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泥より出でしもの(トーナメント参加用)

 あるとき、黒髪の王子は、友とふたり、荒れ果てて怪しい気配のする沼地を通った。道を誤れば、得体の知れない怪物に、馬もろとも引き込まれてしまいそうな気がした。
 ふたりは用心しながら馬を進め、幸い何事もなくその地を通り抜けた。だが、ゼラルドの中には強い違和感が残った。間違いなく、やわらかな泥の底には何かが潜んでいた、が、人とも動物とも、生霊とも死霊ともつかないそれは、旅人たちが通り過ぎるのを、ただ黙って見つめていただけだった。あれは、何だったのだろう。
 ゼラルドはそっと、その場所に、自分だけにわかる目印をつけておいた。そして、あとで自由な時間ができたとき、ひとり、空間を跳んで戻った。目印のある既知の場所になら、よほどの障害に隔てられない限り、彼は何の苦労もなく一瞬で跳べる。
 あらためて沼地に立ち、見回して、そこに棲むものを探しながら、彼はふと、自らの変わりようを思った。かつては、何も見ないように、何も聞かないように、ただ日々が無事に過ぎてくれることを祈るばかりだった自分が、今はこうして、誰に咎められることもなく、自らの好奇心に従っている。好奇心。自分にもそのようなものがあったとは!
 ほどなく、彼は違和感のもっとも強い場所を見つけた。ぬかるんだ泥に向かって、彼は静かに呼びかけた。
「そこに在るのは何者か。姿を現せ」
 すると、沼地の表面が泡立って、泥で出来た人の顔らしきものがひとつ、浮かび出た。その口が動いて、女の声がした。ぶくぶくと泥が泡立つせいで聞き取りにくかったが、こう言っていた。
「もうあきらめました。引き止めませんから、お行きなさい」
 ゼラルドは少し考えた。そして、結局、尋ねた。
「あきらめたとは、何を」
 女の顔は、泡を吐きながら答えた。
「あなたがたと、わかりあうことを。ともに過ごすことを。あなたがたが泥の中では生きられないと、知りましたから。もう、泥の中へと連れ去ることは、いたしますまい」
 ゼラルドは、また少し考えてから、言った。
「では、そなたのほうが泥の外に出てはどうか」
「難しいことですが、それでは、やってみましょう」
 泥に浮かんだ顔が、少し持ち上がった。と思うと、やがて、泥でできた頭全体が、ぬっと突き出た。頭はさらに持ち上がり、首が、肩が、腰が、足が、徐々に現れて、最後には、ひとりの女が沼地の上に立っていた。泥でできた女は、つま先を泥に浸したまま、近くにあった苔むした岩に腰かけて、口を開いた。
「この姿かたちは、わたしが最後に引き止めたひとのもの。わたしには重くて、思うように動かすことができません。色合いも、真似ることができません。あるいは、さらに多くのひとを呑み込めば、より多くを似せることができるのかもしれませんが、命を奪ってまで望むことではありません」
 ゼラルドは首をかしげて、尋ねた。
「ひとの姿かたちを真似て、何を望むのか」
「あなたがたと、わかりあいたい。そして、わたしの寂しさを埋めたい」
 泥の女の答えは、淡々として静かだった。ゼラルドは、しばらく黙っていた。もし、泥の女が人への害意を持っていたら、討たねばならなかっただろう。だが、少なくとも今は、その必要はなさそうだ。ならば。
「ひとの命を奪わずとも、ほんの少しの間だけ、その姿かたちは変えられるかもしれない」
 ゼラルドは、儀式用の長い針を取り出して、自らの指を突き、ひとしずくの血を沼地に落とした。月の聖者であり、太陽の聖者であり、聖王家の一員である彼の、血のひとしずく。
 泥の女は、何を言われたのかよくわからない様子だったが、やがて、ああ、と声をあげた。
「これは・・・、何を・・・」
 言いながら、泥の女は自らの姿を見下ろした。その肌の色が、足元から徐々に、白く染まって行く。両の足、両の手、やさしい面立ちの顔が、人間らしい色に染まったあと、続けて、その唇は薄赤く、長い髪は漆黒に、どんどんと染まって行く。
 泥の女は、変わってゆく我が身をまじまじと眺めていたが、
「もしや」
と言って、立ち上がった。沼地の上を何歩か進んで、
「こんなに歩ける――!」
 驚いた顔で振り向いた女に、ゼラルドは冷ややかに問うた。
「さあ、姿かたちを真似ることは叶ったが、汝の寂しさは少しでも埋まっただろうか」
「・・・!」
 女は目を見開いてゼラルドを見つめ、それから、理解の色を瞳に浮かべて、ゆっくりと目を伏せた。溜息のように、答えた。
「どうなのでしょう。よくわかりません・・・」
「その姿を、とどめたいと望むだろうか。また、その姿を得て、この沼地を去り、どこか別の場所に向かいたいと望むだろうか」
「・・・いいえ」
 女は再び、溜息のように答えた。それから、目を上げて、こう言った。
「うれしかった。でも、もう、わかりました。いりません。そして、どこにも行きません」
 女の姿から、さきほどとは逆に、色が消えて行く。髪の色が、顔の色が、両の手が、両の足が、泥の色に戻って行く。そして、女の足は沼地に沈み始め、膝まで沈み、腰まで沈み、胸まで沈み――。
 沈み切る前に、泥の女はゼラルドに向かって、両腕を広げて、微笑んだ。
「こんなところでも、わたしの故郷なのです・・・」
 そして、溶けるようにして沼の中に消えて行った。あたりには、元の静寂が満ちた。
 泥より出でしものは、泥に還った。
 討伐は必要ないと判断して、黒髪の王子は、旅へと帰る。

(完)

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コメント

こんにちは♪
清雅で幻想的な雰囲気に引き込まれました♪

イギリスの川や沼に住む妖精は人や馬を溺れさせることが多いですよね。

まず、なぜ人を溺れさせるのかに興味を持ち、話を聞いてあげるゼラルドの優しさにほっとします。
そして討伐は必要は無いと判断するゼラルド。なるほど、滅ぼす必要があるかないかを確かめに戻ったのか…と。流麗な姿と凛とした意志を持ちながら、奥に荒々しさと人を守る使命を秘めている。この荒々しさと使命がゼラルドの好奇心を呼び起こすのかも…。

泥の女が思う地上への憧れ、沼に住む孤独の苦しみ。
泥の女がゼラルドと友人を溺れさせようとせず、ただ黙って見詰めていたのは、ゼラルドが戻って来て話を聞いてくれることを期待したのではないか……。そして、そうなれば、沼に住むという自らの運命を「完全に」受け入れられるのではないか…。ゼラルドならば、そうしてくれる。
そんな風に泥の女は、思ったのではないか。
と、私は思ったのでした…。


余談になりますが、なんと、私の『夢の卵』のリンクを張って下さっているのですね、ありがとうございます♪
私の方でも、こちらのブログのリンクを張らせて頂いても宜しいでしょうか?♪

小奈鳩さん、
コメントありがとうございます♪

「清雅」! これほど輝く形容のご感想をいただくことは滅多にないので、拝見して目をパチパチしてしまいました。ありがたき幸せ。
泥より出でしものと黒髪の王子について、想像をふくらませていただけて、とても嬉しいです。
私が骨だけ書いた物語より、読者の皆様が思い描いてくださる物語のほうが、100倍素敵だろうと、いつも思います。

リンクは、貼るのも剥がすのも、お好きなようになさってください。
こちらも、いわゆる相互リンクのような形ではなくて、記事の中でのご紹介ですから。
これからも、小奈鳩さんの編まれるお話を、楽しみにしています。
特別なギフトを授かっている、でたらめしか言わない女の子とか、とても魅力的です!

第14回自作小説トーナメント準優勝おめでとうございました。
小奈鳩さんの3連覇の陰に隠れた形となってしまいましたが、
実は、2連続準優勝なのですね!
クオリティーの高い作品でいつもトーナメントに花を添えて頂き
感謝しております。

みんもっこすさん、
コメントありがとうございます♪

今まで優勝や準優勝をいただいた作品は、お姫様の出て来るお話ばかりだったので、今回は成績が良くないだろうと思っていたぶん、びっくりして嬉しかったです。
自作小説トーナメントを盛り立てるために、今のところ、私にできることは参加することだけなので、できるだけ出品させていただきます。
より多くの書き手と、さらに多くの読み手が、楽しく集うイベントになることを願い続けていますclover

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