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ひとこと通信欄

  • (2017/8/13朝)創作活動が進みません~。少しばかり夏休みをいただきます~。

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SF「夜景都市」(未完)

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救出の報酬(トーナメント参加用)

 知らない街をひとりで歩くのは、あまり好きではない。フルートやフィリシア、もとい、ルークやフィアは、新しい街に着くと喜び勇んで飛び出していくが、セレンに言わせれば、よくそんな無茶ができると思う。
 文化も風習も異なるに違いないのだから、「現地の誰か」に案内してもらうのが一番いいに決まっている。その「誰か」は、どうせだったら可憐な女の子がいいなあと思うし、こちらに好意を持ってくれていたら、なお嬉しいと思う。ついでに言えば、案内してくれたお礼がキスひとつで済んだら手間がなくていいし、それで相手も喜ぶんじゃないかと思うときもあるのだけれど、そこは最近すこし考えを改めて、何か記念になりそうな装飾品を買ってあげるようにしている。捨てたくなったら捨てればいいし、換金したくなったら換金すればいい。

 そんなわけで、セレンがいつものように、「ひとりで歩いている、急いでいなさそうな、可愛い女の子」を探しながら、ふらふら歩いていると、なんだかちぐはぐな男女二人連れに遭遇した。
 カップルに声をかけたって意味がないから、普通なら気にせずすれ違うところなのだが、すこぶる柄の悪い大男――長身のセレンより背丈があるうえ、がっちりと厚みのある体つきで、人相が凶悪だ――が、可憐そのものの彼女――きれいな赤毛が印象的で、長い睫毛を伏せ、思いつめたように下を向いている――を、しっかり背中に手を回してエスコートしているさまは、恋人同士というより、むしろ、誘拐犯が人質を連行しているような不自然さだった。
 仮に恋人同士だったとしても、彼女のほうが楽しんでいないのは明白だ。ぼくと歩いてくれたら、そんな顔はさせないのに。
「こんにちは、お嬢さん。デート中?」
 気易く声をかけると、赤毛の娘は顔を上げ、困惑したような瞳をセレンのほうに向けて、心細そうに、両手を胸の前で重ね合わせた。連れの男が、凄みをきかせた声で、
「わかってるなら、声かけて来んじゃねえよ」
と吐き捨てる。ふうん。
 わかったことはみっつ。ひとつめ、この可愛らしいお嬢さんは目が不自由らしく、視線の焦点がうまく結べていない。ふたつめ、このお嬢さんには、たぶん内陸の標準語が通じていない(が、連れの男には通じている)。みっつめ、このお嬢さんは、おそらく西方の国から来た、そこそこ身分の高いご令嬢だ。右手の小指に二連の指輪は、西方の上流階級で、成年に達した未婚女性のしるし。
 西方で一番広く使われるシャガラ語なら通じるだろうか。セレンは言葉を変えてみた。
『こんにちは、お嬢さん。この野蛮な大男は、君の何?』
 すると、赤毛の娘の表情が変わった。焦点の合わない目を見開くようにして、
『お願い、助けて。人さらいです』

「おい、何をコソコソ話してんだよ」
 連れの男が慌てたように割って入って来るところを見ると、この男にはシャガラ語は通じていないようだ。セレンは動じず、赤毛の娘に、
『この男を追い払えばいいの?』
『いいえ、また違う人が来るだけ。悪い人たちがどこかに集まっていて、わたくしの侍女が人質に――んん』
「何を話してんだ、って言ってんだよ!」
 男に口を押さえられて、彼女は沈黙した。
 セレンは男に向かって、
「邪魔して悪かったね。面倒事はごめんだ」
と言い、赤毛の彼女に対しては、
『またあとでね』
と言って、道を空けた。彼女は意図がわからなかったらしく、失望した表情でうなだれた。
「おう、わかればいいんだ」
 男は横柄に言うと、娘を連れて去った。
 一味の集まっている「どこか」の場所が分かっていれば、この場で保護するほうが楽だったのだけれど。捕まっている侍女とやらも助け出すなら、この二人のあとをつけて行くほうが早い。
 セレンは自分の長い髪を、ひとつに束ねて三つ編みにした。そのほうが動きやすいので。

 だいたい、人さらいにとっての大事な「商品」の移送に、こんなごろつきひとりを当てている時点で、娘の言う「悪い人たち」は、誘拐の素人に違いなかった。どう見ても「高級商品」なのだから、もう少し人を割いて、しっかり守らせたらいいのに、とセレンは思う。しかも、「商品」自身に歩かせているとは、あきれて物も言えない。薬でもかがせて、袋に詰めて、かついで運んだほうが、よほど安全だし道もはかどるだろう。目の不自由な女性だからと、甘く見すぎじゃないのか。
 などと、身も蓋もないことを考えながら、セレンはのんびり、前方に見える大男の背中に付いて行った。大男は、なりは大きいものの隙だらけで、背後への注意もすっかりお留守。典型的な、ただの力自慢のごろつきのようだ。どうやら近くに仲間がいる様子もない。
 そうこうしているうち、周りはだんだん、ひとけがなくなって、街外れに近付いて来た。荒れた建物がぽつりぽつりと点在している。さすがに物陰を選んで移動しながら、さて、人さらいたちの根城は、と。
(――あそこか。何人くらいいるかな)
 まだ離れているが、行く手に、誰も住んでいなさそうな荒れ果てた家があり、見張りが立っている。出入口は表と裏の二ヶ所ありそうで、今回のところは都合が良い。というのも、寄せ集めの不良相手に手加減してやるなら、逃げ道を断たないことが重要だからだ。
 案内役が不要になったので、見張りからは見えない場所で、セレンは一気に距離を詰めて、大男と令嬢に追いついた。
「ねえ、そこのおにいさん」
 後ろから声をかけると、大男は跳びあがって振り向いた。
「なっ・・・おまえは」
と言って、大男はぶんと腕を振り回したが、セレンがひょいと身をかがめて避けて、ちょっと強めに当て身を食わせたら、ぐうと呻いて、あっさりのびてしまった。少し拍子抜けだ。本当は、一味の情報など聞き出すつもりだったのに。まあいいか。
 おあつらえむきに、大男は腰にロープを携えており、セレンはそれを拝借して、大男の手足を手早く縛り上げた。
『お待たせ、お嬢さん』
『さっきの方・・・?』
『うん。それでね、申し訳ないけれど、君は、ぼくが悪者をやっつけて来るまで、このあたりで――ええと、この壁の陰あたりがいいかな――、一人で隠れていられる?』
『はい。心細いですが、足手まといにはなりたくありません』
『ごめんね。ぼくが戻って来るまで、ここでじっとしていて』
 娘が隠れるのを手伝ってやってから、セレンは縛り上げた大男を、見張りから見える位置まで転がした。能天気な見張りが気付かない様子なので、こちらが歩いて行くことにした。隠れ家の規模からして、中にいるのは、せいぜい10人前後だろう。
 歩いて来るセレンに気付いた見張りは、ちょっと扉を開けて声をかけてから、また扉を閉め、警戒態勢で待ち受けた。セレンはそのまま近付いて、にこりと笑い、
「やあ。向こうに倒れている大男は、君たちの仲間?」
と、自分の来たほうを指差した。見張りは疑わしそうにじろじろとセレンを見てから、指差されたほうに視線を投げて、そこに本当に仲間が倒れているのを見て、ぎょっと目を見張った、その瞬間、首元にヒヤリとした刃物の感触を感じることになった。セレンが後ろに回り込んで、ナイフを突き付けたのだ。
「大声を出したら殺すよ。中の人数は?」
「・・・じ、11人」
「人質の数は?」
「いない。あそこに倒れている奴が連れて来るはずだった」
「リーダーの名前は?」
「ミーナ」
「女か・・・人質にするはずだった令嬢の、侍女で間違いないか」
「そう聞いている」
「なるほどね。ありがとう」
 ナイフを引っ込めて手刀を落とし、見張りを気絶させてから、セレンは扉を開けた。

 セレンが抜剣して踏み込むと同時に、中で待ち伏せていた賊どもが、わらわらと斬りかかって来た。が、セレンが剣を合わせると、みな、2合ともたず、剣を取り落とし、腕を押さえて、あとじさる。ひとり、ふたり、3人、4人、5人。
「なんだよ、こいつ・・・」
 はいはい、どうせ見かけと違いますよ。というより、君たちは弱すぎ。気楽でいいけど。
「おい、相手はひとりだぞ! 何やってる!」
 後ろのほうから出て来た賊どもが、さらに斬りかかって来るが、数を頼もうという割に、まるで連携がなっていない。それぞれ、やはり2合ともたずに、剣を取り落として呻き声をあげる。6人、7人、8人、9人、10人。数だけ集めたって、駄目なものは駄目だ。
「ねえ、君たち、おかしらが逃げようとしているけど、いいの?」
「なんだと」
 男たちは振り返り、裏口から逃げようとしていた女を捕まえた。
「おい、逃げるなよ、ミーナ! 楽な仕事だって言ったの、あんただろ」
「ちょ、離しなさいよ、ばか!」
「その女性をこちらに引き渡してくれたら、君たちは逃げていいよ」
 男たちはミーナをセレンのほうにドンと押しやり、先を争うようにして裏口から逃げて行った。ミーナはたたらを踏んだ――が、両手で腰の左右から、それぞれ棒のようなものを引き抜き、チャッと刃を振り出して、見慣れない車輪のような形の武器をふたつ構えた。
(おや、これは確かに、今までのごろつきとは違うようだ)
「あたしはお嬢様の用心棒も兼ねてたのよ。甘く見ないで!」
 ザッと斬りつけて来ようとするのを、カシンと剣で弾き返すと、ミーナは意外そうな顔をした。さらに速度を上げて懐に飛び込んで来ようとするのを、セレンは全部、きれいに弾き返した。カシン、カン、カン、カシン、カシン、カン、カン。ミーナは思わず母国語で、
『ちょっとあなた、何者?』
『すごい剣の達人。の、稽古友達』
 もし傍から見る者があったら、二人が舞っているように見えたかもしれない。しかし、ミーナの動きは確かにトリッキーで素早かったが、一撃あたりの重みは当然セレンのほうが重く。すべての攻撃を受け止められれば、ミーナの動きはやがて鈍り、ついに車輪状の武器はふたつとも弾き飛ばされて、セレンがミーナを捕えた。
『さあ、捕まえたよ、お嬢さん』
『はあ、はあ、はあっ・・・あなたみたいな、人と組めたら、良かったのに』
 セレンは笑って、
『ぼくが人さらいなら、君を商品にしているさ。こんなに美人で、腕が立つんだから。それで、君はこれからどうするの』
『どうって? そんなの、あなたが決めることでしょ』
『ぼくは戻ったら、君のお嬢様に、こう報告する。あなたの侍女は自力で脱出していて、もういませんでした、って。君だって、悪の親玉になるのは難しいとわかっただろう?』
『見逃してくれるって言うの?・・・ありがと。でも、あたしは戻らないわ。お嬢様には、たぶんもう、気付かれているから』
『何を?』
『今日までに、あたしがお嬢様を始末しなくちゃいけなかったってことを。あたし・・・』
 言いさして、ミーナはしばし黙ったが、再び口を開いたときには、さばさばした口調で、こう言っただけだった。
『少ししゃべり過ぎたわ。じゃ、行くわね。お嬢様のご無事を祈ってるわ』

 ミーナが立ち去るのを見送って、セレンはその場をあとにした。見張りの男が転がっているのをそのまま捨て置き、元来た道を戻ってみると、赤毛の令嬢は言われたとおりに静かに隠れており、少し離れたところでは、意識を取り戻した大男が呪詛の言葉を吐きながら地べたに這いつくばっていた。セレンは大男に近寄って、
「君のリーダーも仲間も、もういない。君も、とっとと逃げたらいい」
 剣を抜いて手足のロープを切ってやったが、大男は立ち上がるとニヤリと笑って殴りかかって来たので、仕方なくもう一度、一切の手加減なく気絶させてやった。
『お待たせしました。大丈夫ですか、お嬢さん』
 令嬢に手を貸して、狭い場所から出してやると、
『わたくしは大丈夫です。あの、それで、わたくしの侍女は助かったのでしょうか』
『ミーナという女性なら、自力で逃げたそうです。もういませんでした』
『そうですか・・・なんとなく、そのような気がしていました』
 うつむいたその様子は、安堵したようにも、寂しそうにも見えた。それから、令嬢は顔を上げ、見えない目をセレンのほうに向けて微笑んだ。
『お優しいかたなのですね』
『え?』
『そんなふうにおっしゃってくださって。それに、血の匂いもしません』
 そうか、目が不自由な代わりに、いろいろと気の付くこともあるのだ。セレンは令嬢の手を取って、
『では、あらためて。セレンと申します。あなたを街までエスコートさせていただいて、よろしいですか』
『はい、よろしくお願いいたします、セレン様。わたくしの名はシェリアリア。どうぞシェーラとお呼びください』
 そうして二人は、寄り添って語らいながら、街まで戻ったのだった。

 陽の落ちる前に、セレンはシェーラを、彼女の泊っている宿の部屋の前まで送り届けた。明朝には、隣の街から迎えが来るのだそうだ。高名な医者に、目を診てもらいに行く途中なのだという。
『では、ぼくはこれで。今日はあなたと会えて良かった。ごきげんよう、シェーラ』
 そっと彼女を離そうとすると、シェーラは慌てたようにその腕をつかんだ。
『お待ちください』
『何でしょう? 何かご不便があるなら、遠慮なく――』
『いえ、そうではなくて・・・わたくし、まだ何も御礼を差し上げていません』
『ああ・・・。では、ぶしつけなことをお尋ねしますが、あなたには、どなたか心に決めた方がいらっしゃいますか、シェーラ』
『えっ? いいえ。わたくし、こんなふうですから、どなたにも迷惑はかけられません』
『では、少しの間、目を閉じていただけますか』
『え? でも、わたくしの目は』
『そういう決まりです』
『あ、はい』
 シェーラは目を閉じた。すると、鳥の羽根のように微かに、何かが唇に触れた。
『もう目を開けていいですよ』
『はい・・・あの・・・?』
 目の前のひとは、微笑んだようだった。とても優しい声が、
『ご褒美は、たしかにいただきました。おやすみなさい、シェーラ』
『はい・・・おやすみなさい、セレン様』
 ――奥手なシェーラが、何をされたのかに思い至ったのは、その夜、床に就いて目を閉じた時だった。自分が人並みにそんな経験をするなどと思ったことのなかった彼女は、びっくりしてベッドの上に飛び起きた。枕を手に取って、赤くなった顔を枕に埋め・・・そうして、ずっと、ずっと、枕を抱きしめていた。

(完)

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