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ひとこと通信欄

  • (2017/8/13朝)創作活動が進みません~。少しばかり夏休みをいただきます~。

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2014年8月

笑わない娘(02)

 男は、さっきまでリジルが座っていた椅子にかけて、言葉をつないだ。
「俺の嫁さんと、あの子の両親は、5年前に流行り病で逝っちまってな。あっけなくてよ。あの子も俺も、しばらくは呆然として、腑抜けてた。だけど、残された者同士、一緒に暮らすことにしてさ、それは正解だった。近くに人がいると、やっぱり、こう、張り合いがあるよな。助け合って暮らすうち、俺たちは、どうにかこうにか立ち直ることができた。ときどき、ちょっとばかり落ち込むことはあったけども、その頃のリジルはまだ、普通に人と喋ってたし、たまには笑うこともあった。・・・って、なんで兄さんにこんなこと話すのか、兄さんには分からんだろうな。ちょっと喋りたい気分なんだ。良かったら、パン、もひとつどうだい。
 このあたりの、この季節はよ。毎年、一度か二度は、こんなふうに天気が荒れる。そのせいか、毎年、変わった客が訪ねて来てな。今年はあんた、ってわけだ。始まりは3年前だった。流しの吟遊詩人が、行き暮れて、うちに泊まった。話し上手だった。世話を焼いたリジルのことを、しきりに褒めてくれて、しまいには、リジルを讃える歌まで作ってくれた。いい声だった。二日ばかりして天気が落ち着くと旅だって行ったが、さらに二日ばかりすると、また戻って来た。リジルに惚れたと言ってよ。リジルのほうも、嬉しそうだったな。詩人は、ときどき街に出稼ぎに行きながら、この村で一年ばかり暮らした。最後には、村人総出で、家を一軒、建ててやった。二人のための家をな。
 だが、二人がいつ結婚しようかという段になって、今から2年前、やっぱり嵐の夜だった。馬車が立ち往生したといって、金持ちの未亡人がうちに泊まった。なぐさめにと詩人が歌を歌ったら、たんまりとお代をくれた。未亡人は、たいそう詩人を気に入って、遠くの街で一度舞台に立ってみないか、稼ぎは結婚資金にしたらいいだろうと勧めてくれた。詩人はその気になって、ひと月、出稼ぎに行くと言った。そして、約束のひと月を過ぎても帰って来なかった。ふた月たったとき、俺とリジルは、何日もかけて、はるばるその街まで出かけて行った。街ではその日、金持ちの結婚式があって、花婿と花嫁が、屋根のない馬車に乗って、街をぐるぐる回っていた。俺とリジルも見た。花嫁はあの未亡人で、花婿はあの詩人だった。詩人は、美しい花嫁のための歌を歌っていて、道端の俺たちには気付きもしなかった。俺たちは、とても惨めな気持ちで村に帰って来た。・・・すまんな、兄さん、変な話を聞かせて。もう少しだから、辛抱してくれ。
 街から帰ったリジルは、失意のどん底だった。それでも、話しかければ答えてくれたし、たまには無理して笑ってくれた。少しずつ傷が癒えたらいいと思って、俺は、腹の立つ詩人の話はもう、一言も口にしなかった。だが、今から1年前の嵐の夜のことだ。なんだか不吉な感じのする爺さんが、うちに泊まりに来た。何百歳かわからない、ひどく不気味な爺さんだった。とはいえ、嵐の中にほっぼりだすわけにもいかないから、一晩だけ泊めようと言って、俺が台所で食事の支度をしている間、爺さんは暖炉の前で、リジルと二人で何か話してた。で、俺が台所から戻ると、爺さんの姿は消えていて、リジルは真っ青な顔をして、立ち尽くしてた。その日からなんだ。あの子が一言も喋らなくなったのは」

笑わない娘(01)

 午後おそく、風雨はますます激しさを増した。これから夜にかけて、嵐になるだろう。
 仲間たちと待ち合わせる予定の街は、まだだいぶ先だ。無理して馬を急がせるより、今日はもう諦めて、少しでも早く、これ以上濡れずに休める場所を探した方がいい。
 そう判断して、若者は、そのあと最初に通りかかった村で、馬小屋を備えた家を選び、戸を叩いた。中から「はい」と、男の声がして、ガタガタと音がした後、扉が開く。
 セレンはマントのフードを上げて、丁重になりすぎないよう注意しながら、挨拶した。
「旅の者です。この天候で困っています。一晩、泊めてもらえないでしょうか」
 顔を出した中年男は、すらりと背の高い若者の身なりをじろじろと見たが、
「・・・この天気じゃあ、仕方ねえよな。いいぜ。馬を小屋に入れて、早く入んな」
と言ってくれた。

 暖炉が赤々と燃えている。そのすぐ脇では、栗色の髪を長く伸ばした娘がひとり、一心不乱に、何かを指で編んでいる。
「遠慮しないで、火のそばに寄って、服を乾かすといい。その子は、俺の姪っ子だ。ちょっと可哀想な子だから、そっとしておいてやってくれ」
「はい」
 セレンは暖炉に近づいたが、娘は顔も上げずに、ひたすら編みものを続けている。
 こんばんは、と、セレンがそっと声をかけても、反応はなかった。
 台所のほうに立って行った男が、大声で話しかけて来る。
「兄さん、何か食べるかい。たいしたものは無いが、今日はこんな天気だもんよ。とっとと飯を食って寝ちまうのがいいな」
「おかまいなく」
「遠慮は無しだ。兄さんの口に合うかどうかは分かんねえけど、俺が焼いたパン、食うか」
 男は、いくつかパンを盛ったカゴを運んで来てくれた。マントを脱いだセレンの、長い金色の髪を見て驚いたようだったが、特にそのことには触れず、カゴの中を指さして、
「おすすめはこれだ。はちみつを焼きこんである」
「ありがとう。いただきます」
 セレンは、甘い匂いのするパンを取った。男は続けて、編みものを続ける娘に向かい、
「おまえも、今日はもう、食って寝ちまいな、リジル」
 パンのカゴを差し出すと、娘は編みものを膝に置き、初めて顔を上げた。客には一瞥もくれないまま、こわばった表情で手を伸ばし、小さな黒いパンをひとつ取った。
「君は、はちみつパン、食べないの」
 セレンが尋ねても、何の反応もなかった。視線を落とし、パンを一気に食べ終えて、娘は編みものを大きなカゴに放り込み、大事そうに抱えて、二階への階段を上っていった。
「リジルは、俺の姪っ子でね。可哀想な子なんだ」
と、男が言った。可哀想な子。さっきもそう言った。どういう意味なのだろう。

予告:「笑わない娘」

お待たせしました。予告です。

「笑わない娘」は、比較的、暗い雰囲気のお話になります。
いえ、暗いだけの話にはしないつもりですけれど…。
セレンがメインのお話です。

物語の結末について複数の候補があり、どれを採用するか迷っています、が、発車します。
全4回か5回になると思います。8/28(木)の夜、スタートします。

どうぞよろしくお願いいたします。

ひとやすみ:夜の美術館で謎を解く「ナイトミュージアム」♪

2014/8/24(日)、友人と二人で、東京都美術館の謎解きイベント、「ナイトミュージアム~女王と女神の麗しの秘宝~」に行ってきました。
面白かった! クリアできなかったけど! 惜しかったんだよ!
この楽しさと口惜しさを、内容をばらさないようにして、どうしたら伝えることができるんでしょうか…!

ええとですね。
まずは基本情報からですよね。
東京都美術館では、現在、「メトロポリタン美術館 古代エジプト展 女王と女神」という展示をやっています。
展示内容は、ハトシェプスト女王と、ハトホル女神を中心としたものになっています。
この展示自体の通常料金(一般)は、1,600円。閉館時間は、基本的に17時半(例外あり)。
そして、「ナイトミュージアム」は、特定の日の、閉館後におこなわれます。18時に開場して、終了は20時半頃。(例外あり。)
ナイトミュージアムのチケットは1枚3,900円で、「謎解きイベントへの参加」+「通常開館時の観覧1回分」に使用できます。
つまり、謎解きだけではなく、美術館と展示内容にも興味のある人のほうが、お得に楽しめるイベント、というわけです。
謎解き参加人数は、1回あたり200余名。夜の美術館とはいうものの、けっこう賑やかです。

さて、肝心の謎解きは。
展示室を回ったり、休憩スペースで考えをまとめたりして、謎を解くことになります。
残念ながら、展示内容をゆっくり鑑賞する時間はありません。
先に謎解きに参加して、後日ゆっくり展示を鑑賞する、ということもできますが、どうせ両方に参加するなら、効率の面からも、断然、昼間のうちに観覧しておいて、夜の謎解きに参加するのがおすすめです。
いえ、事前に見ておかなくても、謎は解けるようになっています。そこはお間違えのないように。
でも、先に観覧を済ませていた私たちは、「そういえば見たなあ」と思いながら謎解きに参加することができて、良かった、と思いました。
また、謎解き時間中、何度かに分けて、ヒントが張り出されるのですが、これは謎解きに必須のヒントではなく、わからない人へのお助けヒント。すいすい解けている人は見る必要がないので、そのぶん謎解きに集中しましょう。
私たちは、最後の最後で(ここのヒントは出ない)、考え込んで、解ききれませんでした。
すごく惜しくて、あと5分あったら解けたかもしれない…。くやしい…。

東京での「ナイトミュージアム」は8/25(月)で終了ですが、古代エジプト展自体は、9/23(火)までやっています。古代エジプトに興味のある方は、どうぞ。
楽器の演奏音をスピーカーから聞けたことと、化粧品にまつわる展示物が、個人的には興味深かったです。
東京での会期を終えたら神戸会場に移るこのエジプト展、神戸でも「ナイトミュージアム」を開催するとのこと。
もし神戸近辺の方がこの記事を見ていたら、ぜひ行ってみてください。面白いよ!
仕掛けをばらさないで、これから行くひとにアドバイスするならば、
「出だしが好調でも、油断してると、あとから時間がなくなっちゃうよ、気をつけて」
「謎解きが始まったら、手元にある資料は、隅々までよく見てね」
「進行役の人の言葉は重要。最後まで忘れないで」
くらいかな?

同種のイベントがあったら、またぜひ参加したいと思っています。
情報を入手したときには、お知らせしますね~☆

ひとやすみ:モードの切り替え

物語を読むのが好きです。
物語を書くのも好きです。
でも、実は、両方を並行して進めることは苦手です。

なるべく、通勤電車の中では「読む」モード、帰宅したら「書く」モード、と、
切り替えようと思っているのですが、うまく行くときも、行かないときも。
読んでいる物語が気に入れば気に入るほど、本を開いていないときでも、
「読む」スイッチがONになったまま戻らないことも、しばしば。
逆に、何か書いている途中だと、電車に乗っても、本を開く気分になりません。

ものを食べながら喋ることはできない、というのに似ているような気がします。
読んでいるとき = 食べているとき。
書いているとき = 話しているとき。
なのかな。
ゆっくり食べながら、合間合間に、ゆっくり話せたら、いいと思うのですけれど。
ほかの書き手さんたちは、どうなのかなあ。

今、(遅ればせながら)辻村深月さんの「ツナグ」を読んでいるところです。
生きているひとと亡くなったひとを繋いでくれる、心に響く物語です。
もうすぐ読み終わるので、そしたら次の本は我慢して積んでおいて、
「書く」モードに切り替えるので、ちょっとだけ待ってください。

・・・あ、でも、たぶん、日曜に「美術館で謎解き」したら(エジプト展も見て来るよ)、
それについて雑談記事を書きたくなると思うから、予告記事はその次かな・・・。
ええと、今月中には、連載、始められるようにしますね。

☆~人気ブログランキングの確認~☆

当ブログはサイドバーに目次を置いているので、サイドバーにあまり多くのブログパーツを設置すると、とても見づらくなってしまいます。

そこで、人気ブログランキングの状況確認用ブログパーツは、サイドバーでなく、この記事に置いておくことにしました。
気になるときだけチェックできたら、それでいいですよね、ということで。

はい、ただいまのランキング状況は、こんな感じですよ~。

ひとやすみ:夏休みの報告

一週間、ネット活動の大部分をお休みさせていただきました。
今朝から復帰しています。
そして今は通勤電車の中…。

夏休みのイベントとしては、夫の実家に帰省して、いつもどおり、気の利かない嫁っぷりを発揮してきましたsweat02
あとは今度の日曜日、友達と「夜の美術館で謎解き」イベントに行ったら、今年の夏休みは終了かなー。

今夏のテレビは、今のところ、アニメ「残響のテロル」が一番のお気に入り。
ネットワークゲーム(PSO2)は、大型アップデートを待ちながら、ぽつぽつと遊んでいます。

というわけで、お休み中、創作活動には一切かかわりませんでしたが、
次作はたぶん、セレンがメインの、少し暗い雰囲気の、「笑わない娘」になると思います。
これから書き始めるので、もうしばらくお待ちください☆

こぼれ話:部屋割り

「朝の鈴」では、ゼラルドが、フィリシアと同じ部屋で休んでいいものかどうか悩む場面があります。
では、普段の彼ら(フルート、フィリシア、セレン、ゼラルドの4人)は、どんな部屋割りで宿屋に泊っているのでしょうか?

宿泊にかかわる描写は、いろいろなお話にチラチラ出て来るので、そこから推測する楽しみもあると思います。
逆に、気にならなければ気にしなくていい部分でもあります。
とはいえ、中には、もう少し知りたいと思う方もいらっしゃるかもしれないので・・・
「民間伝承を繋ぎ合わせてこの冒険譚を編んでいる、民俗学者の雪村」的な視点から、少しお話ししてみようかな、と思います。
異論は大いに認めるし、その異論は各々すべて正しい、ということを踏まえたうえで、興味のある方は、さらりと気楽に読んでみてください。

冒険譚の中には、「大きな宿屋」に言及しているお話もあれば、「小さな宿屋」に言及しているお話もあります。
それぞれのケースの部屋割りについて、説明してみようと思います。

まず、「大きな宿屋」の場合。
この場合、宿はおおまかに二つのタイプに分かれて、「供を連れた貴人が宿泊できるような、ランクの高い宿屋」である場合と、「大部屋から小部屋まで備えている、大人数を収容できる宿屋」である場合があります。
「大きな宿屋」であれば、タイプが前者であっても後者であっても、空き状況さえ許すなら、4人は4部屋を取って、別々に休んでいます。
ツインルームしかなくても、1人1部屋を占有します。空き状況に余裕がないときのみ、フルートとセレンが相部屋にすることがあります。
また、これらの「大きな宿屋」には、食堂の他に、談話室、遊戯室などが備わっていることがあり、起きているとき、仲間同士、または他の宿泊客と、交流して過ごすこともあります(ゼラルドはあまり顔を出しません)。

次に、「小さな宿屋」の場合。
タイプとしては、おおまかに、「大部屋ひとつで、宿泊客全員が食事して寝る」場合と、「普通の家の、空き部屋2つ3つが、宿泊場所として提供されている」場合があります。
前者のタイプであれば、いやおうなく皆で雑魚寝です(ゼラルドはどこかに消えちゃうこともあります)。
後者のタイプであれば、まずフィリシアに1部屋を与え、あとは部屋数に応じて残りの3人が調整します。もう2部屋あれば、1部屋をゼラルドが使って、もう1部屋をフルートとセレンが使います。部屋が足りなければ、誰かが他所に移ります。
ちなみに、「小さな宿屋」の場合は、素泊まりになることも多く、そうすると食事はどこかで調達してくる必要があります。

そして、「大きな宿屋」でも「小さな宿屋」でも、(大部屋以外の)部屋1つしか空きがない場合。
その部屋は、フィリシアの意思に関係なく、フィリシアに与えられます。ツインルームであっても、誰も同室にはなりません。
護衛として、ふつうはフルート、状況によりセレンが、フィリシアの部屋の「外で」待機します。残りは他所に移ります。

・・・と、だいたい、こんな感じです。
つまり、原則として、「フィリシアには1部屋を割り当て、誰も同室では休まない」わけです。
「朝の鈴」でゼラルドが戸惑うのも、まあ無理はない、です。

宿泊に関しては、これからも、お話の中に記述が細切れで出て来ることが多いと思います。
気が向いたときには、「宿屋のタイプはどれで、部屋割りはどうなってるのかな」などと想像してみてくださいwink

作者より:「朝の鈴」 & 夏休みのお知らせ

タイトルは、あれこれ考えましたが、結局、「これだ」というのを思いつくことができず。
第一候補は「目覚めの鈴」でしたが、ホラーっぽく見えるおそれがあったため、「朝の鈴」としました。

内容的には、もう少しフィリシア視点を混ぜ込みたかった気もしますが、これはこれで。
おそらく、フィリシアはセレンから、「ゼラルドと同じ部屋で休まないように」と言われています。
あまり気にしていないようですcoldsweats01

***

話は変わって、夏休みのお知らせです。
2014/8/11(月)~8/17(日)の1週間、ちょっぴり夏休みモードに入ります。
お気に入りサイトさんの巡回応援はお休みします(ごめんなさい)。
ブログの更新は、何か小さな雑談記事になると思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

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朝の鈴(04)

 陽光の加減からすると、いつもと同じように、彼はだいぶ早い時間に目が覚めたようだった。体を起こして、隣のベッドを見れば、フィリシア姫はまだぐっすりと眠っている。風がよく通る部屋で、比較的涼しい夜を過ごせたのも幸いだったかもしれない。起きているとき笑顔を絶やさない優しいおもてには、眠っている今も、ほんのりと微笑が浮かんでいる。
 心和むその寝顔を、しかし、ずっと見ていては礼儀に反するというものだ。ゼラルドは、姫君を起こさぬように気を付けながら身支度をして、少しの間、部屋を出ていることにした。すでに魑魅魍魎の心配はない時間だし、万一、何者かが侵入を試みても、結界が知らせてくれる。姫君が起きて身なりを整え終わった頃を、見計らって戻って来よう。
 黒髪の若者は、小さな町を、ゆっくり一巡りした。町は、日が昇るにつれて活気づいていき、店を開けたばかりのパン屋で、彼は二人分のパンを買った。
 そろそろ良いだろうと思って部屋に戻ると、予想に反して、フィリシア姫はまだ眠っていた。そういえば、ときどき彼女は朝が遅い、と、彼は思い至ったが、前日に大きく寄り道してしまったこともあるし、そろそろ起こして、出発の準備をしたほうが良い。
「フィリシア」
 彼は戸口から呼びかけてみたが、変化はなかった。かと言って、就寝中の女性にあまり近づいては失礼だし、大声を出すのも気が引ける。さて、姫君という生きものを起こすには、どうするのが正しい手順だっただろう。
 首を傾げて考えて、ゼラルドは思い出した。故国の城の庭園のあずまやで、疲れていた妹が、うとうとと眠ったことがあった。そのときに妹の言った言葉。「そばにいてくださいね、お兄さま。もし、わたくしが目覚めなかったら、これを」。
 渡されて、結局使わず、返そうとして拒まれた、薄紫色の丸い鈴を、彼はまだ、まじないの道具と一緒に持っていた。取り出してみると、鈴は繊細な響きで鳴った。シャラン。
 あのときも調べた鈴を、念のためにもう一度調べたが、何の術もかかってはいない。周りの部屋に聞こえないように結界を張り直してから、ゼラルドは鈴を振ってみた。
 シャラン、シャラン、シャラン、シャラ、シャラ、シャラ・・・。
 フィリシアが身じろぎして、ゆっくりと目を開けた。
「きれいな音・・・。何の音?」
 体を起こした、興味深げな姫君に、ゼラルドは鈴を掲げてみせた。シャラン。
「ローレインの鈴なの? 普通の鈴と、音が違うわ。すてきな音・・・」
 うっとりと、姫君はこちらに向かって両手を伸ばす。ゼラルドは渡すのをためらった。
「すまない。これは、妹からもらった物だから・・・」
 あとはうまく説明できない。フィリシアは、はっとしたように手を引っ込めた。
「ごめんなさい。大切なものなのね」
「大切なもの・・・」
 ゼラルドは、驚いて鸚鵡返しに繰り返した。フィリシアは気づかずに、
「起こしてくださって、ありがとう。あの、ごめんなさい、すぐに着替えるから」
「ああ」
 ゼラルドは部屋を出た。
 彼は、しばらく薄紫色の鈴を眺めていた。そして、大切に、しまった。

(完)

朝の鈴(03)

 無防備に眠りこんでしまったフィリシアを見て、黒髪の若者は部屋の戸口まで後退し、しばし悩んだ。ふだんなら速やかに部屋を出るところだが、守り手が自分しかいない今、許されるなら、同じ部屋にいるほうが警護は易い。
 それより何より、ベッドが二人分あることを喜んで眠りについたフィリシアに対して、相部屋を辞するのは、却って礼を失するような気がした。さんざん逡巡した末、とどまろう、と、ゼラルドは心を決めた。
 部屋全体を結界で覆ってから、ゼラルドは自分も、疲れた体をベッドに横たえた。近くに人がいるとよく眠れない性分だったが――それだけはセレンと同感だ――、馬に乗るのも歩くのも、慣れたとはいえ得意ではないのだから、少しでも休んでおいたほうが良い。
 姫君と同じ部屋で休んだと、フルートが知ったらどのような顔をするだろう、と思うと、なんだか複雑な思いがしたが、べつに報告する義務もない。そもそも、フルートだったら、このようなとき、どう対処するのだろう・・・。そのようなことを途切れ途切れに思いながら、うつらうつらと、彼は浅い眠りに落ちた――
 ――故郷にいる義妹の夢を、見た。いつもなら、夢にユリアが出て来ただけで、はっとして目が覚めるのだったが、今日は違っていた。
 夢の中で、黒髪の兄妹は、馬を並べて、どこかの街道を一緒に旅していた。二人とも、黙して語らなかった。照りつける太陽の下、ゼラルドは妹のために、休むことのできる場所を探していた。じきに、大きな木陰があった。
 ゼラルドは先に馬から下り、妹に手を貸してやりながら、ふと、ユリアは馬に乗れただろうかと違和感を覚えた。よくよく馬上の人を見直してみれば、妹だと思っていたのはフィリシア姫で、ゼラルドの手を借りて地上に降り立ち、「ありがとう」と微笑んだ。なぜユリアだと思っていたのか、ゼラルドは夢の中でいぶかりながら、ほっと安堵した。
 フィリシアに何か声をかけようとしたとき、背後から、「お兄さま」と呼ぶ声がした。ゼラルドは振り向きながら、素早く臨戦態勢を整えた。そこにユリアがいた。黒い髪、白い肌、薔薇色の唇。義妹はにこにこ笑いながら、甘えた声で、問うた。「その女は、誰ですの?」
 答える時間など与えられていないと、ゼラルドは知っていた。可能な限り迅速に守護結界を展開した直後、フィリシアを目がけて、恐ろしい呪力の塊がぶつかって来た。もう少し時間があれば違う対処もできたかもしれなかったが、結界で跳ね返すのが精一杯だった。
 跳ね返された呪力は、そのままユリアに向かった。返されるなどと考えもしていなかったらしいユリアは、身を守ることもせず硬直していた。なんとかして妹をも守ろうと、ゼラルドは必死に呪文を唱えた。少しだけ勢いを削がれ、少しだけ向きを変じた呪力がユリアにぶつかると、ユリアは目を閉じて、その場に倒れた。ゼラルドが駆け寄って助け起こすと、苦しそうな息の下から、
「もし、わたくしが戻らなかったら――」
と、言いかけて、気を失った。呼吸は止まっていなかった。良かった、と兄は安堵した。
 だが、どこかで見た光景だ。と思ったとき目が覚めた。窓から朝の光が差し込んでいた。

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