2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

ひとこと通信欄

  • (2017/10/15夜)ご心配おかけして申し訳ありません。疲れて色々おっくうになっていますが、ごはんと睡眠はちゃんとしていますので、ご安心ください。

ランキング参加中!

  • 記事がお気に召したらクリックしていただけると、作者の励みになります。(1日1回まで)

    (投票せずに順位を確認したい方はこちらから。)

読者アンケート実施中♪

  • 所要時間は5分くらい?
    個人情報の入力はありません。
    よろしくお願いいたします。
    こちらから。

SF「夜景都市」(未完)

最近のトラックバック

プロフィール

  • 城

    雪村月路
    snow.moon.rainbow☆gmail.com
    (☆を@に変えてください)
    Twitter: @ariadne_maze
    ブログ更新量について
    愛読書100冊

    うちの子同盟 うちの子同盟

無料ブログはココログ

« 作者より:「にじむ闇」 | トップページ | ひとやすみ:近況 »

海を映す庭(トーナメント参加用)

 海辺の大国ウェルザリーンの城には、いくつかの庭があった。散策して楽しむための、花の咲く庭。眺めを愛でるための、孔雀のいる庭。そして、物思いにふけるための、静かな砂の庭。
 砂の庭は、城の敷地の外れにあった。風に舞わぬようまじないをかけた白砂を広く敷き詰め、白壁に青いタイルを嵌めた小さなあずまやを配した、簡素な庭だ。砂の下に土があるため、1年を通して、そこかしこに薄青い平たい花が咲いた。何代か前の王が好んで訪れたという静寂の庭を、ゼラルド王子はことのほか気に入っているようで、天気の良い日の昼下がりには、しばしば、あずまやの中に黒髪の王子の端正な姿を見ることができた。
 王子はそこで、護衛や従者を遠ざけて、書物を書き写したり、聖札をめくったり、あるいは単に思索したりしていた。おひとりでは危険なのではないか、と言う者もあったが、とにかく周りは開けた砂地である。もし不遜な輩が近づこうとしても、王子に気づかれずに済むとは思われないし、また、王子は優れた<月の力>の使い手だ。したがって、心配は無用であろうというのが、大勢の見方なのだった。
 義妹のユリア王女が、あずまやにいる王子を訪ねて来ることもあった。王女も、この場所ではお付きの者たちを遠ざけるのだが、こちらも<月の力>を縦横に駆使する聖者であるから、あえて押しとどめる者もない。聖王家の兄妹が、小さなあずまやの中、ふたりきりで何を語らっているのかについては、良からぬ憶測をする者もないではなかったが、表だって口に出されることはなく、それというのも聖王家、ことに王子について陰口を叩けば、原因不明の体調不良を患うことになると、皆が暗黙のうちに了解していたのだった。

「ごきげんよう、お兄さま」
 ユリア姫は、いつもと同じように、あずまやの入口で愛想よく言って、優雅にお辞儀をした。丹念にくしけずってある、つやつやした黒髪が揺れた。むろん、兄王子のほうは、庭を横切って近づいて来る妹姫に早くから気づいていたが、声をかけられてから初めて顔をそちらに向け、妹が頭を上げるのを待って、無言で頷いた。彼には、妹を迎えるときに掛けるべき言葉というものが、よく分からなかった。彼に近しい者たちが次々と病に伏す原因が、妹の嫉妬による呪いなのだと知っているから。そして、やめるように何度言っても逆効果なのだと、暗く苦く悟っているから。
 だが、それでも、不思議なことに、彼は、他の場所ではなくこのあずまやでなら、妹と過ごすひとときを、それほど嫌いではなかった。他者に聞かれる心配なく、思うままを語らうことのできるこの場所で、いつか自分の言葉が相手に届く日が来るのではないかと、心のどこかで期待しているのかもしれない――違うのかもしれない、よくわからない。
「ねえ、お兄さま」
と、ユリアは、尊敬と憧憬をこめたまなざしで兄を見つめて言った。
「わたくし、お兄さまに以前言われたことについて、考えました。聞いてくださる?」
 わけもなく胸のざわつきを感じながら、王子は静かに、「話してごらん」と答えた。
 姫君は、兄王子に向かい合うようにして石造りのベンチにかけ、話し始めた。
「ひとの命はみな大切なものだから、害することのないように・・・と、お兄さまはおっしゃいました。でも、わたくし、考えてみたのですけれど」
と、ユリアは、行儀よく膝の上で手を揃え、慎み深く目を伏せながら、熱心に言った。
「まず、わたくし自身の命は、すこしも大切なものではありません。たとえば、これまでにお兄さまと共に過ごした、どの一瞬のためにでも、何度でも喜んで差し出せるようなものです。そして、そうであることを思えば・・・」
 ユリアは、無邪気に、真剣に、熱っぽく、続けた。
「わが国の民の一人ひとりも、聖王家の正統な後継者であるお兄さまのために、何度でも命を捧げる覚悟がありましょう。ましてや、お兄さまのお心を少しでも悩ませたり、わずらわせたりしようとする者がいたならば、その者の命など、誰から見ても、大切なものであるはずがありません」
 ユリアは言い切ってから、遠慮がちに目を上げて、微笑んだ。
「お兄さまは、ご自身が貴い方でいらっしゃるから、他人もみな同じように貴いような気持ちになってしまわれるのではありませんか。でも本当は、お兄さま以外の誰の命にも、大した価値などありはしないのです。どうぞ、ご自身が特別であることを、もうすこし、ご自覚なさってくださいね」
 ゼラルドの胸は重くふさがった。もし彼が、言葉を尽くし、世の中の一人ひとりの命には価値があるのだと説くならば、ユリアは「兄から認められた人々」に嫉妬して、思い当たる一人ひとりを呪いにかかるだろう――というより、それはまさしく、彼が先日、一度犯した過ちなのだった。王子がユリアを説き伏せようとしなければ、苦しまないで済んだかもしれない、大勢の人々がいた。
「ユリアは」
と、王子は重い口をひらいた。そのとき急に降って来た言葉が、そのまま滑り落ちた。
「ユリアは――もうすこし、ユリア自身の命について、かけがえのないものであると学んだほうがよいだろうね」
 その言葉は、口にした王子自身を驚かせた。同時に、不思議と彼を納得させもした。母親が国王と再婚するまで、ひっそりと隠れるようにして暮らしていたユリア。自らの命の重さを適切に量ることができなければ、なるほど、他者の命の重さを量ることもできまい。
 ユリアは、不意を突かれたような顔をした。それから、何をどう受け止めたのか、頬を薄く染めてうつむいた。か細い声が、
「この世に、お兄さまと私の、ふたりだけしか、いなければいいのに」
と、言った。
「そうすれば、お兄さまは何者にも煩わされることはなく、私も心穏やかにいられるのに」
「・・・このように?」
 自らの真意を理解しかねながら、ゼラルドは空中に聖なる語句を刻んで、あずまやの中からだけ、その幻が見えるようにした。
 ユリアは、おずおずと顔を上げて、それを見た。
 ついさっきまであずまやを取り巻いていた白砂は、今は、青く果てしない海に変わっていた。穏やかに凪いだ水面が茫洋と続き、本来なら見えるはずの城は影も形もなく、その大海原の真ん中に、あずまやは、ぽっかりと浮かんで、兄妹ふたりだけを乗せているのだった。
 ユリアは、その光景に見入った。長い長い沈黙のあと、
「お兄さま・・・」
 ささやくように呼びかけた途端、幻は消えた。あとには、白い砂と、薄青い平たい花が、何事もなかったかのように広がっているばかり。
 ユリアは傷ついた顔をした。そして、あきらめた。
「・・・失礼いたします」
 落胆をにじませた声で退出の挨拶をした義妹に、ゼラルドは無言でうなずいた。

 王女が去ったあと、王子もまた去った。
 それでも、ふたりの心の中に、その日の海は、しっかりと焼き付いたのだった。

(完)

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

海をテーマにした関する創作文学ブログトーナメント参加用です。
地味なお話ですが、海のお話なので。約2,780字。

« 作者より:「にじむ闇」 | トップページ | ひとやすみ:近況 »

コメント

ありがとうございましたヽ(´▽`)/

おかげ様、4人そろいまして、
海をテーマにした創作文学トーナメント
成立する事ができました。
感謝しております。

みんもっこすさん、こんにちは。
参加しても4人かー、という思いと、
参加すれば4人だー、という思いと、両方ありましたが、
普段から、参加することで応援しようと思っているので、
参加させていただきました。
開催までに、もう少し増えるといいですね。
よろしくお願いいたしますー。

海をテーマにした創作文学トーナメント
第3位おめでとうございます。

結果一覧ページを作って、リンクを貼らせて頂きました。
http://minmokkos.blog.fc2.com/blog-entry-144.html
不都合等ございましたら、お知らせください。

ご参加ありがとうございました。

みんもっこすさん、
ご連絡どうもありがとうございます♪

見返してみると、単独で読むのにはあまり向いていなかったかもしれません…。
票を入れてくださった、心の広い方々に感謝です。

今回の開催では、雰囲気の好きな作品がいくつか出品されていて、楽しく読ませていただきました。
トーナメント、面白いです。いつもありがとうございます。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/568827/61851835

この記事へのトラックバック一覧です: 海を映す庭(トーナメント参加用):

« 作者より:「にじむ闇」 | トップページ | ひとやすみ:近況 »