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  • (2017/12/11朝)また休日出勤などあったので、本編進んでおりません…。ふえーん…。

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2016年3月

聖者の護符(03)

 ふたりの若者が外に出ると、月明かりの下で、靄のような亡霊たち――としか思えないもの――は、遠巻きにしながら、ゆらゆらと飛び回った。その真ん中で、くっきりと白く浮かび上がっている亡者は、口のように見える虚ろな穴から、しゃがれた声を無理やり押し出すようにして、しゃべった。
「そ、れ、を・・・、よ・・・こ・・・せ・・・」
 ゼラルドは、軽く首をかしげて、尋ねた。
「寄越せとは、何をだ」
「見、え、ぬ・・・、が・・・、近、く・・・」
 亡者は、ほうっ、と息を吐き、のろのろと片手をあげて、ゼラルドを指さした。
「寄越さ、ぬ、なら・・・我、は、ルイー、ラ・・・この名、に、お、いて・・・命じ、る。・・・滅、ぼ、せ!」
 言い終えたとたん、まわりの靄めいた亡霊たちは、いっせいに飛び上がって、こちらに向かってきた!
 剣を抜こうとしたルークを、ゼラルドは手で制した。その口元には、妖しく冷ややかな微笑が浮かんでいた。
「名には、名を。我はゼラルド・ルインドゥーラ・ルーズヴェルン。この名において、汝らに命じる」
 黒髪の王子が片腕を動かすと、銀の腕輪が重なり合ってシャランと鳴った――と同時に、靄のような霊たちは、てんでに飛びかかろうとした形のまま、ぴたりと動きを止めた。まるで、時間と空間が、一枚の絵に凝り固まってしまったかのような光景だった。中央の亡者だけが、のろのろと伸び縮みして、かすれた声で呻いた。
「ルイン、ドゥー、ラ・・・」
 ゼラルドは、かまわずに淡々と続けた。
「死霊たちよ、聞け。汝らを絡め捕えた鎖は、すでに断ち切られた。汝らをこの地に縛るふるき主を討ち、あるべき場所へ帰れ」
 ゼラルドは、腕を伸ばして、白い亡者を指さした。止まっていた時間は再び動き出し、靄たちは、ねじれるようにして方向を変えると、亡者に向かって飛びかかって行った。
「お・・・お・・・お・・・!」
 幾多の靄が亡者のまわりに集い、渦を巻き、そして、どこへともなく飛び去った。曇りなく冴えかえった夜空の下、さっきまで白い亡者のいたところには、1体の骸骨が転がっていた。骸骨は、カタカタと歯を鳴らしてしゃべった。
「よこせ・・・、よこ、せ・・・、護、符・・・」
「護符。これに触れれば、汝が滅びるだろうに」
と、ゼラルドは言いながら、何を考えたものか、宿の軒先に吊るされていた護符をシャラシャラと取り外した。骸骨へと歩み寄り、突き付けた。
「これが、汝の望みか」
「お、お・・・」
 骸骨は、怯む様子を見せたが、ぶるぶると震えながら骨だけの腕を伸ばし、聖者の護符に触れた。そして、音もなく崩れた。
 骸骨であったものは、いまや、ひとつかみの灰だった。そして、その灰は、直後に吹いた風にさらわれて、散った。
 ひとり立つゼラルドの隣に、ルークが歩み寄った。
「たしかに、何の手助けもいらなかったな」
 ゼラルドは答えず、ただ、手の中の護符を見つめていた。

次回で畳みます。

聖者の護符(02)

 客室は3つあったので、フィアがひとつ、ゼラルドがひとつ、残りのひとつをルークとセレンが使うことにした――と言いながら、実際には、ルークは夜遅くまで台所にいて、宿の主人と世間話をした。話題は自然と、「夜になると荒野をうろつく怪しいもの」のことになった。
「お客さんも、もう少ししたら、窓の外を覗いてみたらいい。白くてぼんやりした、なんだか気味の悪いものが、いっぱい出て来るから。あれは何なのかねえ、亡くなった人の魂なのかねえ・・・」
「悪さもするのか?」
 ルークが尋ねると、主人は、うん、と頷いた。
「するよ。人を襲う。昔からそうだったけども、ここ何年かで、ますますひどくなった。まあ、護符のおかげで、ここには近づけないようだがね」
 そんなことを話していると、黒髪の若者が部屋から出て来た。マントを羽織り、外出用のいでたちをしている。
「ゼラルド? 珍しいな。まだ起きていたのか」
 ルークが問いかけると、ちらりと視線を投げて寄越した。
「聖札を見た。外にいるあれを排除するのが、ぼくの役割だ」
 ルークは立ち上がり、窓のそばに寄った。果たして、外には、宿を遠巻きにするようにして、宿の主人が言ったとおりの、「白くてぼんやりした、なんだか気味の悪いもの」が、いくつもモヤモヤと飛来していた。それらは宙を漂いながら、ふたつの目とおぼしき黒い穴を伸び縮みさせており、心の寒くなるような光景を作り出していたが、その真っただ中に、ゼラルドの言う「あれ」がいた。ひときわ大きな白い靄が、はっきりと人のかたちに凝って、目と口とおぼしき黒い穴を、虚ろに開いたり閉じたりしていた。
 ルークは振り返った。世間話の続きのような口調で言った。
「手を貸そう。剣で切れるよな?」
「切れるだろうが、手を借りる必要などない」
「勝手についていくさ」
「お客さん! ふたりとも、何を言ってるんだね。やめたほうがいい」
 宿の主人が驚いて声をかけると、
「心配いらない」
 金髪の若者は、戸口に向かいながら振り返り、にこっと笑った。
「かなわないと思ったら、とっとと逃げて来るからさ」

ルークをつけて、も少し続けることにしました。

聖者の護符(01)

 話に聞いていたとおり、荒れ野の中に、一軒ぽつりと宿屋があった。遠くからでも宿屋とわかるのは、大きな看板が出ているからだ。がっちりした体つきの、宿の主人らしき男が、夕焼け空の下で、旅人たちに向かって手を振っている。
 一行が馬で近づくと、主人は笑顔で声をかけて来た。
「こんばんは、みなさん。今日はここに泊るのがよろしかろうよ。どこかで聞いて来ただろうけども、ここらは夜になると、あやしげなものがウロウロするからね。ともかく、屋根のある所にお入んなさい」
「ありがとう、世話になるよ」
と、一行を代表して、金髪の若者が、こちらも笑顔で返した。あたりを見回しながら、
「それにしても、本当に何もないところだな。宿を続けるのは大変じゃないか?」
「やあ、それでも、ここらに一軒泊まれる場所がないと、旅の人たちは皆さん困るだろうから」
 宿の主は誇らしげに、
「幸い、うちには、旅の聖者様からいただいた、ありがたい御守りもある。何を恐れることもなく、商いを続けていけるよ。さ、どうぞ」
 一行は、馬を馬小屋につないだ後、ひとりずつ中に入った。しんがりになった黒髪の若者は、軒先に吊るされた護符を見て、足を止め、しげしげと眺めた。銀の細工にまじないを彫り込んだものが、いくつも組み合わされて吊り下がり、揺れている。彼の視線に気づいた主人が、
「ああ、それが聖者様の護符だよ。何と書いてあるのかは分からないけども、ご利益は確かだ」
「・・・手を触れても?」
「いいとも」
 ゼラルドは護符に触れて、そっと、裏返したり、透かしたり、揺すったりした。宿の主人は何度もうなずいて、
「護符というものに詳しいひとは、皆さん感心なさるようだよ。わしには、何が何やら、さっぱりだがねえ」
「・・・これほど見事な護符を初めて見た」
 ゼラルドはつぶやいて、何かを問うように、視線を宿の主人へ向けた。主人は、いくらか戸惑った顔をしたが、
「それをくださった聖者様は、荒れ野の中に行き倒れていたんだ。文無しでね。連れて帰って、何日か泊めて食べさせたら、元気になって、金がないから代わりにと言って、これを置いて行かれたのさ」
「・・・」
 何かを懸念するかのように黒い瞳を揺らしたゼラルドは、しかし、何も言わずにうなずいて、その場を離れた。

予告:「聖者の護符」

ゼラルドがメインの、短いお話を書きます。
ブログ村の自作小説トーナメントにも彼のエピソードを出品しているので、
今回のこのお話が終わったら、しばらく彼は非番かな?

土曜日スタートで、全2回のつもりです。
どうぞよろしくお願いします♪

救出の報酬(トーナメント参加用)

 知らない街をひとりで歩くのは、あまり好きではない。フルートやフィリシア、もとい、ルークやフィアは、新しい街に着くと喜び勇んで飛び出していくが、セレンに言わせれば、よくそんな無茶ができると思う。
 文化も風習も異なるに違いないのだから、「現地の誰か」に案内してもらうのが一番いいに決まっている。その「誰か」は、どうせだったら可憐な女の子がいいなあと思うし、こちらに好意を持ってくれていたら、なお嬉しいと思う。ついでに言えば、案内してくれたお礼がキスひとつで済んだら手間がなくていいし、それで相手も喜ぶんじゃないかと思うときもあるのだけれど、そこは最近すこし考えを改めて、何か記念になりそうな装飾品を買ってあげるようにしている。捨てたくなったら捨てればいいし、換金したくなったら換金すればいい。

 そんなわけで、セレンがいつものように、「ひとりで歩いている、急いでいなさそうな、可愛い女の子」を探しながら、ふらふら歩いていると、なんだかちぐはぐな男女二人連れに遭遇した。
 カップルに声をかけたって意味がないから、普通なら気にせずすれ違うところなのだが、すこぶる柄の悪い大男――長身のセレンより背丈があるうえ、がっちりと厚みのある体つきで、人相が凶悪だ――が、可憐そのものの彼女――きれいな赤毛が印象的で、長い睫毛を伏せ、思いつめたように下を向いている――を、しっかり背中に手を回してエスコートしているさまは、恋人同士というより、むしろ、誘拐犯が人質を連行しているような不自然さだった。
 仮に恋人同士だったとしても、彼女のほうが楽しんでいないのは明白だ。ぼくと歩いてくれたら、そんな顔はさせないのに。
「こんにちは、お嬢さん。デート中?」
 気易く声をかけると、赤毛の娘は顔を上げ、困惑したような瞳をセレンのほうに向けて、心細そうに、両手を胸の前で重ね合わせた。連れの男が、凄みをきかせた声で、
「わかってるなら、声かけて来んじゃねえよ」
と吐き捨てる。ふうん。
 わかったことはみっつ。ひとつめ、この可愛らしいお嬢さんは目が不自由らしく、視線の焦点がうまく結べていない。ふたつめ、このお嬢さんには、たぶん内陸の標準語が通じていない(が、連れの男には通じている)。みっつめ、このお嬢さんは、おそらく西方の国から来た、そこそこ身分の高いご令嬢だ。右手の小指に二連の指輪は、西方の上流階級で、成年に達した未婚女性のしるし。
 西方で一番広く使われるシャガラ語なら通じるだろうか。セレンは言葉を変えてみた。
『こんにちは、お嬢さん。この野蛮な大男は、君の何?』
 すると、赤毛の娘の表情が変わった。焦点の合わない目を見開くようにして、
『お願い、助けて。人さらいです』

「おい、何をコソコソ話してんだよ」
 連れの男が慌てたように割って入って来るところを見ると、この男にはシャガラ語は通じていないようだ。セレンは動じず、赤毛の娘に、
『この男を追い払えばいいの?』
『いいえ、また違う人が来るだけ。悪い人たちがどこかに集まっていて、わたくしの侍女が人質に――んん』
「何を話してんだ、って言ってんだよ!」
 男に口を押さえられて、彼女は沈黙した。
 セレンは男に向かって、
「邪魔して悪かったね。面倒事はごめんだ」
と言い、赤毛の彼女に対しては、
『またあとでね』
と言って、道を空けた。彼女は意図がわからなかったらしく、失望した表情でうなだれた。
「おう、わかればいいんだ」
 男は横柄に言うと、娘を連れて去った。
 一味の集まっている「どこか」の場所が分かっていれば、この場で保護するほうが楽だったのだけれど。捕まっている侍女とやらも助け出すなら、この二人のあとをつけて行くほうが早い。
 セレンは自分の長い髪を、ひとつに束ねて三つ編みにした。そのほうが動きやすいので。

 だいたい、人さらいにとっての大事な「商品」の移送に、こんなごろつきひとりを当てている時点で、娘の言う「悪い人たち」は、誘拐の素人に違いなかった。どう見ても「高級商品」なのだから、もう少し人を割いて、しっかり守らせたらいいのに、とセレンは思う。しかも、「商品」自身に歩かせているとは、あきれて物も言えない。薬でもかがせて、袋に詰めて、かついで運んだほうが、よほど安全だし道もはかどるだろう。目の不自由な女性だからと、甘く見すぎじゃないのか。
 などと、身も蓋もないことを考えながら、セレンはのんびり、前方に見える大男の背中に付いて行った。大男は、なりは大きいものの隙だらけで、背後への注意もすっかりお留守。典型的な、ただの力自慢のごろつきのようだ。どうやら近くに仲間がいる様子もない。
 そうこうしているうち、周りはだんだん、ひとけがなくなって、街外れに近付いて来た。荒れた建物がぽつりぽつりと点在している。さすがに物陰を選んで移動しながら、さて、人さらいたちの根城は、と。
(――あそこか。何人くらいいるかな)
 まだ離れているが、行く手に、誰も住んでいなさそうな荒れ果てた家があり、見張りが立っている。出入口は表と裏の二ヶ所ありそうで、今回のところは都合が良い。というのも、寄せ集めの不良相手に手加減してやるなら、逃げ道を断たないことが重要だからだ。
 案内役が不要になったので、見張りからは見えない場所で、セレンは一気に距離を詰めて、大男と令嬢に追いついた。
「ねえ、そこのおにいさん」
 後ろから声をかけると、大男は跳びあがって振り向いた。
「なっ・・・おまえは」
と言って、大男はぶんと腕を振り回したが、セレンがひょいと身をかがめて避けて、ちょっと強めに当て身を食わせたら、ぐうと呻いて、あっさりのびてしまった。少し拍子抜けだ。本当は、一味の情報など聞き出すつもりだったのに。まあいいか。
 おあつらえむきに、大男は腰にロープを携えており、セレンはそれを拝借して、大男の手足を手早く縛り上げた。
『お待たせ、お嬢さん』
『さっきの方・・・?』
『うん。それでね、申し訳ないけれど、君は、ぼくが悪者をやっつけて来るまで、このあたりで――ええと、この壁の陰あたりがいいかな――、一人で隠れていられる?』
『はい。心細いですが、足手まといにはなりたくありません』
『ごめんね。ぼくが戻って来るまで、ここでじっとしていて』
 娘が隠れるのを手伝ってやってから、セレンは縛り上げた大男を、見張りから見える位置まで転がした。能天気な見張りが気付かない様子なので、こちらが歩いて行くことにした。隠れ家の規模からして、中にいるのは、せいぜい10人前後だろう。
 歩いて来るセレンに気付いた見張りは、ちょっと扉を開けて声をかけてから、また扉を閉め、警戒態勢で待ち受けた。セレンはそのまま近付いて、にこりと笑い、
「やあ。向こうに倒れている大男は、君たちの仲間?」
と、自分の来たほうを指差した。見張りは疑わしそうにじろじろとセレンを見てから、指差されたほうに視線を投げて、そこに本当に仲間が倒れているのを見て、ぎょっと目を見張った、その瞬間、首元にヒヤリとした刃物の感触を感じることになった。セレンが後ろに回り込んで、ナイフを突き付けたのだ。
「大声を出したら殺すよ。中の人数は?」
「・・・じ、11人」
「人質の数は?」
「いない。あそこに倒れている奴が連れて来るはずだった」
「リーダーの名前は?」
「ミーナ」
「女か・・・人質にするはずだった令嬢の、侍女で間違いないか」
「そう聞いている」
「なるほどね。ありがとう」
 ナイフを引っ込めて手刀を落とし、見張りを気絶させてから、セレンは扉を開けた。

 セレンが抜剣して踏み込むと同時に、中で待ち伏せていた賊どもが、わらわらと斬りかかって来た。が、セレンが剣を合わせると、みな、2合ともたず、剣を取り落とし、腕を押さえて、あとじさる。ひとり、ふたり、3人、4人、5人。
「なんだよ、こいつ・・・」
 はいはい、どうせ見かけと違いますよ。というより、君たちは弱すぎ。気楽でいいけど。
「おい、相手はひとりだぞ! 何やってる!」
 後ろのほうから出て来た賊どもが、さらに斬りかかって来るが、数を頼もうという割に、まるで連携がなっていない。それぞれ、やはり2合ともたずに、剣を取り落として呻き声をあげる。6人、7人、8人、9人、10人。数だけ集めたって、駄目なものは駄目だ。
「ねえ、君たち、おかしらが逃げようとしているけど、いいの?」
「なんだと」
 男たちは振り返り、裏口から逃げようとしていた女を捕まえた。
「おい、逃げるなよ、ミーナ! 楽な仕事だって言ったの、あんただろ」
「ちょ、離しなさいよ、ばか!」
「その女性をこちらに引き渡してくれたら、君たちは逃げていいよ」
 男たちはミーナをセレンのほうにドンと押しやり、先を争うようにして裏口から逃げて行った。ミーナはたたらを踏んだ――が、両手で腰の左右から、それぞれ棒のようなものを引き抜き、チャッと刃を振り出して、見慣れない車輪のような形の武器をふたつ構えた。
(おや、これは確かに、今までのごろつきとは違うようだ)
「あたしはお嬢様の用心棒も兼ねてたのよ。甘く見ないで!」
 ザッと斬りつけて来ようとするのを、カシンと剣で弾き返すと、ミーナは意外そうな顔をした。さらに速度を上げて懐に飛び込んで来ようとするのを、セレンは全部、きれいに弾き返した。カシン、カン、カン、カシン、カシン、カン、カン。ミーナは思わず母国語で、
『ちょっとあなた、何者?』
『すごい剣の達人。の、稽古友達』
 もし傍から見る者があったら、二人が舞っているように見えたかもしれない。しかし、ミーナの動きは確かにトリッキーで素早かったが、一撃あたりの重みは当然セレンのほうが重く。すべての攻撃を受け止められれば、ミーナの動きはやがて鈍り、ついに車輪状の武器はふたつとも弾き飛ばされて、セレンがミーナを捕えた。
『さあ、捕まえたよ、お嬢さん』
『はあ、はあ、はあっ・・・あなたみたいな、人と組めたら、良かったのに』
 セレンは笑って、
『ぼくが人さらいなら、君を商品にしているさ。こんなに美人で、腕が立つんだから。それで、君はこれからどうするの』
『どうって? そんなの、あなたが決めることでしょ』
『ぼくは戻ったら、君のお嬢様に、こう報告する。あなたの侍女は自力で脱出していて、もういませんでした、って。君だって、悪の親玉になるのは難しいとわかっただろう?』
『見逃してくれるって言うの?・・・ありがと。でも、あたしは戻らないわ。お嬢様には、たぶんもう、気付かれているから』
『何を?』
『今日までに、あたしがお嬢様を始末しなくちゃいけなかったってことを。あたし・・・』
 言いさして、ミーナはしばし黙ったが、再び口を開いたときには、さばさばした口調で、こう言っただけだった。
『少ししゃべり過ぎたわ。じゃ、行くわね。お嬢様のご無事を祈ってるわ』

 ミーナが立ち去るのを見送って、セレンはその場をあとにした。見張りの男が転がっているのをそのまま捨て置き、元来た道を戻ってみると、赤毛の令嬢は言われたとおりに静かに隠れており、少し離れたところでは、意識を取り戻した大男が呪詛の言葉を吐きながら地べたに這いつくばっていた。セレンは大男に近寄って、
「君のリーダーも仲間も、もういない。君も、とっとと逃げたらいい」
 剣を抜いて手足のロープを切ってやったが、大男は立ち上がるとニヤリと笑って殴りかかって来たので、仕方なくもう一度、一切の手加減なく気絶させてやった。
『お待たせしました。大丈夫ですか、お嬢さん』
 令嬢に手を貸して、狭い場所から出してやると、
『わたくしは大丈夫です。あの、それで、わたくしの侍女は助かったのでしょうか』
『ミーナという女性なら、自力で逃げたそうです。もういませんでした』
『そうですか・・・なんとなく、そのような気がしていました』
 うつむいたその様子は、安堵したようにも、寂しそうにも見えた。それから、令嬢は顔を上げ、見えない目をセレンのほうに向けて微笑んだ。
『お優しいかたなのですね』
『え?』
『そんなふうにおっしゃってくださって。それに、血の匂いもしません』
 そうか、目が不自由な代わりに、いろいろと気の付くこともあるのだ。セレンは令嬢の手を取って、
『では、あらためて。セレンと申します。あなたを街までエスコートさせていただいて、よろしいですか』
『はい、よろしくお願いいたします、セレン様。わたくしの名はシェリアリア。どうぞシェーラとお呼びください』
 そうして二人は、寄り添って語らいながら、街まで戻ったのだった。

 陽の落ちる前に、セレンはシェーラを、彼女の泊っている宿の部屋の前まで送り届けた。明朝には、隣の街から迎えが来るのだそうだ。高名な医者に、目を診てもらいに行く途中なのだという。
『では、ぼくはこれで。今日はあなたと会えて良かった。ごきげんよう、シェーラ』
 そっと彼女を離そうとすると、シェーラは慌てたようにその腕をつかんだ。
『お待ちください』
『何でしょう? 何かご不便があるなら、遠慮なく――』
『いえ、そうではなくて・・・わたくし、まだ何も御礼を差し上げていません』
『ああ・・・。では、ぶしつけなことをお尋ねしますが、あなたには、どなたか心に決めた方がいらっしゃいますか、シェーラ』
『えっ? いいえ。わたくし、こんなふうですから、どなたにも迷惑はかけられません』
『では、少しの間、目を閉じていただけますか』
『え? でも、わたくしの目は』
『そういう決まりです』
『あ、はい』
 シェーラは目を閉じた。すると、鳥の羽根のように微かに、何かが唇に触れた。
『もう目を開けていいですよ』
『はい・・・あの・・・?』
 目の前のひとは、微笑んだようだった。とても優しい声が、
『ご褒美は、たしかにいただきました。おやすみなさい、シェーラ』
『はい・・・おやすみなさい、セレン様』
 ――奥手なシェーラが、何をされたのかに思い至ったのは、その夜、床に就いて目を閉じた時だった。自分が人並みにそんな経験をするなどと思ったことのなかった彼女は、びっくりしてベッドの上に飛び起きた。枕を手に取って、赤くなった顔を枕に埋め・・・そうして、ずっと、ずっと、枕を抱きしめていた。

(完)

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泥より出でしもの(トーナメント参加用)

 あるとき、黒髪の王子は、友とふたり、荒れ果てて怪しい気配のする沼地を通った。道を誤れば、得体の知れない怪物に、馬もろとも引き込まれてしまいそうな気がした。
 ふたりは用心しながら馬を進め、幸い何事もなくその地を通り抜けた。だが、ゼラルドの中には強い違和感が残った。間違いなく、やわらかな泥の底には何かが潜んでいた、が、人とも動物とも、生霊とも死霊ともつかないそれは、旅人たちが通り過ぎるのを、ただ黙って見つめていただけだった。あれは、何だったのだろう。
 ゼラルドはそっと、その場所に、自分だけにわかる目印をつけておいた。そして、あとで自由な時間ができたとき、ひとり、空間を跳んで戻った。目印のある既知の場所になら、よほどの障害に隔てられない限り、彼は何の苦労もなく一瞬で跳べる。
 あらためて沼地に立ち、見回して、そこに棲むものを探しながら、彼はふと、自らの変わりようを思った。かつては、何も見ないように、何も聞かないように、ただ日々が無事に過ぎてくれることを祈るばかりだった自分が、今はこうして、誰に咎められることもなく、自らの好奇心に従っている。好奇心。自分にもそのようなものがあったとは!
 ほどなく、彼は違和感のもっとも強い場所を見つけた。ぬかるんだ泥に向かって、彼は静かに呼びかけた。
「そこに在るのは何者か。姿を現せ」
 すると、沼地の表面が泡立って、泥で出来た人の顔らしきものがひとつ、浮かび出た。その口が動いて、女の声がした。ぶくぶくと泥が泡立つせいで聞き取りにくかったが、こう言っていた。
「もうあきらめました。引き止めませんから、お行きなさい」
 ゼラルドは少し考えた。そして、結局、尋ねた。
「あきらめたとは、何を」
 女の顔は、泡を吐きながら答えた。
「あなたがたと、わかりあうことを。ともに過ごすことを。あなたがたが泥の中では生きられないと、知りましたから。もう、泥の中へと連れ去ることは、いたしますまい」
 ゼラルドは、また少し考えてから、言った。
「では、そなたのほうが泥の外に出てはどうか」
「難しいことですが、それでは、やってみましょう」
 泥に浮かんだ顔が、少し持ち上がった。と思うと、やがて、泥でできた頭全体が、ぬっと突き出た。頭はさらに持ち上がり、首が、肩が、腰が、足が、徐々に現れて、最後には、ひとりの女が沼地の上に立っていた。泥でできた女は、つま先を泥に浸したまま、近くにあった苔むした岩に腰かけて、口を開いた。
「この姿かたちは、わたしが最後に引き止めたひとのもの。わたしには重くて、思うように動かすことができません。色合いも、真似ることができません。あるいは、さらに多くのひとを呑み込めば、より多くを似せることができるのかもしれませんが、命を奪ってまで望むことではありません」
 ゼラルドは首をかしげて、尋ねた。
「ひとの姿かたちを真似て、何を望むのか」
「あなたがたと、わかりあいたい。そして、わたしの寂しさを埋めたい」
 泥の女の答えは、淡々として静かだった。ゼラルドは、しばらく黙っていた。もし、泥の女が人への害意を持っていたら、討たねばならなかっただろう。だが、少なくとも今は、その必要はなさそうだ。ならば。
「ひとの命を奪わずとも、ほんの少しの間だけ、その姿かたちは変えられるかもしれない」
 ゼラルドは、儀式用の長い針を取り出して、自らの指を突き、ひとしずくの血を沼地に落とした。月の聖者であり、太陽の聖者であり、聖王家の一員である彼の、血のひとしずく。
 泥の女は、何を言われたのかよくわからない様子だったが、やがて、ああ、と声をあげた。
「これは・・・、何を・・・」
 言いながら、泥の女は自らの姿を見下ろした。その肌の色が、足元から徐々に、白く染まって行く。両の足、両の手、やさしい面立ちの顔が、人間らしい色に染まったあと、続けて、その唇は薄赤く、長い髪は漆黒に、どんどんと染まって行く。
 泥の女は、変わってゆく我が身をまじまじと眺めていたが、
「もしや」
と言って、立ち上がった。沼地の上を何歩か進んで、
「こんなに歩ける――!」
 驚いた顔で振り向いた女に、ゼラルドは冷ややかに問うた。
「さあ、姿かたちを真似ることは叶ったが、汝の寂しさは少しでも埋まっただろうか」
「・・・!」
 女は目を見開いてゼラルドを見つめ、それから、理解の色を瞳に浮かべて、ゆっくりと目を伏せた。溜息のように、答えた。
「どうなのでしょう。よくわかりません・・・」
「その姿を、とどめたいと望むだろうか。また、その姿を得て、この沼地を去り、どこか別の場所に向かいたいと望むだろうか」
「・・・いいえ」
 女は再び、溜息のように答えた。それから、目を上げて、こう言った。
「うれしかった。でも、もう、わかりました。いりません。そして、どこにも行きません」
 女の姿から、さきほどとは逆に、色が消えて行く。髪の色が、顔の色が、両の手が、両の足が、泥の色に戻って行く。そして、女の足は沼地に沈み始め、膝まで沈み、腰まで沈み、胸まで沈み――。
 沈み切る前に、泥の女はゼラルドに向かって、両腕を広げて、微笑んだ。
「こんなところでも、わたしの故郷なのです・・・」
 そして、溶けるようにして沼の中に消えて行った。あたりには、元の静寂が満ちた。
 泥より出でしものは、泥に還った。
 討伐は必要ないと判断して、黒髪の王子は、旅へと帰る。

(完)

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祝・700回 & 進捗状況報告(2016/03/06)

ブログを始めてから700個目の記事です!
いつもあたたかい応援に励まされています。どうもありがとうございます。
今後もコツコツと書き続けて行きますので、どうぞよろしくお願いいたしますconfidentheart01

さて、順番から行ったらセレンの番なのかなーと思いつつ。
ごらんのとおり、最近、軽くゼラルド祭りになっておりまして、つい、ゼラルドがメインのお話を書き始めました。本編です。短いやつ。

月の初めなので、次回の記事はブログ村のトーナメント参加用になりそうですが、その次の回で、新しいお話の予告を出せると思います。
もうちょっとだけ、お待ちくださいね。

宝物:栞(ゼラルド) & 進捗状況報告(2016/03/02)

毎日、残業続きで、何もできない…。
…と思ってたけど、なぎさんからいただいた栞用のゼラルドを見てたら元気が出たから、ゆうべ、ともかく印刷して、切ってみたよ。

フィリシアの栞と並べてみました。無理やり大きさを揃えてみたので、こんな感じ。

Dsc_0012

下に置いたのは、栞用よりも前にいただいたデータを、同じ大きさに切ったもの。
こうして見ると、んー、やっぱりゼラルドには暗い背景のほうが似合うかな?

とはいえ、統一感という意味で、フィリシアと同じ背景のほうを栞にするつもりです。
「お姫様と猫」の冊子ができあがったところから、おまけ配布を始めようと思います!
なぎさん、ありがとうございます・・・!

進捗状況。
ほんとにね、毎日帰りが遅くて、趣味のことは、ほとんど進まないのです。
土曜日も出勤したりするしね…。
日曜日に、ちょっと何か書けたらいいね。
次のお話は、何かゼラルドの短いお話にしようと思っています。
なぎさんがキャラデザしてくださった資料絵を見ながら、心なぐさめています。
猫耳無しのページだから、みなさんも安心して見に行くといいよ! ときめくよ!→ こちら

追記:逆に、猫耳好きさんは→ こちら
お店で売っているお菓子のパッケージみたいにパーフェクトで可愛いですheart04

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