かないように、くらいの細工はしてあったのだが。では、ギース、再試験の手続きを」
「いやです。そのような手続きは致したくありません。わたくしのときは有無を言わさず取り立てられたのですから、今回もそうあるべきです」
「そなたらしい言いようだね、ギース。これを聞いて、リオン、そなたはどう思う?」
「おそれながら・・・合格者の意見も必要だと考えます」
 部屋の中に、しばし沈黙が落ちた。それから、王子が、少しだけ咎めるように、
「ギース。話していないのか」
「連れて来るように、とのご指示だけでしたので」
「そうか。では、ひとつだけ尋ねよう、リオン。顔をあげて」
 リオンが顔をあげると、王子は真面目な顔でリオンをじっと見つめていた。
「リオン、そなたは、何者かがそなたの光球を割ったと思っているね。では、その何者かが光球を割らなかったら、そなたはいつまで、あの光球を保持しようと思っていた?」
「わたくしが力尽きるまで、いつまででも」
 リオンは即答した。王子はうなずいた。
「そうだね。そのように見えた。だから私が割ったのだ」
「そんな・・・わたくしがお気に召さなかったのですか」
「ちがう。ギースが何度もノックしたのだが、集中しているそなたの耳に届かなかったからだ」
 リオンが黙ると、王子は、ふと笑った。
「つまり、合格したのは、リオン、そなただ。他の者はみな光球を割って逃げた。さて、あらためて、『異議』があれば聞こう」

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(従者試験)(04)

 リオンは、左手の一番手前の部屋に入った。部屋には、小さな窓があり、その手前に、小さな椅子がひとつあって、それだけだった。リオンは椅子にかけて、両手の中に、大切に光球を包みこんだ。
 他人の力の産物に、働きかけることは難しい。だが、この光は、リオン自身の祈りの象徴だ。けして壊すまい。
 リオンは光球に意識を集中し、呪文を唱えた。光の消えることのないように。輪郭の乱れることのないように。大丈夫、自分は月の力の使い手として、月の塔でも特に優秀であると認められている。落ち着いて、普段どおりに力を使えれば、あとは願いの強さ、祈りの強さが、リオンを助けてくれるはずだ。
 最初のうち、それは上手く行っているように見えた。光球は、光を減ずることなく、輪郭を乱すことなく、静かに強く両手の中で光り続けていた。リオンの集中は揺るがなかった。この光球を守ることが、王子殿下をお守りすることにつながるのだ。
 だが、突然。光球の中に、一瞬、虹色の光が抉るようにパッと閃いた。そして、次の瞬間、音も立てずに、光の球は砕け散っていた。驚くリオンの目の前で、光の粒は無情に消えて、残ったのは、からっぽの掌だけ・・・。
 リオンは窓から入る陽光の向きを確認した。さほどの時間は経っていないようだ。
 ・・・失格したのだ。
 リオンは、光球の砕け散った瞬間のことを、よくよく思い返した。自分にミスがあったとは全く思えなかった。あのとき閃いた虹色の光。もしや、リオンは何者かに試験を妨害されたのではないか? 資格を満たさずに受験できなかった者や、あるいはリオンより早く失格した者の妬みなどによって。そう考えると、試験会場は、もっと妨害を受けにくい場所に設置されるべきだった。再試験が行われる可能性は低いだろうが、そのことは異議申し立てをしても良いのではないか。
 部屋の戸が開いたのでリオンが目をやると、ギースが皮肉な笑みを浮かべて、すっと手を動かし、無言で、部屋からの退出を促していた。どうやら各部屋は監視されているらしい。リオンは思い切って言った。
「私は異議申し立てをおこないます」
「かしこまりました。では、こちらへ」
 ギースに付いて、リオンは部屋の外に出た。

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(従者試験)(03)

 一週間後、リオンは他の従者候補たちと一緒に、城の一角に集まった。候補は全部で10人いて、中には顔見知りもいたが、互いに口をきく者はなく、空気は重たかった。
 時間になると、細長い箱を二つ捧げ持って、現在の従者であるギースが現れた。が、その姿があまりにもやつれきっていたので、皆は驚いた。元々、それほど体格の良いほうではなかったギースだが、今は、まさに骨と皮ばかりで、十ほども老けて見えた。よほど重い病を得たのであろうと、皆が思った。
 ギースは気にかける様子もなく、これは相変わらずの不機嫌そうな顔で、
「それでは、これより試験を始めます」
と言った。
「まず、一人ひとつ、この光球を手に取ってください」
 細長い箱を開けると、一つの箱に五つずつ、掌に乗るくらいの大きさの、見事な光の球が収められていた。誰かが、聖なる力で作ったものだ。状況からいって、当然・・・
「ゼラルド様が、月の力で作られたものです」
と、ギースはそっけなく補足した。従者候補たちは、一人ひとつずつ、その光球を手に取った。冴え冴えと白く光るその球体は、手に乗せると温かかった。
「みなさんお持ちになりましたね。では次に、一人ずつ、こちらの小部屋にお入りいただきます。廊下の右手に五部屋、左手に五部屋ありますので、お好きなところにお入りください。部屋の造りは、左右対称である以外、まったく同じです。おのおの、ご自分の入られた部屋の中で、意識を集中し、光球が割れないように保持してください。割れてしまった方は、失格になりますので、静かに部屋を出てお帰りください。最後まで割れないように保持された方が合格となります。
 なお、試験の結果に異議がある方は、退出されずに部屋にお残りください。合格者のご案内前に、異議申し立てを承ります。以上で、何かご質問はありますか」
 誰も、とくに何も言わなかった。ギースは唇をゆがめて、付け足した。
「最後に、ごく個人的な助言をさせていただきます。私のようにひどい目に会いたくなかったら、そんなものはさっさと床に投げつけて、できるだけ速やかに部屋を出てしまうことをお勧めします」
 ざわ、と空気が動いた。が、やはり誰も、とくに何も言わなかった。
「では、皆様それぞれ部屋にお入りください。試験開始です」

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(従者試験)(02)

 窓が閉ざされてから三日目のこと、浮かない気持ちでリオンが学び舎に行くと、昼近く、学問所長のタイバル老師がリオンを別室に呼んだ。
「太陽の塔のギースが、体を壊して、ゼラルド様の従者を辞めることになった」
と、老師は淡々と話した。もちろん、リオンはギースのことを知っている。ギースは少し年上の、優れた太陽の聖者だが、いつもとげとげしく不機嫌なうえ、王子に批判的なことでも知られており、彼が半年前に王子の従者に選ばれたとき、リオンは何かの間違いではないかと思ったものだ。
 老師は話を続けて、
「代わりに、月の塔と王立学問所で成績の優秀な者を、従者の候補として何人か推薦するようにと、ゼラルド様からお言葉をいただいている。候補を集めて試験をなさるらしい。リオン、そなたは月の塔でも学問所でも成績が優秀だが、どうだね、試験を受けてみる気はあるかね」
「はい。喜んで」
 リオンは一も二もなく承知した。どうせ、騎士隊長である父の期待は、剣に秀でた兄レムルスに向けられている。リオンは自身の道を自らで選び取らなければならないのだ。ならば、以前より敬愛する王子に仕え、できることなら、いま起こっている不吉な何かから、王子殿下をお守りしたい。
 試験は一週間後であると告げられた。おそらく、月の聖者としての実力を試されるだろう、とも。よし、今日から一週間、月の力の発動を特訓しよう――。
 喜ばしいことに、翌日の朝、リオンが半ば諦めながら、回廊の端から向こう側の窓を見上げていると、窓は開いて、小鳥たちが群がった。王子は疲れているように見えたし、首をかしげて、ぼんやりと上の空のようにも見えたが、ともかく再び無事な姿を見ることができて、リオンは安堵した。
 リオンはその場で、そっと右手を胸に当てて略式の礼を取り、どうかお側にお仕えさせてくださいと、静かに祈った。

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(従者試験)(01)

 騎士隊長の息子のリオンは、ゼラルド王子と同い年だ。王立学問所で何度か顔を合わせたことがあるせいか、王子は名前を覚えてくれているようだ――というより、リオンの見たところ、王子は宮廷に出入りする者の名を、ほとんど覚えているように見える。

 リオンがその場所を見つけたのは、何年か前、ほんの偶然からだった。
 学問所にいつもより早く行って予習をしようと、見張り番以外はまだ誰も起きていなさそうな早朝、足早に城の回廊を通り抜けようとしたとき。
 回廊の端にある丈高い植え込みの陰で、
(こんなところに植え込みがあるなんて、不審人物が潜んだら危ないのではないか)
と、なにげなく視線を上げたら、本当に、見えたのだ。回廊の向こう側に、ゼラルド王子の部屋の窓が。
 すぐにそれと気づいたのは、他でもない、その窓が開かれて、部屋の主が窓際に立ったからだった。物憂げなおもてに、やさしい笑みをかすかに乗せて、王子は小鳥たちに餌を与えていた。
 王子が窓を閉ざすまでの、ほんの数分の間、リオンはその場に立ち尽くして、その光景に見とれていた。学問所で会う王子は寡黙で真面目な印象だったが、
(・・・心やさしい方なのだ)
と、リオンは思った。
 次の日も、次の次の日も、リオンは同じ時刻に同じ場所に立って、同じ光景を見ることができた。その時間に小鳥を餌付けするのが王子の日課であるのと同じように、いつしか、その時間にその光景を見ることがリオンの日課になった。晴れた日は、いつでも。

 だが、いつからだったろう、小鳥を愛でる王子の表情に、翳りが色濃く表れるようになったのは。リオンの記憶が正しければ、国王陛下の再婚からしばらく経った頃・・・か。
 王子は次第に、沈鬱な、心ここにあらずという表情をしていることが多くなった。そういえば、以前はちょくちょく訪れていた学問所にも、めったに来なくなっていた。同時に、リオンの身の回りでは、王子に関する奇妙な噂――王子に気に入られると何かに祟られるとか、逆に機嫌を損ねると何かに呪われるとか――が広まりつつあった。
 リオンの知らないところで、何かが起こっていた。何か、ひどく良くないことが。
 そしてある日、とうとう、晴れていたのに窓は開かなかった。次の日も、次の次の日も。

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予告:(従者試験)

心情的には、本編、クルミのお話を書きたかったのですが・・・。
構成に迷うところがあったので、違うお話を先にすることにしました。

ゼラルドの番外編で、彼がときどき思い出す「故郷の従者」のお話です。
全6回くらい?の予定です。

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作者より:「救出の報酬」

連載中、少しピリピリしていたようです。
管理人のコメントのせいで不快な思いをされた方すべてに、心よりお詫び申し上げます。
大変申し訳ありませんでした。

---

さて、読者さま全員が予見できただろうベタベタな終わり方ですが、そこはもう、お約束ですからheart01
意外なオチとか、ほろ苦いオチとか、つけてもいいけど需要ありませんよね・・・?coldsweats01

シェーラ嬢は、光と闇の判別がつく程度には目が見えます。
ゲストヒロインとしては少し特別扱いで、本編にもう一度登場する可能性が高いですwink

ちなみに、主人公たちの剣の腕前は、
長剣スキルは、フルート>セレン>>ゼラルド、
短剣スキルは、ゼラルド>フルート>>セレン>フィリシア、
という感じです。

---

と、ここまでで一度UPしたのですが、次回の予定を忘れていたので追記します。
次回はたぶん、クルミが戻って来るお話になります。でなければゼラルドの番外編です。
ちゃんと書けそうか検討しますので、一週間ほどお時間をください。
どうぞよろしくお願いいたします。

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救出の報酬(05)

 ミーナが立ち去るのを見送って、セレンはその場をあとにした。見張りの男が転がっているのをそのまま捨て置き、元来た道を戻ってみると、赤毛の令嬢は言われたとおりに静かに隠れており、少し離れたところでは、意識を取り戻した大男が呪詛の言葉を吐きながら地べたに這いつくばっていた。セレンは大男に近寄って、
「君のリーダーも仲間も、もういない。君も、とっとと逃げたらいい」
 剣を抜いて手足のロープを切ってやったが、大男は立ち上がるとニヤリと笑って殴りかかって来たので、仕方なくもう一度、一切の手加減なく気絶させてやった。
『お待たせしました。大丈夫ですか、お嬢さん』
 令嬢に手を貸して、狭い場所から出してやると、
『わたくしは大丈夫です。あの、それで、わたくしの侍女は助かったのでしょうか』
『ミーナという女性なら、自力で逃げたそうです。もういませんでした』
『そうですか・・・なんとなく、そのような気がしていました』
 うつむいたその様子は、安堵したようにも、寂しそうにも見えた。それから、令嬢は顔を上げ、見えない目をセレンのほうに向けて微笑んだ。
『お優しいかたなのですね』
『え?』
『そんなふうにおっしゃってくださって。それに、血の匂いもしません』
 そうか、目が不自由な代わりに、いろいろと気の付くこともあるのだ。セレンは令嬢の手を取って、
『では、あらためて。セレンと申します。あなたを街までエスコートさせていただいて、よろしいですか』
『はい、よろしくお願いいたします、セレン様。わたくしの名はシェリアリア。どうぞシェーラとお呼びください』
 そうして二人は、寄り添って語らいながら、街まで戻ったのだった。

 陽の落ちる前に、セレンはシェーラを、彼女の泊っている宿の部屋の前まで送り届けた。明朝には、隣の街から迎えが来るのだそうだ。高名な医者に、目を診てもらいに行く途中なのだという。
『では、ぼくはこれで。今日はあなたと会えて良かった。ごきげんよう、シェーラ』
 そっと彼女を離そうとすると、シェーラは慌てたようにその腕をつかんだ。
『お待ちください』
『何でしょう? 何かご不便があるなら、遠慮なく――』
『いえ、そうではなくて・・・わたくし、まだ何も御礼を差し上げていません』
『ああ・・・。では、ぶしつけなことをお尋ねしますが、あなたには、どなたか心に決めた方がいらっしゃいますか、シェーラ』
『えっ? いいえ。わたくし、こんなふうですから、どなたにも迷惑はかけられません』
『では、少しの間、目を閉じていただけますか』
『え? でも、わたくしの目は』
『そういう決まりです』
『あ、はい』
 シェーラは目を閉じた。すると、鳥の羽根のように微かに、何かが唇に触れた。
『もう目を開けていいですよ』
『はい・・・あの・・・?』
 目の前のひとは、微笑んだようだった。とても優しい声が、
『ご褒美は、たしかにいただきました。おやすみなさい、シェーラ』
『はい・・・おやすみなさい、セレン様』
 ――奥手なシェーラが、何をされたのかに思い至ったのは、その夜、床に就いて目を閉じた時だった。自分が人並みにそんな経験をするなどと思ったことのなかった彼女は、びっくりしてベッドの上に飛び起きた。枕を手に取って、赤くなった顔を枕に埋め・・・そうして、ずっと、ずっと、枕を抱きしめていた。

(完)

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