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  • (2017/4/29朝) そして、3月に続いて4月もまた、溶けるようにして消え去って行くのであった…。

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2013年6月

火の鳥(05)

 セレンは適当にはぐらかした。フルートの奇妙な「戦利品」のことも黙っていた。まだあの卵はフルートが持っているし、彼があとから自分で話せばいいことだ。
 そんなわけで、良く晴れた空のもと、宿屋を拠点にして自由に街を散策した旅人たちが、1日歩き回ってみて改めて分かったのは、この街はやっぱり迷路のような造りになっているということと、それはどうやら歴史的に、外敵を防ぐため必要だったかららしい、ということだった。
 街の人々の話によると、今でも年に数回は、盗賊団などが様子を窺いに、近くまでやって来るのだという。街の四方にある門には、閉門のあと、必ず交代で不寝番が詰めており、夜通し大きな明かりを焚いているのだが、ごくまれに真夜中頃、街からそう離れていないところを、松明を掲げた一団が通り過ぎて行くのだそうだ。
「隙を見せたら襲って来るのだろうが、このとおり攻めにくい場所だって、向こうさんも知っているのさ」
と、夕食のとき、宿屋の主人が話してくれた。
「いざ敵が来たら、どこに誘い込んで捕まえればいいか、街のみんなもわかってるしな。そのうえで、腕利きの若い衆が四方の門に詰めていれば、そこらの盗賊団は黙って通り過ぎていくよりほか、ねえわけよ」
 食事をしているうちに、やっとフルートが2階から降りて来た。体調はすっかり戻ったらしく、適当に料理を注文して席につき、
「今日はすまない。明日は出られるから、朝一番で発とう」
 いつもどおり直截に言うところが彼らしい。それから、フルートは小さな布の包みをゼラルドの前に置いた。
「珍しい鳥の卵だそうだ。生きものとは思えない熱だが、あとで調べてくれないか」
 黒髪の若者は、無言で布を開き、赤と橙の斑模様をした卵を見た。隣にいるフィリシアと順番に卵に触れると、卵は、もぞ、と動いた。ゼラルドはうなずき、卵をしまい込んだ。
 食事を終えて、そろそろ部屋に引き揚げようかという頃、どこかで鐘が鳴り始めた。
 カン、カン、カン、カン、カン・・・。
 音色を聞けば、警鐘であることは明白だった。宿の主人のおもてが引き締まった。
「なんてこった。何年かぶりの警鐘だ。お客さん方は、部屋に入っていてくんな。大丈夫、ここは街の中で一番たどり着きにくい場所にある建物だからな」
 どうりで道に迷うはずだ、と言いたげな顔をしたフルートは、口に出しては、
「セレンはフィリシアと一緒に待機。ゼラルドは、ぼくと一緒に支援に行こう」
と言った。なぜ、その割り振りになったかは、次の言葉でわかった。
「いま鳴っている鐘は西から聞こえる。ぼくたちが来たのも西の門。それなら、ぼくが方角を正しく示せば、ゼラルド、君は一瞬で跳べるだろう?」
 言いながら、フルートは手で西を示した。ゼラルドはうなずいて、フルートの腕をつかみ、次の瞬間、宿の者たちの目を盗んで、二人の姿は消えていた。

あと1回かな、2回かな・・・coldsweats01

火の鳥(04)

 賭場の主人は、ごつい手の中に、丸みをおびた小さな布の包みを持っていた。
「俺たちに? 何だよ?」
 いぶかしげに問うルークの目の前で、布の包みがほどかれて、セレンが首をかしげる。
「卵・・・のような形の、石かな? 見たことのない、炎のような模様だけれど・・・」
 賭場の主人は、うんうんと頷いて、
「実はな、もうすぐ孵りそうな卵なんだ。ときどき動くぞ。ゆきずりの客が、すかんぴんになって、金の代わりに置いて行ったんだがね。うんと珍しい鳥の卵なんだとさ」
「孵すつもりなら、あたためておかないと・・・」
「それがな、何もしなくても、こんなに熱いんだ」
 言われて、ルークとセレンは、まだら模様の卵に触ってみた。
「うわっ。この熱さで、ほんとに生きてるのか?」
「ふつうの生き物の温度ではないね・・・」
「とにかく、持ってってくんねえか。これも縁だって気がするからよ」
 賭場の主人は言葉を重ねた。
「なにしろ、いくら珍しくても、食えもしねえ雛鳥が生まれて来たって、俺も困るしな」
「そんなの、俺たちだって」
 言いかけたルークを、セレンが遮った。
「ゼラルドに渡してみよう。何かわかるかもしれないし、あの冷笑家は鳥が好きだろう?」
「そうだったか?」
 ルークは懐疑的な顔をしたが、
「じゃ、戦利品だと思って、もらっとく」
 布の包みごと受け取った。ふわあ、と、あくびをして言った。
「それじゃセレン、道案内よろしく」

 翌朝――。
 日の出とともに発たないと、次の宿泊地まで行き着けない。と、前日に言っていたのは、ルーク――フルートだったのだが。
 彼を欠いて3人で朝食のテーブルを囲みながら、セレンが、
「おそらく今日は出発できないから、各自、自由行動にしよう」
と言った。不思議そうな顔をするフィリシアに、にっこり笑って、
「王子殿下は二日酔いだよ」
と教えると、フィリシアは目をぱちぱちさせて、
「えっ。そんなことって・・・あるの?」
「うん、たまにね。負けん気が強いのも、良し悪しだよね」
「酒場で飲み比べでもしたの?」
「んー、まあ、そんなところじゃない?」

火の鳥(03)

 セレンは、賭場の主人の視線を追って、奥のテーブルを見た。
 テーブルの上には山のようにコインが積み上がっており、テーブルの周りには、これまた山のような見物客の人だかりがしていたが、どうやらそこでは、1対1のカード勝負がおこなわれているようだった。テーブルのこちら側で皆に手札を見られているのは、おそらく常連客。奥で壁を背に、ひとり片膝を抱えて手札を伏せているのは、そう、ルークだ。
 カードとコインの山のそばには、空になった酒瓶がゴロゴロと転がっていた。客たちがルークを酔い潰そうとしたのであろう無駄な努力の跡だ。ルークは薄く笑みを浮かべており・・・おや、珍しく、目が据わっている。どれだけ飲んだのやら。
 セレンの視線に気づいて、ルークはちらりと一瞬、入口に視線を投げて寄越した。表情は変わらなかったが、目の前にあるコインの山を、片手でずいと押し出した。
「これで最後にしようぜ、おっさん」
 勝負相手は、手札を見ながら熟考している。見物客たちは口々に喚いた。
「勝ち逃げはさせん!」「また、はったりだろう!」「今度こそ、こっちの勝ちだ!」
「・・・よし!」
 けしかけられた客は、自分も目の前のコインの山を押し出した。ルークがにやりと、
「恨みっこなしだぜ」
「望むところだ」
「せーの!」
 お互いに手札を表に返し、訪れた束の間の静寂・・・ついで、客たちの、失望の溜息。
 ルークは陽気に笑った。
「ははっ、俺の勝ち! おーい、おやっさーん、あがるから両替してくれよ!」
「・・・はいよ」
 賭場の主人はカウンターを出て、奥のテーブルでコインを勘定し、金貨に取り換えた。
 ルークは受け取って、ゆらりと席を立った。ある者は意気消沈し、ある者は物騒に殺気立っている、ごった返す客の中を、するりと抜け出て、カウンターに金貨を1枚置いた。
「自分で頼んだわけじゃないけど、俺の飲みしろ、払ってくぜ」
「ほ、あんがとよ」
「残りはここに置くから」
と、ルークは残りの金貨をカウンターに積んで、
「今夜はみんなで飲んでくれよな。俺のおごりだ」
 今度の沈黙のあとのどよめきは、驚きと歓声だった。賭場の主人は、目を丸くして、
「いいのか?」
「あぶく銭は、ぱあっと使っちゃわないとな! さ、帰ろうぜ、セレン」
 ルークはセレンを促して、外に出た。用心棒たちに、一人ずつ中に入って酒を飲んで来たらどうか、などと言っていると、賭場の主人が戸口から顔を出した。
「お、まだいたな。実はな、あんたたちに持って行ってもらいたいものがある」

延びます・・・sweat02

火の鳥(02)

 教わった酒場に着いてみると、すでにフルート――というか、おしのびゆえルーク――は、立ち去ったあとだった。酒場の主人の話によれば、酒を一杯飲んで、持っている地図を広げて幾つかの質問をし、あとは適当に世間話をして、あっさり引き上げたらしい。
「えらく男前の兄さんだったから、試してやるつもりで一番強い酒を出したんだが、顔色ひとつ変えないで飲み干して行きやがったな。今頃どっかで倒れてなきゃいいが」
 腕組みをして眉根を寄せた主人に、セレンは苦笑して、
「めっぽう強い奴だから、心配いらないよ。情報をありがとう」
 いくばくかの金を払って、外に出た。
 さて、もと来た道を戻るなら左に向かうところだが、ルークなら、無意識のうちに最短距離を取ろうとして、右に向かったことだろう。しばらく行くと――行き止まりか。そうしたら、少し戻って、こちらの脇道に入るだろう――。
 家々の明かりに照らされて、入り組んだ路地は思ったよりも明るい。風情のある散歩、と言えぬこともなく、機嫌よくセレンが歩いて行くと、やがて、細い路地の先で、いかつい用心棒が二人立っている建物に行き当たった。中からワイワイと声が漏れて来る、この雰囲気は・・・おそらく賭博場だ。いかにも「ルーク」がふらっと入って行きそうな、適度に活気があり、適度に怪しげな、こじんまりした賭場。
 セレンは用心棒たちに近づいて、「やあ、こんばんは」と声をかけた。二人の男はじろりとセレンを睨み、片方が無愛想に「何の用だ」と言い、もう片方は低い声で「あんたのような人の来る場所じゃないぜ」と言った。
 ルークと違い、いつも品の良い身なりを崩さないセレンが警戒されるのは想定のうち。気にしない。
「友達を探しているんだ」
と、セレンは穏やかに言った。
「金髪に青い目の、すこし雰囲気の変わった奴が来なかったかな?」
「――入って行ったな」「――まだ中にいるな」
 用心棒たちは認めた。
「わかった。入んな」
「ありがとう」
 セレンは涼しい顔で扉を押し開き、建物の中に入った。

 中は薄暗く、ざわざわと騒がしかったが、何やら重苦しい空気で、殺気立っていた。
 主人らしき男は、酒を出すカウンターにいて、入口に立ったセレンを見て渋い顔をした。
「見かけねえ若旦那だな。こんなところに、何か用かい」
「友達を探している。金髪に青い目の、初見の客が、ここで悪さをしていないか?」
 聞いて、主人の表情が微妙に変わった。視線で奥のテーブルを指し示しながら、
「ほう、それじゃ、あんたは、あそこにいる、あの賭場荒らしの友達だっていうのかい」

火の鳥(01)

 夕闇が降りて来て、街の門が閉ざされようとしているところに、ぎりぎり間に合って、中に入れてもらうことができた。さほど大きな街ではないはずなのだが、やたらと道が入り組んでおり、枝道やら階段やら行き止まりやら、まるで迷路のような所だ。一行は何度も人に道を尋ねながら、ようやく宿にたどり着いた。
 厩に馬をつなぎ、食堂で軽く夕食を済ませ、めいめい部屋に引き上げようかというところで、金髪の王子は一人、
「治安が良さそうだから、少しだけ」
と、宿の主人に酒場の場所を聞き、出かけることにしたようだった。その背に向かって、
「迷子になるなよ」
と、セレンが声をかけると、わかったというふうに片手をあげる。本当にわかっているかどうかは怪しいものだ、とセレンは心の中で思う。
 あとの二人、フィリシアとゼラルドは、腑に落ちない顔をしていた。口を開いたのは姫君のほうで、
「ねえ、セレン。フルートが道に迷うことなんて、あるの?」
「あるよ」
と、セレンは笑った。フィリシアは納得がいかない様子で、
「いつも、何の目印もない野原の中をさえ、少しも迷わずに先導してくれるのに?」
「うん、それは逆だから。つまり、何もなければ迷わず進める。方角を間違えない不思議な王子様だからね。でも、この街のように枝道や行き止まりの多い場所だと、いつもの癖で方角を頼りに歩き回っているうち、帰り道が見つからなくなって、迷子になるわけ」
「そうなのね・・・」
 青い髪の姫君は、目をぱちぱちさせて、妙に感心している。黒髪の若者のほうは、聞きたいことを聞き終えて関心を失い、さっさと席を立つところだ。セレンはフィリシアに勧めて、
「君も休んだら、フィリシア。明日の朝は早いよ」
「そうね・・・。では、先に休ませてもらうわね。おやすみなさい、セレン」
「おやすみ」
 セレンは二人を見送って、自分はしばらく居残ることにした。客のまばらな食堂で、なかなかに可愛らしい宿の娘をつかまえて話し込んだりしていたが、二時間ほど経ったところで、軽く溜息をついて話を切り上げ、立ち上がった。
「ほーら、戻って来ない。仕方ないなあ」
「あなたのお友達?」
「そう。ええと、酒場はどこだと言ったっけ?」
 宿の娘は、月色の長い髪をした若者に、酒場への行き方を教えてくれた。込み入っている道順をよくよく頭に刻みつけて、セレンは礼を言い、どこかで道に迷っているだろう友人を連れ戻しに、自分も外に出たのだった。

予告:「火の鳥」

お待たせしております。
次回連載が決まりましたのでお知らせいたします☆ 

「火の鳥」、全4回くらい?です。
奇しくも、この前の「石の大蛇」と同じく、「フルートが戻らないのでセレンが探しに行く」話になりました。
同じパターンが続くのはいかがなものか、とも思いましたが、今回は戦闘なしの平和な話だから、まあいいか、と。

あさって金曜の夜からスタートします。
どうぞよろしくお願いいたしますshine

状況報告(2013/06/17)

次のお話が、ぼんやり見えて来ました。
また短い話になりそうですが、どうやら4人揃っている模様です。
もうちょっと固まってGOサインが出せるようになるまで、今しばらくお待ちくださいclover

こぼれ話:ミルガレーテと黄金の剣

ミルガレーテは、「遥かな国の冒険譚」の主人公たち4人より、もっと古くから私の中に住んでいたお姫様です。小学校、何年生の頃からかなあ…。

ミルガレーテって誰?と思われた方は、全5回で軽く読める「(光り姫)」をどうぞ☆)

中学生のとき、「遥かな国の冒険譚」の構想ができたことに伴い、お姫様は「ミルガレーテ」という名前になり、フィリシアの良き友人となり、古代レティカ王国の最後の王女となって、「13本の黄金の剣が揃ったとき復活する」こととなりました。
世界に散らばった宝剣の数が13本なのは、その頃の私が、「遥かな国の冒険譚」の他にもシリーズを作ってみたかったことの現れです。

「遥かな国の冒険譚」では4本の剣が見出されるわけですが…。
5本目が見つかるのは、「大陸の西方にある赤い砂漠で、国を追われた姫君が、大鷲とともに秘宝を守る話」になる予定でした。
6本目が見つかるのは、「大陸の東方でローレインが滅亡するとき、ローレイン最後の王子が白い砂漠で天馬に出会い、さすらう話」になる予定でした。
以降のことは特に決めていなくて、ただ、最後の剣が見つかるのは「現代」の話にしよう、と思っていました。

そして今は…、
全然、13本分のシリーズを構築できる気がしませんcoldsweats01
だって、中学生だったあの頃から○○年たって、やっと今、「遥かな国の冒険譚」を書いているわけですし、まだまだ終わりそうにありませんし…。
そもそも、この物語は枠組がゆるいので、友情も恋愛も奇跡も怪異も、書きたいものが自由に書けて、他のシリーズがなくても困らないのです。
強いて言うなら、「この旅は1年間」という期限だけが制約です。

それでも、物語の中で、13本の宝剣の設定は生き続けています。
いつか私の気が変わり、「やっぱり4本だけにする!」などと言い出すことが、絶対にないとは言い切れませんけれども。

ひとやすみ:応援ありがとうございます!

物語にコメントをいただいたり、ブログランキングのバナーをクリックしていただいたり、某広場で「いいね」をいただいたりするのは、いつもとても嬉しくて、励みになります。
どうもありがとうございますshine

トップページにも書いていますが、コメントは、いつ、どの記事に書き込んでいただいてもかまいません。
また、コメントやコメント返しを読むのが楽しいという方もいらっしゃるようなので、今日はブログのオプションを変更して、PC版表示で「最近のコメント」が表示されるようにしてみました。
どうかしら…。(困る方がいらしたら、お知らせくださいね。)

一方、ブログランキングは、コメントを書くのが苦手な方にも、そっと応援してもらえたら嬉しいな、と思って、バナーを設置しています。
クリックしたとき、ランキングは別ウィンドウで表示されるほうがいいのかも、と思うようになったので、今回の記事から別ウィンドウ(別タブ)で表示されるように変えてみました。
どうかしら…。(困る方がいらしたら、お知らせくださいね。)

ココログ広場で記事に「いいね」をいただくのは、挨拶代わりの「いいね」もあると思うので、単純に喜んだらいけないのかもしれませんが、それでもやっぱり嬉しいです。
本当に、全部ぜんぶ、どうもありがとうございます。

過去に数ヶ月のお休みをいただいたこともありますが、続きを楽しみにしてくださる方がいらっしゃることに励まされ、復帰して創作を続けている今があります。
つたない物語ではありますが、お気に召していただけましたなら、今後ともどうぞよろしくお願いいたしますconfidentheart01

作者より:「石の大蛇」

久しぶりに、本来のペースで連載できました~(短編ですけれどcoldsweats01)。
ゼラルドを留守番に残した割に、「夜を越えて」系統の怪異話になりました。
たまには、このコンビの怪異話も悪くないですよね。

ほとんど登場人物の紹介がない話になってしまったので、この話から読み始めた方には、読みづらかったかもしれません。すみません。
連作ということで、すこし大目に見ていただけると助かります。

次回は、フィリシアか、ゼラルドの話を書きたいと思っています。
まだ構想は全くないので、整うまでは、数日おきに「こぼれ話」や「ひとやすみ」を書いてみますね。

なお、コメントまで読んでくださっている方は、今回、芝臣一太郎さんがいらっしゃらないことに気づかれたかもしれません。
体調を崩されて、しばらく療養に専念なさるとのことです。快癒をお祈りいたします。

→ 目次に戻る

石の大蛇(04)

 セレンは、まだ燃えているたいまつを拾い上げた。空になった石の台座の上で、四隅の明かりがシュンと消えて、真ん中に白い魔法陣が浮かび上がった。
「帰れと言わんばかりだが」
と、フルートは暗い部屋の中を見回した。骸骨だった灰の散らばる中に、大蛇だった石の塊がごろごろと転がっている。
「一日たてば元通りなのかもしれない。入口を封印できるか、ゼラルドに相談してみよう」
「・・・そうだね」
「君が来てくれたおかげで早くカタが付いた。なぜここに?」
「え?」
 探しに来たら鈴の音が聞こえて、と答えかけて、セレンはフルートの質問の意味に気づいた。守るべきフィリシアを放り出して来たのか、ということだ。
 ゼラルドに任せて来た、という答えは、口にしようとしたセレン自身を驚かせたので、言葉にならなかった。フルートのほうも、怒る気配はなく、むしろ可笑しそうな顔をして、それ以上は尋ねず、代わりに、
「この魔法陣の先が、帰り道でなく新しい蛇の部屋だったら、半分まかせるからな」
と言った。
「うーん、そろそろ剣は限界だと思うな」
「ゼラルドのまじないか?」
「・・・うん」
 二人が踏み入った白い魔法陣の先は、ありがたいことに、元の部屋だった。神殿の入口まで戻ってみると、東の空は、うっすらと白み始めていた。

 青い髪の姫君は、毛布にくるまって、荷物を枕に、すやすやと眠っていた。日中はいつも、にこにこと笑顔を絶やさず、泣き言ひとつ言わないが、本当は疲れているのだ。
 ゼラルドは火の番をしていたが、二人を見ると立ち上がった。若者たちはフィリシアを起こさないように、ひそひそと話した。
「セレン、君の剣を見せてくれ」
 ゼラルドに言われて、セレンは剣を抜き、まずは自分がしげしげと眺めた。この旅のために名匠が打ってくれた剣だったが、なんだか剣の生気が――もしそういうものがあるのだとして――失われている気がした。
 トン、と剣の切っ先を地面に突き立ててみると、剣は半ばからポキリと折れてしまった。驚いたものの、なんとなく、納得はした。ゼラルドが冷ややかに、こう言うまでは。
「なぜ、君はそう愚かなのだろう。ぼくは、剣を見せるようにと言ったのだ。折れる前なら、まだ手の打ちようはあったのに」
「・・・そういうことは早く言ってくれ!」
「君がぼくの言うとおりにしていれば良かっただけの話だ」
「言い方というものがあるだろう」
「二人とも、そのくらいで」
と、フルートは遠慮なく割って入る。
「折れてしまった以上、大きな街で新しくあつらえるしかないな。それよりゼラルド、一緒に来て神殿の奥を見てくれないか」
 セレンとゼラルドは、ちらりと不機嫌なまなざしを交わして、交代する。
 朝日がゆっくりと昇りつつあった。もうじきフィリシアも目を覚ますだろう。
 いつも通りの平和な朝が、訪れようとしていた。

(完)

石の大蛇(03)

 たいまつを掲げ、できるだけ落ち着いて目を配りながら、セレンは神殿の中を見回った。どの部屋も空っぽで、先に来たはずのフルートの痕跡は、何ひとつ見当たらない。
 だが、いくつめかの、取り立てて何もない部屋をのぞきこんで立ち去ろうとしたとき、かすかに不思議な音が聞こえて、セレンは足を止めた。虫の声だろうか? まるで、たくさんの鈴を振っているような音だ。リン、リリリリリン、リリリリリ・・・。
 注意深く耳を傾けると、その音は、足の下から聞こえていた。地下室があるのかもしれない。もっとよく音を聞こうとして部屋の中に入ると、足元にポウッと魔法陣が浮かび出て、周囲が暗転した。一瞬、落下して死ぬのかと思ったが、ふとゼラルドのことを思い出した。まるで未来が視えているかのような口ぶりで、セレンの剣にまじないをかけてくれた・・・ということは、この先にフルートがいて、自分はその手助けができるのだ。
 鈴を振る音が、急に大きく聞こえるようになった。薄暗い、ごみごみした部屋の床に足がついた、と思った瞬間、
「セレン、うしろだ!」
 叫ぶ声を聞いて、左手にたいまつを持ったまま、振り向きざまに右手で剣を抜き、間近に迫った巨大な蛇の頭を薙いだ。異様に重い手応えは、まるで石のよう・・・石、なのか。
 フルートの驚く声が、
「斬れるのか?」
と、上から降って来た。セレンは、部屋を埋め尽くす骸骨の群れと、足元に散乱する骨屑を確認し、大蛇の巨体を測りつつ上方を確かめた。なんとフルートは、うねる大蛇の頭や胴体を器用に飛び移りながら、黄金の宝剣で蛇の頭を切り落とそうとしているのだった。
 あの高さから床に叩きつけられたらどうするつもりだ・・・と、セレンは気の遠くなる思いで見上げたが、事実として、フルートに目立つ怪我はなく、逆に蛇の頭は三つほど床に転がっているのだった。
「鈴を減らしてくれ」
と、当然のように指示が降ってくるのを、はいはい、と心の中で承って、セレンはたいまつを床に置き、行動を開始した。骸骨たち一人ひとりに恨みはないが、どうやら彼らの振る鈴が、大蛇退治の鍵となるらしい。手だけを狙って切り落としてみたが、鈴――土鈴だった――が床に落ちて割れると、骸骨も糸が切れたように崩れ落ち、脆く、クシャリと崩れてしまう。
 再び迫って来た蛇の頭を、すかさず叩き切った。腕がジンとしびれるが、それでも切り落とすことができるのは、認めたくないけれどもゼラルドのおかげだろう。
 最初はキリがないように感じられた骸骨たちも、いつしかだいぶ数が減り、鈴の音は途切れ途切れになっていた。フルートは床に降り立った。最後に残った大蛇の二本の首が、ぎくしゃくと二人に近づいて来るのを、二人で一つずつ切り落とした。
 部屋の中に残っていた骸骨が、ざあっと崩れ、灰となった。
 戦いの終わりだった。

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石の大蛇(02)

 フルートは、すばやく四方を見渡して、部屋に出入口のないことを見て取った。念のため、いくつかの石に体当たりしてみたが、びくともしない。明らかに、魔法で閉ざされた部屋だった。おそらくは、石の大蛇に生きた餌を与えるための。
 フルートは部屋の中央で、石像に相対し、帯びた剣を抜き放った。石でも切れる宝剣だ。剣を構えると、しんと心が落ち着いた。とにかく、当座はこれで身を守るしかない。
 また鈴の音がした・・・チリーン。先ほどよりも近い。右前方。壁の向こうからだ。
 チリーン・・・今度は左、真横から。音が響くたびに、一瞬だけ、大蛇が動く。心なしか、鈴の音の間隔は狭まっている気がする。チリーン・・・。しかも、徐々に四方八方から迫りつつあるようだ。・・・チリーン。
 不意に、右前方の壁の中から白い人影がぬっと現れて、フルートは身構えた。よく見れば、それは一体の骸骨で、骨しかない左手に、丸い大きな鈴を提げていた。・・・チリーン。
 ほどなく、壁のあちこちから、同様の骸骨が次々と現れた。皆、左手に揃いの鈴を持っており、カタカタと歩きながら、時折、思い出したように鈴を鳴らすのだった。・・・チリーン。チリーン。チリーン。
 四方の壁から次々に湧き出て来る骸骨は、剣の届かぬ所まで来て立ち止まり、王子を取り囲み、鈴を振った。気付けば、鈴の音は一定のリズムを刻むようになっていた。リン、リン、リン、リン、リン、リン、リン・・・。大蛇はカクカクと体をくねらせて台座を下りて来る。
 リン、リン、リン、リン、リン、リ、リ、リ、リ、リリリリリリリ・・・。
 次第に滑らかに動き始めた大蛇は、するする這い寄って来ると、第一、第二の首をもたげて、フルートを見下ろし、カッと口を開けた――。

「――探しに行ってくる」
 セレンは立ち上がって、長い金髪をひとつに括った。ゼラルドをじろりと見て、
「もし、その間にクルシュタインの姫君に何かあろうものなら・・・」
「君の言いぐさは気に入らないが、きちんと守ろう」
 ゼラルドは冷淡に言ってから、セレンの携えている剣を指した。
「それと、その剣を貸したまえ」
「貸したら、ぼくが戦えないだろう!」
「すぐ返す。フルートには恩がある。君が多少は彼の役に立つようにしよう」
「君は、ぼくにも恩があるはずだが」
 セレンは尖った声で指摘したが、剣を外して、ゼラルドに渡した。ゼラルドは剣を鞘から抜くと、その刀身に、指先で何かの文字を綴った。文字は青く光ったあと、消えた。
「・・・それは一体?」
「一時間くらいは持つだろう。石でも斬れる。行きたまえ」
 セレンは剣を受け取った。礼は言わずに、きびすを返し、友の捜索に向かった。

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石の大蛇(01)

 日が暮れかけたころ、小高い丘の上に、夜露をしのげそうな古い神殿跡を見つけた。
 一行は馬をつなぎ、屋根の下に入ったが、すぐにフルートが辺りを見回しながら言った。
「ここはだめだ。よくない気配がする」
「同感だ」
と、静かにゼラルド。視線は手の中の聖札に落ちている。
 疲れ切ったフィリシアがまどろみ始めているのを、ちらりと見やったセレンが、
「でも、ほかに場所がない」
 指摘すると、フルートは一拍考えてから、譲歩した。
「わかった。それなら、君とぼくが交代で不寝番だ。少し、周りを見てくる」
「うん」
 二人の会話に、ゼラルドは物憂げな視線を上げたが、何も言わずにフルートを見送った。
 そして、それきり、日が落ちきって辺りが暗くなっても、フルートは戻らなかった。

 神殿の中を一通り見回るつもりだったフルートは、足早に廊下を歩き、部屋があれば中を覗き、異状のないことを確かめていた。ある部屋を覗いたとき、ぞくりと背筋に寒気が走った。
 一見したところ、特に何ということもない空っぽの部屋だった。警戒しながら数歩踏み入った、そのとき。
 足元の床に魔法陣が浮かび上がった。はっとして逃れようとしても体は動かず、そのまま視界は暗転し、落下する感覚に襲われた。
 うかうかと罠にはまった自分の浅はかさを呪いながら着地の衝撃に備えると、案に相違して、落下はふわりと止まり、足が床についた。
 薄暗い部屋。正面には大きな石の台座があり、その上には、身の丈の三倍ほどあろうかと思われる、巨大な大蛇の石像が鎮座ましましていた。大蛇には首が七つあり、それぞれがこちらを睨んで鎌首をもたげている。台座の四隅に焚かれている篝火が、石像を不気味に照らし出している――いったい誰が灯したのだろうか。
 石像は禍々しく、眺めているとぞわぞわと総毛立って来て、さてはこれが悪しき気配の源だったのか、とフルートが得心したとき、どこかで、場違いな鈴の音が、チリーンと鳴った。
 と、石像がわずかに動いた・・・ような気がした。鈴の響きが消えれば、後に残るのは冷たい石の静寂のみ。
 音に惑わされて何かを見間違えたのだろうか、と、フルートが疑いながら石像を見つめていると、違う方角から、また同じ鈴の音が響いた。チリーン。
 石像が再びわずかに動き、ピタリと止まる。見間違いなどではなかった。それどころか、その七対の目は、今や爛々と赤く輝き、紛うことなくフルートを見つめていた――!

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予告:「石の大蛇」

すこし見切り発車のような感じですが、予告しちゃいます。

「ゆがんだ城」より前の、「赤い小鳥の姫君」より前の、旅の序盤のお話。
フルートがメインです。
系統としては「夜を越えて」系ですが、小粒の話で、全3回か4回になります。

「大蛇」は、「だいじゃ」または「おろち」とお読みください。
「おおへび」は、なんとなくイメージが違うので・・・。

日曜夜にスタートです。よろしくお願いいたします☆

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