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(逃避行)(05)

 去るべきはユリア姫であって、王子ではない! ――と、リオンは主張したが、王子の心は決まっているようだった。王子は、何かを諦めたかのように、力なく笑って言った。
「では、言い方を変えよう。私はもう、ここに自分の生きる場所を見出せなくなったのだ。積み上げられる屍の上に立ち、あるいは自らも生ける屍となり、あるいは追い詰められて妹を弑する算段を迫られる、そのような境遇が嫌になったのだ。守るべき国と民を捨てて逃げる私を、そなたは、それでも主と呼ぶのか」
 何かがまだ隠されている・・・と、リオンには思われた。常ならば、主は決して、「捨てて逃げる」ことを良しとする人物ではなかった。それでも選ぶなら、何か理由があるのだ。
 とはいえ、吐露された心情もまた真実に違いなかった。リオンは跪き、穏やかに言った。
「鳥籠の鳥ですら、自由を求めて自ら扉を開けるのです。まして、尊い御身が新しい世界を求めることを、誰が責められましょう。どこまででも、お供させていただきます」
 ゼラルドは驚いたようだった。しばらくリオンを見つめていたが、ふいと横を向いて、「そなたは愚かだ」とつぶやいた。そして、もう、従者の任を解くとは言わなかった。

 秋になれば、ユリア姫の誕生日がある。王女は頭は良いのだが、ちやほやされるのが大好きだ。宴の主役となる当日は、細かいことにまで気が回るまい。義兄を見張る目にも隙ができるだろう。その日に発とう、と主従は決断していた。幸か不幸か、ゼラルドは厄災を呼ぶ者として、人々から恐れられている。長く場を外していても、ユリア以外の者たちは、その不在を喜んで黙認することだろう。
 日々は確実に過ぎていった。いよいよ王女の誕生日を明日に控えて、宴の準備でみな忙しくしている昼下がり、ゼラルドは一人で城を抜け出し、誰もいない浜辺を歩いた。立ち止まり、潮風に吹かれながら海原を眺めれば、穏やかな海は、いつか見た紫色に染まっていた。ゼラルドは、海に向かって、ひとり静かに話しかけた。
「今まで、見守ってくれてありがとう。明日、ぼくは、ここを発つ」
 そのまま、しばし佇んでいると、足元に波が打ち寄せて、何かを残して行った。拾い上げれば、それは、見事な細工を施した鞘におさまった、ひとふりの剣だった。金色の鞘から刃を引き抜くと、刀身までもが金で出来ており、もしゼラルドが剣士であれば、役に立たないと言って打ち捨てたかもしれなかった、が、彼は術者だった。術式の力を増幅させるのに、ちょうど良さそうな剣。なぜか、他の誰かの失せ物だとは思わなかった。
「これを・・・ぼくに?」
と、ゼラルドは独り言のようにつぶやいた。海は何も答えない。波が寄せては引くばかり。
「ありがとう。大切にする」
 持ち帰って従者に見せてみると、不思議なことに、リオンにはその剣が抜けないのだった。自分のための剣なのだと、ゼラルドは改めて理解した。初めて、目に見えぬ何者かが、自分の選択を後押ししてくれた気がした。
 そして、夜は明けて――、その日が、来たのだった。

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コメント

月路さん
お久しぶりでした。

改めて、この章の始めから読ませていただきました。
南国の言葉を話せる鳥と
少年たちの交流が とても切なく 優しく沁みましたconfident
想い出の宝物は
鮮やかな鳥の姿のように
心の奥深く 刻み付けられるのかもしれませんshine

montiさん、
コメントありがとうございます。

大切なものが失われた悲しみを乗り越えるには時間がかかりますが、
刻まれた思い出は失われることがありません。
たとえ長い時間が過ぎて、忘却の波にさらされようとも、
血と肉の中に溶け込んで、ずっと共に生きているのだと思いますclover

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