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霧の中(01)

 森を通り抜ける道は細く、一行は、縦一列に並んで馬を進めていた。
 霧が出て来たので、道を逸れることをおそれ、互いが見えないほど霧が濃くなったら馬を止めようと、皆で決めた。
 気をつけながら、しんがりで馬を操っていた黒髪の王子は、前の馬が見えないほど霧が濃くなって来たので、手綱を引いて馬を止めた。
 事前に取り決めてあったことでもあるし、また、すぐに霧も晴れるだろうと思ったので、彼は、誰に声をかけるでもなく、そのまま無言で待った。

 ほどなく、真っ白な霧の中、どこからともなく、男とも女ともつかぬ低い声が問いかけて来た。
≪旅人よ。いつなりと、汝の望む過去の時点に、戻してやろうか≫
 ゼラルドは、思わず苦笑した。いったい自分に、どのような望ましい過去の時点があるというのだろう。仮にそのような時点があるとして、その時から今にいたるまでの困難を、再び味わいたいとは、とうてい思われなかった。
「必要ない」
と、彼は、にべもなく答えた。すると、声は今度は、このように問うた。
≪では、旅人よ。いつなりと、汝の望む未来の時点に、送ってやろうか≫
 ゼラルドは、ゆっくりと十、数えられるほどの間、沈黙した。それから、冷ややかに笑って、問い返した。
「そういう汝は、私にどのような望ましい未来を見せてくれられるというのだ」
≪・・・≫
 霧は、黙りこんだ。再び、ゆっくりと十、数えられるほどの時間が流れた。
「必要ない」
と、ゼラルドは告げた。泣きたいような笑いたいような気がしたが、静かに続けた。
「私は、今を選ぶ。私を、今に返せ」
 霧は、うなずいた――ように思えた。

 すうっと視界が晴れて、はっきり前が見えるようになると、やや離れた前方で、仲間たちが彼を待っていた。
 ゼラルドが追いつくと、青い髪の姫君が、
「あなたも、聞かれた?」
と、言う。どうやら、仲間たちもみな、同じ質問を受けて、「今」を選び取ったらしい。
 ゼラルドは答えずに、仲間たちを見ながら、思案して、得心した。
 たとえば、フルート王子は、自身が最善を尽くして獲得した「今」を放棄して、過去に戻ることになど興味がないだろう。また、自身がその手で切りひらく以外の未来になど、価値を認めないだろう。
 フィリシア姫は、日々を丁寧に積み上げた結果としての「今」を尊び、過去に戻って積み上げ直すことに意味を見出さないだろう。これからも、望ましい今を積み重ねることこそが、望ましい未来に至る道だと思っているだろう。
 セレン・レ・ディアは、通り過ぎていく「今」という一瞬を愛している。すでに去った過去よりも、まだ訪れていない未来よりも、目の前の「今」をこそ愛おしみ、それを手放すことなど考えもしないだろう。
 それに引きかえ、と、ゼラルドは自嘲気味に思った。選ぶべき過去も未来も持たない自分は、やむをえず「今」に戻って来ただけだ。

 ふと見ると、フィリシア姫が、にこにこと彼を見つめている。なんだろうと見つめ返すと、姫君はこう言った。
「今を選んでくれて、ありがとう」
 不意を突かれたゼラルドの戸惑いに気づいたのだろうか、姫君は言葉を重ねた。
「故郷を離れて私たちと共にある今を、選んでくれて、ありがとう」
 その言葉は、ゼラルドの胸に飛び込んで、すとんと腑に落ちた。
 ああ、そうか。自分は、仕方なく戻って来たのではない。他に行く場所を持たずとも、帰るべき場所を持つ者として、進んで、今を選びとったのだ。――自分には、奇跡にも似た「今」がある。

 フルート王子が、やや不機嫌に、「遅い!」と、文句を言っている。
 それで、一行は、何事もなかったかのように、「今」をゆく旅に戻ったのだった。

(完)

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コメント

・・素敵なお話・・でした。
過去・今・未来
いつも「今」を生きていたいと思います。
とても難しいけど・・。
(=^・^=)

うさパンさん、
コメントありがとうございます♪

過去や未来に跳ぶことのできない現実世界では、どんなに傷だらけになっても、耐えて今を生きるより他はありません。
どうか私たちが、いつも勇気を持って、「今」と向き合い、「今」を愛おしみながら、与えられた時間を生き抜くことができますように。

コメントのお返事ありがとうございます。
読んで、「ああ・・」と・・。
そう。読み終わって感じたのは
「今。の再確認(認識)」と「エール」でした。
自分自身へも含まれているのかな?と・・。
自分たちの力を信じて生きぬきたいですね。
(=^・^=)

うさパンさん、
フォローありがとうございます♪

そうですね、ここに載せているお話は、元々は、私が自分のために書き始めたものですから…。
根っこのところは、私自身を、励ましたり、慰めたり、落ち着かせたりするための物語なのです。

その物語を、分かち合ってくださる方々がいらっしゃることが、気恥ずかしくもあり、嬉しくもあり。
いつも、こまめにお読みいただき、どうもありがとうございますcherry

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