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ひとこと通信欄

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2016年5月

幻術の塔(01)

 夕暮れどき、旅の一行が宿にたどりついて扉を押し開けると、若い娘が叫ぶように言い募っているところに出くわした。
「父さんも母さんも、あたしがどれだけベリンダに助けてもらったか、よく知ってるじゃないの! ベリンダが診てくれなかったら、あたしの命なんて、とっくに無かったんだから」
 両親と思しき夫婦は、帳場の中にいるところを見れば宿の主人なのだろうが、客が入って来たことに気づいているのかいないのか、二人ともおろおろしており、母親のほうが娘を説得にかかっている。
「そうだけどね、スウ、おまえ、せっかく助かった命なのに。自ら進んで生贄になったら、元も子もないじゃないか。ベリンダだって、そんなことのためにおまえを助けたわけではないと、言ってくれるに違いないよ。ベリンダのことは気の毒だけど、これは公平なクジ引きだ。仕方のないことなんだ」
「仕方なくなんて、ない! ベリンダはこれから、立派なお医者さんになるんだよ。これからもたくさんの人を助けてくれるんだよ。あたしがもらった命は、今こそ役に立てなくちゃ。きっとそのために助かった命なんだから!」
 叫ぶ娘も、両親も、今にも泣き出しそうな顔をしている。
 割って入ったのは、ルークだった。彼にしては遠慮がちに、とはいえ、はっきり大きな声で、
「邪魔をして悪いけど、一晩泊めてもらえないか」
 宿屋の親子は、はっとしたように旅人たちを振り返った。
「あらまあ、お客さんたち! はいはい、ただいまご案内します。ええと、4名様ですね」
と、母親が応じた。目をごしごしとこすって、あいまいな笑顔を作り、夫と娘に指示をした。
「ほら、あんた、お客さんの荷物をお持ちして。スウは、ちょっと台所に行ってなさい」
 旅人たちは馬を預け、食事は外で食べるからと、すぐに外出した。酒場の端のテーブルで飲み食いしながら、それとなく情報を集めると、どうやら町は「今年のいけにえ」のことで持ち切りで、多くの人々が嘆き悲しんでいるのだった。
「町の東の外れに、年老いた魔法使いの住む塔があるそうだ」
と、しばらく席を離れていたルークが、戻ってきて言った。人懐こい金髪の若者に、町の人々はいろいろと話してくれたようだ。
「来るときは、暗くて見えなかったが。その塔は、年に一度だけ入口が開いて、いけにえの娘を要求する。応じなければ、町全体に災いが降りかかる。今年のいけにえは、医者の娘のベリンダで、まさに明日、塔に入らなければならないのだそうだ」
 話を聞きながら、ゼラルドが、なにげない様子でテーブルに聖札を3段ほど並べ、何枚かめくり、何事もなかったかのように片付ける。
「何かわかるのか、ゼラルド」
 ルークに問われて、黒髪の若者はちらりと目を上げ、静かに言った。
「塔などない。まやかしだ。だが、あると信じれば登れるし、てっぺんから落ちれば死ぬ」

予告:「幻術の塔」 & トーナメント結果:「一角獣の角」

お待たせしております。やっと、次のお話を書き始めました。
未確定ではありますが、たぶん、ルーク、フィア、セレン、ゼラルドの4人参加のお話。
長さは短くて、全2回か3回の予定です。
スタートは火曜日。遅くなったらごめんなさい。

***

今月のブログ村のトーナメントは、参加作品が5つしかなくて、寂しい開催となりました。
成績は3位または4位でした。(ブログ村のトーナメントは、3位が2作品になる仕様なので…。)
「一角獣の角」は、ここから読み始めるには少し読みづらいお話かな、と思いつつ、そのうち電子書籍に切り出すつもりでいます。
ちなみに、電子書籍については、「これを切り出して!」というリクエストがありましたら、いつでも受け付けておりますよ~。

火の鳥(トーナメント参加用)

 夕闇が降りて来て、街の門が閉ざされようとしているところに、ぎりぎり間に合って、中に入れてもらうことができた。さほど大きな街ではないはずなのだが、やたらと道が入り組んでおり、枝道やら階段やら行き止まりやら、まるで迷路のような所だ。一行は何度も人に道を尋ねながら、ようやく宿にたどり着いた。
 厩に馬をつなぎ、食堂で軽く夕食を済ませ、めいめい部屋に引き上げようかというところで、金髪の王子は一人、
「治安が良さそうだから、少しだけ」
と、宿の主人に酒場の場所を聞き、出かけることにしたようだった。その背に向かって、
「迷子になるなよ」
と、セレンが声をかけると、わかったというふうに片手をあげる。本当にわかっているかどうかは怪しいものだ、とセレンは心の中で思う。
 あとの二人、フィリシアとゼラルドは、腑に落ちない顔をしていた。口を開いたのは姫君のほうで、
「ねえ、セレン。フルートが道に迷うことなんて、あるの?」
「あるよ」
と、セレンは笑った。フィリシアは納得がいかない様子で、
「いつも、何の目印もない野原の中をさえ、少しも迷わずに先導してくれるのに?」
「うん、それは逆だから。つまり、何もなければ迷わず進める。方角を間違えることのない不思議な王子様だからね。でも、この街のように枝道や行き止まりの多い場所だと、いつもの癖で方角を頼りに歩き回っているうち、帰り道が見つからなくなって、迷子になるわけ」
「そうなのね・・・」
 青い髪の姫君は、目をぱちぱちさせて、妙に感心している。黒髪の若者のほうは、聞きたいことを聞き終えて関心を失い、さっさと席を立つところだ。セレンはフィリシアに勧めて、
「君も休んだら、フィリシア。明日の朝は早いよ」
「そうね・・・。では、先に休ませてもらうわね。おやすみなさい、セレン」
「おやすみ」
 セレンは二人を見送って、自分はしばらく居残ることにした。客のまばらな食堂で、なかなかに可愛らしい宿の娘をつかまえて話し込んだりしていたが、二時間ほど経ったところで、軽く溜息をついて話を切り上げ、立ち上がった。
「ほーら、戻って来ない。仕方ないなあ」
「あなたのお友達?」
「そう。ええと、酒場はどこだと言ったっけ?」
 宿の娘は、月色の長い髪をした若者に、酒場への行き方を教えてくれた。込み入っている道順をよくよく頭に刻みつけて、セレンは礼を言い、どこかで道に迷っているだろう友人を連れ戻しに、自分も外に出たのだった。

 教わった酒場に着いてみると、すでにフルート――というか、おしのびゆえルーク――は、立ち去ったあとだった。酒場の主人の話によれば、酒を一杯飲んで、持っている地図を広げて幾つかの質問をし、あとは適当に世間話をして、あっさり引き上げたらしい。
「えらく男前の兄さんだったから、試してやるつもりで一番強い酒を出したんだが、顔色ひとつ変えないで飲み干して行きやがったな。今頃どっかで倒れてなきゃいいが」
 腕組みをして眉根を寄せた主人に、セレンは苦笑して、
「めっぽう強い奴だから、心配いらないよ。情報をありがとう」
 いくばくかの金を払って、外に出た。
 さて、もと来た道を戻るなら左に向かうところだが、ルークなら、無意識のうちに最短距離を取ろうとして、右に向かったことだろう。しばらく行くと――行き止まりか。そうしたら、少し戻って、こちらの脇道に入るだろう――。
 家々の明かりに照らされて、入り組んだ路地は思ったよりも明るい。風情のある散歩、と言えぬこともなく、機嫌よくセレンが歩いて行くと、やがて、細い路地の先で、いかつい用心棒が二人立っている建物に行き当たった。中からワイワイと声が漏れて来る、この雰囲気は・・・おそらく賭博場だ。いかにも「ルーク」がふらっと入って行きそうな、適度に活気があり、適度に怪しげな、こじんまりした賭場。
 セレンは用心棒たちに近づいて、「やあ、こんばんは」と声をかけた。二人の男はじろりとセレンを睨み、片方が無愛想に「何の用だ」と言い、もう片方は低い声で「あんたのような人の来る場所じゃないぜ」と言った。
 ルークと違い、いつも品の良い身なりを崩さないセレンが警戒されるのは想定のうち。気にしない。
「友達を探しているんだ」
と、セレンは穏やかに言った。
「金髪に青い目の、すこし雰囲気の変わった奴が来なかったかな?」
「――入って行ったな」「――まだ中にいるな」
 用心棒たちは認めた。
「わかった。入んな」
「ありがとう」
 セレンは涼しい顔で扉を押し開き、建物の中に入った。

 中は薄暗く、ざわざわと騒がしかったが、何やら重苦しい空気で、殺気立っていた。
 主人らしき男は、酒を出すカウンターにいて、入口に立ったセレンを見て渋い顔をした。
「見かけねえ若旦那だな。こんなところに、何か用かい」
「友達を探している。金髪に青い目の、初見の客が、ここで悪さをしていないか?」
 聞いて、主人の表情が微妙に変わった。視線で奥のテーブルを指し示しながら、
「ほう、それじゃ、あんたは、あそこにいる、あの賭場荒らしの友達だっていうのかい」
 セレンは、賭場の主人の視線を追って、奥のテーブルを見た。
 テーブルの上には山のようにコインが積み上がっており、テーブルの周りには、これまた山のような見物客の人だかりがしていたが、どうやらそこでは、1対1のカード勝負がおこなわれているようだった。テーブルのこちら側で皆に手札を見られているのは、おそらく常連客。奥で壁を背に、ひとり片膝を抱えて手札を伏せているのは、そう、ルークだ。
 カードとコインの山のそばには、空になった酒瓶がゴロゴロと転がっていた。客たちがルークを酔い潰そうとしたのであろう無駄な努力の跡だ。ルークは薄く笑みを浮かべており・・・おや、珍しく、目が据わっている。どれだけ飲んだのやら。
 セレンの視線に気づいて、ルークはちらりと一瞬、入口に視線を投げて寄越した。表情は変わらなかったが、目の前にあるコインの山を、片手でずいと押し出した。
「これで最後にしようぜ、おっさん」
 勝負相手は、手札を見ながら熟考している。見物客たちは口々に喚いた。
「勝ち逃げはさせん!」「また、はったりだろう!」「今度こそ、こっちの勝ちだ!」
「・・・よし!」
 けしかけられた客は、自分も目の前のコインの山を押し出した。ルークがにやりと、
「恨みっこなしだぜ」
「望むところだ」
「せーの!」
 お互いに手札を表に返し、訪れた束の間の静寂・・・ついで、客たちの、失望の溜息。
 ルークは陽気に笑った。
「ははっ、俺の勝ち! おーい、おやっさーん、あがるから両替してくれよ!」
「・・・はいよ」
 賭場の主人はカウンターを出て、奥のテーブルでコインを勘定し、金貨に取り換えた。
 ルークは受け取って、ゆらりと席を立った。ある者は意気消沈し、ある者は物騒に殺気立っている、ごった返す客の中を、するりと抜け出て、カウンターに金貨を1枚置いた。
「自分で頼んだわけじゃないけど、俺の飲みしろ、払ってくぜ」
「ほ、あんがとよ」
「残りはここに置くから」
と、ルークは残りの金貨をカウンターに積んで、
「今夜はみんなで飲んでくれよな。俺のおごりだ」
 今度の沈黙のあとのどよめきは、驚きと歓声だった。賭場の主人は、目を丸くして、
「いいのか?」
「あぶく銭は、ぱあっと使っちゃわないとな! さ、帰ろうぜ、セレン」
 ルークはセレンを促して、外に出た。用心棒たちに、一人ずつ中に入って酒を飲んで来たらどうか、などと言っていると、賭場の主人が戸口から顔を出した。
「お、まだいたな。実はな、あんたたちに持って行ってもらいたいものがある」
 賭場の主人は、ごつい手の中に、丸みをおびた小さな布の包みを持っていた。
「俺たちに? 何だよ?」
 いぶかしげに問うルークの目の前で、布の包みがほどかれて、セレンが首をかしげる。
「卵・・・のような形の、石かな? 見たことのない、炎のような模様だけれど・・・」
 賭場の主人は、うんうんと頷いて、
「実はな、もうすぐ孵りそうな卵なんだ。ときどき動くぞ。ゆきずりの客が、すかんぴんになって、金の代わりに置いて行ったんだがね。うんと珍しい鳥の卵なんだとさ」
「孵すつもりなら、あたためておかないと・・・」
「それがな、何もしなくても、こんなに熱いんだ」
 言われて、ルークとセレンは、まだら模様の卵に触ってみた。
「うわっ。この熱さで、ほんとに生きてるのか?」
「ふつうの生き物の温度ではないね・・・」
「とにかく、持ってってくんねえか。これも縁だって気がするからよ」
 賭場の主人は言葉を重ねた。
「なにしろ、いくら珍しくても、食えもしねえ雛鳥が生まれて来たって、俺も困るしな」
「そんなの、俺たちだって」
 言いかけたルークを、セレンが遮った。
「ゼラルドに渡してみよう。何かわかるかもしれないし、あの冷笑家は鳥が好きだろう?」
「そうだったか?」
 ルークは懐疑的な顔をしたが、
「じゃ、戦利品だと思って、もらっとく」
 布の包みごと受け取った。ふわあ、と、あくびをして言った。
「それじゃセレン、道案内よろしく」

 翌朝――。
 日の出とともに発たないと、次の宿泊地まで行き着けない。と、前日に言っていたのは、ルーク――フルートだったのだが。
 彼を欠いて3人で朝食のテーブルを囲みながら、セレンが、
「おそらく今日は出発できないから、各自、自由行動にしよう」
と言った。不思議そうな顔をするフィリシアに、にっこり笑って、
「王子殿下は二日酔いだよ」
と教えると、フィリシアは目をぱちぱちさせて、
「えっ。そんなことって・・・あるの?」
「うん、たまにね。負けん気が強いのも、良し悪しだよね」
「酒場で飲み比べでもしたの?」
「んー、まあ、そんなところじゃない?」
 セレンは適当にはぐらかした。フルートの奇妙な「戦利品」のことも黙っていた。まだあの卵はフルートが持っているし、彼があとから自分で話せばいいことだ。
 そんなわけで、良く晴れた空のもと、宿屋を拠点にして自由に街を散策した旅人たちが、1日歩き回ってみて改めて分かったのは、この街はやっぱり迷路のような造りになっているということと、それはどうやら歴史的に、外敵を防ぐため必要だったかららしい、ということだった。
 街の人々の話によると、今でも年に数回は、盗賊団などが様子を窺いに、近くまでやって来るのだという。街の四方にある門には、閉門のあと、必ず交代で不寝番が詰めており、夜通し大きな明かりを焚いているのだが、ごくまれに真夜中頃、街からそう離れていないところを、松明を掲げた一団が通り過ぎて行くのだそうだ。
「隙を見せたら襲って来るのだろうが、このとおり攻めにくい場所だって、向こうさんも知っているのさ」
と、夕食のとき、宿屋の主人が話してくれた。
「いざ敵が来たら、どこに誘い込んで捕まえればいいか、街のみんなもわかってるしな。そのうえで、腕利きの若い衆が四方の門に詰めていれば、そこらの盗賊団は黙って通り過ぎていくよりほか、ねえわけよ」
 食事をしているうちに、やっとフルートが2階から降りて来た。体調はすっかり戻ったらしく、適当に料理を注文して席につき、
「今日はすまない。明日は出られるから、朝一番で発とう」
 いつもどおり直截に言うところが彼らしい。それから、フルートは小さな布の包みをゼラルドの前に置いた。
「珍しい鳥の卵だそうだ。生きものとは思えない熱だが、あとで調べてくれないか」
 黒髪の若者は、無言で布を開き、赤と橙の斑模様をした卵を見た。隣にいるフィリシアと順番に卵に触れると、卵は、もぞ、と動いた。ゼラルドはうなずき、卵をしまい込んだ。
 食事を終えて、そろそろ部屋に引き揚げようかという頃、どこかで鐘が鳴り始めた。
 カン、カン、カン、カン、カン・・・。
 音色を聞けば、警鐘であることは明白だった。宿の主人のおもてが引き締まった。
「なんてこった。何年かぶりの警鐘だ。お客さん方は、部屋に入っていてくんな。大丈夫、ここは街の中で一番たどり着きにくい場所にある建物だからな」
 どうりで道に迷うはずだ、と言いたげな顔をしたフルートは、口に出しては、
「セレンはフィリシアと一緒に待機。ゼラルドは、ぼくと一緒に支援に行こう」
と言った。なぜ、その割り振りになったかは、次の言葉でわかった。
「いま鳴っている鐘は西から聞こえる。ぼくたちが来たのも西の門。それなら、ぼくが方角を正しく示せば、ゼラルド、君は一瞬で跳べるだろう?」
 言いながら、フルートは手で西を示した。ゼラルドはうなずいて、フルートの腕をつかみ、次の瞬間、宿の者たちの目を盗んで、二人の姿は消えていた。

 ――西門にて。
 門の内側に、自警団と思しき者たちが集まり始めているため、出現地点を決めかねたゼラルドは、いったん、門の外、ぎりぎり明かりの届かない暗がりの中に着地した。
「どこか適当な場所で、壁を抜けて中に入れば良いだろうか」
「その前に、外の様子を確かめておこう」
と、フルート。
 門のほうからは、人々が大声に話す声が、切れ切れに聞こえて来る――「どこの盗賊団だ」「数が多い」「まだ増えるのか」・・・。
 その人々が見ているだろう方向へと首をめぐらし、
「あれか」
と、フルートがつぶやく。街から少し離れたところに、30個ほどの炎が整然と並んで揺れており、その後ろから、続々と新しい炎が合流している。
 フルートは、炎の群れをしばらく眺めてから、
「おかしいと思わないか、ゼラルド」
と言った。ゼラルドが戸惑っていると、
「手前の炎の形は整っているのに、後ろから合流して来る炎は・・・」
 言いさして、言葉を区切り、
「行ってみよう」
と言った。
「街の人々は、打って出るよりも守るほうが易いと判断するだろう。その間に、ぼくたちが行って、話をつけてしまえばいい」
「話をつける?」
「通じなければ、戦うまでだ」
 フルートはもう、炎の群れに向かって足早に歩き出している。ゼラルドは黙って、あとに従った。

 近づくにつれて、ゼラルドにも、その炎が松明などではないということが、はっきりと分かって来た。
 まず気づいたのは、炎が人の肩の位置でなく、地べたに並んでいるということだった。大きく背の高い、赤い炎だ。
 次に気づいたのは、炎の近くには何の人影も照らし出されていないということだった。炎はそれぞれ、自立して勢いよく燃え上がっている。
 そして、彼方から次々に現れる新しい炎は、まるで広げた羽をたたむようにして地に降り立っていた。近くまで来て、よくよく目を凝らせば、燃え盛っている炎のひとつひとつは、みな本当に、羽をたたんだ鳥の形をしていた――炎をまとう、伝説の鳥。
 そう、それは、何十羽、何百羽という、「火の鳥」の群れだった。
 舞い降りる炎、炎、炎…。
 フルートとゼラルドが近づくと、鳥たちはバサバサと二つに分かれ、道を開けた。
 進んで行くと、鳥たちの真ん中に、ひときわ大きな鳥が赤々と燃え盛っており、若者たちを威嚇するかのように、大きな炎の翼を広げた。二人は立ち止まった。
 広げた翼をたたんで、大鳥は赤い目で二人を見つめ、太い嘴を開いた。
≪・・・ヒトノ子ヨ≫
「話せるのか」
と、フルートが、やや驚いた声で応じる。
≪少シ。昔ハ、ヒトト共ニ、暮ラシタコトモ、アッタ≫
「そうか」
≪我ラハ、我ラノ、子ヲ探シテイル。コノ近クニ、イルト感ジル≫
「それは卵か」
≪ソウダ。コノ近クニ、落チテシマッタ。生マレレバ探シヤスイガ、手遅レニナル≫
「手遅れとは?」
≪雛鳥ハ、弱キモノ。ヒトノ穢レニ触レルト、炎ガ消エル・・・生キラレナイ・・・≫
 フルートはゼラルドに目配せし、ゼラルドは小さくうなずいて、布の包みを取り出した。包みをほどいて、くるみこまれていた赤い卵を取り出し、そっと地面に置いた。
≪オオ・・・。ヌシラ、ナゼ、卵ヲ持ッテイル・・・≫
 大鳥は燃える両羽根を開き、卵の上にかぶせた。しばらく無言だったが、やがて、
≪コレハ・・・ヒトノ穢レニ触レタ・・・≫
と言った。周りの鳥が一斉に強く燃え上がった――彼らも人語を解するのだ。
 だが、大鳥はゆっくりと続けた。
≪穢レニ触レタガ・・・清メラレタ・・・。ヌシラガ、守ッテ、クレタノカ≫
「そうだ」
と、フルートは言い切った。大鳥は、両羽根で卵をそっと撫でた。
≪感謝スル。・・・雛ヨ、生マレ来ヨ≫
 卵は、もぞ、と動いた。さらに、もぞもぞ、と動いたあと、卵の殻にひびが入り・・・内側から殻を破って、幼鳥が現れた。小さく、べったりと炎に濡れ、燃え上がっている。
≪雛ハ、スグ、飛ベルヨウニナル≫
と、大鳥は言った。
≪ヌシラニハ、感謝ノ印ニ、コレヲ≫
 大鳥は首を曲げて、自らの羽を一本引き抜き、地面に置いた。羽はしばらく燃えたあと、炎を失い、何の変哲もない羽になった。朱色に見えるのは、周りの炎のせいか。
≪コレヲ持ツ者ハ、ドンナ寒サノ中デモ、決シテ凍エナイ≫
「ありがとう」
 フルートは羽を拾い上げた。その目の前で、雛鳥は体を伸ばし、翼を広げ始めた。
 雛鳥が首を伸ばした先に、大鳥が自らの翼を差し出すと、雛は何度か、炎をついばむような動作をした。雛鳥の、ぺたりと寝ていた羽毛がふんわり立って、体の割に大きな翼がパタパタと動き始める。確かに、生まれてすぐに飛べるようだった。不思議な鳥だ。
 大鳥が言った。
≪人ノ子ヨ、アリガトウ。コレヨリ先ハ、我ラガ、雛ヲ守ル≫
 まるでそれが合図だったように、周りの鳥たちが飛び立ち始めた。大鳥も翼を広げた。フルートとゼラルドは、数歩、後ろに下がった。
 大鳥は飛び立った。雛鳥も飛び立った。頼りない小さな姿を、別の鳥たちが取り囲んだ。
「この羽は、君が持てばいい」
 フルートは、大鳥から受け取った羽をゼラルドに差し出した。
「卵の穢れとやらを清めたのは、君なのだろう、ゼラルド。それに、君は寒さに弱い」
「穢れと呼ばれる者にこそ、御守りが必要だろう。ぼくはいい」
 静かに告げられたその言葉に、フルートは、はっとした。
「穢れとは、まさか」
「おそらく、そうだ。どれほど明るく優しい姫君でも、死の呪いをかけられていることに変わりはない。その理不尽な呪いを解くためにこそ、ぼくたちはこの旅を続けている」
 二人は、その場に立ったまま、すべての鳥が夜空へと飛び立つのを見送った。
「この光景を、フィリシアとセレンにも、見せてやりたかったな」
 フルートが言った。ゼラルドは無言で、フルートの腕に軽く触れ、宿へと空間を跳んだ。

 二人の帰りを待っていたフィリシアとセレンに、フルートは一部始終をかいつまんで語り聞かせた――穢れに関することのみ伏せた。
「フィリシア。これは君に」
 フルートが朱色の羽を渡そうとすると、フィリシアは笑って、
「私はクルシュタインの出身よ。寒さには強いわ。ゼラルドに渡したほうが」
「ぼくなら、違う羽の御守りを、もう持っているから」
 黒髪の若者は、赤い羽を取り出して見せた。言葉少なに、以前飼っていた鳥の羽だと言った。なるほど、たしかにゼラルドは鳥が好きらしい、とフルートは思ったが、黙っていた。フィリシアは朱色の羽を受け取った。
 そして翌朝、日の出とともに、旅人たちは、この迷路のような街の東門に立っていた。
 開門と同時に、馬を連れて街道に出れば、行く手ではぐんぐんと日が昇ってゆく。
「あっ、あれを見て!」
 馬に乗ろうとしていたフィリシアが、急に東の空を指した。
「あの雲の形!」
 指し示された空では、ちぎれた雲が重なり合い、朝日に照らされ、まるで、光り輝く大きな鳥が、翼を広げて飛んでいるように見えた。ほんのひとときの、空のいたずら。
「今日は、いいことがあるかも」
 嬉しそうにフィリシアが言う。
「ああ」「そうだね」
と、フルートとセレンが応じた。
 そうして、一行は出発する。
 解呪の聖泉は、まだ遠い。

(完)

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第17回 自作小説ブログトーナメントに参加しています。

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こぼれ話:人の顔と名前を覚える

フルートは、人の名前を覚えるのがあまり得意ではありません。
でも、話したことのある人の顔は覚えていて、前にどんなことを話したかも思い出せるので、「話しながら、相手が誰だか思い出す」ことができます。

セレンは、人名を覚えるのが得意。会ったことのない人についても、よそから聞いた話などを、よく覚えています。
顔と名前を一致させることについては、努力して、まあまあ成功しています。「猫のような○○」のように、雰囲気の特徴で覚えることが多いようです。

本編より何年か前の、フルートとセレンの会話は、こんなふう。
「セレン? 何を落ち込んでいるんだ?」
「呼び間違えたんだ、ウェンディとアマンダのこと・・・」
「たまには間違えることもあるだろう。気にするなよ」
「覚えていたつもりだったんだ! 百合のようなウェンディと、薔薇のようなアマンダ。なのに、逆だったなんて。信じられない」
「百合? 薔薇? あの二人が?」
「嫌われただろうと思うと、悲しくて。二人とも、かわいくて大好きだったのに」
「・・・」

なお、フィリシアとゼラルドは、「日頃、自分の目の届く範囲の人たち」のことは、よく観察して、把握している模様です。
ミルガレーテは何となく、人の顔や名前を覚えるのが苦手そうなイメージ。
ちなみに、作者の私は、人の顔を覚えるのも、名前を覚えるのも、とても苦手ですsweat02

※ ※ ※

進捗状況。
なかなか、次のお話の構想がまとまらずにいます。
フルート(ルーク)の話が書きたいな。でなければ、セレンの話が書きたいな。
もうしばらく、お待ちくださいね。

ひとやすみ:魅力的なイベントあれこれ(2016年5月)♪

今週末は、おもしろそうなイベントが目白押し。
私はスケジュールが合わなくて行けないけれど、「どこかにお出かけしたいな~」と思っている方は、こういうの、いかがでしょう。

1.デザインフェスタ

様々な個性を持つクリエイターさんたちが集う、にぎやかなアートイベント。
場所は東京ビッグサイト。
今回、池田優さんや、彩音ちなさんも出展なさるそうなので、お出かけの際は覗いてみて!
ミニサイズの原画や、お洒落なグッズの販売もあります。
通称「デザフェス」。公式ホームページは → こちら  。

2.竜王迷宮からの脱出

ドラゴンクエストとコラボしたリアル脱出ゲーム(謎を解きながら出口を目指す)。
場所は幕張メッセ。
脱出ゲームというものには、たいてい、きつめの時間制限があるものですが、
今回のイベントは「みんなが楽しめる」を合言葉に製作されたもので、ゆっくり楽しめそう。
公式ホームページは → こちら  。
当日券の有無は、前日に発表されるとのことです。

3.東京蚤の市

種々多様なお店が集まって、蚤の市!
場所は京王閣。
「東京北欧市」や「東京豆皿市」や「物々交換の本棚」コーナーもあります。
ぶらぶら歩いて見て回ったら、きっと楽しいよ。
公式ホームページは → こちら  。

***

ああもう、全部1週間ずつずらしてくれれば、全部行くのにさー。
心地よい季節なだけに、イベントがみんな重なっちゃうのね・・・残念。
どれかに遊びに行く方は、あとで感想を教えてください。ぜひ、ぜひ。

一角獣の角(トーナメント参加用)

 身分を隠して、旅の4人は湖畔の町に宿を取った。ここに来るまでの道すがら、美しい湖があるとの噂を聞いていたが、既に日は暮れており、湖面は半月を映しながら黒々と広がっているばかりだ。
 宿の女主人が、食事を用意しながら、おおらかな笑顔で助言してくれた。
「お客さんたちもね、せっかく、こんな辺鄙な場所まで来なすったんだから。明日は早起きして、朝日の昇る頃に湖を見てみるといいよ。景色も綺麗だし、うまくしたら、向こう岸で一角獣が水を飲むところを見られるかもしれないからね」
「一角獣。本当に?」
 名前は知っていても見たことはない獣の名に、セレンが驚いて聞き返すと、女主人は自信たっぷりに大きくうなずいた。
「ああ、そうだよ。天気のいい日は、朝早くに、よく水を飲みに来るんだ。それだけ、この湖が神様と精霊様のお恵みを受けているということだからね、あたしたちはとても誇りに思っているよ。騒いだり近づいたりすると逃げてしまうから、見つけたら、遠くからそっと見守っておくれね」
 しかし、女主人がテーブルを離れると、黒髪の若者が静かに切り出した。
「相談がある。実は、解毒薬の材料を探しているのだが、一角獣の角を砕くと万能の解毒薬になる。手を貸してもらえないだろうか」
 物騒な言葉を聞いて、フルートは、周りに聞こえないように声をひそめた。
「まさか、伝説の聖なる獣を、捕まえろと言うのか?」
 ゼラルドは首を横に振った。
「いや。一角獣は気性が荒いと聞くから、とらえようとすれば向かって来るだろうし、戦えば、誤って殺してしまうかもしれない。ぼくが欲しいのは、ほんのひとかけらの角だ。無益な争いを避けるためには、言い伝えにあるとおり、心身の清らかな乙女が、一角獣に頼んで削らせてもらうのが良いのではないかと思う」
 若者たちの視線は、自然に、この場にいる唯一の乙女であるフィリシアに向けられた。青い髪の姫君は、慌てたように首を振った。
「待って、私は呪いを受けている身だから、清らかとは・・・」
 言いかけて、はたと思いついて、言葉を変えた。
「そうか、宝剣でミルガレーテを呼び出せばいいのね・・・わかったわ。今日のうちに部屋で説明をしておいて、明日の朝、誰にも見つからないようなら、手伝ってもらいましょう」
「ミルガレーテは<心身の清らかな乙女>に間違いないのか? ――ないよな」
 フルートが自分で自分の問いに答えたのは、テーブルの下でセレンに足を蹴られたからだ。
 フィリシアは、にこにこと笑った。
「そうね。明日お天気が良ければ、きっと何もかも上手く行くわよ」
 彼らが部屋に引き上げて、それぞれの窓から夜空を見上げてみれば、星の散らばる中にくっきりと浮かぶ上弦の月が、明日の晴天を約束してくれていた。

 翌朝、朝日の昇るころ、一行は湖のほとりに立った。空は東のほうから明るくなりつつあり、うっすらと一つ二つ浮かぶ雲のふちが、いちはやく陽光を受けて金色に輝いている。
 やがて、湖の向こうの森の上に、朝日が顔を出した。静かな湖面に、陽光と、森の色、空の色、雲の色が、鮮やかに映りこんでいる――。
 最初に気づいたのは、フルートだった。ひそひそと、
「ほら、あそこに」
 指さした対岸で、一頭の、馬に似た生き物が、首を下げて水を飲んでいた。馬とは違う証に、その全身は白く光り輝いており、額からは真っすぐに長い角が生えていた。
 ゼラルドは辺りを見回して、自分たちの他にも物好きな誰かが、この幻想的な光景を見ているのではないかと確認した。が、おそらく地元の人間にとっては珍しい光景ではないのだろうし、旅行客は彼らしかいないようで、他の人影は見当たらなかった。
 フィリシアは、持って来ていた黄金の宝剣を、そっと鞘から抜いて、ささやいた。
「ミルガレーテ。ゆうべお願いしたことを、やってもらえる?」
 すると、何もない空中に、さらさらと光の砂が流れるような感覚があって、まるで空気から溶け出すかのようにふわりと、波打つ金色の髪をした姫君が姿を現し、地に降り立った。
 柔らかな白いドレスを着たミルガレーテは、小さな声で「おはよう」を言い、迷うような表情で順番に友人たちの顔を見比べたあと、少しの間うつむいて、それから、そっと顔を上げて、黒髪の若者を見つめた。
「ゼラルド、あのね。本当は私、あまり気が進まないの。考えてみて。あなただって、知らないひとには、髪1本、爪ひとかけら、渡したくはないでしょう?」
「・・・なるほど、そうかもしれない」
と、ゼラルドは応じて、姫君の不安そうな視線を受け止めながら、静かに続けた。
「君の言うことは理解できる。だが、多少なりとも医術を心得る者として、ぼくにはあの聖なる生きものの角のひとかけらが必要だ。可能ならば自分で交渉しただろうけれども、それは叶わない。いやな役目を負わせて申し訳ないが、頼まれてくれないか」
 彼なりに、誠意を表そうと努力しているのだと、仲間たちには分かった。もちろん、ミルガレーテにも伝わった。姫君は、いくぶん悲しそうな顔をしたものの、
「・・・わかりました。やってみます」
 そう言って、手のひらを差し出した。ゼラルドは、その手の上に、小さなナイフを乗せた。言うまでもなく、特別な儀式によって清められた小刀なのだった。
 ミルガレーテは、湖の上に足を踏み出し、そのまま、沈むことなく、軽やかに向こう岸へと渡って行った。姫君の素足の触れたところには、小さな水の輪が広がった。
 一角獣は、水の動きで、何者かの訪れを知ったようだった。しかし、首を上げて姫君を見つけた<彼>は、警戒を解いて、姫君の近づくままに任せた。
 姫君が、角の届くほど近くまでやって来ると、一角獣は、藍色の瞳で姫君を見つめた。
≪もしや、貴女は<光り姫>ではないのか。お目にかかれて、光栄だ≫
「こちらこそ、お会いできて嬉しく思います、美しく猛き方」
と、ミルガレーテは微笑んだ。
「でも、どうして、わたくしが<光り姫>だとお分かりになったの」
≪人として生まれながら、聖域にて育まれ、光り輝くばかりの清らな方と、聞き及んでおりましたゆえ。人の身にて水を渡る、かほどに清らな乙女がどれくらいおりましょう≫
 一角獣は、まじめに答えて、目をそらさない。ミルガレーテは言葉に迷いながら、
「・・・わたくし、今日は、お願いがあって参りました」
≪何なりと≫
 一角獣の藍色の瞳を、ミルガレーテは、自らも金色の瞳で真剣に見つめ返した。
「わたくしは、あなたの一族が、光の眷属の中でも特に勇敢な戦い手であることを知っています。その見事な角が、戦においては優れた武器であることも。でも、どうか、ほんのひとかけらだけ。人にとっては霊薬となる、その角を削らせていただけないでしょうか」
≪二言はありません。どうぞ削ればよろしい≫
 一角獣は、首を下げ、ミルガレーテの目の前に角を差し出した。ミルガレーテは、傍らに寄り添って、ナイフを取り出した。
≪先端に近いところを、お好きなだけお持ちください、光り姫≫
「削ったら、痛くはありませんか」
≪ありませんよ≫
 間近で見ると、角には螺旋状の凹凸があった。ミルガレーテは、先端に近い突起部分にナイフを当て、思い切って力をこめた。ガリッと乾いた音がして、ひとかけらが取れた。
≪もっとお持ちなさい、光り姫≫
「えっ・・・、でも」
≪このような機会は、他にありませんから≫
「・・・ありがとう」
 ミルガレーテは、もう一度、刃を当てて、ひとかけらを削り取った。
「これで十分です」
 一角獣は、ゆっくりと頭を上げた。そして、驚いて言った。
≪なぜ、泣いているのですか、光り姫≫
「初めて会う者に、体の一部を削り取られて、あなたの心の痛まぬわけがありませんもの」
 ミルガレーテの両の頬に、涙が流れていた。一角獣は、藍色の瞳を和ませた。
≪話に聞いていたとおりの、心優しいかただ≫
「いいえ・・・」
≪闇を封じるためには光を滅すればよいと、わかっていても、とてもできません≫
「え・・・?」
≪お互い、仲間のもとに戻ることにしましょう。会えて良かった。さようなら、光り姫≫
 一角獣は、向きを変えて森の中へと去って行った。

 ミルガレーテは、対岸から見えないようにして涙をぬぐったあと、来たときと同じように湖を渡った。頼まれたことは終わったのだから、ほかの人間に見つからないように、すみやかに報告して立ち去らねばならない。
 湖のこちら側では、少しずつ明るくなる朝の空の下で、仲間たちが心配そうに彼女を待っていた。ミルガレーテは、声を励まし、笑顔を作って、報告した。
「戻りました。削らせてもらえたわ。ゼラルド、これで足りる?」
「十分だ。こんなに多く・・・」
「優しい一角獣が、削らせてくれたの」
 黒髪の若者は、うなずいて、薄い紙を2片取り出した。それぞれの紙の上に、角の欠片を1つずつ受け取って、包むように紙を折りたたみ、指で押さえて何かを唱えたあと、そっと包みを開くと、欠片だったものは、どちらも、さらさらと滑らかな細かい粉になっていた。
 ゼラルドは、粉が風に吹き飛ばされないように、急いで再び紙を折りたたんでから、
「では、この片方は、聖なる生きものに恩返しをするために使おう」
 ひとりごとのように言って、岸辺にかがむと、片方の紙包みを水面に浮かべた。包みは湖の中央に向かって水面を滑って行き、くるくると回ったあと、沈んで行った。
「あれは?」
と、フルートが尋ねると、
「この湖水がいつまでも清くあるために、人のできることだ」
と、ゼラルドは答えて、立ち上がった。ミルガレーテが曖昧な表情で彼を見つめていると、ちらと視線を返し、かすかに笑った。
「大丈夫だ。術者の死後も、効力は続く。いま生きている人々の、子の代になっても、孫の代になっても、さらにその先も・・・、いつか天のいたずらにより、この湖が干上がったり埋められたりしない限り、この水はいつまでも、聖なる生きものが口にすることのできる、清い水であり続けるだろう」
「ありがとう!」
 ミルガレーテは晴れやかな笑顔になった。そして、胸の前で手を組み合わせ、目を閉じて祈った。
「どうか私たちの感謝が、あの一角獣と仲間たちに届きますように」
「君にも感謝している、ミルガレーテ」
「え?」
 姫君が目を開けると、ゼラルドは、珍しいほど和らいだ眼差しを彼女に向けていた。
「もう片方の包みは、調合して、必ず有効に使わせてもらう。ありがとう」
「いえ、私は別に・・・。私、そろそろ行かなくちゃ」
 ミルガレーテがそわそわするのを、フィリシアが微笑みながら肯定した。
「そうね。そろそろ、人が起きて動き出す時間ね」
 光り姫は、うなずいて、ふわりと空気に溶けるように消えて行った。
 旅の仲間たちは、もう一度、湖を眺めやった。
 対岸に、すでに一角獣の姿はなかったが。
 湖は、祝福を喜ぶかのように、蒼く、蒼く、輝いていた。

(完)

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表紙ができたよ!「竜王の館(前編)」

池田優さんにお願いしていた「竜王の館」(前後編)の表紙を、少し前に納品していただいて、「すごい、すごい、すごい…!」と興奮していたのですが、まずは前編について、やっと電子書籍への切り出しを完了したので、ドキドキしながら表紙にセットしてみました。

じゃーん!
(スマホ以外の携帯からは見えないかも。ごめんなさい)

絵の奥行き感が、「わあっ…!」という感じです。
問答無用で「かっこいい…!」です。
池田さん、どうもありがとうございます!!

もとになっているのは、池田優さんの代表作のひとつ、「花咲く水底」という作品で、オリジナルは明るい絵です。( → こちら の作品一覧から、ご覧になってみてください。)
それを、「竜王の館」のお話にあわせて編集し、色調を変えたり、雨を降らせたり、館まで入れてくださって、お話にぴったりの表紙を作ってくださったのです。感激です!

いつもどおり無料の電子書籍ですので、お楽しみいただければ幸いです。
後編の絵は、後編のお話を切り出して表紙をセットしてから、またご紹介します。
2枚を別々に見ても、並べて見ても、すてきな一対にしてくださったんですよ。
前編を読みながら、のんびりお待ちください。

印刷も、後編を切り出してから、前後編まとめて印刷しようと思っています。お見逃しなく♪

ひとやすみ:ミニイラストの購入と、スマホ壁紙のこと

イラスト展を見に行って、とても素敵だと思った絵(非売品)が、ミニイラストなら手に入ると知って、喜んで買いました。580円(額付き)。
samanthaさんという方の、「王」というイラストです。
先日、ミンネというサイトで買うことができました。
さっき確認したら、在庫が2点あって、いま販売しているのは【再々々々々々々々販】分。
人気のあるイラストなのですね。

ミニミニサイズでも、やっぱり素敵!
写真はちょっとアレですが(ごめんなさい)、伝わるでしょうか。凛として優しい絵ですheart04
samanthaさんは、オゼロという創作世界の絵と物語を描いていらっしゃるのですが、世界観そのものが、凛として優しいです。
ちなみに、この絵はオゼロの全能神ゾウウさんの絵。
オゼロのことが気になる方は→ samanthaさんのホームページ へ。

王

* * *

それから、スマホの壁紙。
彩音ちなさん「RC」という作品が、無料でダウンロードできる壁紙になっていると知って、さっそくダウンロード。
下の写真はちょっとアレですが(ごめんなさい)、本物の画像はずっとずっと綺麗ですshine
画像サイズは、iPhone用もアンドロイド用もあるので、気になる方は要チェック!
CREATORS BANK ホームページ の「クリエイター」ページを「彩音ちな」で検索し、ちなさんのページの「DOWNLOAD」コーナーでダウンロードできます。(会員登録は必要ありません。)
「WORKS」コーナーでは、ちなさんの魅力的な絵の数々を見ることができます。(会員登録は必要ありません。)

RC
* * *

イラスト展などに行くと、ほんとに「これほしい!」という絵は、たいてい非売品なのですけれど、ミニサイズや壁紙などで、身近に置いておけるのは嬉しいな、と思いますhappy01

ひとやすみ:密室迷宮倶楽部2016に行って来たよ♪

何を書いてもネタバレになりそうで、たいしたことは書けないのですが。
昨年行って、とても楽しかった「密室迷宮倶楽部」、今年も行って来ました。
公式サイトは → こちら

場所は、昨年と同じ、東京都千代田区の都市センターホテル。
13時半~20時のイベントです(18時半~20時は夕食)。
貸し切りの階で、架空の密室殺人事件あれこれの資料を、見て、聞いて、推理する!
この事件の犯人は、きっと…。トリックは、あれをこうして…。と、回答用紙を埋めて行きます。
E-Pin企画さんが制作しているので、よく考えられていて、面白い謎ばかりです。

難易度は、ミステリ初心者の人でも、とっかかりはつかめて、いくらか解ける感じ。
ミステリマニアな人には易しすぎるかも。「今回楽勝」と言っている参加者さんがちらほら。
私には、全部解けるか解けないかくらいの、ちょうどいい難易度でした。
メイントリック1個当てられなかった。くやしい。

ドキドキハラハラ大笑いのあと、夕食はビュッフェスタイル。美味しいです。
正解の発表も、この時間。答え合わせできます。
ごはんを食べながら歓談タイム。出演者の皆さんも一緒で、おしゃべりできます。

最後に、お値段のことを。これはね、結構するんだ。
私が行った回は、1万5千円でした。思いきりが必要な金額ですよね。
でも、美味しい夕食が付いて、13時半~20時までみっちり楽しめるので、値段分の価値はありました。
実際、去年も来た人は挙手を、と言われたとき、半分くらいの人が手を挙げていました。それだけ、満足度が高く、リピートしたくなるイベントだということです。
次回も、あれば参加したいです!

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