2017年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

ひとこと通信欄

  • (2017/6/11夜) 「火の鳥」を印刷所さんに入稿する準備をしていたら、ブログの更新間隔が空いてしまいましたー。すこーしお待ちくださーい。

ランキング参加中!

  • 記事がお気に召したらクリックしていただけると、作者の励みになります。(1日1回まで)

    (投票せずに順位を確認したい方はこちらから。)

読者アンケート実施中♪

  • 所要時間は5分くらい?
    個人情報の入力はありません。
    よろしくお願いいたします。
    こちらから。

SF「夜景都市」(未完)

最近のトラックバック

プロフィール

  • 城

    雪村月路
    snow.moon.rainbow☆gmail.com
    (☆を@に変えてください)
    Twitter: @ariadne_maze
    ブログ更新量について
    愛読書100冊

    うちの子同盟 うちの子同盟

無料ブログはココログ

« 聖なる森(09) | トップページ | 聖なる森(11) »

聖なる森(10)

 乙女は、仲間の制止など気にかけなかった。表情から、生きた感情の色が次第に消えて行き、その白い仮面の中から、2つの石のような目が、セレンを見据えていた。
 セレンは動ぜずに、黙って乙女を見つめ返した。恐れはなかった。仮にここで命を落とすことになったとしても、それはそれで、かまいはしない。親しいひとより先に黄泉へと旅立てるなら、それはセレンにとって、幸いなことだ。
「ね、私、お母さまを呼んで来る・・・」
 ひとりの乙女が身をひるがえし、勝ち気な乙女は無言で手を上げ・・・、まさに今、何か恐ろしいことが起ころうとした、そのとき。
「え・・・?」
 不意に、乙女の手が止まった。かたわらの乙女たちも、はたと動きを止めた。
「何・・・? あれは・・・?」
 勝ち気な乙女は手を下げ、その顔に、戸惑ったような、娘らしい表情が戻って来る。駆け出そうとしていた乙女も振り返り、3人で顔を見合わせている。
 おや、と思ったのは、セレンも同じだった。が、彼のほうは、その音には慣れ親しんでいた――聞こえて来たのは、笛の音だった。
 それは、どことなく寂しげな音色だった。旋律そのものは、むしろ明るいといえそうなものだったのだが、そのかすかに帯びた愁いが、聞く者の心を震わせた。すべてを肯定する希望の輝きと、すべてを手に入れる力強い自信の陰に、ひそやかに忍び込む孤独とあきらめの色。危うい均衡が生み出す、美しく甘い響き。
 気が付くと、乙女たちは次第に、うっとりと夢見るような様子になり始めていた。地面に座りこみ、全身を耳にして豊かな音色に聞き入り、形の良い口元には満ちたりた笑みを浮かべて、その穏やかな瞳は、あるいは閉じられ、あるいは何かこの世のものでない幻を見ているように、なごんで空中に向けられていた。
 それは、なかなか絵になる眺めだった。おそらく、彼女たちにとっては、こちらのほうが本当の姿なのだ、と、セレンは理解した。ただ、彼女たちは、まだとても若いのだ。とても、とても。時が経つにつれて、彼女たちはたくさんのことを学び、清められた理性を身につけ、そしていつか、彼女たちの母親と同じように、偉大な精霊となるのだ。
 セレンは、乙女たちの陶酔を破りたくはなかった。しかし、彼は笛の音が何を意味しているのかを、すでに知っていた。ここからなら1人でも戻れるな、と確認して、セレンは、乙女たちの意識が声の届かないところに行ってしまわないうちに、そっと言った。
「では、ぼくは帰るよ。あのとおり、彼も呼んでいるから」

全15回→全13回で終わりそうです。

« 聖なる森(09) | トップページ | 聖なる森(11) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/568827/62501737

この記事へのトラックバック一覧です: 聖なる森(10):

« 聖なる森(09) | トップページ | 聖なる森(11) »