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2015年10月

ひとやすみ:かわいい雑貨

ヴィレッジヴァンガードのネット通販で、こんな可愛い雑貨を買うことができました。
miyaさんというイラストレーターの方がデザインされたものです。
写真、ちょっと暗くてごめんなさいsweat01 クリックで大きくなります。

20151031mirrors_2

手前の缶は、バッチではなく、裏面が鏡です。姪っ子たちへのプレゼント用heart
うしろの左はイラスト集、右のアリスはA4クリアファイルです。

あとね、近所の書店で、綺麗な塗り絵も買いました。
「おとぎ話のぬり絵ブック」http://pie.co.jp/search/detail.php?ID=4582)と、
「お姫さまと妖精のぬり絵ブック」http://pie.co.jp/search/detail.php?ID=4687)。
絵が主体の本の写真をブログに載せてはいけないそうなので、カッコ内のリンク先をご参照ください(別ウィンドウで出版元の商品紹介ページが開きます)。美しいです。
…上手に塗れるかなあsweat02

冊子ができたよ!「夜を越えて」 & トーナメント優勝のご報告

連載中には雑記をはさまない、というルールにしているので、お知らせふたつ、遅くなりました。

まず、ひとつめのお知らせ。
「夜を越えて」の小冊子、印刷からあがって来てスタンバイしています!

例によって、送料分の切手と引き換えにお分けしておりますので、ご希望の方はコメントにその旨をお書きください。
初めてのお取り寄せの場合は、メールアドレス欄に、連絡のつくメールアドレスをご入力くださいね。手順詳細は、「配布物の在庫状況」をご参照ください。
2回目以降のお取り寄せの場合は、取り寄せ希望の旨を書きこんだうえで、前回と同じ宛先に、180円分の切手をお送りください。折り返し、冊子をお送りいたします。
なお、数回分の送料をまとめて支払い済みの方は、今回は切手の送付がいりません。取り寄せ希望のみお知らせいただければ、前回と同じご住所宛てに、冊子をお送りいたします。

次に、ふたつめのお知らせ。
こっそりブログ村の「第10回 自作小説ブログトーナメント」に出していた「風の贈りもの(トーナメント参加用)」が、なんと優勝をいただきました(参加作品数:11)。
ありがとうございます。嬉しいです。
ふわっと軽いお話ですが、その軽さが良かったのかもしれないと思います。

以上、ご報告でした。
今後ともよろしくお願いいたします♪

作者より:「聖なる森」

うちの冒険譚らしい、メルヘンとファンタジーの中間にあるお話です。
このくらいの長さを書くのは、2年前に書いたゼラルドの「逃避行」以来です。
よろしければ、一言二言、ご感想をいただけると嬉しいです。

そして、文中にあるとおり、これは帰り道の物語。
勘の良い方は、途中でお気づきになったかもしれません。
フィリシアは別行動しており、この時期のフィリシアのお話に、「あかずの扉」があります。

次に何を書くかは未定です。
いつものように、雑談しながら考えようと思います。
でもきっと、ゼラルドの話か、フィリシアの話になるよね、たぶんね。

聖なる森(13)

 フルートは、ぎこちなく言い直した。
「もしも・・・ゼラルドが」
 口に出したその名の響きに、自ら戸惑うかのように視線を揺らして、ためらいがちに続けた。
「ゼラルドが、今も・・・いたとしたら。そして、あの国で、君を引き止めていたら。いまごろ、君はここにいなかったのだろうな」
「えっ」
 セレンはびっくりした。セレンもまた、そのひとの名によって落ち着かない心地がしていたが、ともかく、いつのまにか招いてしまっていたらしい、不思議な誤解を解くことのほうが先だった。
「フルート、それは色々おかしい」
「そうか?」
「そうだよ! まず、彼がぼくを引き止めるようなことがあったはずがない。そして、百歩譲って引き止めたとして、ぼくがそれで引き止められたはずがない」
「・・・」
 フルートは、じっとセレンを見たあと、ついと視線をそらし、あらぬほうを眺めながら、まるで違うことをぽつりと言った。
「もうすぐ、帰り着いてしまうね」
 そして、セレンは理解した。ああ、そうか。泉のほとりでセレンを待ちながら、フルートが奏でていた笛の音が寂しそうだったのは、そういうことだったのか。
「誓うよ」
 セレンは、さらりと言った。フルートの視線が戻って来るのを、しっかりと受け止めて、言った。
「ぼくは、国に帰ったあとも、君がやがて王位を継いだあとも。これから先、何度、君に剣を捧げ、衆目を浴びてひざまずこうとも。決して、君の臣下にはならず、友人でいよう」
 笑って、付け加えた。
「それを疑うのは、無しにしてくれないか」
「そうだな」
と、フルートも答えた。本当に近しい者だけが稀に見ることのできる表情で笑い、目を伏せて、
「ありがとう」
と、言った。
 その先、森を抜けるまで、ふたりはほとんど口をきかなかった。精霊たちの住む、夢のように美しい、神聖な森。ここを抜けて街に出て、青い髪の姫君と合流すれば、故国は、もう目の前なのだった。

 ・・・すでにおわかりのように、これは、帰り道の物語である。

(完)

聖なる森(12)

 セレンと馬たちが姿を見せると、陽光色の髪をした王子は笛を吹きやめた。
「遅いぞ」
 とがめるようにそう言うが、目元が笑っている。セレンは、胸がいっぱいになるのを感じながら、それを抑えて、自分も屈託なく笑って見せた。
「ごめん。でも、リーデアを連れて帰ったからね」
「ああ。ありがとう」
 フルートは立ちあがって、服に付いた草を軽く払い、寄って来た白馬の首をたたいた。
「よしよし・・・帰って来てくれて良かった」
 なにげないふうに口に出された言葉。フルートの表情は、こちらからは見えなかった。が、それはもちろんセレンに向けられた言葉だったし、セレンにはそれがわかった。無言で承認すれば良いだけだ。
 けれども、セレンは少しばかり気分が高揚していて、友達に対して、言ってみれば、いくらか意地が悪くなっていた。いたずらを悟られないように注意深く口調を抑えながら、こう言ってみることにした。
「それは、リーデアに言っているの?」
「そうだよ」
 ためらいのない答え。だが、確かに戸惑う気配があった。セレンはどきどきしながら、細心の注意を払って勝負にかかった。
「そう。それなら・・・帰って来なければよかったな」
 ふだんなら、こんな言葉が通用するはずもなかった。だが、今は。
 わずかに間があって、フルートはとうとう振り向いた。半信半疑の面持ち。セレンが性質の悪い笑みを浮かべているのを見て、鼻白み、すぐにぷいと向こうを向く。セレンは声を立てて笑った。
「ぼくが森の精霊か何かに誘われたとして、どう返事をするかくらい、見当がつくだろうに」
 フルートは答えずに、白馬を引いて歩き出す。その後ろを、くすくすと笑いながら歩いているうちに、セレンの心は穏やかに落ち着いて行った。
「ねえ、フルート」
 セレンは幸せな気分で言った。返事はなかったが、フルートが聞いていることはわかっていた。
「ここしばらく、心配をかけて、悪かったよ」
「わかっているなら、もっと反省しろよ」
 あきれたような返事が返って来た。良かった、ご機嫌は直ったようだ。セレンはひとり微笑んで続けた。
「でもさ。今日みたいな日に、君が心配することなんか、何もないんだ。君は、特別なんだからさ」
「つい最近まで、ぼくを避けていたくせに」
「もう過ぎたことだよ」
 フルートは、ふと立ち止まり、振り返った。澄んだ青い目が、セレンの目を覗き込んだ。
「もしも・・・彼が」
「え?」
 セレンは、思わず聞き返した。

次回(「聖なる森」最終回)、遅れたらごめんなさいsweat02

聖なる森(11)

 乙女たちは、びくっとしてセレンを見上げた。3人とも、一瞬のうちに我に返っていた。
「あのとおり、って。それじゃ、あれは、あなたのお友達が?」
 驚いた顔をして、1人が言った。
「そうだよ」
「まあ」
 乙女たちは顔を見あわせた。その驚きは、しかし、響き続ける笛の音の中で、少しずつ和らいでいった。乙女たちは旋律に耳を傾け、再び夢を見始めた瞳で互いにうなずきあうと、セレンに向きなおり、代表として、勝ち気な乙女が口を開いた。
「お友達のこと、悪く言って、ごめんなさい」
 さきほどとは打って変わった、おとなしい口調だった。セレンを見上げて、
「本当にごめんなさい。あなたの言ったこと、今ならわかるわ。優れているとか劣っているとかじゃなくて、私たちは、ただ種類が違うんだっていうこと。生きている世界が違うだけなんだっていうこと。私、とても愚かだったわ。許してくださる?」
「もちろん」
 セレンはにっこりして身をかがめ、乙女の手をとってキスをした。乙女はどぎまぎした様子をした。そうしていると、彼女は人間の娘とたいして違わなかった。
「私・・・私ね」
と、乙女は口ごもりながら言った。
「本当に、でも、あなたにここにいてほしいと思うわ」
「ありがとう」
 セレンは答え、しかし、彼に残るつもりがないことは、乙女たちにもわかりきったことだった。
 セレンは自分の馬を連れて、リーデアのそばに近づいた。白馬は、笛の音に落ち着かない様子をしていた。
「では、リーデア、帰ろうか」
 首をたたいてやって、振り返る。勝ち気な乙女は、一瞬の間をおいて、
「あなたに祝福がありますように」
と言った。あとの2人も唱和した。
「あなたに祝福がありますように」
「ありがとう。さようなら、お姫さま方」
 セレンは軽くお辞儀をして、2頭の馬を連れ、きびすを返した。そして――乙女たちは笛の音を聞きながらずっと彼の後ろ姿を見送っていたのだが――2度と振り返りはしなかったのだった。

聖なる森(10)

 乙女は、仲間の制止など気にかけなかった。表情から、生きた感情の色が次第に消えて行き、その白い仮面の中から、2つの石のような目が、セレンを見据えていた。
 セレンは動ぜずに、黙って乙女を見つめ返した。恐れはなかった。仮にここで命を落とすことになったとしても、それはそれで、かまいはしない。親しいひとより先に黄泉へと旅立てるなら、それはセレンにとって、幸いなことだ。
「ね、私、お母さまを呼んで来る・・・」
 ひとりの乙女が身をひるがえし、勝ち気な乙女は無言で手を上げ・・・、まさに今、何か恐ろしいことが起ころうとした、そのとき。
「え・・・?」
 不意に、乙女の手が止まった。かたわらの乙女たちも、はたと動きを止めた。
「何・・・? あれは・・・?」
 勝ち気な乙女は手を下げ、その顔に、戸惑ったような、娘らしい表情が戻って来る。駆け出そうとしていた乙女も振り返り、3人で顔を見合わせている。
 おや、と思ったのは、セレンも同じだった。が、彼のほうは、その音には慣れ親しんでいた――聞こえて来たのは、笛の音だった。
 それは、どことなく寂しげな音色だった。旋律そのものは、むしろ明るいといえそうなものだったのだが、そのかすかに帯びた愁いが、聞く者の心を震わせた。すべてを肯定する希望の輝きと、すべてを手に入れる力強い自信の陰に、ひそやかに忍び込む孤独とあきらめの色。危うい均衡が生み出す、美しく甘い響き。
 気が付くと、乙女たちは次第に、うっとりと夢見るような様子になり始めていた。地面に座りこみ、全身を耳にして豊かな音色に聞き入り、形の良い口元には満ちたりた笑みを浮かべて、その穏やかな瞳は、あるいは閉じられ、あるいは何かこの世のものでない幻を見ているように、なごんで空中に向けられていた。
 それは、なかなか絵になる眺めだった。おそらく、彼女たちにとっては、こちらのほうが本当の姿なのだ、と、セレンは理解した。ただ、彼女たちは、まだとても若いのだ。とても、とても。時が経つにつれて、彼女たちはたくさんのことを学び、清められた理性を身につけ、そしていつか、彼女たちの母親と同じように、偉大な精霊となるのだ。
 セレンは、乙女たちの陶酔を破りたくはなかった。しかし、彼は笛の音が何を意味しているのかを、すでに知っていた。ここからなら1人でも戻れるな、と確認して、セレンは、乙女たちの意識が声の届かないところに行ってしまわないうちに、そっと言った。
「では、ぼくは帰るよ。あのとおり、彼も呼んでいるから」

全15回→全13回で終わりそうです。

聖なる森(09)

 乙女は、気を悪くしたようだった。
「何よ・・・お母さまと話していたときと、ずいぶん態度が違うじゃないの」
「姫君方のお相手は慣れていますからね、お姫様」
 セレンはおどけて、多少の皮肉もこめて一礼したが、この姫君の機嫌は一向に直らなかった。
「いいえ、そんなんじゃないわ。あなたは私たちのこと、ばかにしてるんだわ。私たちには、お母さまほど力がないと思って。それで、私たちより、私たちの姿を見ることのできない人なんかをかばうのよ」
「そうじゃないさ。君たちこそ、どうして君たちが見えない者のことを、そう悪く言うんだい」
「だって、ただのヒトだもの!」
 それこそ、ばかにしきった答えが返って来た。セレンは辛抱強く、
「生きている世界が違うだけだよ。どちらが優れているとか、劣っているとか、そういうことじゃないんだ」
「いいえ、そういうことなのよ。だって、あなたには見えるじゃないの。あなたが特別な、私たちに近い人だからよ。そうでしょう」
「血筋のことなら、彼のほうが、ぼくより由緒正しい血を引いているんだけど」
「そういうことじゃないわ」
 勝ち気そうな乙女は、いらいらしたように言った。
「そうじゃなくて・・・あなたはとても優しくて、穏やかで、ものに感じやすいってことよ。私たちが見えない人は、きっと違うわ。粗野で、鈍感で、愚かな人。たとえ血筋や容貌が少しくらい良くたって、魂が卑しいに違いないわ」
 セレンは溜息をついた。
「これ以上、話すのはよそう。お互い、気分が悪くなるだけだ」
「どうして分からないの。目を覚まして。このままでは、あなたの魂まで汚されてしまう」
「口をつぐんでくれ」
 セレンはきっぱりと言った。乙女は、信じられないという顔をした。あとの2人は、おろおろと成り行きを見守っている。
「・・・何よ。あなた、私が何もできないと思ってるわね・・・」
 しばらく間があってから、勝ち気な乙女は低く言った。何かが、変化しつつあった。
「私だって・・・その気になれば、出来るんだから・・・」
 そして、あらわれようとする、人ならぬものの気配。
 おびえ始めた残りの2人は、手を口にあてて、なすすべもなく仲間とセレンを見比べ、1人がかろうじて、たしなめようとしていた。
「ね、だめよ・・・お母さまに怒られるわよ・・・ねえ・・・」

聖なる森(08)

 ・・・白馬を引いて先に立ちながら、女王の娘たちは2人とも――勝ち気そうな1人はいつのまにか消えてしまっていた――、もうセレンに対して怯えてはいないようだった。
「残ればいいのに」
 と、道を行く途中、1人が残念そうに言った。セレンが自分の馬を引きながら、微笑しただけで答えずにいると、不満そうに続けて、
「だって、あの人。あなたのお友達って人。私たちが見えないような人よ?」
「だから?」
 セレンが聞くと、もう1人が、
「ただの人っていうことよ。あんな人のために、あなたが戻ることなんて、ないわ」
「あんな人? 聞き捨てならないね」
 セレンが穏やかにたしなめる。娘たちは納得がいかないようだったが、ともかくも口をつぐんだ。と、思いきや。
「あの人、何してたと思う!」
 ざざっ、と音を立てて、そばの木の上から、いなくなっていた3人目が軽やかに飛び降りて来た。一行は、さえぎられる形で、いったん立ち止まることになった。
「ねえってば。何してたと思う?」
 3人目の乙女は、興奮した様子でセレンの横に来ると、その顔をのぞきこんだ。
「さあ。ともかく、落ち着いて、お嬢さん」
「まじめに聞いてよ」
「聞いていますよ。で、あの人って、ぼくの友達のこと?」
「もちろんだわ」
「わざわざ何を見に行ったの」
「様子を見にじゃない!」
 乙女は、じれったそうな顔をして、声を高くした。一行は立ち止まったままだ。
「あの人ね。いいこと、あなたはお母さまに、友達を待たせているからって言っていたけど、あの人のほうはね・・・」
 セレンは予想がついて、くすりと笑ったが、乙女のほうは勢い込んで、
「あの人・・・寝てたのよ! ねえったら。私、見たんだから。ほんとよ!」
「そう」
「そう、って・・・、なのに、あなた帰るの? 友達の心配もせずに、のんきに昼寝してるような、あんな人のために?」
「ねえ、君たち」
 セレンは多少、うんざりし始めた。
「その『あんな人』っていうの、やめてくれないかな。あまり、良い気分のするものではないから」
「だって」
「それにね、彼、ここのところ少し疲れているんだ。半分くらいは、ぼくのせいでもあるし。眠るのくらい、何も言わずに寝かせておいてあげたいんだけどな」

聖なる森(07)

 女王は、激情からややさめて、その目に面白そうな光を浮かべた。
「それはまた、本当に矛盾したおっしゃりようですことね。でも、それでは、あなたはその生きるのに不向きなあなたご自身を、いまになって安らがせようとはお思いにならないの」
「心休まる静穏な暮らしは、常にわたくしの憧れでございます、陛下」
 セレンは言って、続けた。
「けれども、わたくしは、静けさを求めるために生きているのではございませんし、逆に申し上げれば、いかに穏やかで安らいだ生活であろうとも、わたくしが満たされるためには十分ではありません」
 自分の言葉が通じているかどうか、セレンはいくらか心配した。しかし、
「そうですか・・・よくわかりました。けれど、それなら、あなたがいま生きておいでになれるのは、一体なぜだとおっしゃるのですか」
 賢い女王は、彼の言いたいことをちゃんと理解してくれていた。セレンは安堵して、フルートがこの場にいないことに感謝しながら、答えた。
「わたくしには、類まれな気高い友人が一人あるのです、陛下。わたくしは、自分が少しでも彼の役に立てることを知っておりますので、今まで生きてまいりましたし、今も帰りたいと願うことができるのです。今わたくしが待たせているのは、その友人なのです」
「それでは、失礼ながら、その方がお亡くなりになったあとは、どうなされるのです」
 死、という言葉は、まだ新しい心の傷に、分かちがたく結びついていた。死。それは、きのうまで同じ世界にあった命が、今日は欠落し、存在しないということ。もう二度と、会うことも、言葉を交わすこともできず、その不在は永遠に埋まらないということ――。
 けれども、この友の死についてなら、それが誰よりも親しい友であればこそ、彼はいつでも覚悟ができていた。
「彼の遺志を執り行うために尽くすつもりでございます、陛下」
 セレンは、ためらうことなく言い切った。女王は、穏やかな、しみいるようなまなざしで、彼を見つめた。
「そうですか・・・その方は、あなたのご主君でもおありのようですね、ちがいますか」
 セレンは少し笑った。
「さあ、どうなのでしょう。それを簡単に認めては、叱られてしまいます」
「良いご友人ですわね」
 女王は、そっと言った。そして夢見るように続けた。
「ずっと昔、わたくしの申し出を受けずに去って行かれた最初の方は、故郷に家族と恋する人とを残して来ていらっしゃいました。長い年月が経って、次にそうなさったのは、ご主君と同志のお仲間に、戦の報告をするために戻って行かれた方でした。そしてまた長いことあって・・・あなたは3人目の方なのですわ」
 女王はしばし沈黙し、そののち晴れやかに声を張った。
「お話できて、本当に楽しゅうございました。長々とお引き止めいたしましたけれど、お許しくださいましね。さあ、おまえたち、この方をお送りしておあげ」

聖なる森(06)

 ――その言葉は、ほとばしるように女王の口から放たれて、次の瞬間、セレンの心に深々と突き刺さっていた。セレンは動揺し、その一瞬、世界は崩れていた。それを崩れないように支えていられるためには、彼はあまりにも最近に、あまりにも深く傷ついてしまっていた。
 彼はその瞬間、自分がどこにいて、何をしているのかもわからなくなっていた。ただ、自分が遥かな時をさかのぼって、幼い少年の日の夢の中にいるのだと感じていた。彼がかつて狂おしく待ち望んだその夢を、目の前の精霊は何らかの手段によって知り、それを無条件に叶えてくれようとしているのだった。そして彼は――彼は、しかし、この夢を何とかして抜け出して、現在の彼がいたはずの世界を、もう一度構築したいと望んでいるのだった。そのすべを何としても知りたいのだった。そう、精霊の女王は何もかも知っている・・・けれど同時に、何ひとつ知ってはいない。なぜなら、彼は「帰りたい」のだから。帰らなければならない、ではなく、帰りたい、のだから。
 セレンは、もしもあの憂いに満ちた幼い日にこの夢が立ち現れていたならば、自分がためらわずにこの精霊の申し出を受けただろうことを知っていた。けれど、その遠い日にこの夢に出会えなかったことを、嘆こうとは思わなかった――それどころか、出会わなかったことはむしろ、今の彼にとっては喜ばしいことだった。もし、少年の彼がこの美しい幻を現実として休息を見出していたならば、彼は決して、彼が今帰りたいと望んでいる世界が、自分にとって本当はどのような意味を持ち得たのか、知ることはなかったのだ。その世界で、彼は今どれほど幸福であることだろう。どれほど、その世界にいる自分を誇りに思っていることだろう。たとえ時には、悲しみの底に沈むことがあったとしても、それでも。
 そのことを、そのゆえを、精霊の女王は知らなければならなかった。そして・・・世界はゆるやかに、元通りの姿を取り戻しつつあった。
「――たしかに、少しばかり難儀することもございますけれども、陛下」
 世界が再びよみがえったとき、いましがた逆巻いた混乱のすべては一瞬のうちに生まれて去ったのだと、セレンは知っていた。彼は女王の前にひざまずき、穏やかに申し述べた。
「それでも、わたくしはこれまで、人の世に生きて参ることができましたし、もしもこのような矛盾した言い方をお許し願えますならば・・・わたくしが今、陛下のもったいないご厚意に甘えて留まりたいと望みますほど、人の世の憂き目を嘆いておりましたなら、わたくしは今頃、もうここに生きて在ることはなかったと思うのです。たしかに、過ぎ去りし日々において、自分が人の世を生きるのに向いていないと、感じたこともございましたから」

聖なる森(05)

「ありがとうございます」
 セレンはほっとした。森の精霊を司る女王と思われるひとと、争わずに済んだのは幸運に思われた。すぐに、リーデアを連れて戻ることにしよう。
 女王は、セレンをじっと見た。
「よろしければ、お詫びのしるしに、おもてなしいたしたく思うのですけれども」
「お気持ちはありがたく存じますが、友人が待っておりますので、失礼させていただきます」
「どうぞ、そうおっしゃらずに」
 女王は言って、続けた。両の瞳に、慈愛の光を満ちあふれさせて。
「よろしいこと、もしも、あなたが望まれるなら。あなたがずっと、今日も明日もあさっても、その先もずっと、ここにいらしてくださっても、私たち、かまいませんのよ」
 セレンは思わず、まじまじと女王の顔を見つめ返した。女王は、そのたおやかなおもてに、心からの思いやりと深い思慮の色を浮かべ、セレンの目を覗き込んでいた。申し出を受ける気持ちはなかったが、セレンの胸は落ち着かない早鐘を打った。
 女王は視線を合わせたまま、微笑んで、静かに続けた。
「私たちの姿が見える方は、心やさしい方です。長いこと生きている間に、何人か、そのような方にお会いいたしました。中には、この森に留まることを選択なさった方もいらっしゃいました。そして、この森で安らかな一生を過ごされました。あなたは、どうなさいますか」
 セレンは礼儀正しく少しの間をおいてから、きちんと答えた。
「そのようなお声をかけていただけたのは、身に余る光栄と存じておりますが、さきほども申し上げましたとおり、友人が待っておりますので、やはりここで失礼させていただきたく存じます」
「お馬なら、娘たちに返しに行かせられますよ」
「いえ、そのことではないのです」
「ご友人が、馬ではなく、あなたを待っていらっしゃる、ということかしら」
「はい、陛下」
 女王はしかし、この不意の客人の心のうちを何もかも知ろうとするかのように、なおもセレンの目をひたと見据えていた。
「たしかに、あなたは、ためらってはいらっしゃらないようですけれど・・・、でも、あなたが、あなたの生きる場所のことで、ほかのひとに義理立てする必要はないのですよ」
「義理立てなどでは――」
「それでは、あなたは今、なぜ帰ろうとなさるのですか」
 女王はたたみかけ、叫ぶように言った。その瞳は、いつしか優しい涙に潤んでいた。
「ああ、つまり、私が言いたいのはこういうことなのです――人の世は、あなたには、つらすぎはありませんか!」

聖なる森(04)

 広場の向こう側には、見覚えのある三人の乙女に囲まれた、威厳ある風貌の、母親らしき女性が見えた。そして、その傍らには、紛れもない真白き駿馬、リーデアがいた。乙女たちとその母親は、広場のこちら側に入りこんだセレンには気づいた様子もなく、白馬を指して、話をしていた。
「いいから、元の場所に戻していらっしゃい」
 椅子にかけた女王が――どう見ても女王としか見えなかった――言っていた。
「おまえたちには、まだわからないかもしれないけれど。私には、ひとめ見ればわかるものなの。この馬には半分、平凡な血が混じっているわ。一体どこから連れて来たの」
「人間が通る道からよ、お母さま。でも・・・」
「ねえ、お母さま、私たち、もう一度あそこには行きたくないの」
「どうして」
「だって・・・」
 娘たちは、母親の膝や肩にもたれて口ごもる。女王はあきれた顔をした。
「まあいいわ、ちょっと待っていらっしゃい。私はあそこの迷い人を、道まで戻して来ますからね」
 セレンのことだった。娘たちは、いっせいにこちらを見て、あっと声をあげた。
「・・・おや」
 女王もまた、椅子を立ってこちらに歩み寄って来たが、セレンを見て、いくぶん驚いたようだった。
「あなたは、もしかして・・・私たちが見えるのかしらね?」
「はい、陛下」
 セレンは深くお辞儀をした。女王はしげしげと彼を眺めて、
「何か御用があっていらしたの?」
「おそれながら、わたくしの友人の馬を返していただきに参りました」
「まあ」
 女王は、今度こそ驚いて、娘たちを振り返った。
「おまえたち、ひとの馬を勝手に連れて来てしまったの?」
 娘たちは、観念したように、しぶしぶと頷いた。
「ごめんなさい、お母さま」
「私たち、でも、ほんとに・・・」
 女王は、ため息をついてセレンのほうに向き直った。その態度は、いくらか改まったものになっていた。
「たいへん申し訳ないことをいたしました。本当に、しようのない娘たちです。長年探していた馬に似て見えたので間違えたらしいのですが・・・、もちろん、お馬はすぐにお返しいたします」

聖なる森(03)

「うん・・・そうだね」
 セレンは休憩に同意した。最近起こったあれこれの出来事を考えれば、セレン以上に、フルートも疲れているはずだった。
 二人は馬に水を飲ませ、自分たちも飲み、また、近くの木からいくつかの果実をもいで来て、簡単な食事を済ませた。草の上に寝そべったフルートが気持ちよさそうに眠り込んでしまった横で、セレンはしばらく考え事をしていたが、そのうちに自分も眠くなり、横になって、いつとはなしに、うとうととまどろみの中に落ちて行った。

 ――おそらく、彼のほうが眠りが浅かったのだろう。その微かな気配がしたとき、セレンはフルートよりも早く目覚めて、さっと身を起こした。
「・・・待て!」
 何者かが、フルートの馬――非の打ちどころのない名馬で、リーデアという――を連れて、森の中に入って行くところだった。セレンはとっさに自分の馬に飛び乗った。
「セレン!」
 その頃にはフルートも目が覚めていて、声が背中から追って来る。半分だけ振り返り、肩越しに、
「ここで待っていて」
 言い置いて、かまわずに白馬を負った。急がないと見失ってしまう。
 幸い、馬の進みづらい狭い道だったので、リーデアが並外れた俊足を発揮する機会はなく、その白い姿を追うのは、それほど難しいことではなかった。もっとも、進みにくいのはこちらも同じことで、前方との距離は一向に縮まらない。セレンは栗毛を操りながら、なぜリーデアが連れて行かれたのか考えた。連れて行ったのは人間ではないな、と思う。でなければ、気の強いリーデアが、おとなしく付いて行きはしないだろう。けれどそれなら、盗みの禁じられたこの森で、よりにもよって森の住人が、いったいどうして盗みを働かなければならないのだろう?
 前を行くリーデアの白い影が、ふいに見えなくなった。セレンははっと緊張したが、すぐにその理由に気づくことになった。つまり、そこまで来ると、木々が異様なほど密集しており、ぎっしりと絡み合っていたのだ。果たして、再び白馬を見つけられるだろうかと訝りながら、セレンはやむを得ず下りて馬を引き、枝をかき分けるようにして前に進んだ――そしてすぐにわかったのは、そのあたりの枝に、若干の魔法がかかっているらしいということだった。木々は、自然の森にはありえないほど互いに枝を絡ませ合っていたが、そこをあえて進もうとする者を、人であれ馬であれ、決して傷つけはしなかったのだ。
 ふと、向こうのほうが明るく見えたので、セレンはそちらに進んだ。神々しい空気がこの辺りではいっそう強く、道を間違えていないことを教えてくれた。行く手を阻もうとする枝をかき分けかき分け――背後で枝は再び絡み合うのだった――、セレンは馬と共に歩んで行った。最後の枝をどけると、そこは燦燦と光あふれる広場だった。

聖なる森(02)

 きらめく水のほとり。二人のいる場所から少し離れた所に、三人の乙女が座り、親しげに語らっていた――彼女らは人間ではなかった。どこがどうというのではないが、明らかに人間とは違った様子だった。ちょっと風が吹いたら飛ばされてしまいそうに頼りない体つきで、透けてしまいそうな肌の上に、これもまた透けてしまいそうな服をまとって、ほっそりした足を水の中に遊ばせ、話の内容はこちらにまで聞こえてこないが、いかにも楽しそうにおしゃべりに興じていた。そして、二人には見向きもしないのだった。
「セレン?」
 フルートが怪訝そうにセレンを呼んだ。セレンははっとして、そのとき初めて、フルートには彼女たちが見えていないらしいことに気づいた。事実、王子のほうは、先に馬を下りていたのだが、セレンの視線を目で追ってみたものの、友達が何に心を奪われているのか、さっぱりわからなかった。セレンが馬を下りて、それでもどうしても向こうに目をやってしまうのにつられ、もう一度そちらに視線をさまよわせながら、聞いた。
「何を見ているんだい?」
 そのとき、ふと、なにげなく、乙女の一人がこちらを向いた。セレンと目が合うと不思議そうな顔をして、その隣のフルートを眺め、再びセレンに視線を戻し、やっぱり彼が自分を見ているのだと知ると、驚いた表情を浮かべて、そのまま金縛りにあったように動かなくなってしまった。残りの二人は、それに気づくと不安そうな様子になり、仲間の乙女とセレンとを見比べた。
 最初の乙女は、その細い手をあげ、セレンのほうを指さして何か言った。仲間の乙女たちは、信じられないというふうに首を振りながら、おびえた顔でセレンを見つめている。しばし、緊迫した時間が過ぎ、やがて、三人の中て一番勝ち気そうな容貌の乙女が、緊張した声で、思い切ったようにこちらに呼びかけて来た。
「わたしたちが見えるの?」
 心なしか、声が震えていた。セレンは、どうすれば怖がらせないですむものか見当のつかないまま、黙ってうなずいた。とたん――
「あっ、待って、逃げないで!」
 乙女たちは、信じられないほどの素早さで、さっと立ち上がって駆け出した。セレンはあわてて後を追おうとしたが、すでに遅く。乙女たちはあっというまに、森の中へと姿を消してしまっていた。
「セレン」
 呼ばれて我に返ってみると、傍らではフルートが、仕方ないなという顔をしてこちらを見ていた。まだ半ば呆然としているセレンに向かって、
「つまり、誰かいたのか?」
「うん。すごい美人が三人」
「どこかに行ってしまった?」
「うん・・・」
「では」
 残念だったね、というふうに、フルートは眉をちょっと上げて見せた。
「もう気にしても仕方ないだろう。このあたりで、少し休もう」

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