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泥より出でしもの(02)

 ゼラルドは首をかしげて、尋ねた。
「ひとの姿かたちを真似て、何を望むのか」
「あなたがたと、わかりあいたい。そして、わたしの寂しさを埋めたい」
 泥の女の答えは、淡々として静かだった。ゼラルドは、しばらく黙っていた。もし、泥の女が人への害意を持っていたら、討たねばならなかっただろう。だが、少なくとも今は、その必要はなさそうだ。ならば。
「ひとの命を奪わずとも、ほんの少しの間だけ、その姿かたちは変えられるかもしれない」
 ゼラルドは、儀式用の長い針を取り出して、自らの指を突き、ひとしずくの血を沼地に落とした。月の聖者であり、太陽の聖者であり、聖王家の一員である彼の、血のひとしずく。
 泥の女は、何を言われたのかよくわからない様子だったが、やがて、ああ、と声をあげた。
「これは・・・、何を・・・」
 言いながら、泥の女は自らの姿を見下ろした。その肌の色が、足元から徐々に、白く染まって行く。両の足、両の手、やさしい面立ちの顔が、人間らしい色に染まったあと、続けて、その唇は薄赤く、長い髪は漆黒に、どんどんと染まって行く。
 泥の女は、変わってゆく我が身をまじまじと眺めていたが、
「もしや」
と言って、立ち上がった。沼地の上を何歩か進んで、
「こんなに歩ける――!」
 驚いた顔で振り向いた女に、ゼラルドは冷ややかに問うた。
「さあ、姿かたちを真似ることは叶ったが、汝の寂しさは少しでも埋まっただろうか」
「・・・!」
 女は目を見開いてゼラルドを見つめ、それから、理解の色を瞳に浮かべて、ゆっくりと目を伏せた。溜息のように、答えた。
「どうなのでしょう。よくわかりません・・・」
「その姿を、とどめたいと望むだろうか。また、その姿を得て、この沼地を去り、どこか別の場所に向かいたいと望むだろうか」
「・・・いいえ」
 女は再び、溜息のように答えた。それから、目を上げて、こう言った。
「うれしかった。でも、もう、わかりました。いりません。そして、どこにも行きません」
 女の姿から、さきほどとは逆に、色が消えて行く。髪の色が、顔の色が、両の手が、両の足が、泥の色に戻って行く。そして、女の足は沼地に沈み始め、膝まで沈み、腰まで沈み、胸まで沈み――。
 沈み切る前に、泥の女はゼラルドに向かって、両腕を広げて、微笑んだ。
「こんなところでも、わたしの故郷なのです・・・」
 そして、溶けるようにして沼の中に消えて行った。あたりには、元の静寂が満ちた。
 泥より出でしものは、泥に還った。
 討伐は必要ないと判断して、黒髪の王子は、旅へと帰る。

(完)

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