2017年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

ひとこと通信欄

  • (2017/6/26夜) 「火の鳥」は、早割を使って、のんびりと印刷をお願いしたので、出来上がりは7/15頃です。オフセット印刷です。綺麗に刷れるといいな~。

ランキング参加中!

  • 記事がお気に召したらクリックしていただけると、作者の励みになります。(1日1回まで)

    (投票せずに順位を確認したい方はこちらから。)

読者アンケート実施中♪

  • 所要時間は5分くらい?
    個人情報の入力はありません。
    よろしくお願いいたします。
    こちらから。

SF「夜景都市」(未完)

最近のトラックバック

プロフィール

  • 城

    雪村月路
    snow.moon.rainbow☆gmail.com
    (☆を@に変えてください)
    Twitter: @ariadne_maze
    ブログ更新量について
    愛読書100冊

    うちの子同盟 うちの子同盟

無料ブログはココログ

« こぼれ話:自分へのごほうびに… | トップページ | ひとやすみ:600個目の記事です♪ »

跳ぶ(トーナメント参加用)

 ある晴れた日の昼下がり。
 少し空き時間が出来たので、少年は屋敷を出て街へ行き、広場をのぞいてみた。すると、そこでは同年代の友人たちが、何やらおかしなことをやっていた。一定の間隔を空けて並びながら、膝は伸ばして、腰を折り曲げて、頭は引っ込めて・・・。
「あれ、セレン? 久しぶり」
 見つけてくれたのは、端っこに立っていたルークだった。
「ルーク。みんな何やってるの」
「これから馬跳び。広場を端から端まで跳んで行こうって。混ざる?」
「馬跳びって何?」
「知らないのか。ええと・・・ティム、ちょっと来て」
 ルークは近くの少年を手招きして、
「セレンが馬跳び知らないんだって。見本に馬やってくれる? セレンはちょっと離れて」
 ティムは素直に、腰を曲げて手を膝に当て、頭を引っ込める。セレンは後ろに数歩あとずさった。
「よし。見てろよ、馬の背中に、こう手をついて、こう跳んで」
 ルークはティムをひょいと跳び越えてみせ、
「並んでる馬を全部跳び終わったら、今度は自分が馬になるんだ」
 言いながら、ティムと同じように馬の姿勢になる。
 今度はティムが体を起こして、ルークの背中の上を跳び越えた。
「どう、わかった?」
「・・・うん、たぶん」
 セレンは緑色の目をぱちくりさせた。わかったけど、これって、要するに・・・ルークの上を――身分を隠した王子殿下の頭の上を、みんなが跳び越えることにならないか?
「じゃ、試しに跳んでみろよ」
といって、ルークはセレンの前で馬になった。
「え・・・う、うん」
 セレンはおそるおそる、ルークの背中に手をついた。あたたかい。当たり前か。
「勢いつけて。跳んでみな」
「うん」
 セレンは腹をくくった。ぐっとルークの背を押して、跳び越えた。難しいことなんて何もなかったけれど、なんだか頭がくらくらする気持ちがした。ああ、この国の王子殿下の上を跳び越えてしまった・・・。
 ルークは気にするふうもなく体を起こして、
「そ。簡単だろ? じゃ、馬になってみ。あー、それでいいんだけど・・・」
 ルークは手を伸ばして、流れ落ちるセレンの長い髪を掬い取った。
「この髪、なんとかならないか?」
「あ、そうか」
 背中まである月色の長い髪は、たしかに邪魔だ。セレンは髪を束ねて持って、
「片手で押さえてればいいかな? 今度、切って来るね」
 ルークはぎょっとした顔をした。
「えっ! 俺、そんなつもりじゃ」
「あたし、編んだげようか」
と言ってくれたのは、馬跳びに参加しない女の子たちを代表したエリナだった。最近少し大人びて綺麗になったエリナは、雑貨屋の娘だ。
「ね、ひとつにまとめて、三つ編みにしたらいいと思う。どう?」
「三つ編み・・・なんだか格好悪いけど、仕方ないか。お願いしていい?」
「うん! やった! あたし、セレンの髪、一度編んでみたかったんだ。きらきらして、さらっさらの髪」
 言いながら、エリナはセレンの髪を手で梳いて、手早く三つ編みに編んでくれた。
「できたよ。カッコ悪くなんてないよ」
「じゃ、始めるぞー!」
 ルークは陽気に大声を張り上げる。
「途中で怒られたら、解散して鬼ごっこなー!」
 そうして、セレンはみんなの上を跳んだし、自分もみんなの馬になった。セレンの上を跳ぶとき、誰もが少しためらっているようだったのは、自分がルークに対して感じたのと同じためらいだ、とセレンにはわかったが、そうやって跳んだり跳ばれたりするのは、思った以上に、とても楽しかった。自分のてのひらに感じる友達の背のぬくもりも、自分の背に感じる誰かの手のぬくもりも、セレンには新鮮な感覚だった。
 結局、馬跳びの列は、広場の端に着くより先に、大人たちに邪魔だと怒られて、解散して鬼ごっこになった。馬跳びには入らなかった女の子たちも、鬼ごっこには混ざって一緒に走った。
 狭い路地で、セレンをつかまえたのは、髪を編んでくれたエリナだった。
「つかまえた!」
 息を弾ませて笑ったエリナは、きょろきょろと辺りを見回して、路地に二人きりなのを確かめると、真面目な顔になった。小さな声で、
「あのね、セレン。聞いてくれる?」
「うん、何?」
「言おうかどうしようか、ずっと迷ってたの。そのう、あたしね・・・」
「うん」
 やさしく応じながら、セレンは内心、ああエリナもルークのことが好きなんだ、と、苦笑した。実のところ、女の子たちからこうして相談を寄せられることには、すっかり慣れっこになっていた――「ルークって誰か好きな子がいるの?」とか、「ルークってどんな女の子が好みなの?」とか。当の、金髪碧眼の王子様は、全然、まるっきり、むしろ感心するくらい、彼女らの気持ちに気が付きはしないのだけれど!
「あたしね・・・手の届かないひとだって、わかってるんだけどね・・・」
と、エリナは細い声で言った。あれ? まさかエリナは、ルークの正体を知っている?
「わかってるんだけど、でも・・・でも、あたしね、セレン、あたし、あなたのことが・・・」
と、そこまで言って、エリナは真っ赤になった。
 セレンは、いろいろな物語を読んでいたし、それなりに気の回る性質だったから、親友なら気付かなかっただろう、その先の言葉がちゃんと想像できた。半ば不意打ちだったので、どうしたらいいのか、とっさには思いつかなかったが、ともかく! ありったけの誠意をこめて、エリナがその先を言う前に彼女の手を取った。
「ごめんね、エリナ。でも、ありがとう」
 ささやいて、指先にそっと唇をふれると、エリナはへなへなと路上に座り込んでしまった。
 セレンは自分も路上に膝をついた。
「大丈夫? ねえ、エリナ、これからも友達でいてくれるよね?」
「・・・うん。ごめん。ごめんね。ありがとう。セレン」
 エリナは泣きそうな顔で、笑った。その様子が、あまりに可愛らしくて、いじらしくて、いっそ抱きしめてしまいたいくらいだ、と思ったけれども、セレンは立ちあがって手を差し伸べた。
「戻ろう? みんなのところに」
「うん・・・。えっとね、あのね、もし迷惑でなかったら、また髪の毛、編ませてね」
 それがエリナのせいいっぱいなのだ、とわかったから、セレンはうなずいて、
「いいよ。それなら当分、切らずにおくよ」
と言った。
「ありがと!」
 エリナはうれしそうに笑って、差しのべられた手につかまって立ち上がると、自分から手を離し、顔を上げ、先に立って路地から走り出して行った。

 その年の暮れ近く、セレンは13才になった。リーデベルクでは、貴族の嫡子は13才で社交界に出ることが許される。その際、王と王妃に謁見し、男子であれば国王に剣を捧げ、女子であれば王妃に花束を捧げるのが習わしだ。
 新年のパーティーに参加できるようにと、セレンの謁見の儀は暮れのうちにおこなわれることになった。国で一番王家に近い家柄とあって、次期当主の人となりに興味を持つ貴族は多く、何かと忙しい時期にもかかわらず、社交界ではいろいろな噂話が咲いた。セレンの、分け隔てなく人に接する習慣はすでに広く知られており、そのことを良く言う者もあれば、悪く言う者もあった。少女と見まごう長い髪についても、愉快と言う者があれば不愉快と言う者もあった。
 もっとも、長い髪については、当然のように切ろうと思っていたのだ、セレンは。それを止めたのは、まだセレンが誕生日を迎える前に、セレンとエリナの会話に割り込んで来たルークだった。
「そろそろ、この髪、切ろうと思うんだ。国王陛下にお目通りがかなうから、その前に」
と、セレンが義理堅くエリナに話していて、
「そうなの? こんなにさらさらで綺麗なのに」
と、エリナが悲しそうな顔をしたとき、
「ばか、切るなよ!」
とルークが勢い込んで横入りして来たのだ。セレンが驚いて、
「ルーク?」
と聞き返すと、ルークははっとしたようで、きまり悪そうな顔になりながら、
「いや、見た目が変わっても、セレンはセレンだけど。でも、ほら、エリナの言うとおり、せっかく綺麗な髪なんだからさ」
「・・・? まあ、君たちがそう言うなら」
 というわけで、セレンは父親と、切れ、切らない、の押し問答をする羽目になったが、どうにか友人たちのために「切らない」という選択を貫いたのだった。

 果たして、セレンの謁見の儀の当日は、見物しようと参列を希望する貴族たちがあまりに多いため、身分の高い順に入りきるところまで謁見の間に入れてもらい、残りは次の間に控えて出待ちをするという、例を見ない盛り上がりとなった。両親とともに謁見の間に通されたセレンは、ひそひそ声の真ん中を通り過ぎながら、帰りにはこの人々すべてと言葉を交わさなければならないのかと思って、内心、少しうんざりした。怖いものなしの出身で、かつ、もともと社交的な素養を備えていた(と最近明らかになって来た)セレンでさえ、だ。
 もちろん、おくびにも表情には出さなかった。白と金を基調とした正装で、金色の長い髪を後ろで束ね、微笑をたたえて歩みゆく少年の姿は、大変美しく印象的で、後日、宮廷画家が何枚も絵に描いてくれたほどだ。
 謁見の間では、王と王妃と、フルート王子が、椅子に座って待っていた。レ・ディア夫妻がお辞儀をして左右に分かれた中を、セレンはまっすぐに進み出て、優雅にひざまずいた。国王一家に対して失礼のないよう、視線は伏せたままだったが、ちらと視界の端に映ったフルートが、自分よりも緊張しているように見えて、おやと思った。
 気のせいだろうか? いずれにしても、今のセレンに出来ることは、大過なく儀式を済ませることだけだ。それでフルートが安心してくれれば良いのだが。
「セレン・レ・ディアでございます、陛下」
 セレンは柔らかな、しかしよく通る声で、型どおりに挨拶を始めた。
 もともと、この儀式に必要な口上は、あまり難しいものではない。自己紹介から始まり、国王に剣を捧げる定型文で終わりさえすればよく、その間に挟み込まれる装飾的な文言については、幾通りかのパターンの中から、好みのものを選択すればよい。
 家柄の都合上、セレンは一番長いパターンを選択せざるを得なかったが、それでも、少年が暗記に苦労するような長さではなく、少しくらい緊張したからと言って消し飛んでしまうような複雑さもなく、セレンは余裕をもって一度も言い淀むことなく装飾文言を述べ終えた。
 さあ、あとは顔をあげて、剣の誓いをすれば良いだけだ。セレンは頭を上げて、初めて国王一家の顔を正面から見た。陛下も妃殿下も、やさしい表情で微笑んでいらっしゃる。その隣にいるフルートは――。
 王子の姿が目に入った瞬間、セレンははっとした。フルートは、かろうじて社交辞令用の笑みを口元に貼り付けてはいたが、その視線は自らの足元をじっと見つめたまま微動だにせず、ちらりともセレンのほうを見ようとはしなかった。というより、明らかに、見たくないものを見まいとして必死に目を伏せているのだった。椅子の肘掛に乗った腕はぎゅっと強張っている。
 何か自分がとんでもない間違いを犯したのではないか、という疑念にとらわれて、セレンは自分の述べたことを慌てて思い返したが、これといって思い当たることもなく。困惑しながら国王に向き直り、最後の誓約を述べようとして、セレンははたと気が付き、開きかけた口を閉じた。
 ああそうか。セレンがこうして、フルートの目の前でひざまずき、臣下の礼を取って、忠誠の誓約を述べようとしている、まさにそのことが、フルートを傷つけているのだ。セレンにとっては、こんなこと、別に何でもないことなのに。言ってみれば・・・そう、馬跳びの馬と同じようなものだ。
 あのときセレンに、何の屈託もなく「跳んでみろよ」と言って馬になったフルートが。少しばかりスケールが大きくなった馬跳びの、跳ぶ側に立ったからといって、惑うことなど何もない。でも、髪を切るなと言ったのも、同じ惑いの表れだったのだろうか。
 跳んでごらん、と。そう言いたい。あのとき君がぼくに言ってくれたように。
「・・・おそれながら、もし、陛下のお許しを賜ることができますならば」
と、セレンは言って、言葉を切った。予定にはなかった台詞だった。緊張して、血が逆流するような気がしたが、言ってしまったからには後戻りはできなかった。
 国王は穏やかに促した。
「申してみよ」
 フルートはまだこちらを見ない。セレンは知識を総動員して、この場にふさわしい故事を選び出し、言った。
「いにしえの剣聖アイオンの例にならい、我が剣を王子殿下に捧げることをお許しいただきたく、お願い申し上げます」
 ざわ、と、列席者たちがどよめいた。このようなことは前例がない。いや、前例なら今、少年が口にしたではないか。では、剣聖アイオンとは、どのような人物なのか?
 国王の目配せに応じて、宮廷仕えの学者が、おほんと咳払いして説明をおこなった。かの剣聖は、古代レティカ王国に現れた英雄の一人であり、賢人として名高い王の治世に、ともすれば見落とされがちだった第一王子の聡明さを見抜き、この王子に剣を捧げて生涯仕えた。このときレティカはまさに黄金時代。たいへん重畳な故事でございます、と締めくくって、学者は説明を終えた。
 国王は満足そうにうなずいた。
「良かろう、セレン・レ・ディア。そなたが王子に剣を捧げることを許す」
 セレンがフルートに目を移すと、フルートは青ざめた顔でこちらを見つめており、もはや取り繕おうともせずに、きゅっと唇を引き結んでいた。まさかフルート自らがセレンの誓いを受けることになるとは予想もしていなかったのだろうし、よりいっそう苦痛に感じてもいるのだろうと、セレンには理解できた。ごめん、フルート。でも、ぼくは、君に「跳んで」もらいたい。
 父王にうながされ、フルートは椅子から立ち上がってセレンに歩み寄り、真正面に立った。仮面のように無表情になってしまったフルートの前で、セレンはひざまずいたまま、儀礼用の剣を両手に捧げ持ち、誓いの言葉を述べた――ただし、「我が忠誠の証として」から始まる通常の定型文は使わずに、柔らかな口調で、このように述べた。
「我が命は、常に縛られることなく御身の傍らにあり、御身の輝ける命を守り奉らん。
 我が魂は、常に自由の翼によりて御身の傍らにあり、御身の天翔ける魂を守り奉らん。
 御身に異存なくば、この剣を受け給え」
 フルートがその意味を理解するまで、セレンは黙って待った。それから・・・フルートの瞳に、ゆっくりと驚きの色がのぼって来て、王子はセレンの顔をまじまじと見下ろした。
 セレンはまなざしだけで肯定した。そうだよ、フルート。君とぼくとは友人だ。剣の誓いなんて、少しも怖いことはない。傍からは忠誠と服従の誓いに聞こえるだろうし、それなら周りにはそう思わせておけばいいさ。君はこの剣を取ることで、ぼくの剣の主になる、でも、その剣にぼくが何を誓ったのか、君にはわかるだろう?
 セレンはにっこり笑って、これは型どおりに、抜き身の剣を恭しく差し出した。さあ、君が跳ぶ番だ。
「どうぞお受け取りください、フルートさま」
 フルートは捧げられた剣をしばし見つめた。それから、そっと手を伸ばして、その剣を取ると、落ち着いた動作で、決まりどおりに、剣に軽く唇を当て、向きを変えて、セレンに返した。
 セレンが剣を鞘に収めて頭を垂れると、聞き慣れた、凛と晴れやかな声が降って来た。
「ふがいない主だろうが、よろしく頼む。心遣いに感謝する、セレン・レ・ディア」
 そう、フルートは、たしかに、軽やかに跳び越えたのだ。
 王子が自分の席に戻ると、大臣が儀式の終了を告げた。
「では、これにて、ディア家セレンの謁見の儀、終了といたします」
 国王一家は退出し、そのあとに大臣や学者たちが続き、最後に高齢の筆頭博士が、何を思ったか、戸口で振り返り、ふがふがと、
「たいそう、よろしゅうございました」
と言いおいて去ったのは、これは異例のことだったので、のちのちまで語り継がれた。
 立ち上がって振り向いたセレンとその両親の前に、貴族たちは列を作って、順番に祝辞を述べた――おめでとうございます、レ・ディア。おめでとうございます、セレン・レ・ディア。
 セレンは一人ひとりに笑顔で挨拶をした。また、当然その夜はディア家の屋敷で祝賀の宴が催されたので、そこでも、次々とやって来る客たちに礼を尽くさなければならなかった。すっかり疲れ果てたセレンは、あくる日は一日眠っていたくらいだった。
 両親からは、勝手に儀式の進行を変え、誓いの言葉までも変えたことを叱られた。が、覚悟していたほどではなかったのは、あの筆頭博士のおかげかもしれなかった。

 新年のパーティーではお互いに忙しくて、それこそ形式的な挨拶を交わしただけだったから、次にフルートと話ができたのは、雪の積もったある日、街で「ルーク」に会ったときだった。
 もう空は晴れていて、街の雪かきも終わっていて、でもまだ雪はたっぷり残っていて、いくらでも雪合戦ができそうな日。女の子たちは雪だるまや雪うさぎを作って喜んでおり、三つ編みの編み方を覚えたセレンがエリナの栗色の髪を編んでやっていると、いきなり背中に雪玉をぶつけられて・・・振り返ったら、ちょっと離れたところに、ルークが笑いながら立っていたのだ。
 セレンはエリナの髪を編み終えてから、自分も雪を拾って、ルークに投げ返した。ルークがひょいと避けて、また投げて来るから、セレンも避けて、投げ返す。どこからともなく、我も我もと子供たちが集まって来て、またたくまに、大・雪合戦になった。
 大騒ぎの中、気がつくと、ルークは敵陣ではなく、セレンのすぐ隣にいた。防壁の陰で雪玉を作りながら、こそっと何を言うかと思えば、
「セレンはさ。暮れの、あれって、緊張した?」
「当たり前だろう! 誰のせいだよ・・・」
 セレンは敵陣に向けて雪玉を放る。ルークも投げて、
「君のせいだろ。でも俺、気が付いたんだけどさ」
 自分のせい? セレンは鼻白んだが、考えてみると、なるほど否定もできないのだった。言い返すのはあきらめて、代わりに、ルークが言いかけている言葉をさらった。
「わかってる。今、先生たちにコネを作ってもらっているから。もう少し待っていて」
「え?・・・っと」
 ルークは飛んできた雪玉を避けた。
 セレンはルークのほうを見ずに、雪をかき集めながら、
「これからあちこちで顔を合わせるのに、よく知らないふりをするの、いやなんだろう」
「うん」
「ぼくが時々、君のうちに遊びに行っておけばいいんだろう」
「うん」
「本当は、特別扱いって、いやなんだけどさ。でもまあ、うちは元々が特別扱いみたいなものだし、例の儀式もあんなふうになったから。とりあえず、何をどう遊びに行くか筋道をつけるから、待っていて。たぶん・・・剣術、馬術、外国語あたりかなあ」
「げっ、外国語? 遊びじゃないだろ、それ!」
「うちも体面があるからさ、あんまりぼくが苦手な教科は外に出してくれないと思うんだよね。はい、雪玉10個」
「ああ、うん」
 ルークは気圧されたように雪玉を受け取り、全部投げて、いくつか命中させた。敵陣から、「うおっ」とか「ぎゃっ」とか「ルークのやつ、いつからあっちに行ったんだ?」とか声がする。あはは、と、ルークが楽しそうに笑う。
 こうして皆で転げ回って遊べる時間は、もうそれほど残っていないのだろうけれど・・・と、セレンは思った。最近、同い年くらいの少年たちは、「家の仕事を手伝う」ことに時間を割くようになったし、同い年くらいの少女たちは、綺麗になって、別行動することが多くなった。でも。
 皆が大人になったとき、一緒に遊んだ思い出が、どうか一人ひとりの生きる力の糧となりますように。と、セレンは願った。ぼくにとっても、ルークにとっても、街の仲間たちにとっても。そして今は、今だけは。この幸せな光景が、少しでも長く続きますように。
 セレンは考え事をやめて、自分も雪合戦に集中することにした。
 冬の日差しの下で、キラキラ白く光る雪と、大切な仲間たちと、たわむれながら。

(完)

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

約8,050字。第8回 自作小説ブログトーナメントに出品します。コメントはお気軽に♪
独立して読めそうな作品を選び、元は連載記事だったものを1つにまとめてみました。

« こぼれ話:自分へのごほうびに… | トップページ | ひとやすみ:600個目の記事です♪ »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/568827/61710998

この記事へのトラックバック一覧です: 跳ぶ(トーナメント参加用):

« こぼれ話:自分へのごほうびに… | トップページ | ひとやすみ:600個目の記事です♪ »