2017年4月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            

ひとこと通信欄

  • (2017/4/29朝) そして、3月に続いて4月もまた、溶けるようにして消え去って行くのであった…。

ランキング参加中!

  • 記事がお気に召したらクリックしていただけると、作者の励みになります。(1日1回まで)

    (投票せずに順位を確認したい方はこちらから。)

読者アンケート実施中♪

  • 所要時間は5分くらい?
    個人情報の入力はありません。
    よろしくお願いいたします。
    こちらから。

SF「夜景都市」(未完)

最近のトラックバック

プロフィール

  • 城

    雪村月路
    snow.moon.rainbow☆gmail.com
    (☆を@に変えてください)
    Twitter: @ariadne_maze
    ブログ更新量について
    愛読書100冊

    うちの子同盟 うちの子同盟

無料ブログはココログ

« 進捗状況報告(2015/07/20) | トップページ | ひとやすみ:ファイアーエムブレム祭に行って来た! »

夏の日の青い空(トーナメント参加用)

 この町で一番、体格が良くて腕っぷしが強いのは、明るい茶色の髪と目をした、鍛冶見習いのナッジだ。青年自警団の長をしており、働き者で、面倒見もいい。唯一の欠点は、むしゃくしゃすると喧嘩っぱやくなることだ。
 そして、ナッジは今日、この気持ちよく晴れた夏の日の午後、ゆえあって、まさに、猛烈に、むしゃくしゃしていた。だから、その様子を見て取った皆がこっそりと逃げ出す中、ずんずんと大股で道を歩いて行って、不運な誰かの肩にぶつかったときには、腹の底から轟く声で、
「おい、気を付けろ!」
と怒鳴ったものだし、相手が「ああ、悪い」と素直に脇にどいても、
「気に入らねえ!」
と、拳を握りしめて突き出したものだった。
 ところが、ナッジの繰り出した拳を、相手はひょいと横にかわして、かすりもしなかった。抗議するように「おいおいおい」と言うのを見れば、この町の人間ではない。金髪に青い目の、見目良い若者だ。
 ナッジは、有無を言わせず二発目を繰り出した。若者は再び、すっとよけた。ナッジは少なからず驚いた――まぐれではなく、よけられているのだ、この俺の拳が。いや、もしかしたら、知らない奴だからと、自分が無意識に手加減してしまったのかもしれない。
 ナッジは気を引き締めて、真剣に相手に向き直った。金髪の若者は、「何なんだよ」と、ぶつくさ言いながら、逃げる様子はみじんもない。ナッジはタイミングを見計らいながら、拳を次々に繰り出した。シュッ、シュッ。シュッ。すべて空を切る。おかしい。そんなことが、あってたまるものか。
 シュッ。シュッ、シュッ。焦るナッジとは反対に、避け続けている若者のほうは、なんだか楽しそうな様子になって来ていた。紙一重のところで避け続けながら、口元に笑みを浮かべている。シュ、シュッ。シュッ。シュ、シュッ。
 どれくらいそうしていたものか。正直なところ、何がどうなったのか、ナッジにはよくわからなかった。ただ、相手が初めて素早く拳を突き出したのを見た、と思ったら、自分の体が宙に飛んでいた。
「あっ、悪い、つい!」
という、いくらか慌てた声を聞きながら――、ナッジの意識は、暗転した。

 幸い、気を失っていたのは、ほんのわずかな間だけだった、らしい。
 ナッジが路上で、手足の感覚を確かめながら上半身を起こすと、駆け寄って来た弟分の少年が、ほっとした顔で、
「大丈夫かい、ナッジ」
と声をかけてくれた。「ああ」とうなずきながら前方を見やると、目の前では、日ごろナッジを兄のように慕ってくれている町の若者たちが、あちこちから飛び出して来て、余所者に詰め寄っていた。口々に、「何をしやがる!」とか、「ナッジに謝れ!」とか、勝手なことを喚いているようだ。
 金髪の若者はといえば、大勢に囲まれて閉口しながら、
「わかった、わかった、悪かった。おい、放せよ」
 誰かが若者を捕えようとしたようだ。ナッジはひやりとして、声を張り上げた。
「みんな、やめろ! 俺は何ともない!」
 その場にいた皆が、ナッジのほうへと顔を向けた。ナッジは大声で続けた。
「元はといえば、俺が売ったケンカだ。俺が悪かったんだ。これ以上、おまえたちが難癖をつけたところで、俺の恥の上塗りになるだけだ」
「へえ! まともな話もできるじゃないか」
と、金髪の若者。「なんだと」「このやろう」と、周りの若者たちがいきりたつのを、ナッジは「よせ」と、たしなめた。さっきまでの、むしゃくしゃした気分は消えて、冷静に物を考えられるようになっていた。
 もし、この美しい若者がもう少し短気だったら、今頃、ナッジと仲間たちは、こてんぱんに伸されて仲良く転がっているはずだ。そうなっていないのは、ひとえに若者の度量のおかげ。そりゃあ、ナッジとしても、多少は腕に覚えがあるのに、かなわないと認めるのは癪ではある、が、今ここで出会ったのも何かの縁かもしれない、というのも――。
 金髪の若者は、すたすたと歩いてきて、路上に座り込んでいるナッジに手を差し伸べた。
「まあ、俺も悪かったよ。大丈夫か」
「ああ。俺はナッジだ。あんたの名前を聞いてもいいか」
「ルーク」
「じゃあ、怒らないで聞いてくれ、ルーク。あんたの力を貸してもらいたいことがある」
「は?」
 ルークは、手を差し伸べたことを後悔するような顔をしたが、ナッジは既に、その手をしっかりと掴んでいた。

「とにかく、ゆっくり話のできるところに行こう」
と言って、ナッジはルークを、開店前の酒場に連れて行った。
「おやっさん、場所、借りるぜ」
「はいよ。見慣れない顔を連れてるな」
「例の件で、助っ人を連れて来た」
「ほう!」
 店のあるじは、カウンターから出て来て、テーブルに酒瓶と二人分のコップを置いた。
「店のおごりだ。昼間だから、こんなもんしか出せねえが、よろしく頼むよ」
「俺はまだ、受けるとも受けないとも」
 呆れた顔のルークに、「いいから飲めよ」と、ナッジは片手で瓶を持ち、果実酒をついだ。
「実はな」
「うん」
と、ルークは、飲みものを口に運びながら、ともかくも耳を傾ける。
「おととい、貴人を騙る男が来た。いや、騙りだと思っているのは俺のカンで、証拠があるわけじゃ無いんだけどよ。それを言ったら、本物だという証拠だって無いんだからな。
 そいつは、旅の途中で路銀が尽きたと言って、金を出せと言った。自分ちに帰ったら返して寄越すと言うんで、聞いてみれば、べらぼうな金額だ。しかも、美味いものを食わせろだの、女を差し出せだの、好き勝手を言いやがる。宿も気に入らないと言って、町長の家に押しかけて、今はそこに泊まっている。
 そいつは剣を持っていて、そこそこ腕も立つんだ。とびかかった若いのを何人か軽くあしらって、奴は、金と女を用意するのに3日待つと言った。つまり、期限は明日だ。もし用意できなければ、力づくで奪って行くし、国の偉いさんに告げ口して、町に重罰が下るようにすると言った。
 町の住民は、それからずっと話し合って、結論が出たのは今日の午前中だ。当たり前のことだけどよ、本物だろうと偽者だろうと、あれこれ差し出せと言われて、はいそうですかと渡せるわけがないんだ。だから、力づくで奪えるものなら奪ってみやがれ、総力戦だ。たとえそいつが、名乗ったとおり本当に、リーデベルク国のフルート王子だとしても!」
 飲みながら聞いていたルークは、げほげほと盛大にむせた。ナッジは眉根を寄せて、
「どうした?」
「いや、なんでもない。そいつ、俺に似てるか?」
「ちっとも似てねえな。なんでそんなことを聞くんだよ?」
「似てれば、俺でも騙りが出来ると思ってさ」
「ばかを言え。で、手伝ってくれるよな?」
「そうだな」
と答えて、ルークはにやりと笑った。
「負ける気もしない。明日と言わず、今日これから殴り込みに行こうぜ!」

 ナッジとルークは、そろって町長の家に乗り込んで、厄介な滞在者を呼び出した。
 居間に出て来た、自称「リーデベルクの王子フルート」は、痩せて青白い顔をしていた。
「何か用か。期限の延長なら、聞かぬぞ」
 物憂げに言う男を、ルークはじろじろと眺めた。男の髪は、褪せた金色。瞳は、薄い青色。口元は、人を見下したように歪んでいる。そう見て取ったルークは、不満そうに、
「本物が迷惑するから、騙りはやめろよな。素直に悔い改めて退くなら、荒っぽいことは」
「私は本物だ」
と、男は鼻で笑った。実際、育ちの良さを感じさせる風体ではあった。落ちぶれた旧家の出か何かかもしれない。だからといって詐称が許されるわけではなかったが。
「私を力づくで追い出そうというのか? それなら、まずは私の従者が相手をしよう」
 男が言うと、奥のほうから、ナッジと同じくらい体格のいい男が、腕をボキボキと鳴らしながら現れた。縮れた髪は金色で、瞳は薄い緑色をしている。
 ルークが「え」と言って目を丸くしたため、ナッジは「おや」と思いながら、「そいつは俺が」と前に出た。だが、ルークは別に、怖気づいたわけではないようだった。
「なあ、もしかして、もしかすると、あんたは」
 言いかけるルークを遮って、「従者」は野太い声で名乗った。
「王子の一の臣下、セレン・レ・ディアだ!」
「やっぱり!」
 ルークは弾かれたように笑った。
「あはは、もう少し調べて来いよ、『セレン』! 背丈しか合ってないぞ!」
「知ったことか!」
 「従者」は吠えて、飛びかかって来る。ルークとナッジは身をかわして、
「ともかく、おもてに出て勝負しよう」
 4人はなだれるように外に出て、自称「王子」は勿体ぶって剣を抜き――
 ――決着は、あっというまについた。
 「従者」のほうは、ナッジが投げ飛ばして、しめあげた。
 「王子」のほうは、ルークと剣を交えて2合ももたず、すぐに「参った」と音を上げた。
 本物の貴人でないと割り切れれば、最初から、それほど恐れる相手でもなかったのだ。
「私たちは本物だ!」
と、後ろ手に縛られながら、「王子」は叫んだ。
「この町の者は、全員罰せられるぞ! 今なら間に合う、縄をほどけ! 褒美もやるぞ!」
「いいや、あんたらは偽者だ」
と、ルークは、きっぱりと言った。それから、ナッジに笑いかけて、
「俺は、町長と一緒にこいつらを連行して、役人と話してくる。今日は戻って来られないかもしれない。その間に、もし俺の友達に行き会うことがあったら、いきさつを説明してやってくれないか。セレンっていう奴。この町で落ち合うことになってるから」

 翌日も、すっきりと良く晴れて、いい天気だった。前日の悪者退治のことで、ナッジの話を聞きたがる者も多かったが、ナッジは遅れた仕事を片付けるべく、親方と一緒に鍛冶仕事に没頭した。
 昼どきに、ふうと手を休めて汗をぬぐっていると、工房の開け放った戸口から、物柔らかな若者の声がした。
「失礼します。ここに、ナッジさんという方はいますか?」
「おう、俺だ」
と答えて振り返ったナッジは、びっくりした。なるほど、昨日の詐欺師が本物の貴人であるはずがない。本物の貴人とは、こういう者のことを言うのだ。
 さらさらと長い金の髪。見るからに仕立ての良い、明るい緑色の服。戸口に立って首をかしげているだけなのに、優雅で、どう見ても一般人ではない。深い緑色の瞳でナッジを見て、若者は、にこ、と笑った。
「セレンといいます。ルークという友人のことを宿で尋ねたら、あなたを紹介されました」
「ああ、それは・・・」
 ナッジは戸口へと向かった。そういえば、昨日の詐欺師の片割れも、セレンと名乗っていたっけ。リーデベルクでは、よくある名前なのだろうか。
 近寄ってみると、若者はナッジと同じくらいの背丈だった。華奢に見えるが、かなりの長身ということだ。ふと、ナッジは昨日のルークの言葉を思い出した――「もう少し調べて来いよ、『セレン』! 背丈しか合ってないぞ!」――
 体格の良かった詐欺師の名乗りは、たしか――
「――セレン・レ・ディア?」
「はい」
 ああ、やっぱり、貴族の若者だ。と、今さら思いながら、ナッジは少し緊張する。
「ええと、実は昨日、こんなことがあって」
 ナッジは、ルークと一緒に偽王子と偽臣下を捕まえた話をした。髪の長い若者は、驚いた様子で話を聞いて、聞き終わると笑いながら感想を述べようとしたけれど、
「よう、セレン。ナッジも」
 ひょいと、外からルークが顔をのぞかせた。
「やっと帰してもらえた。話、聞いたか、セレン」
「いま聞いたところ」
「ありがとな、ナッジ。すぐ発つだろ、セレン。馬を取って来る」
「うん」
 ルークを見送って、セレンはあらためて感想を述べた。
「聞いた限りでは、偽王子のほうも似ていませんね。フルート王子は、なんといえばいいのか・・・、そう、今日のような、雲ひとつない夏の空のような方ですから」
「ふうん」
 ナッジは、よくわからなかったので、あいまいに返事をした。セレンは気にせず、
「では、これで。お世話になりました」
「あ、いえ、どうも」
 ナッジはセレンの後ろ姿を見送って、工房で弁当を広げ、考えた。
 もし、きのうの「偽セレン」が、今の若者の偽者だとするならば。「王子の一の臣下、セレン・レ・ディア」は、こんな異国の町角を、ふらふら歩いていていいのだろうか? で、王子は「雲ひとつない夏の空のような方」・・・って、どんなだよ、さっぱりわからん。
 どこまでも青い今日の空。ふと、ルークの澄んだ青い目を思い出す。はは、まさかね。そもそも、偽王子とちっとも似ていないし・・・待て。「偽王子のほうも似ていませんね」?
 ナッジは、衝撃とともに思い出した。初めてルークに偽王子の話をしたとき、ルークが最初に言ったこと――「そいつ、俺に似てるか?」――!
「ナッジ」
「わっ! ル、ルーク?!」
 戸口に、彼が立っていた。陽光のような金の髪。迷いのない青い瞳。楽しそうな笑み。
「俺、行くけどさ、ひとつだけ。通りすがりに殴りかかるのは、やめたほうがいいぜ」
「あ、ああ・・・。そうだな。気をつける」
「じゃ」
と、軽く手を上げて。
 本物の王子は、ナッジの視界から立ち去った。
 輝く太陽と、雲ひとつなく晴れわたった青い空の印象を残して。

(完)

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

第9回 自作小説ブログトーナメント参加用です。
コメントはお気軽に。約5,260字。

« 進捗状況報告(2015/07/20) | トップページ | ひとやすみ:ファイアーエムブレム祭に行って来た! »

コメント

第9回 自作小説トーナメントにご参加頂き、ありがとうございました。
そして、第3位 おめでとうございます。
私のブログの結果まとめページにリンクを貼らせて頂きましたので、ご了承ください。
またのご参加 お待ちしております。

みんもっこすさん、こんにちは。
おとりまとめ、おつかれさまです。ご連絡ありがとうございます♪

定例化は、すごくいいと思います! 認知した人が忘れにくいですものね!
少しずつ輪が広がって、より大きなイベントになって行くのが楽しみです。
これからも、参加できるときには参加させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/568827/62038571

この記事へのトラックバック一覧です: 夏の日の青い空(トーナメント参加用):

« 進捗状況報告(2015/07/20) | トップページ | ひとやすみ:ファイアーエムブレム祭に行って来た! »