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ひとこと通信欄

  • (2017/12/11朝)また休日出勤などあったので、本編進んでおりません…。ふえーん…。

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2014年9月

黄昏色の旋律

 町のあるはずの場所には、廃墟しかなかった。地図が古かったのだ。丁寧に情報を集めながら進んでいても、時には、こんなこともある。
 すでに、日はだいぶ傾いている。秋の日が暮れるのは早いから、一行は速やかに決断しなければならない。このまま廃墟で夜を過ごすか、近くに町のあることを期待して先に進むか。彼らはいったん、馬を下りて相談する。
「この先を見て来る」
と、金髪の王子は、地図から目を上げて、東へと伸びる道を指した。
「地形から見て、町が移っているかもしれない」
「いや。おそらく、近くに人は住んでいないだろう」
と、黒髪の若者が言う。手の中に聖札の束を収めており、何枚目かをめくりながら、
「ただ・・・別の廃墟なら、ありそうだ」
「では、それを見て来る」
 フルート王子は、トンと地を蹴って愛馬に飛び乗った。
「使えそうなら、合図するから来てくれ」
 言いながら、すでに馬の腹を蹴って、駆け出している。
「・・・こういうときに返答を確かめないのは、彼の改めるべき点ではないだろうか」
 つぶやきながら聖札をしまいこむゼラルドに、
「ひとりごとで嫌味を言うほうが、よほど改めるべき悪癖だと、ぼくは思うけれどね」
 セレンが応じて、月色の長い髪を束ね直す。また口論になるのだろうかと、フィリシア姫が、やさしいおもてに困ったような表情を浮かべる横を、つめたい秋の風が通り過ぎて、豊かな青い髪を揺らす。
 幸い、たいした言い争いにはならないうちに、王子の「合図」が聞こえて来た。暮れかけた空を駆け昇る、鮮やかな笛の音色。どうやら向こうの廃墟のほうが、夜を過ごすのに適しているらしい。

 めいめい、馬に乗って移動を再開した。笛の音は、いつものように、つい聞き惚れてしまう美しい曲を奏でている。しばらくは、みな口をきかずに耳を傾けていたが、ふと、フィリシアが言った。
「なんだか、今日は、すこし寂しくて悲しい曲ね・・・」
「そうだね」
と、セレンが肯定した。なにげない調子で続けて、
「秋の夕暮れに、ひとりで廃墟に立っているのだから。まあ、そうとわかっていても、聞いているうちに何となく、自信がなくなるけれど」
「自信?」
「やがて王となるひとの孤独を、ぼくたちは少しでも和らげることが出来ているのかな?」
「出来ているわよ!」
 驚いたようにフィリシアは言って、それから、言い直した。
「他の誰に出来なくても、あなたには出来ているわ。そうでしょう?」
 セレンは笑った。本当は、この姫君も、フルートにとって特別な存在だ。
「そうだね、言ってみただけ。もうひとつ聞いてもいい?」
「なあに?」
「フルートがこういう寂しい曲を奏でていても、『彼らしくない』とか、『寂しいはずがない』とか、言わないのは、どうして?」
 フィリシアは、目をぱちくりさせた。
「どうしたの、セレン? だって、あのひとは今この曲を吹いていて、私たちはそれを現実に聞いているのだもの。らしいも、らしくないも、本当も嘘も、あるはずがないわ」
「ふふ、ごめんね。つまり、だからこそ、あの王子様は、こんな秋の日の夕暮に、廃墟でひとり、ああいう寂しい悲しい曲を、安心して吹いていられるのだと思うよ」
 フィリシアは、大きな青い目をぱちぱちさせて、しばらく黙って考えてから、そっと尋ねた。
「・・・私も信用してもらっている、ということ?」
 セレンは笑って、答えなかった。それでも王女は満足して、目を伏せ、馬上に揺られて、あとは何も言わずに、笛の音に耳を傾けていた。

 建物の壁にもたれて笛を吹いていたフルートは、仲間たちが到着するのを見て、曲を終わらせることにした。
 じきに日が沈む。群青色の夜空には、細い三日月が浮かんでいる。
 旅を始めてから、すでに半年余りが過ぎており、目的地までは、あと半年もかからない。
 今はただ、今という時間を大切にしよう。明日を恐れまい。
 そう思いながら、彼は静かに、即興曲を閉じた。

(完)

予告:「黄昏色の旋律」

たぶん1ページに収まるだろう、短いお話になる予定です。
例によって、書いては消し、書いては消ししながら、少しずつ進めています。
旅のみんなの、日常のワンシーンになりそうです。

あさって火曜日の更新を目指していますが、ちょっと都合があって、遅れるかもしれません。
だったら最初から、雑談記事をもうひとつ挟んでおけばいいじゃない、とも思ったのですが、
「あさって更新できますように」という願いをこめて、予告は出しちゃうことにしました。

どうぞよろしくお願いいたします。

まだやすみ:「ミステリー・ザ・サード2014」

冒険譚は、まとまったストーリーが思い浮かばないので、次回は1ページの掌編にしようかな?

と、見通しを述べつつ、まだ、ひとやすみ。
今日は謎解きイベントの話。

個人的に、今秋の謎解き(ドラマ系)のメインは、これです↓
ミステリー・ザ・サード2014 「マーダー・コミュニティ~我らが街の悪夢」
http://www.epin.co.jp/m3/murder/
場所は、東京都渋谷区代々木近辺。
チケットが1万1千円もするので(軽食込み)、二の足を踏みそうになるけれど、
イーピン企画が主催するイベントは、いつも丁寧に作られているので、
そこを信じて、お小遣いをはたいて、友達と二人で申し込む予定です。
希望の日程が取れるといいな。
(追記:2014/11/1 参戦しました。記事は→こちら。)

三重県伊賀市の「幻の忍者殺人事件」は、お値段がお手頃で、
忍者好きな別の友達を連れて行ってあげたいけど、ちょっと遠い…。
http://www.igaueno.net/mistery/

タカラッシュ主催の、神戸の謎解き(パズル系)「インフェルノ・コード」も、
お値段お手頃のうえ「満足できなければ全額返金」らしいけれど、ちょっと遠い…。
http://blacklabel.takarush.jp/event/inferno/KFM/top.html

最近、大人向きにも子供向きにも、謎解きイベントが増えている気がします。
開催地域も、だんだん拡大している気がします。
ご近所で謎解きがあったら、(お財布と相談しながら)ぜひ参加してみてくださいねhappy01note

ひとやすみ:選曲例(2)

前回の「選曲例(1)」から、ずいぶん間が空いてしまいました。
「選曲例(5)」までやるつもりなのですが。

♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:

クラシック。
エルガー「愛の挨拶」
この曲の愛らしさが分かったのは大人になってからでした。
学生の頃は、単に、地味な曲だと思ってました。エルガーさん、ごめんなさい。

♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:♪:;;;:

歌。
Choucho「secretgarden」
プロモーション映像しか引っ張ってこられなかったけど、この歌、好きです。

例によって個人的な(非公式な)選曲なので、「こぼれ話」ではなく「ひとやすみ」に分類しますねconfident

こぼれ話:異説「お姫様と猫」

次に書くお話が、まだ決まりません。
最近の並び順のバランスを考えると、フルートがメインのお話がいいかな、と思いつつ。
まだ、どうとも申し上げられない状態です。

そんなわけで、今日も「こぼれ話」です。
以下、「お姫様と猫」に関するネタバレがありますので、未読の方はご注意ください。
(全3回の短いお話なので、ささっと読んで戻って来られても良いかもしれません。)

---

さて、「お姫様と猫」は、猫に偏見を持つ人達が、白猫の魔法で懲らしめられ、白猫の寛恕により魔法を解かれるお話です。
例によって、これは、「民俗学者の雪村が、土地に伝わる様々な伝承バリエーションの中から、これだと思うものを拾い集めて編んだ話」(というイメージ)であり、伝承の取捨選択によっては、別バージョンにもなりえるお話でした。

別バージョンによれば…。

魔法をかけられた人たちは、もともと白猫を飼って同行させており、黒猫に対してのみ偏見を抱いていました。街に着いたとき、黒猫を見かけたため、石や棒で追い払いました。
黒猫は、魔法を使うことができたため、魔法によってその人々を懲らしめました。また、その魔法を解いてやる気はありませんでした。
しかし、主を慕っていた白猫は、魔法に関する情報を収集し、魔法の解き方を知りました。そして、折よく出会ったフィリシア姫に、解呪を頼みました。
また、白猫曰く、「猫はみな人語を解するし、話せる猫も多いけれども、人間には秘密にしている。だから、私が喋れることも、主人には内緒にしておいて」。
フィリシア姫の助力によって魔法が解けた人々は、白猫と共に去っていきます。

…というお話になります。
物語の構成から見ると、こちらのほうが、筋立てが整っているような気もします。

が、作者は、「白猫は良い猫で、黒猫は悪い猫」という役割分担が気になりました。
それよりは、「魔法をかけたのも、魔法を解くように計らったのも、同じ白猫」という説に票を投じたかったのです。

そのような経緯により、「お姫様と猫」は、現在のような形で発表されました。
別バージョンのほうがお好きな方は、読み替えてくださっても、問題はありません。

こぼれ話:異説「笑わない娘」

「笑わない娘」は、主要な登場人物が皆、笑顔になるエンディングを迎えることができました。
とはいえ、書いている途中では、別の展開、別のエンディングになる可能性もありました。
別バージョンの中で、最も有力だったのは、次のようなストーリー展開でした。

---

心を閉ざしたリジルに対する、セレンのアプローチの仕方が少しだけ異なった結果、リジルはセレンに恋愛感情を抱きます。
彼女は、編んだ衣を火にくべますが、それは自分の行為を悔いたからではなく、彼女の心が過去の恋人から離れ、呪いの目的を失ったからです。
リジルは口をひらき、「それじゃあ、あなたが私を幸せにしてくれるというの」と問いかけますが、セレンは否定します。そのため、リジルに笑顔は戻りません。
天候回復後、セレンは旅だち、仲間たちと合流します。すると、ゼラルドが、セレンの背後に見えた「非常に強力だが、生まれてまもない呪い」を祓ってくれます。
セレンは、呪いをかけた者の詳細を知りたがりますが、「男か女か、若者か老人かは、はっきりしない」と言われます。
セレンを呪ったのはリジルかもしれないし、年老いた魔法使いかもしれない。いずれともつかぬまま、物語は終わります。

---

作者は、公式版がハッピーエンドを迎えられて良かったと思っていますが、もし、異説のほうがドラマティックで好きという方がいらしたら、そちらを採用していただいてもかまいません。
「様々な伝承が残っている中から、これと信じるものを採用する」というスタンスで冒険譚を綴っておりますので、読者の皆様もまた、信じたい物語を信じてくださればよいのだと思っていますbookshine

ひとやすみ:ブックカバーを作りました♪

長いこと、人から借りたままになってしまった本を返そうと思って、お詫びにブックカバーを作ってみました。(文庫本用)

家にある端切れの中から可愛いのを選んで、こんな感じになりました。

1
開いたところは、星柄のカラーゴムをベルトにしています。
どう見ても折り返し部分を長くしすぎたsweat02 けど、なんとか収まっているので、直さない!
(ちなみに、入ってる本は借りた本ではなく、うちの本です。借りた本を入れても似た感じ。)

2
うしろはポケット式。こんなふう。

3
・・・というわけで、よーく見ると、ちょびっと失敗したり、ちょこっと手抜きしたりしていますcoldsweats01
が、そのへんは分かってもらえる仲だと思っているので。
不器用なりに真心こめて作ったので、笑って受け取ってもらおうと思います!

---

追記:
この記事を公開したあと、「ブックカバーの前うしろが逆ではないか」と、実家からメールが。
そ、そうだっけ。
でも、上下の区別のない柄で作ったから、逆にしても大丈夫。良かったー。

作者より:「笑わない娘」

とてもセレンらしい話だと思っています。
ちゃんと彼らしさを描けていれば良いのですが、どうでしょうか。

「喋れるのに、喋らない」のも、「笑えるのに、笑わない」のも、難しいことだと思います。
なぜ喋らないのか/笑わないのかを、説明してはいけないという条件付きだと、特に厳しそうです。
鋼の意思をもって思いつめたリジルが、憎しみから解放されて、良かったと思います。

さて次は、誰の、どんなお話を書こうかな~confidentnote

→ 目次に戻る

笑わない娘(06)

 窓をいっぱいに開け放って朝の空気を入れると、澄んで晴れわたった秋の空から、穏やかな陽光が室内に降り注いだ。つめたい風も入って来るが、前日まで嵐に降り込められていた者たちにとっては、ただただ、この光の明るさが懐かしい。
 ジャンが村の見回りから戻って来て、朝食になった。みんなで、はちみつパンを食べた。
「うまいだろう!」
と、ジャンが満足げに言うと、リジルは食べながら、静かに涙を流した。昨日から、リジルはよく泣いてジャンを慌てさせており、セレンはジャンに、あまり気にしないようにと助言していた。
「それで、あんたはどこまで行くんだって、セレン」
 ジャンに問われて、セレンは街の名を答えた。
「友人たちと待ち合わせているので、すぐに発ちます」
「そうか」
「女のひともいるの?」
と、リジルがそっと聞いた。なんとなく、聞いてみたかったのだ。
「二人いるよ」
「どちらかが、あなたの恋人なの?」
「違うよ。彼女は、ぼくなんかの手の届かない、高貴なお姫様だから・・・」
 セレンは微笑して、目を伏せた。片方に想いを寄せているのが明らかだった。
「へえ。あんたも相当、高貴な人のように見えるけどな、セレン」
「綺麗なひと?」
「うん」
 言ってから、セレンは気が付いたように目を上げて、リジルに笑いかけた。
「とても綺麗なひとだけれど、でも、君がもう少しふっくらしたら、君のほうが可愛らしいと思うよ」
「・・・適当なことを言ってるでしょ」
「本当だよ」
 セレンはにこにこしている。リジルは戸惑いながら、嘘に決まっている、と思ったが、嬉しかったし、なんだか可笑しかった。なぜか、また涙がこぼれた。
「・・・ありがとう」
「良かった」
と、セレンは言った。しみいるように優しい口調だった。
「やっと笑ってくれたね、リジル」
 ――そうして、若者は旅だっていった。彼の姿が見えなくなるまで、ジャンとリジルは、ずっとずっと、見送っていた。二人とも、涙ぐみながら、笑顔で。

(完)

笑わない娘(05)

 あやうく、リジルは、声に出して答えてしまいそうになった。――あたしの幸せは、もう無くなってしまったの。もう、どこにも無いの。だから。
 セレンは、「静かに」という仕草をした。リジルははっとして、開きかけた口をつぐんだ。そう、一言も口をきいてはいけない。この人は本当に、あたしの味方をしてくれるんだ・・・。
 セレンは、労わるように言葉を継いだ。
「ごめんね、答えにくいことを訊いてしまって。いいんだ。君が、今日よりも明日、明日よりもあさってを、君の望むとおりの1日に変えていくことができるなら。ね?」
 微笑みかけてくれた、その優美な笑顔に思わず見とれながら、リジルは、夢でも見ているような気持ちになった。男のひとなのに、なんだか女神様のようだ、と思った。さらさらと流れ落ちる月色の髪。長い睫毛の下の、優しい緑の瞳。リジルの願いを、一緒に祈ろうと言ってくれた。でも、あたしの願いは。あたしの願いは・・・。
 リジルの瞳が揺れた。セレンは片手をあげ、乙女の柔らかな栗色の髪を撫でて、言った。
「かわいそうに」
 リジルは、はっとして大きく目を見開いた。心の奥で閉ざした扉に、何かが届いて、細くまっすぐに差し込まれていた。ゆらりと、目の前がかすんだ。どうして。だめ。だめだ。だって、あたしは・・・。
「泣いていいんだよ」
 そう言われて、気がついたときには、リジルの両の頬を、大粒の涙がぽろぽろと流れ落ちていた。喋らなくなってから、「かわいそう」だと何度も言われたけれど、こんなに素直に聞いたのは初めてだった。そうか、あたし、かわいそうだったんだ・・・。
 自分が「かわいそう」なことを受け入れて、やっと気付いた。リジルは、編んでいた服から指を外した。その意図を察したかのように、セレンが立ち上がって、脇にどいた。リジルは、かがんで、この1年間大切に編み続けて来たものを、ぜんぶカゴから出し、まとめて、暖炉の火の中に放り込んだ。
 草の燃える匂いが広がった。リジルの1年間が焼けて行く。でも、そう、何が一番「かわいそう」かと言ったなら、なりふりかまわず他人の不幸を一心不乱に願い続けた、そのことが一番みじめだった。そんなことにも気づかない自分が、一番「かわいそう」だった。
「リジル。それで良かったの?」
「・・・ありがとう」
 乙女は、深々と頭を下げた。1年ぶりに発した声は、ひどく掠れていた。
「無理に喋らなくて大丈夫だよ。ああ、そうだ」
 セレンは台所に行って、はちみつの瓶を持ったジャンを連れて戻って来た。
「おまえ、喋れるようになったって、本当か?」
「ジャンおじさん」
「わっ」
「たくさん心配をかけて、ごめんなさい」
「・・・うん。うん、いいんだ。ほら、はちみつだぞ。のどにもいいだろう」
 その晩、リジルは夢を見た。夢の中で、あの不気味な魔法使いが家に入って来て、暖炉の灰をかき混ぜて嘆いたあと、出て行った。朝、リジルが目覚めると、嵐は止んでいた。

あと1回あります。

笑わない娘(04)

「おまじないが大仕掛けなのは、それだけ大きな願いごとがあるからなんだろうね」
 セレンの言葉を、リジルは無視して、黙々と編みものを続けている。
「誰の服を編んでいるのか、当ててみせようか」
と、セレンは穏やかに続けた。
「きみの好きなひとの、奥さんになったひと。どう、合ってる?」
 リジルの手がびくりと跳ねて、編み目を落とした。急いで編み目を拾い直して、何事もなかったかのように編み続ける彼女の表情は、明らかに、一層こわばっていた。
「きっと君は、その女性を・・・呪っているんだ?」
 風の音も、雨の音も届かない、重たい沈黙が落ちた。
 リジルは無視して、ただ必死に、編んで、編んで、編んだ。
 セレンはリジルの傍らのカゴに目を移し、しばらくして、付け加えた。
「赤ん坊の服もあるのか。・・・その子供のことも、呪っているんだ?」
 リジルは無視した。編んで、編んで、編んだ。
 ジャンおじさんが、早く台所から戻って来て、この人の注意をそらしてくれればいいのに、と、リジルは思った。――いいえ。何を言われたって、負けたりしないわ。もうすぐ、あたしは編み終わる。もうすぐ、あの魔法使いが来る。1年間の約束を、あたしは守り抜いてみせる。あの女と、去年生まれたという赤ん坊を、呪い殺してみせる。それまで、どんなことを言われたって、絶対に、くじけたりしない。
 セレンの声は、飽くまでも、物柔らかだった。続く言葉は、こうだった。
「君の願いが、叶ったら、いいね」
 リジルは無視した。編んで、編んで、編んで・・・、はたと、手が止まった。今、何て?
 セレンは、ゆっくりと、優しく、繰り返した。
「君の願いが、叶ったら、いいね」
 頭の中で何度か言葉を反芻したあと、リジルは耳を疑って、思わず顔を上げ、初めて、この旅人の顔を正面から見つめることになった。目と目が合うと、若者は優美に笑った。
「不思議なの? でも、だって、君はとても一途だもの。早くに親を亡くして、けなげに生きて、ひたむきな恋をして。そして、とても頑張ってる。しゃべることも笑うこともなく1年を過ごすなんて、並大抵の決意ではないよね。いろいろ酷いことだって言われただろうに。君はその困難を乗り越えて、トゲだらけの草を編み続けて、もうすぐ、編み終わるんだろう? それなら、君だって、幸せになっていいはずだ。君の願いが叶うことを、ぼくも一緒に祈ろう。大丈夫、君ならきっと、思いを貫いて願いを叶えることができるよ」
 リジルは混乱した。若者は、リジルのそばに来て、床に膝をつき、リジルの傷だらけの両手の上に、自分の両手を重ねた。深い緑色をした瞳が、リジルを見上げた。
「ひとつだけ教えて、リジル。頷くだけでいい。その願いは、本当に、君を幸せにしてくれる?」
 リジルは、半ば茫然と、見つめ返した。あたしの幸せ・・・?

笑わない娘(03)

 男は、言葉を切って、旅人のほうを見た。真面目な顔で、尋ねた。
「あんたは、あの子が編んでいる物を見たか?」
「いえ、ちらりとしか」
「そうか。材料はな、あの子が村はずれの墓地から草を刈って来るんだ。トゲがたくさんあるから、いつも指を怪我してる。そうして、喋ることも笑うこともなく、毎日ああして、ひたすら編み続けてるんだ。どうやら、もうすぐ編み終わりそうなんだがね、俺は、なんだか怖くてよ。あのときの気味悪い爺さんが、明日にでも再びやって来て、俺のかわいい姪っ子を、どこか恐ろしい所に連れて行っちまうような気がするんだ。
 なあ、兄さん。相談だ。あんたは剣も使えるようだからな。この嵐がやむまでの間だけでいい、何か悪いことが起こったら、俺の味方として、あの子を守ってもらえないか」
「・・・わかりました」
 セレンは戸惑いながら答えた。正直なところ、その不気味な爺さんとやらが再びやって来るかどうかについては懐疑的だったが、どのみち、嵐がやむまでは移動することも叶わないのだ。明日か明後日に嵐が過ぎ去るまでの間くらい、気休め程度でも、泊めてくれた家主の力になってやれたらいいと思う。
 セレンの返答を聞いて、男は表情をやわらげた。
「そうか、恩に着る。そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はジャンだ」
「セレンです」
「よろしく頼む、セレン。寝る部屋は、隣を使ってくれ。風の音がひどくて眠れないかもしれねえし、家もギシギシ言うけどよ、毎年のことだから、心配はいらないからな」

 吹き荒れる嵐は、翌朝になっても弱まることなく、ビュウビュウ、ドンドンと、窓や戸を打ち続けた。ジャンとリジルとセレンは、パンとスープの簡単な朝食をとり、そのあと、リジルは暖炉のそばで編みものを始めた。セレンは椅子をもうひとつ、暖炉の近くに持って行き、座って、リジルの様子を眺めた。栗色の髪をした娘の、華奢な手元をよく見れば、なるほど、ジャンがゆうべ言ったとおり、リジルの手指は傷だらけだった。
「何を編んでるんだい」
と、セレンは聞いてみたが、当然のように、答はなかった。
 セレンは、少しの間、考えた。故郷の都に女友達の多い彼は、このくらいの年の娘が、「何かを作る間、一言も喋らない」理由を、ひとつだけ思いつくことができた。1年も続けているとは驚きだけれども――
「ずいぶん大がかりな、おまじないだね」
 リジルの細い肩が、ぴくっと震えた。それでも手が止まることはなく、リジルは草を編み続けた。
 セレンは、編まれているものを観察した。ワンピースの袖部分を綴じ付けている、ように見える。目が詰まって、暗い緑色をした、リジルの指の血の染みたワンピース・・・。

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