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2015年8月

(封じられた剣)(03)

 図書室は、その後、セレンが自由に使って良いと許可をもらうことができた。もっとも、図書室から持ち帰った飾りものの剣については、父も母も、何も知らなかった。そのようなものがあっただろうか、と不思議がりながら、父は、剣の鞘が外れないことを確かめて、セレンの好きにして良いと言ってくれた。セレンは剣を自室に置いた。手が届く場所にあってほしかったので、壁には飾らず、書棚の脇に立てかけておくことにした。
 そうして、年齢が十を数えるまで、セレンは古い物語を数多く読んで、ひとりで夢の世界に遊んだ。孤独とも憂鬱とも親しかったが、神々や精霊や英雄たちの物語に浸っている間だけは、そのどちらも忘れることができた。勇ましい物語。怖ろしい物語。なまめかしい物語。等々。
 時折、子供心に、自分が何のために生きているのか分からなくなると、宝物の剣を手に取った。いつからか、「必要なときが来れば、この剣は抜ける」と考えるようになっていた。抜けないなら、まだ「そのとき」ではないのだ。手に取ったつど、まだ「そのとき」ではないことを確かめて、再び書棚の脇に立てかけておくのだった。
 そのまま、いつまでも続いて行くかに思われた、夢見る灰色の日々――。だが、変化は突然、訪れた。
 十才の夏の初め、彼は思いがけなく、友を得たのだった。

 陽光のように明るく快活な少年と友達になってから、セレンを取り巻く世界は鮮やかに色づき、音と光にあふれた。セレンは、長い夢から覚めたような心持ちで、それまで貪るように読んでいた神話や伝承のことを、無用のものだと思うようになった。所詮、人間が妄想によって作り出した、子供だましのお伽噺ではないか。それよりも、史実や地理について学ぶほうが、よほど将来、友達の、つまりこの国の王子の、役に立つだろう。セレンは、かつて物語を読むために覚えた外国語の知識を、現実の世界について学ぶために使うようになった。また、剣術や馬術についても、少しでも友に追いつきたいと熱心に取り組んで、順調に腕を上げた。
 大事な宝物だと思っていた剣は、役に立たない玩具にしか見えなくなった。刀身のない剣などを大切にしていたとは恥ずかしい、とさえ思った。とはいえ、その鞘と柄の細工の美しさは尋常でなく、美しいものを愛する心は残っていたので、剣を手放すことはせず、ただ、寝室に引っこめて、壁の上方に飾ってもらうことにした。
 飾ってもらう前に、念のため、形ばかり確かめたが、もちろん、それはただの玩具の剣なのだから、鞘が外れるはずもなかった。そして、その後、ずいぶん長い間、その剣はただ壁に飾られてあるだけで、セレンはそれを手に取ることなど、考えもしなかったのだった。

収まりきらず、あと1回あります。

(封じられた剣)(02)

 季節は一巡りして、ある寒い日のこと。朝早く目が覚めたセレンは、いつものように、まといつく孤独を肌に感じながら、ぼんやりと空想の世界に遊んでいた。前の日に義母と言い争ったため、現実に戻ることが常よりいっそう憂鬱に感じられた。ふと、今日こそが、この世界を去って、別の世界に旅立つべき日ではないか、という思いにとらわれた。
 少年は、寝間着の上にガウンを羽織ると、部屋を出て、屋敷で一番高いところにある部屋に向かった。早朝だったせいか、誰にも見とがめられることはなかった。本当は入ることを禁じられている、最上階の廊下を歩いて行って、突き当たりの角部屋の扉を開けた。
 部屋には、朝日が差し込んでいた。日差しを取り込んでいる窓は、明るく、まぶしく、すてきに輝いて見えた。少年は、うっとりと思った。では、この窓にしよう――。
 なにげなく首をめぐらせて、しかし、セレンはぎょっとした。日の当たらない暗がりに、誰かが立っていた。いや、違う・・・鏡があるのだ。長い金色の髪をして立ち尽くす、輪郭の曖昧な人影は、なんだ、自分の影か。
 と、思ったとき、おぼろな人影は、ゆっくりと手をあげて、横のほうを指さした。セレンは驚いて、息の止まる思いがした。よく見れば、自分とは違う服を着ている。いや、そもそも、背丈だって違う。どうして自分の影だと思ったのだろう。あれは・・・、あれは・・・、亡くなった、母さまだ。
 そう気づいたら、何かがこみあげて、涙があふれた。見てはならないものを見ているせいで鳥肌が立っていたが、言いようのない懐かしさに胸が詰まった。視界がぼやけたので、あわてて手で涙をぬぐい、もう一度目をこらすと――、もう、そこに母の姿はなかった。代わりに1枚の鏡があって、少年自身の小さな姿を映しているばかりだった。
 セレンはしばらく鏡を見つめたあと、さっきの人影が指さしていたほうを見た。そこには、入って来たのとは違う扉があった。ためらったあと、部屋を横切り、その扉を開けた。長い、下りの階段があった。黙々と階段を下りると、また別の扉に行き当たる。重たい扉を、思い切って、体全体で押し開けた。中に入って、思わず「わあっ」と声をあげた。
 そこは、朝日の差し込む、こぢんまりとした図書室だった。円形の壁は、窓を残して全て書棚になっており、ぎっしりと書物で埋め尽くされていた。どれほどが原本で、どれほどが写本なのかは分からなかったが、ともかく、長い時間をかけて集められたに違いなかった。そっと何冊か抜き出してみると、歴史や地理の本が多そうだが、神話の本もある。
 少年は、本棚を見上げながら歩き、床の段差につまずいて転んだ。痛みに顔をしかめながら立ち上がろうとしたとき、書棚と書棚の間に、ひどく場違いなものが挟まっているのを見つけた。気になって引っ張り出したそれは、黄金の鞘に納められた長剣のように見えたが、非常に軽いところを見ると、玩具か飾りものだろうと思われた。試しに鞘から抜いてみようとしたが、やはり、抜ける気配はなかった。きっと、中身など無いのだ。
 それでも、その鞘にほどこされている美しい装飾は、少年の興味を引いた。柄の部分には、深い緑色をした魔除けの宝石が嵌っていた。宝物にしようと思い、セレンは剣を自分の部屋に持ち帰った。そうして、さしあたり、彼はこの世界に繋ぎ止められたのだった。

(封じられた剣)(01)

 ディア家の当主が再婚したとき、息子のセレンはまだ幼かった。生母にそっくりの、月の光のような金色の髪と、魔除けの宝石のような緑色の瞳をした優しい子どもだったが、母を亡くした悲しみからなかなか立ち直ることができず、よく涙していた。父親は政務で忙しかったが、これではいけないと思い、1年の喪が明けてすぐ、息子のためだけに、新しい妻を迎えたのだった。
 血のつながらない真面目な母が、将来の当主である義理の息子のために用意した時間割は、周囲の目から見て、まだ少し早いのではないかと思われるくらい、みっちりと勉学によって埋まっていた。もっとも、当の子供は、学ぶこと自体は嫌いではなかったので、選ばれて招かれた教師たちが代わる代わる教えてくれる事柄を、素直に吸収した。とりわけ、古い言葉で綴られた物語を紐解いたり、遠い国の、不思議な形をした文字を読み書きしたりすることが好きだった。馬術や剣術については、言われたことを言われたようにしていたが、教師たちは「あまり興味がおありでないようだ」と嘆いており、そのとおりだった。
 少年にとって問題だったのは、勉強時間が増えたことではなく、同じ年頃の子らと遊ぶ時間がなくなったことだった。屋敷の中で、あるいは街で、鬼ごっこや隠れんぼうをして楽しく過ごすための時間は、全て取り上げられてしまい、そもそも、新しい母は、息子が周りの子供たちと交流することを嫌がった。「身分が違います」と、彼女は言うのだった。
 最初のうち、セレンは、教師が休んだときなどに、寂しさに負け、こっそり部屋を抜け出して遊びに行った。だが、そうと判明すると、咎められたのはセレンだけでなく、相手の子供と、その親までもが罰せられた。セレンは小言を言われるだけだったが、相手の親子は、ともすれば、手を鞭打たれたり、給金を下げられたりした。すぐに、セレンは避けられ、嫌われるようになった。
 セレンの姿を見ると、子供たちは一目散に逃げた。それで、セレンも嫌い返すようになった。母のことも、もとの友達のことも、それ以外の、母の言いなりになる人々のことは全て。多忙で滅多に家に戻らない父も、まるで頼りにならず、敬愛の念は徐々に薄れた。
 そうして、少年は、自分の住む世界に失望していった。代わりに、物語で読んだ、精霊たちの集う別世界への憧れが育った。あるいは、数々の伝説を生んだ、いにしえのレティカ王国への。あるいは、<太陽の聖者><月の聖者>たちの住まう、はるかな東方諸国への。あまりにも熱心に繰り返し読むため、教師たちが子供用に編纂しなおしてくれる数々の伝承を、端からみな、そらんじてしまうほどだった。
 眠る前のひととき、セレンはよく、誰か心優しい精霊が、自分を迎えに来てくれないだろうかと想像した。
(それとも、もし、屋敷のてっぺんから飛び降りたなら、ぼくの体は砕けても、魂はどこか別の世界に、生まれ変わることができないかしら・・・)
 ぼんやりと、そう考えることもよくあった。だが、どれだけ頼りなく、どれだけ身勝手であっても、両親は、自分が死ねば嘆くだろう、と。そのことだけは疑ったことがなかったので、本当に飛び降りることはしないのだった。今のところは。

予告:(宝物の封印)

まだちょっと、固まりきっていない感じなのですが、見切り発車してみます。
「宝物」は「たからもの」と読んでいただきたく。
セレンの子供時代のお話です。
「夏の訪れ」よりも前の出来事を取り上げたエピソードです。

したがって、ちっちゃいセレン単独のエピソードになる…かと思っていましたが、よく考えたら、最後のほうには、成長してからのことも少し混ざって、フルートも出て来るのだと気が付きました。まあ、でも、セレン主体のお話であることには変わりないです。
あと、他のお話との関係で言うと、「夏の訪れ」「ゆがんだ城」「竜王の館」「見えない守り手」あたりでバラバラに言及されていた断片を、ひとつのエピソードとしてまとめるイメージになります。

たぶん、全3回だと思います。
あさって水曜日からスタートです。遅い時間の更新になるかもしれません。
どうぞよろしくお願いいたします。

進捗状況報告(2015/08/21)

次に書くお話の候補が二つあって、どちらにしようか迷っています。

ひとつは、セレンの子供時代のお話で、フルートに出会うより前のエピソード。
フルート単独の子供時代のお話は書いたのだから(=「幼きもの」)、セレンにも、セレン単独の子供時代のエピソードがあっていいよね、と思って。

もうひとつは、この冒険譚シリーズを半分くらい書くまで出さないでおこうと決めていた、唯一ほぼ出来上がった形でストックしていたお話。手直しはしますが。
こちらは、本編のフルートとセレンのお話。
旅が始まるときのお話が書けるまで、もうちょっと待とうかな?という気持ちもありながら、
先に作ったお話なのだから、先に出してもいいんじゃないか、とも思うのです。

このふたつのうち、どちらかを書こうと思います。
次回更新時に、予告を出せたらいいな。

こぼれ話:半分くらい…?

急に、「全体の半分くらい書いた」気持ちを感じるようになりました。
最近になって闇姫2話目を書いたことと、フィリシアの誕生日を書いたことによるのだと思います。
今年中に、旅立ちの話(仮題は「旅へ」)を仕上げることができれば、申し分なく、半分に到達したと言えそうです。

5年で半分ということは、あと5年あれば全部書き切ることができるのかしら。
いえ、以前からお話ししているとおり、物語が一応の完結を見たあとも、たぶん、時の流れを上ったり下ったりしながら、お話は続いて行くのだと思っていますけれども。
ちなみに、今まで書いて来たお話は67個。読者の方々から一番ご支持いただいたのは、(ブログランキングの獲得ポイントの常ならぬ盛り上がり方から見て)ゼラルドの番外編「逃避行」。二番目がフルート&セレンの番外編「跳ぶ」です。

ともあれ、ほぼ半分来たのならば、旅終盤のお話も、ぼつぼつ解禁して行こうと思います。
例によって、他のお話と混ぜ混ぜしつつ。
あとは並行して、過去に書いたお話を磨いていきたいな。過去よりも今のほうが、多少は技量が上がっているはず…!

これからも、ご意見・ご感想、お気軽にお寄せいただければ嬉しいです。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたしますclover

通販サイトのご案内

お小遣いと相談しながら、電子書籍に表紙をつけて、印刷に出して、小冊子にしています(A5版)
当初、ご希望の方に無料でお配りしておりましたが、メールアドレスを交換したり、送料分の切手を郵送していただいたりと、何かとお手数をおかけしてしまっていましたので、いっそ通販方式とさせていただくことにしました。
(というわけで、元々このページには冊子入手までの複雑な手順が書いてありましたが、通販サイトのご紹介に書き替えました。)

2017年3月6日現在、すべて 100円でお分けしております
「あんしんBOOTHパック(ネコポス)」でお届けするため、送料として全国一律 310円 をご負担いただきます。
「あんしんBOOTHパック」を使うことで、発注者も発送元も、お互いに個人情報を知らせずにやり取りを行うことができます

通販サイトは→ こちら です。
冊子はそれぞれ部数に限りがありますので、あらかじめご了承ください☆

ご参考: 印刷して冊子にしたことのある電子書籍は次のとおり。

こぼれ話:ちゃんりおメーカーでキャラメイク

巷で話題のちゃんりおメーカー、私も遊んでみました。
かわいくデフォルメされたチビキャラで、うちの子たちを作ってみたよ!

このくらいデフォルメされていれば、読んでくださっている方々がそれぞれお持ちのイメージも、壊れる心配はないですよね。と思うので、載せてみます。

念のため、小さく載せておくので、見たくない人はスルーで。
よく見たい人は、画像をクリックして大きくしてご覧ください。
そこそこ特徴が出てて、笑える出来ばえですよ!

Filly Luke Selen Zeraldo Retty

遊んでみた感想。
男の子のお洋服が少なすぎ~。
背景色も、もう少しバリエーションが多いと嬉しいな~。(緑とか、グレーとか。)
でも、楽しかったですhappy01

作者より:「誕生日の姫君」 & トーナメント結果

一番の反省点は、例によって、ここから読む人に不親切だ、という点です。
そして、なんとなく、全体的に言葉が足りないような気がしています。うーん、すみません…。

さて、連載中に、連載を中断したくなかったので、こっそり過去日付の記事を作って、いつもの小説トーナメントに参加しました。8作品中、3位をいただきました(3位は2作品)。
出品は、珍しく季節に合った、「夏の日の青い空」でした。読みやすい軽いお話ですので、未読の方がいらしたら、この機会にどうぞ。
応援してくださった方々、どうもありがとうございました。

それから、ふと思ったのですが。
皆様ご存知のとおり、作者は移り気で、あっちを書いたり、こっちを書いたりしていますが、もし、「そろそろ私は○○みたいなお話をもっと読みたいんだけど、まだなの?」とお思いの方がいらしたら、いつでもおっしゃってくださいね。
すぐリクエストにお応えする…ことは残念ながら出来ないと思いますが(ごめんなさいsweat02)、参考にさせていただきますので。

次は何を書こうかな。
今年の目標の「旅立ちのときのお話」は、ちまちま取り組んでいるのですが、なかなか進みません。なんとか目標達成できるように頑張ります。

→ 目次に戻る

誕生日の姫君(06)

 閂をかけてあった部屋の扉が、大きく性急な音を立てて叩かれていた。
「フィリー? 無事か? 壊して入っても――」
「待って! いま開けるわ」
 フィリシアは、あわてて駆け寄って、扉を開けた。フルートは、フィリシアを見て、さらにその背後の部屋を見て、いくらか安心した顔をした。
「魔女を追い払ったのか。良かった」
「聞こえていたの?」
「ああ、聞こえていた。こちらからもずっと呼んでいたが、聞こえなかったか」
「ええ。ただ、窓の外から、村の人の声が聞こえたわ」
「セレンとゼラルドが、おかみさんに頼んで呼んでもらった。部屋の中に声をかけてくれ、と。だが、君には言いたいことがある」
 フルートの視線に、責めるような色が混じったので、フィリシアはびっくりして、
「え?」
「もし、ぼくが君のことを忘れてしまったら、君は、ぼくのことを、この世から消えてしまえと思うのか?」
 フィリシアは驚いて、かぶりを振った。
「いいえ! いいえ、どうして、そのようなことを」
「同じことだ。もし君が、ぼくたちのことをみな忘れて、正気を失ってしまったとしても、ぼくは君に生きていてほしいし、笑っていてほしい。弱気になる必要など無い。忘れるな」
 真顔で言われて、フィリシアは返す言葉を失った。
「フルート・・・」
「それだけ言いたかった」
 表情を和らげて、フルートは、部屋の窓を指した。
「君を呼んでいる人たちに、姿を見せてあげたらいい」
 フィリシアはうなずいた。窓辺に歩み寄り、窓を開けると、外には老若男女の村人たちが集まっていた。手に手に灯を持ち、口々に叫んでいた。
「ケーキをごちそうさま!」
「おねえちゃん、ありがとう!」
「お誕生日おめでとう!」
 フィリシアも、大きな声で返した。
「ありがとう!」
 わあっと村人たちは手をたたき、フィリシアも笑顔で手を振った。
「本当にありがとう!」
 宿の中では、外から戻ったゼラルドが、同じく戻ったセレンと、フルートに話していた。
「残念だが、魔女の怨念を退けたところで、呪いは解けていない。つまり、彼女は、解呪が成るまで、自分の城に戻ってはならない。戻れば気がふれて死ぬ、そういう呪いだ」
 フルートはうなずいて、きっぱりと言った。
「予定どおり、聖泉<真実の鏡>を目指す。必ず、フィリシアの呪いを解く」

 夜空には、明るい月が昇っていた。外で、誰かが、乙女の誕生日を祝う歌を歌いだし、それは次第に大合唱となって、いつまでも響いていた。

(完)

誕生日の姫君(05)

 老婆の首は、猫なで声になった。
「かわいい姫様や。本当のところ、おまえはもう、ずっとずっと狂っていて、ただ、そのことを告げる者が今までいなかっただけなのさ。おまえは、ありもしない夢ばかり見て、みんなに迷惑をかけて、自分ひとり、いい気分で生きて来ただけだ。少しくらい、自分で、そう疑ってみたことはなかったのかね? 自分は狂っているかもしれないって?」
「・・・」
 王女は答えなかった。わからない。息が苦しい。
 老婆は続けた。
「おまえなど、いなくなればいいのにと、みんなが思っているよ。おまえがいなくなれば、さぞ喜ばれるだろう。そうと気づいていながら、どうして平気な顔で暮らしていられるのか、私にはわからないねえ」
「・・・」
 王女はうなだれた。そう、なのだろうか・・・。
「かわいそうな、アイリーンの娘」
と、老婆はニヤニヤ笑った。消え入りそうになっていた王女は、しかし、はっとした。老婆はさっきも「アイリーンの娘」と言ったが、よく思い出せないものの、母の名はアイリーンではないのだった。この人の言うことを、信じてはだめだ・・・。
 そのとき、窓の外から、聞き慣れない声がした。
「旅のおねえちゃーん、ケーキをありがとう!」
 ケーキ。
「フィアちゃん、起きてる? あのケーキ、大好評だったよ」
 そうだ、私、ケーキを焼いたわ。
「旅人のお嬢さん、ごちそうさま。誕生日おめでとう」
 誕生日。そう、今日は誕生日だ。こわいことを考えたくなかったから、一日中ケーキを焼いていたのだったわ。フルートがとても美味しそうに食べてくれて――。
 記憶がよみがえり、胸をひたした。呪縛は解け、フィリシアは顔を上げた。
「ここは、私の部屋ではありません」
「いきなり、何を言い出すんだね」
 老婆の首は、顔をしかめた。フィリシアは、気にせずに続けた。
「私は、大切な友人たちと旅をしています。誕生日は、ケーキを焼いて過ごしました。あなたは、あなたこそは」
 息を吸って、まっすぐに見つめて、告げた。
「もう、この世には、いない。そのことを思い出して!」
 老婆の首は、カッと目を見開いた。口を開け、ごぼ、と水を吐いた。ごぼ、ごぼ、ごぼ。そして・・・煙となって消え失せたのだった。
 王女は辺りを見回した。そこは元通り、異国の、田舎宿の一室だった。

すみません、あと1回。

誕生日の姫君(04)

 ――何が起こったのか、よくわからない。ただ、気がついたら、「自分の国の、自分の城の、自分の部屋」に、ひとり佇んでいた。見慣れた天井。見慣れた壁。見慣れた調度品。
 フィリシアは青ざめた。だめ、ここにいては、いけないのに――。
 いきなり、足元から、しわがれた女の笑い声がした。
「ひっひっひ」
 フィリシアは声をのんで後ずさった。床には、しわくちゃの老婆の首が転がっており、その首は歯を剥き出して、ニタニタと笑っていた。
「それじゃあ、いまいましいアイリーンの子供は、この年まで、のうのうと生き延びたわけだね。だけども・・・ひっひっひ。今度は逃げられないよ。おまえはね、自分の国の、自分の城で、気がふれて死ぬ。そういう運命なのさ」
「ちがいます」
と、王女は言った。
「私、そうならないように、旅に出たのだもの――」
「夢だよ。それは、おまえが見た、夢だ」
 老婆は、ケタケタと笑った。
「夢である証拠に、おまえは今、その旅のことを何ひとつ思い出せない。そうだろう」
「そのようなことは・・・」
 言いかけて、フィリシアは絶句した。本当だった。何も思い出せない。旅・・・、誰と、どこへ。何もかも、霞がかかったようにぼんやりして、つかみ出せない。
「けっけっけ。な、思い出せないだろう? それから、おまえは、おまえが大切に思う者のことを、ぜんぶ忘れる」
「大切に思うひとのこと・・・」
 仲間と思う人たちがいた、ような気がするのだが、気のせいだったろうか。待って。それでは私は、家族とともに、ずっと城に・・・いいえ、家族って、誰のこと?
 記憶を奪われたフィリシアは、混乱した。老婆の首は、憐れむように言った。
「かわいそうにねえ。おまえはもう、とっくに狂ってるんだよ。いま自分がどこにいるか、わかるかい?」
「私の部屋・・・」
「ひひひ、そう、ここは、おまえの部屋。おまえの国の、おまえの城の、おまえの部屋」
 扉の外で、誰かの声がしたような気がした――「フィリー、ここを開けてくれ」――が、老婆がすかさず、
「おまえは、大切に思う者の言葉が、耳に入らなくなる」
と言うと、すぐに聞こえなくなった。
 自分の国の、自分の城で、ひとりぼっち。気がふれているから、ひとりなのかしら? たしかに、誰のことも思い出せないなんて、正気とは思えないわ・・・。

あと1回かな?

誕生日の姫君(03)

 翌日、フィリシアは本当に日の出とともに起きて来て、本当に牛の世話を手伝っており、本当に乳絞りが得意だった。フルートとセレンは、今日は1日、姫君から目を離すまいと決めていたが、おかげで巻き込まれて、水やら牛乳やら牛のエサやらを運ぶ羽目になった。
「どうして、ぼくたちまで・・・」
と、セレンがぶつぶつ言うので、フルートが笑いながら、
「馬の世話と、そう変わりはないと思えばいいだろう」
と、たしなめていると、宿のおかみが寄って来て、
「あんたがた、よほど何かわけがある身の上に見えるけども、いい子たちだねえ」
と、しみじみ言った。
「青い髪の娘さんも。このへんじゃ、あんまり見かけない髪の色だけど、ほんとに、いい娘さんだ。今日が誕生日というのも何かの縁、あたしも喜んで、お祝いさせてもらうよ」
 そのあと、朝食になった。ひとつだけある小さなテーブルを、姫君と3人の若者が囲んで、お祝いを言いながら食事していると、宿のおかみが来て、フィリシアに笑いかけた。
「誕生日おめでとう、フィアちゃん。準備できたよ、台所。好きに使っておくれ」
 フィリシアは――いつものとおり「フィア」と名乗っていたが――、にこにこしながら「ありがとう!」と言って、若者たちに向かって説明した。
「今日はね、わたし、ケーキを焼くわ! セレンが昨日買ってきてくれた果物と木の実を使うの。おかみさんが、水とか粉とか、分けてくれるって言うから」
 セレンは、驚いて聞き返した。
「ケーキ? 焼くの? 君が?」
「そうよ! あ、ううん、クリームとか使わないの。村のお祭りで配るようなケーキ。あなたの口に合うかわからないけど、でも、わたしが思うには、そこそこ美味しいわよ」
 ふふ、と、楽しそうに笑う。宿のおかみは、うなずいて、
「いくらでも焼いておくれ。今日はお祭りみたいなもんだと思うことにするからね」
「ありがとう! そしたら、村のひとたちに配れるくらいに焼くわね!」
 そんなわけで、この日は1日、姫君のお菓子作りの日になった。混ぜて、こねて、かまどで焼いて。小さな宿は、甘い幸せな香りに包まれた。匂いに誘われてやって来る村人たちに、姫君はケーキを一切れずつ分けた。もちろん、フルートもセレンもゼラルドも、焼き立てのケーキを食べた。干した果物と、蜂蜜漬けの木の実が焼きこまれたケーキは、素朴だったが、とても美味しかった。
 そうして、1日は無事に、あわただしく過ぎて行った。ケーキを焼き続けた姫君は、気持ちよく疲れて、夕食のあと、早く休むことにした。寝室の前まで、フルートが送った。
「おやすみ、フィリシア。何事もなくて良かった」
「ありがとう。おやすみなさい」
 フィリシアは安心して寝室に入った。夢も見ずに眠れそうだと思った。
 だが――。

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