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風に揺れる花の中で(トーナメント参加用)

どこまでも、どこまでも、見渡す限りの野原を、たおやかな白い花が埋めて、風にそよいでいた。やさしく青く晴れた空には、ちぎれた真綿に似た雲が、ゆっくりと流れている。
夢を見ながら夢だと気づくことは珍しかったが、あまりにも曇りなく心に沁みる光景だったので、彼は意識の片隅で、ああこれは夢なのだ、と理解していた。
野原の中にひとり立ち、さらさらと長い金色の髪をやわらかな風に任せて、彼は、これほど優美な夢の中になら、愛しいひとが訪れてくれないだろうか、と思った。

――夢の中で願うことは、夢の中で叶うことがある――。

少し離れた前方で、空気から溶け出すように、ふわりと。
そのひとは姿を現し、花の咲く野に降り立った。
ゆるやかに波を打つ、金を紡いだような髪。のぞく横顔の、雪のように白い肌。
うっすらと光り輝いているように見える姫君は、薄桃色の布を幾重にも重ねたような、ふんわりした長袖のドレスを着ていた。
いつものように、清らで、可憐で、瑞々しく麗しいその姿を。
いつものように、彼は、胸の奥深くに、大切に大切に刻み込んだ。

離れて見つめているだけで、幸せな気持ちに満たされた。だが、ミルガレーテ姫はあたりを見回し、セレンに気づくと、驚いたように一歩あとずさった。
思わず、セレンは呼びかけていた。できるだけ相手を怯えさせないようにと、願いながら。
「どうか、行かないでください」
「は、はい」
ためらいがちに応じて、姫君は心細そうに、胸の前で両手を組み合わせ、何かを待った。
――自分の言葉の続きを待っているのだ。と、セレンが気づくまで、少しかかった。そうか、引き止めたからには、話があると思われて当然だ。だが、彼はただ、姫君の姿をもっと眺めていたいだけ。いったい何を話したら良いのだろう。
常日頃、すらすらと口にできる社交辞令の挨拶が、こんなときには、ひとかけらも出て来ない。何か言わなくては、と焦る心だけが、空回り、空回り・・・。
結局、先に口を開いたのは、姫君のほうだった。おずおずと。
「あの・・・セレン?」
「はい」
「わたくしが、会いたいと願ったから、わたくしの夢の中においでくださったの・・・?」
「・・・いいえ。ぼくが会いたいと願ったから、あなたがいらしてくださったのでしょう」
「でも、ここは。この野原は」
姫君は、野原を見渡してから、セレンに視線を戻し、すこし緊張をほどいて、微笑んだ。
「わたくしが、いつも夢の中で訪れる場所です。だから、これは、わたくしの夢です」

否、これは自分の夢だ。
と、セレンは知っていたが、姫君の明らかに安堵した様子を見れば、異議など唱えよう筈もなく。自分ひとりに向けられた微笑みに、心はふわふわと舞い上がった。
もちろん、夢のからくりには気がついていた。つまり、夢の中だから、「こうであればいい」と願う気持ちが、見たいものを見せ、聞きたいものを聞かせているのだ。
そう、夢だとわかっている。でも、だからこそ。このひとときだけ、願いの叶う幸せに溺れよう。
ミルガレーテは、ほんのりと頬を上気させ、白い花の中をゆっくりと近づいて来た。手を伸ばしてもわずかに届かないだろうあたりで、足を止め、はにかみながら言った。
「私ね。セレンと、こうしてお話、してみたかったの」
鈴を振るような心地よい声に、セレンはうっとりと聞き惚れる。しかも、「お話、してみたかった」とは! 夢ではあっても、身に余る光栄だ。姫君は、さらに続けた。
「夢の中でお話できたから、夢から覚めても、勇気を出して、お話できるかしら」
「できますよ、きっと。ぼくも、あなたとゆっくり話せたら嬉しいと思っています」
セレンは優しく請け合った。彼自身が、この夢を見たことで励まされる気がした。ひとり静かに想っていることを、許されたような気がした。
しかし、おそらくは、あまりにも幸せな気持ちに満たされた反動で、彼は不意に、怖くなった。永遠を生きる姫君と、いつかは道を分かつときが来るのだと、鉛色の予感がささやいた。
「ミルガレーテ。臆病なぼくのために、約束してくれませんか」
「約束?」
「いつかあなたが、ぼくの前から姿を消す日が来たら。最後に立ち去るときに、そのことを教えてください。愚かなぼくが、あなたの訪れを待ち焦がれて狂うことのないように」
姫君は、びっくりしたような顔をして、
「私より先に、セレン、あなたのほうが、私を置いて、行ってしまうでしょう?」
「永遠を生きることはできなくても、この魂はずっと、あなたのものです」
静かに言い切ったセレンを、姫君は、じっと見つめた。それから、うつむいて言った。
「・・・わかりました。約束します」
ふと、セレンは、姫君がこのまま消えてしまうのではないかと思った。

――夢の中で恐れたことは、夢の中で実現する――。

気がつけば、姫君は、来た時と同じように、空気に溶けるようにして消え去っていた。見えるのは、風にそよぐ白い花ばかり・・・。
どこまでも花の咲く野にひとり残されると、途方もなく大きな喪失感が訪れた。覚えず、涙がこぼれた。

――頬を伝う涙の感触に、セレンは目覚めた。
潤む視界に、陽光の差し初める明るさを感じた。
夢で見た、どこまでも続く白い花は、くっきりと胸に焼き付いている。が、現実には、ここは、街道近くの小さな林の中だった。
木の根元に座りこみ、固い木にもたれて眠ったせいで、体がこわばっている。珍しく一人での野宿だったので、誰にも涙を見られなかったのが、せめてもの慰めだった。
幸せな夢を見たはずなのに、この喪失感は何なのだろう・・・。
苦笑しながら身じろぎしたとき、左肩の違和感に気づいた。なにげなく目をやって、セレンは目をみはり、しばし呼吸すら忘れて固まってしまった。
セレンの左の肩の下に、そっと頭をもたせかけて、ミルガレーテがすやすやと眠っていた。夢の中と同じように、薄桃色の長袖のドレスを着た姿だった。
動転したセレンの頭の中を、様々な思いがぐるぐると駆け巡る。
ここはまだ夢の中なのか? いや、そんなはずは。毛布をかけたほうが。どうして夢と同じ服を。というより、無防備に過ぎるだろう!
そう簡単に男を信用してはいけない。ことに自分のような。いや、自分だから良かったけれど。と、そこまで考えて、気が付いた。
そのとおり、セレンは、信用されたのだった。
半ば呆然としているセレンの目の前で、ミルガレーテは身動きして、目を覚まそうとしている。どうしよう、セレンはまだ身支度を整えていない、それでも、ああ、どうかどうか、この金色の小鳥が、目を覚ましても逃げないでいてくれますように。
祈るような思いで見守っていると、ミルガレーテは、金色の長い睫毛をあげて、何度かまばたきをし、セレンの腕から離れた。辺りを見回してから、セレンのほうを見上げ、目が合って、驚いたように、ひゅっと息をのんだ。
悲鳴をあげられてしまうのだろうか。誓って、何も不埒なことはしていないのに・・・?
セレンが固まっていると、幸い、ミルガレーテはゆっくりとまばたきを繰り返しながら、少しずつ落ち着いていった。時間はかかったが、怯えた様子は消えて、姫君は目を伏せ、恥ずかしそうに口を開いた。
「セレン。あなたが、会いに来てくださる夢を見ました」
セレンはどきどきした。まさか、同じ夢を見たなどということがあるだろうか? どうせ夢だからと、胸のうちを告白してしまったような気がするのだが・・・。
「約束を、しました。二度と会えなくなる日が来たら、それをお伝えすると」
間違いなく同じ夢だ。そして姫君は、それを姫君ひとりが見たのだと思っている。
やっとのことで、セレンは気持ちを立て直し、にっこり笑った。
「ありがとう、ミルガレーテ。でも、ぼくはまだ、あなたと共に日々を過ごしていたいな」
ミルガレーテは、視線を上げて、つられたように微笑んだ。
「私も、セレンといろいろお話をしてみたい・・・」
「では、今日は、人が通るところまで、ぼくと一緒に行きませんか」
「はい。喜んで」

いつか、約束が果たされる日は訪れるのだろう。だが、今ではない。
白い花咲く野で交わされた、それは、別れの約束。

(完)

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独立して読めそうな作品を選び、元は連載記事だったものを1つにまとめてみました。

約3,300字。

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