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見えない守り手(03)

 マリカは、右手でセレンの手をしっかりと握り、左手にはカンテラを提げた。子供を連れて夜道を歩くのだから気をつけなければいけないな、とセレンは思ったが、しばらく歩いて、ふと気が付くと、どこをどう歩いて来たのか、よくわからなくなっていた。
 木々のまばらな林の中。行く手の小道を、月が照らしている。夢の中にいるようだ。
「あとちょっとだよ、おにいちゃん」
 マリカが安心したように言った。そうか、良かった、とセレンは思ったが、何かを忘れているような気がした。思い出すのは億劫だったが、大切なことだと思えたので、苦労して記憶をたぐった。そして、思い出した――「あの双子には、関わらないほうがいい」。
 セレンは足を止めた。マリカは驚いたように彼を見上げた。
「どうしたの、おにいちゃん。もうすぐだよ」
 待て。幽霊に会いに行って、いいのか?・・・いや、幽霊など、いるはずがない。妹を亡くした可哀想な少女の妄想だ。気の済むようにさせてやろうではないか。
 再び歩き出そうとしたとき、右腕を誰かにつかまれた。ぎょっとして、息が止まった。人の気配はまったくない。振り向いても誰もいないだろうと、なぜか、わかる。
 マリカは、セレンの右後ろのあたりを見て、いぶかしそうに、
「あなた、だれ?」
と言った。
「おにいちゃんを離してよ」
 セレンが右腕を振り払おうとしたとき、後方から鋭い声が飛んできた。
「セレン! 動くな!」
 ゼラルドの声だった。一瞬ののち、セレンの右腕をつかんでいた何者かはセレンを離し、代わりに、ゼラルドがセレンの右隣に並んで、その同じ場所をつかんでいた。
「帰りが遅いと思えば、なぜこうも愚かな・・・。見たまえ、君がどこに立っているのか!」
 ゼラルドは前方を薙ぎ払うように手を振った。目の前に続いていた道は煙のように消え、セレンは驚いて数歩あとじさった。彼が今まで立っていたのは、崖のふちだった。すぐ先に、深い深い谷。
「マリカ。君は・・・」
 セレンは、左手をつないだまま少女を見下ろしたが、少女は別のものを見ていた。
「ミリカ? どうしたの? どこに行くの? あたしを置いて行くの?」
 崖のほうに歩み出そうとする少女を、セレンとゼラルドは二人で押さえた。
「放して! ミリカが行っちゃう!」
「当然だ。死者なのだから」
 ゼラルドの冷ややかな声。マリカは何かを視線で追いながら、泣いた。
「ミリカ。ミリカ。母さんが、きっと悲しむわ・・・」
 嘆き悲しむ少女を落ち着かせ、宿屋に引き返してみると、帰り道は意外なほどに、すぐだった。双子の母親は食堂の前で待ち構えており、彼らが戻ると、きょろきょろと辺りを見回した。マリカはセレンの手を離して母親の前に行き、うなだれた。
「母さん、あのね。ミリカはね・・・行っちゃったの。止められなかった。ごめんなさい」
 母親は、うめくように「ああ」と言った。それから、かがんで少女を抱きしめた。
「そう。そうだったのね。つらかったわね、マリカ。でも・・・よかったのかもしれない」
「何がいいの? あたしはミリカと、ずっと一緒にいたかった。母さんだって!」
「ええ、ええ。でも、引き止めてはいけないって、本当はわかってたから。大丈夫、母さんにはマリカがいるもの」
 少女は驚いたように母親を見上げた。それから、母親にしがみついて、わあっと泣いた。セレンとゼラルドは、そっとその場を離れた。
「ゼラルド。その・・・」
 セレンが口ごもりながら言いかけた言葉を、ゼラルドは冷ややかに遮った。
「謝辞は不要だ。君などどうなっても良かったが、君に何かあったらフルートに恨まれる。それが嫌だっただけだ」
「・・・人がせっかく」
「君は、母親似と言われているのだろうね」
「え? 生き写しだと、よく言われるけれど。なぜ、君がそれを?」
「別に。そのような気がしただけだ」
 ゼラルドは、静かにそう言ったきり、あとは何も言わなかった。

(完)

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コメント

ふぅーっ・・。
物語の余韻に浸っています・・。
セレン・・お母さんが守ってくれたんですね。
今居るこの世界は現実なのか?ほんとは・・?
あやふやになってしまいそうな感覚です。
(=^・^=)

うさパンさん、
コメントありがとうございます♪

いろいろみっちり詰め込みすぎたかしら、と思いつつ。
夢と現実。見えるものと見えないもの。意識と無意識。
一度書いてみたかった「幽霊のお話」が書けて良かったですshine

自分はぜんぜん「見えない」ですが、だからといって全面否定もできません。
いろんなものの境界は、ちょっぴり「あやふや」くらいがちょうどいいのかも~confident

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