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見えない守り手(トーナメント参加用)

 日が暮れたころ、小さな町に着いた。
 宿を尋ね当て、馬を預けて、ふたりの若者は食堂に行った。あまり客はいない。
 向かい合ってテーブルにつき、食べものと飲みものを注文してから、
「それで? 結局これは、どういういやがらせなんだって?」
と、セレンは不機嫌に尋ねた。さらさらと長い髪は明るい金色、瞳は綺麗な緑色、つまり本来なら、彼が都を迂回して田舎道を通らねばならない理由は何もない。
「別に」
と、そっけなく答えたゼラルドは、黒髪に黒い瞳。この国の都には入れないから、迂回路をたどるのは予定通りだ。
「別に、とは?」
 セレンはいらいらと聞き返した。細い指先でテーブルをトントンと叩いて、
「お互い、一緒に行動したって不愉快なだけだろう? それを、わざわざ付き合わせたからには、何か理由があるだろう!」
「ない。単純に、いやがらせだ」
 言い切ったゼラルドの口元には、かすかな冷笑が浮かんでいる。
 むっとして、セレンがさらに言い募ろうとしかけたとき、厨房のほうから、こんな声が聞こえて来た。
「ほらほら、邪魔をしないで、マリカ。ミリカも。これはお客さんに出す食事なんだから」
 ほどなく、両手に盆を持った女性がやって来て、給仕をしてくれた。セレンがふと見ると、女性の後ろには、10才くらいの女の子が一人、隠れるようにして付いて来ている。
 女の子は、栗色の髪を二本のおさげにしており、母親なのだろう女性の陰から、セレンとゼラルドをチラチラと見比べていた。ゼラルドは無視したが、セレンは目が合ったので、にこ、と微笑んでみた。女の子は恥ずかしかったのか、タタッと厨房に駆け戻って行った。
 給仕の女性が料理を置いて立ち去ったあと、ゼラルドは目を伏せたまま、静かに言った。
「あの双子には、関わらないほうがいい」
「え?」
と、セレンは厨房のほうを振り返った。子供の姿が見えなかったので、向き直って訊いた。
「一人しか出て来なかったのに、どうして双子だとわかるんだ?」
「一人?」
 ゼラルドは、ちらりとセレンを見たあと、再び視線を落として、つぶやいた。
「では、一人は生きており、一人は亡くなっている、ということなのかな」
「えっ」
 セレンは今度は、ぎょっとして体を引いた。
「おどかさないでくれ。君の席からだと二人見えた、というだけだろう」
「君は、今までに幽霊を見たことはあるか」
「幽霊! あるものか!」
 不自然なほど思いきり否定してから、我に返って、セレンは、もごもごと取り繕った。
「いや、一度だけ。子供のとき、亡き母に招かれて、書庫に行ったことがあるけれども。でも、いま思えば、夢だったのだと思うから」
 聞いて、ゼラルドは首を傾げた。
「・・・もしかして、君は幽霊が怖いのか」
「違う! 見たことがないから信じられないだけだ」
 セレンは答えたが、ゼラルドは無言で、ふっと笑った。セレンはゼラルドをにらみつけたが、言うべき言葉もなく。そのあとは食事が終わるまで、二人とも、もう一言も口をきかなかった。

 あまり食べないゼラルドが先に食事を済ませて出て行ったあと、セレンも、出された料理を食べ終わって食堂を出ようとした。が、背後でパタパタと足音がして、
「待って、おにいちゃん」
 声をかけられて、振り向いた。声の主は、さっきの、おさげの女の子だった。とても真剣な顔で、長身の若者を見上げている。セレンはかがんで、目線を女の子に合わせ、やさしく声をかけた。
「どうしたんだい」
「あのね・・・、あたし、マリカっていうの」
「うん。ぼくはセレン」
「あのね・・・、あたしと一緒に、ミリカを探してくれない?」
「ミリカっていうのは・・・」
 セレンは顔を曇らせ、言葉を濁した。ゼラルドが言ったことが本当なら、ミリカはこの世の者ではないということになる。だが、給仕の女性は、厨房で二人の子の名前を呼んでいた。「マリカ」と「ミリカ」。きっと、ちゃんと二人とも生きていて、セレンの席からはもう一人が見えなかっただけなのだ――と、思いたい。
 マリカは真剣なまなざしのまま、セレンの期待を打ち砕いた。
「ミリカは、あたしの双子の妹。去年、死んじゃったの。でも、いつもそばにいて、あたしと母さんを守ってくれてるの」
「そばに、って・・・今も?」
 セレンはぞわっと鳥肌が立つのを感じながら、あたりに視線をさまよわせた。マリカは首を振った。栗色のおさげが揺れた。
「ううん。さっきまで一緒にいたんだけど、外に出て行っちゃった。おにいちゃんのせい。おにいちゃんが、ミリカには笑ってあげなかったから。あたし、ミリカを追いかけたいの。お願い、おにいちゃんも、一緒に来て」
 ふと視線を感じてセレンが目を上げると、厨房の入口で、給仕の女性がこちらを見ており、セレンと目が合うと深々とお辞儀した。マリカと一緒に行ってくれ、ということだろうか。たしかに、危険な夜道を子供ひとりで行かせられはしないが。
 傍らのマリカに視線を戻すと、少女は泣き出しそうな顔をしていた。
「おにいちゃんが一緒に行ってくれなかったら、マリカ、泣いちゃうよ。おにいちゃんに意地悪された、って言いながら泣くよ。そしたら、ミリカはすぐに戻って来て、おにいちゃんを呪う。あたしはミリカさえ戻って来てくれればいいけど、おにいちゃんは、呪われたくないでしょ?」
 もちろんだ、と思ったセレンに、マリカは小さな手を差し出した。おずおずと、
「手、つないでも、いい?」
「・・・ああ」
 セレンは仕方なく、手を差し出した。マリカはその手をぎゅっと握った。
「行こう、おにいちゃん。ミリカの行きそうな場所はわかってるから。あたし、道案内するね」

 マリカは、右手でセレンの手をしっかりと握り、左手にはカンテラを提げた。子供を連れて夜道を歩くのだから気をつけなければいけないな、とセレンは思ったが、しばらく歩いて、ふと気が付くと、どこをどう歩いて来たのか、よくわからなくなっていた。
 木々のまばらな林の中。行く手の小道を、月が照らしている。夢の中にいるようだ。
「あとちょっとだよ、おにいちゃん」
 マリカが安心したように言った。そうか、良かった、とセレンは思ったが、何かを忘れているような気がした。思い出すのは億劫だったが、大切なことだと思えたので、苦労して記憶をたぐった。そして、思い出した――「あの双子には、関わらないほうがいい」。
 セレンは足を止めた。マリカは驚いたように彼を見上げた。
「どうしたの、おにいちゃん。もうすぐだよ」
 待て。幽霊に会いに行って、いいのか?・・・いや、幽霊など、いるはずがない。妹を亡くした可哀想な少女の妄想だ。気の済むようにさせてやろうではないか。
 再び歩き出そうとしたとき、右腕を誰かにつかまれた。ぎょっとして、息が止まった。人の気配はまったくない。振り向いても誰もいないだろうと、なぜか、わかる。
 マリカは、セレンの右後ろのあたりを見て、いぶかしそうに、
「あなた、だれ?」
と言った。
「おにいちゃんを離してよ」
 セレンが右腕を振り払おうとしたとき、後方から鋭い声が飛んできた。
「セレン! 動くな!」
 ゼラルドの声だった。一瞬ののち、セレンの右腕をつかんでいた何者かはセレンから離れ、代わりに、ゼラルドがセレンの右隣に並んで、その同じ場所をつかんでいた。
「帰りが遅いと思えば、なぜこうも愚かな・・・。見たまえ、君がどこに立っているのか!」
 ゼラルドは前方を薙ぎ払うように手を振った。目の前に続いていた道は煙のように消え、セレンは驚いて数歩あとじさった。彼が今まで立っていたのは、崖のふちだった。すぐ先に、深い深い谷。
「マリカ。君は・・・」
 セレンは、左手をつないだまま少女を見下ろしたが、少女は別のものを見ていた。
「ミリカ? どうしたの? どこに行くの? あたしを置いて行くの?」
 崖のほうに歩み出そうとする少女を、セレンとゼラルドは二人で押さえた。
「放して! ミリカが行っちゃう!」
「当然だ。死者なのだから」
 ゼラルドの冷ややかな声。マリカは何かを視線で追いながら、泣いた。
「ミリカ。ミリカ。母さんが、きっと悲しむわ・・・」
 嘆き悲しむ少女を落ち着かせ、三人で宿屋に引き返した。帰り道は意外なほど、すぐだった。双子の母親は食堂の前で待ち構えており、彼らが戻ると、きょろきょろと辺りを見回した。
 マリカはセレンの手を離して母親の前に立ち、うなだれた。
「母さん、あのね。ミリカはね・・・行っちゃったの。止められなかった。ごめんなさい」
 母親は、うめくように「ああ」と言った。それから、かがんで少女を抱きしめた。
「そう。そうだったのね。つらかったわね、マリカ。でも・・・よかったのかもしれない」
「何がいいの、母さん! あたしはミリカと、ずっと一緒にいたかった。母さんだって!」
「ええ、ええ。でも、引き止めてはいけないって、本当はわかってたから。大丈夫、母さんにはマリカがいるもの」
 少女は驚いたように母親を見上げた。それから、母親にしがみついて、わあっと泣いた。セレンとゼラルドは、そっとその場を離れた。
「ゼラルド。その・・・」
 セレンが口ごもりながら言いかけた言葉を、ゼラルドは冷ややかに遮った。
「謝辞は不要だ。君などどうなっても良かったが、君に何かあったらフルートに恨まれる。それが嫌だっただけだ」
「・・・人がせっかく」
「君は、母親似と言われているのだろうね」
「え? 生き写しだと、よく言われるけれど。なぜ、君がそれを?」
「別に。そのような気がしただけだ」
 ゼラルドは、静かにそう言ったきり、あとは何も言わなかった。

(完)

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