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泥より出でしもの(01)

 あるとき、黒髪の王子は、友とふたり、荒れ果てて怪しい気配のする沼地を通った。道を誤れば、得体の知れない怪物に、馬もろとも引き込まれてしまいそうな気がした。
 ふたりは用心しながら馬を進め、幸い何事もなくその地を通り抜けた。だが、ゼラルドの中には強い違和感が残った。間違いなく、やわらかな泥の底には何かが潜んでいた、が、人とも動物とも、生霊とも死霊ともつかないそれは、旅人たちが通り過ぎるのを、ただ黙って見つめていただけだった。あれは、何だったのだろう。
 ゼラルドはそっと、その場所に、自分だけにわかる目印をつけておいた。そして、あとで自由な時間ができたとき、ひとり、空間を跳んで戻った。目印のある既知の場所になら、よほどの障害に隔てられない限り、彼は何の苦労もなく一瞬で跳べる。
 あらためて沼地に立ち、見回して、そこに棲むものを探しながら、彼はふと、自らの変わりようを思った。かつては、何も見ないように、何も聞かないように、ただ日々が無事に過ぎてくれることを祈るばかりだった自分が、今はこうして、誰に咎められることもなく、自らの好奇心に従っている。好奇心。自分にもそのようなものがあったとは!
 ほどなく、彼は違和感のもっとも強い場所を見つけた。ぬかるんだ泥に向かって、彼は静かに呼びかけた。
「そこに在るのは何者か。姿を現せ」
 すると、沼地の表面が泡立って、泥で出来た人の顔らしきものがひとつ、浮かび出た。その口が動いて、女の声がした。ぶくぶくと泥が泡立つせいで聞き取りにくかったが、こう言っていた。
「もうあきらめました。引き止めませんから、お行きなさい」
 ゼラルドは少し考えた。そして、結局、尋ねた。
「あきらめたとは、何を」
 女の顔は、泡を吐きながら答えた。
「あなたがたと、わかりあうことを。ともに過ごすことを。あなたがたが泥の中では生きられないと、知りましたから。もう、泥の中へと連れ去ることは、いたしますまい」
 ゼラルドは、また少し考えてから、言った。
「では、そなたのほうが泥の外に出てはどうか」
「難しいことですが、それでは、やってみましょう」
 泥に浮かんだ顔が、少し持ち上がった。と思うと、やがて、泥でできた頭全体が、ぬっと突き出た。頭はさらに持ち上がり、首が、肩が、腰が、足が、徐々に現れて、最後には、ひとりの女が沼地の上に立っていた。泥でできた女は、つま先を泥に浸したまま、近くにあった苔むした岩に腰かけて、口を開いた。
「この姿かたちは、わたしが最後に引き止めたひとのもの。わたしには重くて、思うように動かすことができません。色合いも、真似ることができません。あるいは、さらに多くのひとを呑み込めば、より多くを似せることができるのかもしれませんが、命を奪ってまで望むことではありません」

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