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(海を映す庭)(02)

 姫君は、兄王子に向かい合うようにして石造りのベンチにかけ、話し始めた。
「ひとの命はみな大切なものだから、害することのないように・・・と、お兄さまはおっしゃいました。でも、わたくし、考えてみたのですけれど」
と、ユリアは、行儀よく膝の上で手を揃え、慎み深く目を伏せながら、熱心に言った。
「まず、わたくし自身の命は、すこしも大切なものではありません。たとえば、これまでにお兄さまと共に過ごした、どの一瞬のためにでも、何度でも喜んで差し出せるようなものです。そして、そうであることを思えば・・・」
 ユリアは、無邪気に、真剣に、熱っぽく、続けた。
「わが国の民の一人ひとりも、聖王家の正統な後継者であるお兄さまのために、何度でも命を捧げる覚悟がありましょう。ましてや、お兄さまのお心を少しでも悩ませたり、わずらわせたりしようとする者がいたならば、その者の命など、誰から見ても、大切なものであるはずがありません」
 ユリアは言い切ってから、遠慮がちに目を上げて、微笑んだ。
「お兄さまは、ご自身が貴い方でいらっしゃるから、他人もみな同じように貴いような気持ちになってしまわれるのではありませんか。でも本当は、お兄さま以外の誰の命にも、大した価値などありはしないのです。どうぞ、ご自身が特別であることを、もうすこし、ご自覚なさってくださいね」
 ゼラルドの胸は重くふさがった。もし彼が、言葉を尽くし、世の中の一人ひとりの命には価値があるのだと説くならば、ユリアは「兄から認められた人々」に嫉妬して、思い当たる一人ひとりを呪いにかかるだろう――というより、それはまさしく、彼が先日、一度犯した過ちなのだった。王子がユリアを説き伏せようとしなければ、苦しまないで済んだかもしれない、大勢の人々がいた。
「ユリアは」
と、王子は重い口をひらいた。そのとき急に降って来た言葉が、そのまま滑り落ちた。
「ユリアは――もうすこし、ユリア自身の命について、かけがえのないものであると学んだほうがよいだろうね」
 その言葉は、口にした王子自身を驚かせた。同時に、不思議と彼を納得させもした。母親が国王と再婚するまで、ひっそりと隠れるようにして暮らしていたユリア。自らの命の重さを適切に量ることができなければ、なるほど、他者の命の重さを量ることもできまい。
 ユリアは、不意を突かれたような顔をした。それから、何をどう受け止めたのか、頬を薄く染めてうつむいた。か細い声が、
「この世に、お兄さまと私の、ふたりだけしか、いなければいいのに」
と、言った。
「そうすれば、お兄さまは何者にも煩わされることはなく、私も心穏やかにいられるのに」
「・・・このように?」
 自らの真意を理解しかねながら、ゼラルドは空中に聖なる語句を刻んで、あずまやの中からだけ、その幻が見えるようにした。
 ユリアは、おずおずと顔を上げて、それを見た。
 ついさっきまであずまやを取り巻いていた白砂は、今は、青く果てしない海に変わっていた。穏やかに凪いだ水面が茫洋と続き、本来なら見えるはずの城は影も形もなく、その大海原の真ん中に、あずまやは、ぽっかりと浮かんで、兄妹ふたりだけを乗せているのだった。
 ユリアは、その光景に見入った。長い長い沈黙のあと、
「お兄さま・・・」
 ささやくように呼びかけた途端、幻は消えた。あとには、白い砂と、薄青い平たい花が、何事もなかったかのように広がっているばかり。
 ユリアは傷ついた顔をした。そして、あきらめた。
「・・・失礼いたします」
 落胆をにじませた声で退出の挨拶をした義妹に、ゼラルドは無言でうなずいた。

 王女が去ったあと、王子もまた去った。
 それでも、ふたりの心の中に、その日の海は、しっかりと焼き付いたのだった。

(完)

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