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一角獣の角(トーナメント参加用)

 身分を隠して、旅の4人は湖畔の町に宿を取った。ここに来るまでの道すがら、美しい湖があるとの噂を聞いていたが、既に日は暮れており、湖面は半月を映しながら黒々と広がっているばかりだ。
 宿の女主人が、食事を用意しながら、おおらかな笑顔で助言してくれた。
「お客さんたちもね、せっかく、こんな辺鄙な場所まで来なすったんだから。明日は早起きして、朝日の昇る頃に湖を見てみるといいよ。景色も綺麗だし、うまくしたら、向こう岸で一角獣が水を飲むところを見られるかもしれないからね」
「一角獣。本当に?」
 名前は知っていても見たことはない獣の名に、セレンが驚いて聞き返すと、女主人は自信たっぷりに大きくうなずいた。
「ああ、そうだよ。天気のいい日は、朝早くに、よく水を飲みに来るんだ。それだけ、この湖が神様と精霊様のお恵みを受けているということだからね、あたしたちはとても誇りに思っているよ。騒いだり近づいたりすると逃げてしまうから、見つけたら、遠くからそっと見守っておくれね」
 しかし、女主人がテーブルを離れると、黒髪の若者が静かに切り出した。
「相談がある。実は、解毒薬の材料を探しているのだが、一角獣の角を砕くと万能の解毒薬になる。手を貸してもらえないだろうか」
 物騒な言葉を聞いて、フルートは、周りに聞こえないように声をひそめた。
「まさか、伝説の聖なる獣を、捕まえろと言うのか?」
 ゼラルドは首を横に振った。
「いや。一角獣は気性が荒いと聞くから、とらえようとすれば向かって来るだろうし、戦えば、誤って殺してしまうかもしれない。ぼくが欲しいのは、ほんのひとかけらの角だ。無益な争いを避けるためには、言い伝えにあるとおり、心身の清らかな乙女が、一角獣に頼んで削らせてもらうのが良いのではないかと思う」
 若者たちの視線は、自然に、この場にいる唯一の乙女であるフィリシアに向けられた。青い髪の姫君は、慌てたように首を振った。
「待って、私は呪いを受けている身だから、清らかとは・・・」
 言いかけて、はたと思いついて、言葉を変えた。
「そうか、宝剣でミルガレーテを呼び出せばいいのね・・・わかったわ。今日のうちに部屋で説明をしておいて、明日の朝、誰にも見つからないようなら、手伝ってもらいましょう」
「ミルガレーテは<心身の清らかな乙女>に間違いないのか? ――ないよな」
 フルートが自分で自分の問いに答えたのは、テーブルの下でセレンに足を蹴られたからだ。
 フィリシアは、にこにこと笑った。
「そうね。明日お天気が良ければ、きっと何もかも上手く行くわよ」
 彼らが部屋に引き上げて、それぞれの窓から夜空を見上げてみれば、星の散らばる中にくっきりと浮かぶ上弦の月が、明日の晴天を約束してくれていた。

 翌朝、朝日の昇るころ、一行は湖のほとりに立った。空は東のほうから明るくなりつつあり、うっすらと一つ二つ浮かぶ雲のふちが、いちはやく陽光を受けて金色に輝いている。
 やがて、湖の向こうの森の上に、朝日が顔を出した。静かな湖面に、陽光と、森の色、空の色、雲の色が、鮮やかに映りこんでいる――。
 最初に気づいたのは、フルートだった。ひそひそと、
「ほら、あそこに」
 指さした対岸で、一頭の、馬に似た生き物が、首を下げて水を飲んでいた。馬とは違う証に、その全身は白く光り輝いており、額からは真っすぐに長い角が生えていた。
 ゼラルドは辺りを見回して、自分たちの他にも物好きな誰かが、この幻想的な光景を見ているのではないかと確認した。が、おそらく地元の人間にとっては珍しい光景ではないのだろうし、旅行客は彼らしかいないようで、他の人影は見当たらなかった。
 フィリシアは、持って来ていた黄金の宝剣を、そっと鞘から抜いて、ささやいた。
「ミルガレーテ。ゆうべお願いしたことを、やってもらえる?」
 すると、何もない空中に、さらさらと光の砂が流れるような感覚があって、まるで空気から溶け出すかのようにふわりと、波打つ金色の髪をした姫君が姿を現し、地に降り立った。
 柔らかな白いドレスを着たミルガレーテは、小さな声で「おはよう」を言い、迷うような表情で順番に友人たちの顔を見比べたあと、少しの間うつむいて、それから、そっと顔を上げて、黒髪の若者を見つめた。
「ゼラルド、あのね。本当は私、あまり気が進まないの。考えてみて。あなただって、知らないひとには、髪1本、爪ひとかけら、渡したくはないでしょう?」
「・・・なるほど、そうかもしれない」
と、ゼラルドは応じて、姫君の不安そうな視線を受け止めながら、静かに続けた。
「君の言うことは理解できる。だが、多少なりとも医術を心得る者として、ぼくにはあの聖なる生きものの角のひとかけらが必要だ。可能ならば自分で交渉しただろうけれども、それは叶わない。いやな役目を負わせて申し訳ないが、頼まれてくれないか」
 彼なりに、誠意を表そうと努力しているのだと、仲間たちには分かった。もちろん、ミルガレーテにも伝わった。姫君は、いくぶん悲しそうな顔をしたものの、
「・・・わかりました。やってみます」
 そう言って、手のひらを差し出した。ゼラルドは、その手の上に、小さなナイフを乗せた。言うまでもなく、特別な儀式によって清められた小刀なのだった。
 ミルガレーテは、湖の上に足を踏み出し、そのまま、沈むことなく、軽やかに向こう岸へと渡って行った。姫君の素足の触れたところには、小さな水の輪が広がった。
 一角獣は、水の動きで、何者かの訪れを知ったようだった。しかし、首を上げて姫君を見つけた<彼>は、警戒を解いて、姫君の近づくままに任せた。
 姫君が、角の届くほど近くまでやって来ると、一角獣は、藍色の瞳で姫君を見つめた。
≪もしや、貴女は<光り姫>ではないのか。お目にかかれて、光栄だ≫
「こちらこそ、お会いできて嬉しく思います、美しく猛き方」
と、ミルガレーテは微笑んだ。
「でも、どうして、わたくしが<光り姫>だとお分かりになったの」
≪人として生まれながら、聖域にて育まれ、光り輝くばかりの清らな方と、聞き及んでおりましたゆえ。人の身にて水を渡る、かほどに清らな乙女がどれくらいおりましょう≫
 一角獣は、まじめに答えて、目をそらさない。ミルガレーテは言葉に迷いながら、
「・・・わたくし、今日は、お願いがあって参りました」
≪何なりと≫
 一角獣の藍色の瞳を、ミルガレーテは、自らも金色の瞳で真剣に見つめ返した。
「わたくしは、あなたの一族が、光の眷属の中でも特に勇敢な戦い手であることを知っています。その見事な角が、戦においては優れた武器であることも。でも、どうか、ほんのひとかけらだけ。人にとっては霊薬となる、その角を削らせていただけないでしょうか」
≪二言はありません。どうぞ削ればよろしい≫
 一角獣は、首を下げ、ミルガレーテの目の前に角を差し出した。ミルガレーテは、傍らに寄り添って、ナイフを取り出した。
≪先端に近いところを、お好きなだけお持ちください、光り姫≫
「削ったら、痛くはありませんか」
≪ありませんよ≫
 間近で見ると、角には螺旋状の凹凸があった。ミルガレーテは、先端に近い突起部分にナイフを当て、思い切って力をこめた。ガリッと乾いた音がして、ひとかけらが取れた。
≪もっとお持ちなさい、光り姫≫
「えっ・・・、でも」
≪このような機会は、他にありませんから≫
「・・・ありがとう」
 ミルガレーテは、もう一度、刃を当てて、ひとかけらを削り取った。
「これで十分です」
 一角獣は、ゆっくりと頭を上げた。そして、驚いて言った。
≪なぜ、泣いているのですか、光り姫≫
「初めて会う者に、体の一部を削り取られて、あなたの心の痛まぬわけがありませんもの」
 ミルガレーテの両の頬に、涙が流れていた。一角獣は、藍色の瞳を和ませた。
≪話に聞いていたとおりの、心優しいかただ≫
「いいえ・・・」
≪闇を封じるためには光を滅すればよいと、わかっていても、とてもできません≫
「え・・・?」
≪お互い、仲間のもとに戻ることにしましょう。会えて良かった。さようなら、光り姫≫
 一角獣は、向きを変えて森の中へと去って行った。

 ミルガレーテは、対岸から見えないようにして涙をぬぐったあと、来たときと同じように湖を渡った。頼まれたことは終わったのだから、ほかの人間に見つからないように、すみやかに報告して立ち去らねばならない。
 湖のこちら側では、少しずつ明るくなる朝の空の下で、仲間たちが心配そうに彼女を待っていた。ミルガレーテは、声を励まし、笑顔を作って、報告した。
「戻りました。削らせてもらえたわ。ゼラルド、これで足りる?」
「十分だ。こんなに多く・・・」
「優しい一角獣が、削らせてくれたの」
 黒髪の若者は、うなずいて、薄い紙を2片取り出した。それぞれの紙の上に、角の欠片を1つずつ受け取って、包むように紙を折りたたみ、指で押さえて何かを唱えたあと、そっと包みを開くと、欠片だったものは、どちらも、さらさらと滑らかな細かい粉になっていた。
 ゼラルドは、粉が風に吹き飛ばされないように、急いで再び紙を折りたたんでから、
「では、この片方は、聖なる生きものに恩返しをするために使おう」
 ひとりごとのように言って、岸辺にかがむと、片方の紙包みを水面に浮かべた。包みは湖の中央に向かって水面を滑って行き、くるくると回ったあと、沈んで行った。
「あれは?」
と、フルートが尋ねると、
「この湖水がいつまでも清くあるために、人のできることだ」
と、ゼラルドは答えて、立ち上がった。ミルガレーテが曖昧な表情で彼を見つめていると、ちらと視線を返し、かすかに笑った。
「大丈夫だ。術者の死後も、効力は続く。いま生きている人々の、子の代になっても、孫の代になっても、さらにその先も・・・、いつか天のいたずらにより、この湖が干上がったり埋められたりしない限り、この水はいつまでも、聖なる生きものが口にすることのできる、清い水であり続けるだろう」
「ありがとう!」
 ミルガレーテは晴れやかな笑顔になった。そして、胸の前で手を組み合わせ、目を閉じて祈った。
「どうか私たちの感謝が、あの一角獣と仲間たちに届きますように」
「君にも感謝している、ミルガレーテ」
「え?」
 姫君が目を開けると、ゼラルドは、珍しいほど和らいだ眼差しを彼女に向けていた。
「もう片方の包みは、調合して、必ず有効に使わせてもらう。ありがとう」
「いえ、私は別に・・・。私、そろそろ行かなくちゃ」
 ミルガレーテがそわそわするのを、フィリシアが微笑みながら肯定した。
「そうね。そろそろ、人が起きて動き出す時間ね」
 光り姫は、うなずいて、ふわりと空気に溶けるように消えて行った。
 旅の仲間たちは、もう一度、湖を眺めやった。
 対岸に、すでに一角獣の姿はなかったが。
 湖は、祝福を喜ぶかのように、蒼く、蒼く、輝いていた。

(完)

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