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  • (2017/4/29朝) そして、3月に続いて4月もまた、溶けるようにして消え去って行くのであった…。

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2012年10月

作者より:「クルミの行方」

今までで一番の自転車操業で連載しましたが、なんとか終わりました☆

フルートが怒って抜剣したのは2回目ですね(1回目は「訪問者」)。
フィリシアもセレンも愛されていますconfident
そして、しかし、やはり戦闘にはならないのでした。

朝、部屋から出て来ないフィリシアに、セレンが何を話したかについては、もちろん自由に想像していただいてかまわないのですが、今回は一応、作者の解答が存在します。
「泣くのなら、涙をぬぐわないほうが、まぶたが腫れないで済むよ」
です。なぜセレンがそんなことを知っているかについては、さあ?
でも本当に腫れ方が違うので、皆様も、大泣きするときには、目元をぬぐわないようにお気をつけください。

さて次回は。
できればゼラルドの本編を書きたいのですが、まだ何も構想がないので不確定ですsweat02
例によって1週間くらいいただいて、色々と思いめぐらしてから、状況をご報告しようと思います。

いつもありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします。

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クルミの行方(09)

 ――ある朝、街外れの小さな家で、マーニャは、ほとほとと戸を叩く音に気付いた。戸を開けると、そこには、見たことのない、どことなく人間離れして儚げな雰囲気の、長い青い髪をした娘が立っていた。
「先日は、あるじにクルミをお返しいただき、ありがとうございました」
と言って、娘は丁寧にお辞儀をした。
「えっ、ええっ? うん、まあ、そうね」
 マーニャが戸惑いながら応じると、娘は顔を上げて、
「1着足りなかったので、受け取りに参りましたが・・・」
 言いながら、微笑んだ。
「よくお似合いですから、そのままお使いください。失礼いたしました」
「えっ、ちょっと待って、待って。返すから」
 マーニャはあわてて、その場でガバッと服を脱いだ。
「これ1着のために体型維持するのも面倒だし。あ、ごめん、洗って返したほうがいいわよね。また来てくれるなら、洗っておくんだけど。あの綺麗な子が着る服なんでしょ?」
「・・・あの方が、この服を着てくださることはないと思います」
「どうして? 地味だから? こないだ来た怖いひとも、あたしが着てるのに気付かなかったけど。でもこれ、すごく着心地よくて、汚れなくて、動きやすくて、いい感じよ?」
 ナミは――もちろんそれはナミだった――、黙って、寂しそうに微笑んだ。その服は、ナミが1着だけ縫ってしまった、普段着だった。決して訪れることのない日を夢見て。
 マーニャは脱いだ服を適当にたたんで、適当に言った。
「いいじゃない。あの子のために仕立てた服なら、とりあえずクルミに入れとけば」
 その言葉は、なぜかナミの胸に、すとんと響いた。マーニャは続けて、
「また怖いひとが来たらイヤだから、返すったら、返す!」
「では、持ち帰らせていただきます」
 ナミは、服をそっと受け取った。マーニャは大きく伸びをして、そして、ナミの見ている前で体を伸び縮みさせ、自分の元の姿に戻った。髪の色も、元の明るい栗色になった。
「うーん、すっきり!」
 ナミは、ぽかんとしてその様子を見ていたが、我に返ると、ふふ、と笑った。
「では、代わりに何かお作りして、届けさせるようにいたしましょう」
「えっ、どうして」
 マーニャは目をぱちくりさせたが、ナミは笑顔でお辞儀をすると、大切そうに服を抱えて、朝靄の中に消えて行った。
 数日後、マーニャの家の前に小さな麻袋が置いてあって、ひらいてみると、中には月の色のドレスが入っていた。マーニャが着てみるとぴったりで、栗色の髪によく似合った。
「わあ、もらっちゃった! 今度こそ、本当に、あたしのよ!」
 マーニャはドレスを着て、嬉しくて、くるくる回って、母親をあきれさせた。

 「竜王の沼」の底で、ナミはまた服を縫っていた。縫っているのは、姫君のための普段着だった。
 たとえこの館の中でなくても、姫さまが着てくださればいい、と、ナミは思った。だから、これからは普段着も入れておきます、姫さま。
 衣裳部屋に向かうと、廊下で主人とすれ違った。道を開けてお辞儀したナミの手の中を見て、竜王の息子は、
「ああ、姫に似合いそうな色だな」
と言い、柔らかく笑って、通り過ぎて行った。

(完)

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クルミの行方(08)

 竜王の息子とフルートのやり取りは、豪雨の音と、おそらくはゼラルドの配慮のおかげで、宿の中にいた者の耳には届いていなかったようだった。全身ずぶ濡れのフルートが戻って来たのを見て、フィリシアとセレンは驚いたようだったが、フルートは何も言う気になれず、そのまま宿の部屋で着替えて、ひとりで過ごした。
 翌日は、霧雨だった。このくらいの雨なら出かけられるのではないか、とセレンが言うのを、もう少し待とう、とフルートが止めた。同じ宿に滞在していた何組かの客が出発して行くのを横目で見ながら、セレンは不思議そうな顔をしたが、反対もしなかった。
 昼近く、窓の外を見ていたフルートが、振り返って、フィリシアに告げた。
「フィリー、どうやら、君のお客さまが見えたよ」
「私の?」
 フィリシアは戸惑いながら窓に近寄って外を覗き――すぐに、ものすごい勢いで扉に向かうと、外に飛び出した。
「・・・ナミ!」
「お久しゅうございます、姫さま」
 かつての侍女は、少しやつれていたが、フィリシアを見ると、両手をそろえてお辞儀をし、顔をあげて、にっこり笑った。フィリシアは、ナミの前に膝をつき、その手を取った。
「ナミ。ナミ。聞いて。私、あなたからもらったクルミを・・・」
「姫さま! どうぞ、お立ちくださいませ」
 ナミは言って、あわてて自分も膝をつきながら、
「姫さまがおっしゃるのは、これのことですか?」
 フィリシアに握られた両手を、そっと開くと、その白い手のひらには、銀の紐を通したクルミが包み込まれていた。
「まあ・・・ナミ! どうしてこれを」
「ふふ、めぐりめぐって、わたくしの手に戻って参りましたので、お届けにあがりました」
 ナミは言って、失礼しますと言いながら、クルミをフィリシアの首にかけた。
「姫さまのお洋服、またたくさん、こしらえておきました。どうぞお使いくださいね」
「ナミ・・・」
「そんなふうにお泣きにならないでください。お別れがつらくなります」
「・・・もう行ってしまうの?」
「わたくし、地上では、あまり長く人の姿でいられないのです」
 悲しそうにナミは言った。
「そろそろ、近くの川に戻らなければなりません」
「ナミ。ナミ。あのね・・・その・・・あの・・・」
「若様なら、お元気でいらっしゃいますよ」
 ナミはせいいっぱいの晴れやかな笑顔を浮かべ、真心の祈りをこめて、言った。
「姫さまは、どうぞ迷うことなく、姫さまの幸せに向かってお進みくださいませ」
 宿の中では、去りゆくナミの後ろ姿を見ながら、セレンが安堵したように呟いた。
「そうか、あのクルミは、あの女性からの贈り物だったのか。それなら、別にいいや」
「ああ」
と、フルートは短く答えて、窓から空を見上げた。とくに変わったところのない空だった。

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あと1回あります。

クルミの行方(07)

 雨の中、フルートの目の前5歩先で、巨大な何かが空より降り立ち、人の姿を取った。
 その姿かたちは、かつて「竜王の沼」の底で会った、竜王の息子に間違いなかった。
 あのときとは違い、目を爛々と光らせ、長い青い髪が、うねうねと宙に広がっている。
「そこをどけ、人間!」
 地の底まで轟くような怒声。
「断る! 何の用だ!」
 雨音にかき消されないように、フルートも声を張る。竜王の息子は応じて、
「ここに姫がいるのだろう。姫に聞きたいことがある。これを――」
 突き出した手を開くと、クルミが乗っていた。髪がざわざわと波打つ。
「――なぜ他人に譲り渡したのか、その理由を聞きたい」
「譲り渡した? 誰がそのようなことを」
「譲られた本人から聞いた。姫も所詮は人間だ。これを姫に渡したのは侍女の過ちだった。だが何か事情があったなら、聞いてやってもよい。ここを通せ。通さなくば力ずくでも」
「それを信じたのか? 馬鹿な!」
 フルートは怒鳴った。
「そのクルミひとつ失くしたことで、フィリシアは毎日泣いているんだぞ! 通すものか!」
 フルートは剣を抜き、構えた。たとえ相手が人でなくとも、剣さえあれば戦える――!
 だが。竜王の息子の反応は、フルートの予想しなかったものだった。空中でざわめいていた長い髪が、うねるのをやめて下に落ちた。雨足が少し緩んだ。長い沈黙ののち、竜王の息子は口を開き、大切そうに言葉を発した。
「フィリシア・・・と、いうのか、姫は。良い名だ」
 フルートは驚いて尋ねた。
「知らなかったのか?」
「互いに名は告げていない。問うような非礼もしない・・・姫は泣いてくれているのか」
 フルートははっとして、自らが相手に多くの情報を与えてしまったことに今さら気付き、苦い後悔を感じた。だが、フィリシアが竜王の息子に名も告げていなかったと知ったことで、フルートの胸をふさいでいた重い不快感は、すっと消えて行った。
 フルートは剣を収めた。雨に濡れた髪を鬱陶しそうにかきあげて、一度深く呼吸してから、竜王の息子をまっすぐに見つめ、静かに告げた。
「姫の真意を疑った貴殿に対して、道を開けるわけにはいかない。だが、そのクルミを失ったことで、姫が深く嘆き悲しんでいることも事実だ。かといって、私がそれを預かって姫に渡すのでは、貴殿としても本意ではなかろう。そうであるならば――」
 フルートはひとつの提案をした。竜王の息子は、フルートのうしろにある扉を見やって、しばらく動かなかったが、やがて悲しい顔でうなずいて、それを受け入れた。
 稲妻が光り、フルートの目の前で、竜王の息子は巨大な竜となって、天に昇って行った。

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クルミの行方(06)

 一方、クルミを失くしたフィリシアはといえば・・・。
 彼女は事件のあった翌日から、「朝食は要らないから」と言って、朝のうちは宿の部屋から出て来なくなっていた。体調が悪いというわけでもないらしく、昼近くになると出て来るので、昼食後は仲間たちと町から町へ移動できる、が、浮かぬ顔をしている。
 何日もその状態が続いたあと、心配したフルートが、ある朝、食事を乗せたトレイを持ってフィリシアの部屋の前まで行き、説得を試みたものの、うまく行かなかった。トレイを持ったまま食堂まで戻って来て、「なぜ出て来ないのだろう」と途方に暮れているフルートから、セレンが「貸して」とトレイを受け取った。あまり気は進まない様子だったが、戻って来たときにはトレイを持っておらず、面白くもなさそうに、「渡して来た。たぶん明日からは大丈夫だと思うよ」と言った。
「なぜ、君はフィリシアに会えて、ぼくは会えない?」
「うん、まあ」
 セレンが適当な返事をするので、フルートはむっとしたが、セレンもゼラルドも何の説明もしてくれそうになかったので、それ以上は何も言わなかった。
 翌日から、フィリシアは朝食をともにするようになった。少し目が赤い、と、フルートは気付いたが、さすがに、それを話題にしないくらいの分別はあった。フィリシアが近くにいないとき、セレンに尋ねて、
「毎日泣いているのか?」
「たぶんね」
「クロゼットひとつが、そこまで大事なのか?」
「さあ、なんとも・・・。そうだったらいいと思うよ」
 セレンは言って、当惑顔のフルートを見て肩をすくめた。

 数日後、雨が降り出した。雨は何日も降り続き、一行は移動せずに宿に滞在した。
 雨足の強くなったある日のこと。宿の1階は暗かったが、フィリシアとセレンは機嫌よく何かをしゃべっていて、フルートは窓際に立ち、その様子を見るともなく眺めていた。
 ゼラルドが2階から下りて来て、フルートのそばに来た。
「フルート、君は外の黒雲に気付いているのだろう」
「ああ。まるで何かを探しているようだ。もう、すぐそこまで来ている」
「あの黒雲が、フィリシアの失せ物を運んで来る」
 フルートはゼラルドのほうを振り向いた。窓の外では、急に雨の勢いが増し、滝のような有り様になった。
「あのときと同じ雨だ」
と、フルートが低くつぶやき、ゼラルドがうなずく。まぶしい稲妻がカッと光ると同時に、
「ゼル、二人を外に出すなよ」
 言い置いて、フルートは豪雨の中に飛び出して行った。

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クルミの行方(05)

 マーニャはクルミを叩き続けて、中に入っている(とマーニャは思っていた)ドレスを、あるだけ全部吐き出させた。最初のうち3回叩くごとに出て来たドレスは、やがて3回叩くだけでは出て来なくなったが、マーニャが諦めずにずっとずっと叩いていると、ときどきポンと出て来ることがあって、なかなか叩くのをやめられないのだった。
 それでも、ある日、朝に1枚ドレスが出て来たきり、他に何も出なかった日があった。翌朝になっても何も出て来なかった。マーニャは全部出尽くしたのだと思い、念のためクルミを割ってみることにした。金槌で思い切り殻を叩くと、殻はガシャリと砕け散り、中はやっぱり空っぽで、少しだけ水のようなものが入っていたのがテーブルにこぼれた。
 朝食の準備をしていた母親は物音に振り返り、砕けたクルミを見て顔色を変えた。
「おまえ、ひとさまから預かった物を、どうしてこんな」
「もう何も入ってないもの。捨ててしまいましょうよ。それより、ねえ、窓の外。ちょっと変なお天気じゃない?」
「うん?」
 母親は窓の外を見た。空は急に暗くなりつつあり、雨が降り出していた。見れば、一片の黒雲が、こちら目がけて物凄い速さで近付いて来る。母親は口元を押さえて言った。
「おお、きっと、この壊れたクルミのせいだ。何か恐ろしいものが、罰を下しに来るのだ」
 雨はすぐに土砂降りとなった。稲妻のような光が眩しく光って、母娘は思わず目をつぶり、目を開けたとき、家の扉は開け放たれていて、そこに、濡れそぼった男が立っていた。
 その男が人間でないことは、一目見ればわかった。なぜなら、床に届くほど長い、青い青い髪が、自らの意思を持つようにざわざわとうねり、宙に持ち上がっていたからだ。
 男は険しい目つきでマーニャを見、母親を見、テーブルの上のクルミの残骸を見た。それからもう一度マーニャをじっと見て、口を開いた。
「・・・おまえは何者だ。なぜ、そのクルミを持っている」
 激しい怒りをはらんだ、低い声だった。
「わた、わた、私は・・・」
 鋭い視線に射すくめられて、マーニャはぶるぶる震え、ろくに口が利けなかった。代わりに母親が、やはり震えながら答えた。
「その子は私の娘です、旦那様。クルミは、娘が旅の女性から譲っていただきました」
「譲られた? そんな馬鹿なことがあるものか!」
 男は低く叫んだ。母親は懸命に言った。
「その女性は、娘とよく似た背格好をしていました。そして、舞踏会が終わったから、もうクルミはいらないと言って、この子にくださったのです」
 男はマーニャの全身をじろじろと見た。そして不意に当惑したようだった。
「・・・確かに背格好は似ているようだ。譲られたとは、嘘ではあるまいな」
「どうして嘘など申し上げることがございましょう、旦那様」
「・・・いずれにしても、すべて回収する。おまえたちの持つべき物ではない」
 えっ、とマーニャは声を上げかけたが、母親の手がマーニャの口をふさいだ。
 男がテーブルのほうに手を伸ばすと、クルミの殻はすうっと元の形に戻って宙を飛び、男の手に収まった。それを今度は、部屋にうず高く積まれたドレスの山に向かって投げると、クルミはパカリと開いて、すべての衣裳をシュウッと呑み込み、再び男の手に戻った。
「旅の女性とは、どこで?」
と、男は低く尋ねた。髪がざわざわとうねる。母親につつかれたマーニャが、あわてて、
「ま、街から、ひ、東に行った、森、の中で」
と答えると、
「そうか」
と言って、男は扉から出て行った。来たときと同じように稲妻が走ったあと、黒い雲は激しい雨を連れて、東へと去って行った。

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次回は週末かもしれませんbearing

クルミの行方(04)

 ――「竜王の沼」の底で、衣裳部屋にやって来たナミは、今朝縫いあげたばかりのドレスが消えて行くのを見て、重いため息をついた。これで何日目だろうか。
 かつての主人である姫君のために衣装を用意することは、裁縫上手のナミにとって、やりがいのある楽しい仕事だったし、姫君が初めてクルミを使ってくれたときには、舞い上がるほど嬉しくて、虹色のドレスが必要らしいとわかったときには、仕事を半日休んで、一心不乱にドレスを縫いあげもした。
 だが、そのあとは。何が起きているのか、ナミには、よくわからない。
 ひとたびは衣裳部屋に戻ってきた、青空色のドレス、夕空色のドレス、虹色のドレスは、再び出て行ったきり、何日も戻って来ない。それどころか、クルミはずっとずっと叩き続けられていて、他のドレスを何着渡しても、音がやむのは夜だけだった。あんなにたくさんあったドレスが、とうとう全部出払って、1着も戻らなくても、なお。
 ここ数日、ナミは仕事を休んで、昼も夜もドレスを縫い続けている。姫君にどんな事情があるのかわからないが、クルミが音を立て続けているのは、自分への信頼の証だと思うから。自分にできる限りのことは、して差し上げたい。
 ドレスは、縫いあげて衣裳部屋に持って行くそばから、クルミに呼び出されて消えていく。疲労困憊しているナミを見かねた同僚たちが、仕事の合間に手助けをしてくれたが、それでも、手間のかかる作業ゆえ、一日に3着ほどを縫いあげるのが精いっぱいだった。彼女たちの主人は、最近姿の見えないナミを気にかけて、「ナミは出仕せずに何をしているのだ」と尋ねたが、「ドレスを縫っているのです、若様」と聞くと、「そうか」と言って、それ以上追及することはなかった。
 ナミは、衣裳部屋の1区画が空っぽになっている様を、ぼんやりと見て、なんだか体から力が抜けるような気がして、その場に座り込んだ。そうだ、何か食べなくちゃ、と思った。最後にとった食事がいつだったか思い出せない。でも、食べる前に、少し休もう。ほんの少しだけ。ほんの少しだけ。姫さま、ごめんなさい。
 クルミの鳴る音を胸のうちに聞きながら、ナミはその場に横になった。そして、心配した同僚が翌朝捜しに来るまで、そこで動けずにいた。同僚は主人を呼んだ。主人、すなわち竜王の息子は、駆けつけて来ると、ぼろぼろになったナミを見て驚いた。
「ナミ。ナミ。何があったのだ」
 そっと抱えあげられたナミの胸の中で、クルミの音は容赦なくずっと鳴り響いていた。トン、トン、トン、トン、トン、トン・・・。
「縫わなくちゃ・・・」
 うわごとのようにナミが呟いた瞬間、はたと音がやんだ。・・・やんだ? 目を開けて、主人の顔を見上げ、何か言おうとしたとき、ナミはその音を聞いた。
 ――ガシャリ。
 それは、クルミの砕かれた音だった。ナミは、声にならない悲鳴をあげ、意識を失った。

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クルミの行方(03)

 数日後。不機嫌なマーニャは母親とケンカして、小鳥に姿を変え、家を飛び出した。
 街からだいぶ離れた森の上まで飛んだところで、少し気持ちが落ち着いて来たので、森の中に舞い降りた。小鳥の姿のまま、泉の水を飲んで、木の枝にとまって休んでいると、なんという偶然だろう、そこに「彼女」が――あの青い髪の娘が、やって来たのだった。
 素顔を見るのはこれが初めてだったし、着ている服も簡素だったから、本当にあの舞踏会の彼女なのかどうかは、本当を言えばわからないはずだった。でも、青い髪はこのへんではあまり見かけないし、背格好も同じだし、きっと彼女だわ、とマーニャは思った。
 娘は、水を浴びに来たらしく、服を脱いで木の枝にかけ、首にかかった何かを外して、これも木の枝に引っ掛けると、泉の水を浴び始めた。何を枝にかけたのだろうと、小鳥のマーニャが近寄ってみると、それは銀の紐を通したクルミの実だった。どうしてクルミなんか、と思ったのは一瞬で、マーニャはすぐに気が付いた。そのクルミからは、とても強い魔法の匂いがした。舞踏会の素晴らしい衣装と関係があるのかしら、そう思ったら、マーニャはどうしてもそのクルミが欲しくなった。幸い今なら気付かれまい。
 小鳥のマーニャは、そっと銀の紐を嘴にくわえて、クルミを枝から外し、そのまま空に舞い上がって、まっすぐ家まで飛んで帰ったのだった。

 帰宅したマーニャは人間の姿に戻り、クルミを手のひらに乗せて、魔法を試そうとした。
「クルミさん、クルミさん、私に空色のドレスを出してちょうだい」
 語りかけたが何も起こらないので、テーブルにトントン叩きつけてみた。
「クルミさん、クルミさん、私に空色のドレスを出してちょうだい」
 やっぱり何も起こらない。思案していると、そばで見ていた母が、ため息まじりに、
「おまえ、それをどこで手に入れたのだか知らないけれど、魔法の道具は時に、自分の主人を心得ているものだよ。早く返しておいで」
「うるさいな。お母さんは黙っててよ」
 マーニャは言ったが、ひらめいた。あの娘になりすませばいいんじゃないかしら。
 マーニャは髪の色を青く変えた。背丈も少し変えた。顔はよく思い出せなかったが、目の色は、きっと青。胸の大きさはこんな感じ、腰の細さはこんな感じ・・・。
 思い出せる限りを真似てから、マーニャはクルミをトントン叩きながら唱えた。
「クルミさん、クルミさん、私に空色のドレスを出してちょうだい」
 果たして、クルミはパカリと開いて、中からシュウッと青色の煙が立ち上ったかと思うと、舞踏会の一晩目に見たあの空色のドレスが、マーニャの腕の中にパサッと落ちて来た。マーニャは大喜びして、どきどきしながら試しにかぶってみると、あちこちサイズが合わなかった、が、自分の体格のほうを合わせればよいのだった。造作もないことだ。
「クルミさん、クルミさん、私に夕暮れ色のドレスを出してちょうだい」
「クルミさん、クルミさん、私に虹色のドレスを出してちょうだい」
 これで、マーニャの憧れた3着のドレスは、ぜんぶマーニャのもの。マーニャは嬉しくて、とっかえひっかえドレスを身にまとっては、くるくると回った。
 ひと晩眠って、翌朝になると、マーニャは再びひらめいた。クルミを叩いて唱えた。
「クルミさん、クルミさん、他にもドレスがあるんじゃない? みんな出してちょうだい!」

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クルミの行方(02)

 マーニャは賞品を持って家に帰ったが、いつもほど嬉しくはなかった。むしろ悔しかった。母親に、自分のより素晴らしいドレスの話をして文句を言うと、母は、
「それはおまえ、そのドレスを作ったのは人間ではないかもしれないね。だが、その娘が青い髪をしていたというのなら、明日のお題の夕焼け色は、きっとその娘にはあまり似合わないだろうよ」
と言った。
 マーニャはなるほどと思ったので、機嫌を直し、二晩目の舞踏会に備えて、家のベッドで休んだ。

 けれども、翌日、マーニャが髪を金色に変えて、夕焼け色のドレスを着て舞踏会に出かけてみると、昨日と同じ青い髪の娘が今日も来ていて、結い上げた髪に夕焼け色のリボンを編みこんだ可愛らしい髪型で、夕焼け色のドレスを優雅に着こなしていた。彼女が踊ると、ときどき光の加減で、ドレスは暮れかけた空の群青色を映し、その色は青い髪によく映えた。
 そして、その娘は、その日もやっぱり真夜中には姿を消してしまい、代わりにやっぱりマーニャが賞をもらったが、マーニャはやっぱり悔しかったのだった。
 家に帰ったマーニャは、母親に賞品を渡すと、あとはふてくされて寝てしまった。

 3日目の夜、例の娘がまた来ていても、マーニャはもう驚かなかった。娘は今夜は、虹の根元に浸して作ったかのような、やさしい光を放つ虹色のドレスを着ていた。その服が人間の手によって作られたものでないことは、マーニャにも他の人々にも、もはや火を見るよりも明らかだった。
 今夜は見失うまい、と思っていたのも、みんな同じだったようで、真夜中近くになると人々の視線は青い髪の娘に注がれた。娘は戸惑ったようだったが、鐘の音が鳴り始めると、開き直ったように堂々と、広間の大階段を駆け降り始めた。
 人々が娘のあとを追うのを、マーニャは階段の上から冷めた目で見守った。不可解なのは、どうして逃げるのだろうということだった。せっかく褒めてもらえるチャンスなのに。あたしに、もっと魔法の力があれば、あの子の足を一歩だけ引きとめて、転ばせて捕まえてしまうのにな・・・。
「消えてしまった!」
と、誰かが叫んでいた。どうやら青い髪の娘を、玄関付近で見失ってしまったらしかった。
「あれは人間ではなかったのかもしれませんな」
と、別の誰かが言っていた。そうだそうだと、唱和する声が続いた。
 その日、舞踏会では、踊りに来てくれた「精霊」に賞を与えることにして、みんなで歌を捧げた。マーニャは当然、何ももらえなかった。マーニャはとてもがっかりして、とぼとぼと家に帰った。

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おさらいが長くてすみませんsweat01

クルミの行方(01)

 街外れの小さな家に、魔法使いの母娘がひっそりと住んでいた。
 母親のほうは、役に立つ魔法をいくつか使えたので、街に住む者がときどき相談に立ち寄っては、食べ物や小金を置いて行った。
 娘のほうは、使える魔法はひとつだけで、街の者には内緒だったが、実は、自分の姿を好きなように変えることができた。髪の色も目の色も、背丈までも変えることができるばかりか、人間以外の生き物にだって、苦もなく化けられるのだった。
 化身というのは特別な魔法なのだと、母は娘に教えた。
「魔法使いと、月の聖者と、太陽の聖者は、たいていのことは同じように出来るものだけれど、化身の術が使えるのは魔法使いだけよ。聖者たちは、自分が異なる姿であるかのように相手に錯覚させることができる。けど、魔法使いは、錯覚なんかじゃなく、本当に姿を変えることができる。この違いはとても大きいわ。誇りに思っていいのよ、マーニャ」

 さて、そのマーニャが一年で一番楽しみにしているのは、領主の館で毎夏おこなわれる、三日間の仮面舞踏会だった。みんな仮面をつけて、誰が誰だかわからなくなるから、マーニャも髪の色を変えてこっそり紛れこみ、遠慮なくごちそうを食べ、気兼ねなく踊ることができる。マーニャの母は、毎年、魔法を使って、その年のテーマにふさわしいドレスを作ってくれた。ドレスはいつもとても素晴らしかったので、舞踏会で賞をもらったことも、一度や二度ではなかった。
 賞品をもらうときに仮面を外して素顔を見せると、みんなはパチパチと拍手しながら、
「あれあれ、またマーニャが一番か。髪を染めているからわからなかったよ」
と言う。マーニャは、それが可笑しくて嬉しくて、夏になると舞踏会の日を指折り数えて待っているのだった。
 もちろん、今年もそうだった。ところが。

 三晩続く舞踏会の一日目、マーニャが領主の屋敷に着いたとき、マーニャの横を、すっと通り過ぎた娘があって、その娘のドレスにマーニャは目を奪われた。今年のお題は空の色。一晩目の今日は、晴れた日の青空の色。そして、目の前の娘が着ているドレスは、まさに、雲ひとつない青空を、そのまま切り取って作ったかのような出来栄えだった。ドレスの下のほうには、白銀の縫いとりで、小鳥の群れが飛んでいた。
 その娘は、踊るのも上手だった。一人で踊る曲も、二人で踊る曲も、晴れやかに軽やかに楽しげに踊った。今夜の一等賞は、あの青い髪の娘に違いない、と皆が噂したが、真夜中頃、ふと気がつくと、娘はいなくなっていた。
 代わりにマーニャが、その晩の一等賞になった。仮面を外してマーニャが名乗ると、
「やっぱり今年もマーニャが一番だね」
と祝福してくれる人は多かったが、どことなく腑に落ちない面持ちだったのは、きっと、こう思っていたからに違いなかった――「じゃあ、あの青い髪の娘は誰だったんだい?」

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予告:「クルミの行方」

お待たせしました。予告ですconfident

試行錯誤しているうちに、だんだんわからなくなって来たので、「こんな感じかなあ」というところで妥協して、思い切りよく、見切り発車してみることにsign01

竜王の館」読了を前提としているので、未読の方はご注意ください。
空色のドレス」も関連作品ですが、こちらは未読でも何とかなります。

全7回くらい?と思っていますが、あまり自信はありません…sweat02
また、途中、緊迫した雰囲気になっても、戦闘にはならないのでご了承ください。

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作者より:進捗状況

今日は進捗状況のご報告です。「予告」でなくて申し訳ありませんwobbly

ええと、私の場合、自分で連載にGOサインを出すのは、ラフに2回分ほど書いてみて、最後まで行けそうだと思ったとき、です。
(ただし、長編の場合は、もっと全体の骨組を組んでからです。)
今回は、試しに書いた2回分を没にしたあと、構成を変えて1回分書いてみたところなのですが…。

うーん、まだ納得がいかず、始められませんsweat02 それほど長くないお話だと思うのですけれども。
また、うっかり忘れていたのですが、今週は仕事のかたわら、病院の予定が3種類も入っておりまして、仮に見切り発車したとしても、続きを書く時間はなさそうなのでしたcoldsweats02

というわけで、ごめんなさい! もう1週間お待ちくださいsweat01
今度の週末にコツコツ書きます(連休ですshine)。
そして書けても書けなくても、また1週間後に状況をご報告いたします。

いつも応援ありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします。

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