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ひとこと通信欄

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SF「夜景都市」(未完)

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2013年7月

(逃避行)(04)

 リオンは、王女に呪い殺された鳥を、一階の回廊の端に埋め、花の種をまいた。
 形見として残した2枚の赤い羽根を、大切に持ち帰って、王子と1枚ずつ分けた。
 王子は、羽根をそっと撫でて、
「50年、生きるはずだったものを・・・」
 言ったきり、しばらく言葉を失っていたが、ふと我に返って自嘲した。
「このようなときにも、ぼくは涙一滴こぼさないのか。なんと冷たい人間だろう」
「ゼラルド様は、冷たくなどありません」
 リオンは、自分の頬を流れ落ちる涙をぬぐいながら抗議した。心の中で続けた――泣いている私も、優しくなどありません。鳥のために泣いているわけではなく、あなたが泣けないから、代わりに泣いているだけなのです。
「リオン。そなたに、話さなければならないことがある」
「何でしょう?」
「従者の任を、解かれてはくれないだろうか」
「・・・エメルを守れなかったからですか」
「違う。それは私の責だ。そして私はいつか、そなたのことも守りきれなくなるだろう」
 王子は思いつめた目をしていた。
「ユリアの呪詛は、経験を積み、どんどん強くなっている。ぼくに気づかれずにエメルを殺したのだから、おそらく既に、ぼくでは抑えきれないのだ。ユリア自身はまだ、自分の力がぼくより強いと気づいていないかもしれない、だが、気づくのは時間の問題だ。悟れば、ユリアは必ず、リオン、そなたを呪うだろう。だから・・・」
「おそれながら申し上げます」
 リオンは落ち着いて、優しく答えた。
「私は月の聖者として、自分の身は自分で守ります。鳥のように易々と殺されはしません」
「だが」
「もし、私の幸せを考えてくださるなら、どうかこの命が尽きるまで、おそばにお仕えさせてください」
「リオン、どうして・・・」
 王子は少し困った顔をした。それから、うつむいて、低く、迷うように言った。
「・・・もうひとつ、任を解きたい理由がある」
「何でしょう?」
「そなたにだけ、話す。ぼくは・・・この国を。・・・去ろうと思っている」
 リオンは耳を疑った。次期国王が、国を・・・去る? 何かの聞き違いだろう。
「考えてごらん、リオン」
と、ゼラルドは視線を上げて、もはや迷わずに、静かに言った。語られた次の言葉に、リオンは背筋が寒くなるのを感じた。
「もし、ぼくが王となり、ユリアよりも国の民を重んじたら、ユリアはどうすると思う?」

(逃避行)(03)

 短い冬が終わって、春になった。
 長命種と知ってから、王子は鳥に、エメル(灯)という名をつけていた。
 鳥籠の閂は、より重く頑丈なものに取り換えられていたが、代わりに、鳥籠を置く部屋には止まり木が設けられて、訪ねる人のない午前中などに、しばしば鳥籠から鳥が移された。エメルはその場所が気に入っているらしく、止まり木に移されると、元気いっぱい、様々なことを喋り続けた。
 午後には、エメルは鳥籠に戻される。鳥がいることを訪問客に気づかれないようにするためだ。幸いなことに、エメルは人の気配に敏感で、誰かが外の廊下を近づいて来ると、
「お客様がお見えです」
と、リオンの声色で教えてくれたから、リオンはその声を聞いたら、すぐに鳥籠に覆い布をかぶせ、鳥が喋って客の興味を引くことのないよう、気を付けることができた。
 ユリア姫さえいなければ、エメルを隠す必要などなく、賢い鳥は宮廷の人気者になっただろうに、と、リオンはよく考えた。だが、現実には、万一にもユリア姫の関心を引くことのないように、鳥のことはひたすらに隠さなければならなかった――たとえ鳥でも、義兄の寵愛を受けていると知ったら、嫉妬深い王女が何をするかわからなかったからだ。
 ユリア姫は、毎日のように義兄の部屋を訪れて、小一時間ほど他愛のないことを喋って帰ったが、隣の部屋に鳥が飼われていることには、今のところ気づいていないようだった。
 さらに季節は移り、夏になった。エメルはすっかり懐いて、王子やリオンの腕や肩に、喜んで乗るようになっていた。
「リオンとエメルがいるから、ぼくも息をしていられるのかもしれないね」
 一度だけ独り言のようにそう語ってくれた王子の、鳥を愛でる穏やかな表情を見ながら、リオンは、この綱渡りのような平穏な日々が、どうか平穏なまま続きますようにと願った。
 ――が、叶わなかった。ある日の午後、いつものように訪れたユリア姫は、唐突に、
「そういえば・・・お兄さまのお誕生日に贈られた、赤い鳥はどうしましたの?」
「鳥?」
と、王子は物憂げに応じた。ユリアはうなずいて、
「そう。言葉を喋る、大きな鳥です。従者に世話をさせるとおっしゃっていたわ」
「ああ・・・リオンに払い下げた。ユリアはあれに興味があったのか?」
「あのときは、お兄さまに似合わない色としか思いませんでした。でも、最近入った侍女と話していたら、喋る鳥には、白も桃色もいるのですって。もし本当によく喋るなら、わたくし、桃色の鳥が欲しいわ。あの赤い鳥がどのくらい喋るか、見せていただけますか?」
 王子は色々と理由をつけて断ろうとしたが、うまく行かなかった。鳥籠は運び込まれ、王女の要請で、リオンは鳥を出して腕に乗せた。鳥は羽根をバタつかせて王子の肩に飛び移った。リオンは慌てて非礼を詫び、鳥を隣部屋に引っ込めて止まり木に乗せたが、王女は不機嫌になっていた。王女の退室後、ゼラルドとリオンが隣部屋に駆けこむと――
 哀れな鳥は、飛び立とうとするかのように翼を広げた姿で、床に落ちていた。

(逃避行)(02)

 翌朝から、王子は、自室の窓辺で小鳥の餌づけを終えたあと、隣の部屋に足を運ぶのが日課になった。鳥籠は、リオンが掃除しやすいように、空き机の上に置いてある。
 毎朝、覆い布を取り払うたび、鳥は必ず、
「ご機嫌うるわしゅう、ゼラルド様」
と喋った。ゼラルドは、その都度、静かに、
「おはよう。そなたは元気か」
と尋ねる。鳥の様子を見ながら、リオンが代わりに「今日も元気です」と答える日々が続くうち、鳥は自ら、「今日も元気です」と返事ができるようになった。
 鳥は、リオンを呼ぶことも覚えた。リオンが雑用を片付けているときなどに、
「リオン?」
と、呼ぶ。その声色と抑揚が、王子によく似ているので、うっかり、「お呼びでしょうか」と応じてしまったこともあって、「呼んでいないよ」と王子に苦笑された。逆に、王子のほうも、リオンを呼んで、「ただいま参ります」と返答を聞いたのが、実は鳥だった、ということがあるらしい。
 王子は、しかし、迷惑しているというよりは、その状況を楽しんでいるようだった。そのことがわかるので、リオンは毎日、気持ちよく、感謝の念すら覚えながら、鳥の世話を続けた。
 ある朝、リオンが鳥を見ながら、学問所で教わったままに、
「このような鳥は、50年ほどを生きるそうでございますよ」
と教えると、王子は感銘を受けた様子だった。
「50年! ぼくより、よほど長生きするのだね」
「えっ。いえ、ゼラルド様は、50年後もお元気でいらっしゃると思います」
「さあ、どうだろう。だが・・・」
 王子は鳥を見ながら、独り言のように言った。
「その50年を、この鳥は籠の中で暮らすのだね・・・」
 リオンは言葉に詰まった。すると、そのとき、赤い鳥は、何を考えたのか、そのクチバシと足の爪で、籠の入口を噛んだり引っかいたりし始めた。
「・・・出たいのでしょうか?」
 二人が何もせずに見守っていると、鳥は、なんと、籠の隙間から入口の閂を器用に外し、扉を押し上げて、自分から外に出て来たのだった。
 鳥は、机の上で、王子を見上げて言った。
「ご機嫌うるわしゅう、ゼラルド様」
 王子はしばらく鳥を見つめたあと、そっと手を差し伸べた。鳥は驚いたように向きを変え、リオンが籠の入口を開けると、自分から中に入って行った。籠は元通りになった。
「そうか。そなたは出られるのか。だが私は・・・」
 王子のつぶやきは、途中から、のみこまれて声にならなかった。

(逃避行)(01)

 その贈り物を、王子は一目見て気に入った。――と、リオンはすぐに気が付いた。
 それまで退屈を装って、椅子の肘掛けに物憂げに頬杖をつき、冷めた目で使者たちを見やっていた王子が、ほんの一瞬、その瞳に驚いたような表情を浮かべていた。喜怒哀楽を殺して久しい王子が、つい見せてしまった、わずかな心の動き。
 もちろん、リオン以外の誰にも気づかれることのないまま、その驚きは速やかに、冷笑によって上書きされてしまった。玲瓏な声が、そっけなく使者に告げる。
「役目、大儀であった。それは従者に世話をさせよう」
 何か褒め言葉を期待していたのかもしれない使者は、努めて落胆の色を見せないように、贈り物をその場に置いて、挨拶の言葉を述べ、引き下がった。王子の従者であるリオンは、進み出て、その贈り物を引き取った。
 雪月7日。聖なる国ウェルザリーンの、第一王子の誕生日を祝う宴において、幸い死者は一人も出ることなく、人々を安堵させた。王子は山と積まれた金銀宝石には一向に興味がない様子で、召使たちに片付けをまかせ、義妹のユリア姫に乞われて少し踊ったあと、いつもの無表情で自室に引き上げてしまった。

 リオンは、ただひとつ王子から預かることになった「贈り物」を、大切に王子の自室に持ち帰った。王子は自室に戻るとすぐ、興味深げに、その「贈り物」をのぞきこんだ。「贈り物」は、まるで新しい主人を既に覚えたかのように、
「ご機嫌うるわしゅう、ゼラルド様」
と、なめらかに話した。つい先刻、使者が得意顔で覆い布を取り去ったときと同じだった。
 それは、金の鳥籠に入った、大きな、鮮やかに赤い鳥だった。翼の中ほどは黄色くて、翼の先と、長い尾は、明るい青色をしていた。クチバシと足はオレンジ色。南国から来た、賢く珍しい鳥なのだそうだった。
「この鳥は、飛べるのだろうか」
「元は飛べたのでしょうけれど、贈り物の鳥ですから、風切り羽を切ってあると思います」
「ああ、そうだね・・・」
 王子はしばし無言で赤い鳥を見つめたあと、
「ぼくの部屋に置くと、ユリアがやきもちを焼くかもしれない。隣の部屋に下げて、そなたが世話をしてくれるだろうか」
「かしこまりました」
と、リオンは微笑して応じた。もちろん、言われる前から、そのつもりでいた。
 もう夜だからと、再び覆い布をかけようとすると、鳥は「おやすみなさいませ」と言った。
 王子とリオンは顔を見合わせ、それから、二人で鳥に向かって、おやすみと言った。
 王子の表情が常になく和らいでいることを、リオンは、素直に、嬉しいと思った。

予告:(逃避行)

お待たせしました。
たぶん、なんとかなる・・・と思うので、予告アップします! 

ゼラルドが祖国ローレイン(ウェルザリーン)を去ることになった経緯から、リーデベルク王家の森でフルートに助けられるまでを描くお話です。
悲しい場面がありそうです・・・。

恐縮ですが、「(従者試験)」(全8回)の読了を前提とさせていただきます。
(・・・と思ったけど、書きあがってみたら意外と平気でした。←追記)
「(逃避行)」のスタートは、明日(7/22)の夜になります。
全8回くらい?の予定です。

それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

こぼれ話:イメージに合う音楽

最近、様々な方のブログで、イメージソング等のリンクや貼り込みを見かけるので、それでは私もconfident 

(もちろん、読者の方々が、それぞれお持ちのイメージに、お気に入りの音楽を合わせてくださっていれば、それが一番良いです!)

作者としては、「遥かな国の冒険譚」全体のイメージに合う音楽は、たとえば…、

☆クラシックで良ければ、ドビュッシーの「ベルガマスク組曲」あたり、いい感じです。
 4曲組なので、全部聞く時間がなければ、1曲目「プレリュード」だけでも。
 (ちなみに、3曲目は特に有名な「月の光」です。)
 ○○年前は、この組曲を自分でも弾けた…ということが、今では信じられませんcoldsweats01
 

 

☆歌だったら…、Ally Kerr の "The Sore Feet Song"。

 

いかがでしょう。皆様がお持ちのイメージには合っているでしょうか?

「自分のイメージだと、これ」という、おすすめの音楽があったら教えてくださいねnote

進捗状況報告(2013/07/16)

お待たせしております。

「火の鳥」のラストでゼラルドが見せた赤い鳥の羽…。
もしや、そろそろ、あの話を書くべき時期が来ているのではなかろうか、と思い…、
ずっと書けずにいた番外編「逃避行」を、試みに組み立ててみようとしているところです。

「逃避行」というタイトルからご想像いただける(かもしれない)通り、ゼラルドが祖国ローレイン(ウェルザリーン)を去ったときのお話です。
本編「訪問者」でフルートに助けられた彼が、いったい、どのように祖国を出て、リーデベルク王家の森に出現することになったのかを明らかにする、ややシビアなエピソードです。
今までうまく書けずにいたお話なので、本当に書けるのか心もとなく、準備に少々お時間をいただくことになるかもしれません。
「ひとやすみ」と「こぼれ話」はポツポツ続けさせていただきますので、ゆっくりお待ちいただければ幸いです。

うまく書けそうなら、予告を出すとき「(従者試験)」読了を推奨させていただこうと思っています。
未読の方は、差し支えなければ、この機会にお読みになってみてください。
(「訪問者」は未読でも大丈夫です。)

どうぞよろしくお願いいたします。

こぼれ話:ファンタジーとメルヘンの「あいのこ」?

このサイトのトップページには、「ファンタジーとメルヘンの、あいのこのような物語を綴っています」と書いてあります。
でも、それって、どういう意味? と、思ったことはありませんか。

人によって、ファンタジー(空想物語)とメルヘン(おとぎ話)に抱いているイメージは色々だと思いますが…。
私は、「ファンタジーは血肉を備えた物語(作者が肉付けしている)、メルヘンは骨格だけの物語(読者が肉付けする)」だと思っています。

たとえば、メルヘンによく現れる、「それはそれは美しいお姫様」は、たいていの場合、どこがどう美しいか説明されません。
また、メルヘンには、こんなふうな場面が普通に出て来ます。
「兄を探しに来た妹は、太陽の住む宮殿を訪れ、門の鍵を持っていないので、自分の小指を切り落とし、小指の骨を鍵の代わりにしました」。
同じ場面をファンタジーが描くならば、兄と妹が何という名前で、どのような容姿をしているかから始まり、太陽の姿かたち、宮殿の装飾、指を切る決意、流れ出る血、骨を鍵穴に嵌める工夫、などが、事細かに語られるのではないでしょうか。

「遥かな国の冒険譚」は、ファンタジーほど緻密でも重厚でもなく、それでいて、メルヘンよりは具体的で細やかに、と、そんな中間を意識して書いています。
そのくらいの「ゆるさ」が、私を癒してくれるからです。

自分の他にも、物語を気に入ってくださる方がいらっしゃることを、嬉しく思っています。
これからも、気の向いたときに、ふらりとお立ち寄りいただければ幸いです。

ひとやすみ:私の100冊、選定中です☆

先日、ツイッターを見ていたら、ある読書家さんが、「新潮文庫の100冊」や「角川文庫 夏の100冊」等に対抗し、「私の100冊」を選んで公開していました。「日本の作家」かつ「文庫」という条件で選んだようでした。
その100冊の中には、私の知っている本も知らない本も、好きな本も嫌いな本も入っていましたが、存外、他のひとの選んだ100冊を見るのって面白いなあ、と思いました。

と、いうわけで、私も挑戦!happy01
ただ、一番本を読んでいたのは学生時代で、今はポツポツとしか読まないので、この際、「日本の作家も外国の作家も」「文庫も単行本も」「小説も絵本も漫画も」ぜんぶOK、ということにしました!
思うままに挙げてみたら68冊。(シリーズものは、シリーズの中から一冊選んでいます。)
このあと絶対、あれも忘れてた、これも忘れてた、と出て来ると思うから、ちょうど満足行く感じで100冊選べそうな気がしますheart01

傾向としては、ミステリが一番多くなりそうな感じ。
次いで、SF、ファンタジー、漫画。
そして、絵本、冒険、伝奇、ホラーといったところです。
文学が少ないなあ。実用書が少し。そして恋愛小説は皆無・・・sweat02

選び終わったら、また「ひとやすみ」の記事で発表しますねshine
良かったら、他の方もいかがですか、100冊選んでみませんか? 楽しいですよ~note

作者より:「火の鳥」

ええと、フィリシアかゼラルドの話を書くつもりだったのですが…sweat02 
ふたを開けてみたら、フルート(ルーク)が出ずっぱりの話になりました。
まあ、彼を紹介するのに適した話が書けたと思えば、これはこれでいいのかも?
でも、次こそ、フィリシアかゼラルドの話を書くぞ。

全4回のつもりだったのに、倍に膨らんでしまったのも計算外でしたが…sweat02
本編だし、最近短い話が続いていたから、これもこれでいいのかな。
滞りなく最後まで連載できたので、ひとまず良しということにさせてくださいcoldsweats01

いつも、つぶやき、コメント、ブログランキング等、励ましをありがとうございます。
感謝して受け止めて、次へと進む力にしています。
(ランキングは直近7日間の集計なので分かりづらく見えるかもしれませんが、
押してくださった方がいるということは、しっかり伝わっています。)
次作の構想はまだですが、整うまでは「こぼれ話」と「ひとやすみ」をお届けさせていただきますね。
どうぞよろしくお願いいたします。

→ 目次に戻る

火の鳥(08)

 雛鳥が首を伸ばした先に、大鳥が自らの翼を差し出すと、雛は何度か、炎をついばむような動作をした。雛鳥の、ぺたりと寝ていた羽毛がふんわり立って、体の割に大きな翼がパタパタと動き始める。確かに、生まれてすぐに飛べるようだった。不思議な鳥だ。
 大鳥が言った。
≪人ノ子ヨ、アリガトウ。コレヨリ先ハ、我ラガ、雛ヲ守ル≫
 まるでそれが合図だったように、周りの鳥たちが飛び立ち始めた。大鳥も翼を広げた。フルートとゼラルドは、数歩、後ろに下がった。
 大鳥は飛び立った。雛鳥も飛び立った。頼りない小さな姿を、別の鳥たちが取り囲んだ。
「この羽は、君が持てばいい」
 フルートは、大鳥から受け取った羽をゼラルドに差し出した。
「卵の穢れとやらを清めたのは、君なのだろう、ゼラルド。それに、君は寒さに弱い」
「穢れと呼ばれる者にこそ、御守りが必要だろう。ぼくはいい」
 静かに告げられたその言葉に、フルートは、はっとした。
「穢れとは、まさか」
「おそらく、そうだ。どれほど明るく優しい姫君でも、死の呪いをかけられていることに変わりはない。その理不尽な呪いを解くためにこそ、ぼくたちはこの旅を続けている」
 二人は、その場に立ったまま、すべての鳥が夜空へと飛び立つのを見送った。
「この光景を、フィリシアとセレンにも、見せてやりたかったな」
 フルートが言った。ゼラルドは無言で、フルートの腕に軽く触れ、宿へと空間を跳んだ。

 二人の帰りを待っていたフィリシアとセレンに、フルートは一部始終をかいつまんで語り聞かせた――穢れに関することのみ伏せた。
「フィリシア。これは君に」
 フルートが朱色の羽を渡そうとすると、フィリシアは笑って、
「私はクルシュタインの出身よ。寒さには強いわ。ゼラルドに渡したほうが」
「ぼくなら、違う羽の御守りを、もう持っているから」
 黒髪の若者は、赤い羽を取り出して見せた。言葉少なに、以前飼っていた鳥の羽だと言った。なるほど、たしかにゼラルドは鳥が好きらしい、とフルートは思ったが、黙っていた。フィリシアは朱色の羽を受け取った。
 そして翌朝、日の出とともに、旅人たちは、この迷路のような街の東門に立っていた。
 開門と同時に、馬を連れて街道に出れば、行く手ではぐんぐんと日が昇ってゆく。
「あっ、あれを見て!」
 馬に乗ろうとしていたフィリシアが、急に東の空を指した。
「あの雲の形!」
 指し示された空では、ちぎれた雲が重なり合い、朝日に照らされ、まるで、光り輝く大きな鳥が、翼を広げて飛んでいるように見えた。ほんのひとときの、空のいたずら。
「今日は、いいことがあるかも」
 嬉しそうにフィリシアが言う。
「ああ」「そうだね」
と、フルートとセレンが応じた。
 そうして、一行は出発する。
 解呪の聖泉は、まだ遠い。

(完)

火の鳥(07)

 舞い降りる炎、炎、炎…。
 フルートとゼラルドが近づくと、鳥たちはバサバサと二つに分かれ、道を開けた。
 進んで行くと、鳥たちの真ん中に、ひときわ大きな鳥が赤々と燃え盛っており、若者たちを威嚇するかのように、大きな炎の翼を広げた。二人は立ち止まった。
 広げた翼をたたんで、大鳥は赤い目で二人を見つめ、太い嘴を開いた。
≪・・・ヒトノ子ヨ≫
「話せるのか」
と、フルートが、やや驚いた声で応じる。
≪少シ。昔ハ、ヒトト共ニ、暮ラシタコトモ、アッタ≫
「そうか」
≪我ラハ、我ラノ、子ヲ探シテイル。コノ近クニ、イルト感ジル≫
「それは卵か」
≪ソウダ。コノ近クニ、落チテシマッタ。生マレレバ探シヤスイガ、手遅レニナル≫
「手遅れとは?」
≪雛鳥ハ、弱キモノ。ヒトノ穢レニ触レルト、炎ガ消エル・・・生キラレナイ・・・≫
 フルートはゼラルドに目配せし、ゼラルドは小さくうなずいて、布の包みを取り出した。包みをほどいて、くるみこまれていた赤い卵を取り出し、そっと地面に置いた。
≪オオ・・・。ヌシラ、ナゼ、卵ヲ持ッテイル・・・≫
 大鳥は燃える両羽根を開き、卵の上にかぶせた。しばらく無言だったが、やがて、
≪コレハ・・・ヒトノ穢レニ触レタ・・・≫
と言った。周りの鳥が一斉に強く燃え上がった――彼らも人語を解するのだ。
 だが、大鳥はゆっくりと続けた。
≪穢レニ触レタガ・・・清メラレタ・・・。ヌシラガ、守ッテ、クレタノカ≫
「そうだ」
と、フルートは言い切った。大鳥は、両羽根で卵をそっと撫でた。
≪感謝スル。・・・雛ヨ、生マレ来ヨ≫
 卵は、もぞ、と動いた。さらに、もぞもぞ、と動いたあと、卵の殻にひびが入り・・・内側から殻を破って、幼鳥が現れた。小さく、べったりと炎に濡れ、燃え上がっている。
≪雛ハ、スグ、飛ベルヨウニナル≫
と、大鳥は言った。
≪ヌシラニハ、感謝ノ印ニ、コレヲ≫
 大鳥は首を曲げて、自らの羽を一本引き抜き、地面に置いた。羽はしばらく燃えたあと、炎を失い、何の変哲もない羽になった。朱色に見えるのは、周りの炎のせいか。
≪コレヲ持ツ者ハ、ドンナ寒サノ中デモ、決シテ凍エナイ≫
「ありがとう」
 フルートは羽を拾い上げた。その目の前で、雛鳥は体を伸ばし、翼を広げ始めた。

あと1回です(たぶん)。

火の鳥(06)

 ――西門にて。
 門の内側に、自警団と思しき者たちが集まり始めているため、出現地点を決めかねたゼラルドは、いったん、門の外、ぎりぎり明かりの届かない暗がりの中に着地した。
「どこか適当な場所で、壁を抜けて中に入れば良いだろうか」
「その前に、外の様子を確かめておこう」
と、フルート。
 門のほうからは、人々が大声に話す声が、切れ切れに聞こえて来る――「どこの盗賊団だ」「数が多い」「まだ増えるのか」・・・。
 その人々が見ているだろう方向へと首をめぐらし、
「あれか」
と、フルートがつぶやく。街から少し離れたところに、30個ほどの炎が整然と並んで揺れており、その後ろから、続々と新しい炎が合流している。
 フルートは、炎の群れをしばらく眺めてから、
「おかしいと思わないか、ゼラルド」
と言った。ゼラルドが戸惑っていると、
「手前の炎の形は整っているのに、後ろから合流して来る炎は・・・」
 言いさして、言葉を区切り、
「行ってみよう」
と言った。
「街の人々は、打って出るよりも守るほうが易いと判断するだろう。その間に、ぼくたちが行って、話をつけてしまえばいい」
「話をつける?」
「通じなければ、戦うまでだ」
 フルートはもう、炎の群れに向かって足早に歩き出している。ゼラルドは黙って、あとに従った。

 近づくにつれて、ゼラルドにも、その炎が松明などではないということが、はっきりと分かって来た。
 まず気づいたのは、炎が人の肩の位置でなく、地べたに並んでいるということだった。大きく背の高い、赤い炎だ。
 次に気づいたのは、炎の近くには何の人影も照らし出されていないということだった。炎はそれぞれ、自立して勢いよく燃え上がっている。
 そして、彼方から次々に現れる新しい炎は、まるで広げた羽をたたむようにして地に降り立っていた。近くまで来て、よくよく目を凝らせば、燃え盛っている炎のひとつひとつは、みな本当に、羽をたたんだ鳥の形をしていた――炎をまとう、伝説の鳥。
 そう、それは、何十羽、何百羽という、「火の鳥」の群れだった。

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