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ひとこと通信欄

  • (2017/8/13朝)創作活動が進みません~。少しばかり夏休みをいただきます~。

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SF「夜景都市」(未完)

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火の鳥(トーナメント参加用)

 夕闇が降りて来て、街の門が閉ざされようとしているところに、ぎりぎり間に合って、中に入れてもらうことができた。さほど大きな街ではないはずなのだが、やたらと道が入り組んでおり、枝道やら階段やら行き止まりやら、まるで迷路のような所だ。一行は何度も人に道を尋ねながら、ようやく宿にたどり着いた。
 厩に馬をつなぎ、食堂で軽く夕食を済ませ、めいめい部屋に引き上げようかというところで、金髪の王子は一人、
「治安が良さそうだから、少しだけ」
と、宿の主人に酒場の場所を聞き、出かけることにしたようだった。その背に向かって、
「迷子になるなよ」
と、セレンが声をかけると、わかったというふうに片手をあげる。本当にわかっているかどうかは怪しいものだ、とセレンは心の中で思う。
 あとの二人、フィリシアとゼラルドは、腑に落ちない顔をしていた。口を開いたのは姫君のほうで、
「ねえ、セレン。フルートが道に迷うことなんて、あるの?」
「あるよ」
と、セレンは笑った。フィリシアは納得がいかない様子で、
「いつも、何の目印もない野原の中をさえ、少しも迷わずに先導してくれるのに?」
「うん、それは逆だから。つまり、何もなければ迷わず進める。方角を間違えることのない不思議な王子様だからね。でも、この街のように枝道や行き止まりの多い場所だと、いつもの癖で方角を頼りに歩き回っているうち、帰り道が見つからなくなって、迷子になるわけ」
「そうなのね・・・」
 青い髪の姫君は、目をぱちぱちさせて、妙に感心している。黒髪の若者のほうは、聞きたいことを聞き終えて関心を失い、さっさと席を立つところだ。セレンはフィリシアに勧めて、
「君も休んだら、フィリシア。明日の朝は早いよ」
「そうね・・・。では、先に休ませてもらうわね。おやすみなさい、セレン」
「おやすみ」
 セレンは二人を見送って、自分はしばらく居残ることにした。客のまばらな食堂で、なかなかに可愛らしい宿の娘をつかまえて話し込んだりしていたが、二時間ほど経ったところで、軽く溜息をついて話を切り上げ、立ち上がった。
「ほーら、戻って来ない。仕方ないなあ」
「あなたのお友達?」
「そう。ええと、酒場はどこだと言ったっけ?」
 宿の娘は、月色の長い髪をした若者に、酒場への行き方を教えてくれた。込み入っている道順をよくよく頭に刻みつけて、セレンは礼を言い、どこかで道に迷っているだろう友人を連れ戻しに、自分も外に出たのだった。

 教わった酒場に着いてみると、すでにフルート――というか、おしのびゆえルーク――は、立ち去ったあとだった。酒場の主人の話によれば、酒を一杯飲んで、持っている地図を広げて幾つかの質問をし、あとは適当に世間話をして、あっさり引き上げたらしい。
「えらく男前の兄さんだったから、試してやるつもりで一番強い酒を出したんだが、顔色ひとつ変えないで飲み干して行きやがったな。今頃どっかで倒れてなきゃいいが」
 腕組みをして眉根を寄せた主人に、セレンは苦笑して、
「めっぽう強い奴だから、心配いらないよ。情報をありがとう」
 いくばくかの金を払って、外に出た。
 さて、もと来た道を戻るなら左に向かうところだが、ルークなら、無意識のうちに最短距離を取ろうとして、右に向かったことだろう。しばらく行くと――行き止まりか。そうしたら、少し戻って、こちらの脇道に入るだろう――。
 家々の明かりに照らされて、入り組んだ路地は思ったよりも明るい。風情のある散歩、と言えぬこともなく、機嫌よくセレンが歩いて行くと、やがて、細い路地の先で、いかつい用心棒が二人立っている建物に行き当たった。中からワイワイと声が漏れて来る、この雰囲気は・・・おそらく賭博場だ。いかにも「ルーク」がふらっと入って行きそうな、適度に活気があり、適度に怪しげな、こじんまりした賭場。
 セレンは用心棒たちに近づいて、「やあ、こんばんは」と声をかけた。二人の男はじろりとセレンを睨み、片方が無愛想に「何の用だ」と言い、もう片方は低い声で「あんたのような人の来る場所じゃないぜ」と言った。
 ルークと違い、いつも品の良い身なりを崩さないセレンが警戒されるのは想定のうち。気にしない。
「友達を探しているんだ」
と、セレンは穏やかに言った。
「金髪に青い目の、すこし雰囲気の変わった奴が来なかったかな?」
「――入って行ったな」「――まだ中にいるな」
 用心棒たちは認めた。
「わかった。入んな」
「ありがとう」
 セレンは涼しい顔で扉を押し開き、建物の中に入った。

 中は薄暗く、ざわざわと騒がしかったが、何やら重苦しい空気で、殺気立っていた。
 主人らしき男は、酒を出すカウンターにいて、入口に立ったセレンを見て渋い顔をした。
「見かけねえ若旦那だな。こんなところに、何か用かい」
「友達を探している。金髪に青い目の、初見の客が、ここで悪さをしていないか?」
 聞いて、主人の表情が微妙に変わった。視線で奥のテーブルを指し示しながら、
「ほう、それじゃ、あんたは、あそこにいる、あの賭場荒らしの友達だっていうのかい」
 セレンは、賭場の主人の視線を追って、奥のテーブルを見た。
 テーブルの上には山のようにコインが積み上がっており、テーブルの周りには、これまた山のような見物客の人だかりがしていたが、どうやらそこでは、1対1のカード勝負がおこなわれているようだった。テーブルのこちら側で皆に手札を見られているのは、おそらく常連客。奥で壁を背に、ひとり片膝を抱えて手札を伏せているのは、そう、ルークだ。
 カードとコインの山のそばには、空になった酒瓶がゴロゴロと転がっていた。客たちがルークを酔い潰そうとしたのであろう無駄な努力の跡だ。ルークは薄く笑みを浮かべており・・・おや、珍しく、目が据わっている。どれだけ飲んだのやら。
 セレンの視線に気づいて、ルークはちらりと一瞬、入口に視線を投げて寄越した。表情は変わらなかったが、目の前にあるコインの山を、片手でずいと押し出した。
「これで最後にしようぜ、おっさん」
 勝負相手は、手札を見ながら熟考している。見物客たちは口々に喚いた。
「勝ち逃げはさせん!」「また、はったりだろう!」「今度こそ、こっちの勝ちだ!」
「・・・よし!」
 けしかけられた客は、自分も目の前のコインの山を押し出した。ルークがにやりと、
「恨みっこなしだぜ」
「望むところだ」
「せーの!」
 お互いに手札を表に返し、訪れた束の間の静寂・・・ついで、客たちの、失望の溜息。
 ルークは陽気に笑った。
「ははっ、俺の勝ち! おーい、おやっさーん、あがるから両替してくれよ!」
「・・・はいよ」
 賭場の主人はカウンターを出て、奥のテーブルでコインを勘定し、金貨に取り換えた。
 ルークは受け取って、ゆらりと席を立った。ある者は意気消沈し、ある者は物騒に殺気立っている、ごった返す客の中を、するりと抜け出て、カウンターに金貨を1枚置いた。
「自分で頼んだわけじゃないけど、俺の飲みしろ、払ってくぜ」
「ほ、あんがとよ」
「残りはここに置くから」
と、ルークは残りの金貨をカウンターに積んで、
「今夜はみんなで飲んでくれよな。俺のおごりだ」
 今度の沈黙のあとのどよめきは、驚きと歓声だった。賭場の主人は、目を丸くして、
「いいのか?」
「あぶく銭は、ぱあっと使っちゃわないとな! さ、帰ろうぜ、セレン」
 ルークはセレンを促して、外に出た。用心棒たちに、一人ずつ中に入って酒を飲んで来たらどうか、などと言っていると、賭場の主人が戸口から顔を出した。
「お、まだいたな。実はな、あんたたちに持って行ってもらいたいものがある」
 賭場の主人は、ごつい手の中に、丸みをおびた小さな布の包みを持っていた。
「俺たちに? 何だよ?」
 いぶかしげに問うルークの目の前で、布の包みがほどかれて、セレンが首をかしげる。
「卵・・・のような形の、石かな? 見たことのない、炎のような模様だけれど・・・」
 賭場の主人は、うんうんと頷いて、
「実はな、もうすぐ孵りそうな卵なんだ。ときどき動くぞ。ゆきずりの客が、すかんぴんになって、金の代わりに置いて行ったんだがね。うんと珍しい鳥の卵なんだとさ」
「孵すつもりなら、あたためておかないと・・・」
「それがな、何もしなくても、こんなに熱いんだ」
 言われて、ルークとセレンは、まだら模様の卵に触ってみた。
「うわっ。この熱さで、ほんとに生きてるのか?」
「ふつうの生き物の温度ではないね・・・」
「とにかく、持ってってくんねえか。これも縁だって気がするからよ」
 賭場の主人は言葉を重ねた。
「なにしろ、いくら珍しくても、食えもしねえ雛鳥が生まれて来たって、俺も困るしな」
「そんなの、俺たちだって」
 言いかけたルークを、セレンが遮った。
「ゼラルドに渡してみよう。何かわかるかもしれないし、あの冷笑家は鳥が好きだろう?」
「そうだったか?」
 ルークは懐疑的な顔をしたが、
「じゃ、戦利品だと思って、もらっとく」
 布の包みごと受け取った。ふわあ、と、あくびをして言った。
「それじゃセレン、道案内よろしく」

 翌朝――。
 日の出とともに発たないと、次の宿泊地まで行き着けない。と、前日に言っていたのは、ルーク――フルートだったのだが。
 彼を欠いて3人で朝食のテーブルを囲みながら、セレンが、
「おそらく今日は出発できないから、各自、自由行動にしよう」
と言った。不思議そうな顔をするフィリシアに、にっこり笑って、
「王子殿下は二日酔いだよ」
と教えると、フィリシアは目をぱちぱちさせて、
「えっ。そんなことって・・・あるの?」
「うん、たまにね。負けん気が強いのも、良し悪しだよね」
「酒場で飲み比べでもしたの?」
「んー、まあ、そんなところじゃない?」
 セレンは適当にはぐらかした。フルートの奇妙な「戦利品」のことも黙っていた。まだあの卵はフルートが持っているし、彼があとから自分で話せばいいことだ。
 そんなわけで、良く晴れた空のもと、宿屋を拠点にして自由に街を散策した旅人たちが、1日歩き回ってみて改めて分かったのは、この街はやっぱり迷路のような造りになっているということと、それはどうやら歴史的に、外敵を防ぐため必要だったかららしい、ということだった。
 街の人々の話によると、今でも年に数回は、盗賊団などが様子を窺いに、近くまでやって来るのだという。街の四方にある門には、閉門のあと、必ず交代で不寝番が詰めており、夜通し大きな明かりを焚いているのだが、ごくまれに真夜中頃、街からそう離れていないところを、松明を掲げた一団が通り過ぎて行くのだそうだ。
「隙を見せたら襲って来るのだろうが、このとおり攻めにくい場所だって、向こうさんも知っているのさ」
と、夕食のとき、宿屋の主人が話してくれた。
「いざ敵が来たら、どこに誘い込んで捕まえればいいか、街のみんなもわかってるしな。そのうえで、腕利きの若い衆が四方の門に詰めていれば、そこらの盗賊団は黙って通り過ぎていくよりほか、ねえわけよ」
 食事をしているうちに、やっとフルートが2階から降りて来た。体調はすっかり戻ったらしく、適当に料理を注文して席につき、
「今日はすまない。明日は出られるから、朝一番で発とう」
 いつもどおり直截に言うところが彼らしい。それから、フルートは小さな布の包みをゼラルドの前に置いた。
「珍しい鳥の卵だそうだ。生きものとは思えない熱だが、あとで調べてくれないか」
 黒髪の若者は、無言で布を開き、赤と橙の斑模様をした卵を見た。隣にいるフィリシアと順番に卵に触れると、卵は、もぞ、と動いた。ゼラルドはうなずき、卵をしまい込んだ。
 食事を終えて、そろそろ部屋に引き揚げようかという頃、どこかで鐘が鳴り始めた。
 カン、カン、カン、カン、カン・・・。
 音色を聞けば、警鐘であることは明白だった。宿の主人のおもてが引き締まった。
「なんてこった。何年かぶりの警鐘だ。お客さん方は、部屋に入っていてくんな。大丈夫、ここは街の中で一番たどり着きにくい場所にある建物だからな」
 どうりで道に迷うはずだ、と言いたげな顔をしたフルートは、口に出しては、
「セレンはフィリシアと一緒に待機。ゼラルドは、ぼくと一緒に支援に行こう」
と言った。なぜ、その割り振りになったかは、次の言葉でわかった。
「いま鳴っている鐘は西から聞こえる。ぼくたちが来たのも西の門。それなら、ぼくが方角を正しく示せば、ゼラルド、君は一瞬で跳べるだろう?」
 言いながら、フルートは手で西を示した。ゼラルドはうなずいて、フルートの腕をつかみ、次の瞬間、宿の者たちの目を盗んで、二人の姿は消えていた。

 ――西門にて。
 門の内側に、自警団と思しき者たちが集まり始めているため、出現地点を決めかねたゼラルドは、いったん、門の外、ぎりぎり明かりの届かない暗がりの中に着地した。
「どこか適当な場所で、壁を抜けて中に入れば良いだろうか」
「その前に、外の様子を確かめておこう」
と、フルート。
 門のほうからは、人々が大声に話す声が、切れ切れに聞こえて来る――「どこの盗賊団だ」「数が多い」「まだ増えるのか」・・・。
 その人々が見ているだろう方向へと首をめぐらし、
「あれか」
と、フルートがつぶやく。街から少し離れたところに、30個ほどの炎が整然と並んで揺れており、その後ろから、続々と新しい炎が合流している。
 フルートは、炎の群れをしばらく眺めてから、
「おかしいと思わないか、ゼラルド」
と言った。ゼラルドが戸惑っていると、
「手前の炎の形は整っているのに、後ろから合流して来る炎は・・・」
 言いさして、言葉を区切り、
「行ってみよう」
と言った。
「街の人々は、打って出るよりも守るほうが易いと判断するだろう。その間に、ぼくたちが行って、話をつけてしまえばいい」
「話をつける?」
「通じなければ、戦うまでだ」
 フルートはもう、炎の群れに向かって足早に歩き出している。ゼラルドは黙って、あとに従った。

 近づくにつれて、ゼラルドにも、その炎が松明などではないということが、はっきりと分かって来た。
 まず気づいたのは、炎が人の肩の位置でなく、地べたに並んでいるということだった。大きく背の高い、赤い炎だ。
 次に気づいたのは、炎の近くには何の人影も照らし出されていないということだった。炎はそれぞれ、自立して勢いよく燃え上がっている。
 そして、彼方から次々に現れる新しい炎は、まるで広げた羽をたたむようにして地に降り立っていた。近くまで来て、よくよく目を凝らせば、燃え盛っている炎のひとつひとつは、みな本当に、羽をたたんだ鳥の形をしていた――炎をまとう、伝説の鳥。
 そう、それは、何十羽、何百羽という、「火の鳥」の群れだった。
 舞い降りる炎、炎、炎…。
 フルートとゼラルドが近づくと、鳥たちはバサバサと二つに分かれ、道を開けた。
 進んで行くと、鳥たちの真ん中に、ひときわ大きな鳥が赤々と燃え盛っており、若者たちを威嚇するかのように、大きな炎の翼を広げた。二人は立ち止まった。
 広げた翼をたたんで、大鳥は赤い目で二人を見つめ、太い嘴を開いた。
≪・・・ヒトノ子ヨ≫
「話せるのか」
と、フルートが、やや驚いた声で応じる。
≪少シ。昔ハ、ヒトト共ニ、暮ラシタコトモ、アッタ≫
「そうか」
≪我ラハ、我ラノ、子ヲ探シテイル。コノ近クニ、イルト感ジル≫
「それは卵か」
≪ソウダ。コノ近クニ、落チテシマッタ。生マレレバ探シヤスイガ、手遅レニナル≫
「手遅れとは?」
≪雛鳥ハ、弱キモノ。ヒトノ穢レニ触レルト、炎ガ消エル・・・生キラレナイ・・・≫
 フルートはゼラルドに目配せし、ゼラルドは小さくうなずいて、布の包みを取り出した。包みをほどいて、くるみこまれていた赤い卵を取り出し、そっと地面に置いた。
≪オオ・・・。ヌシラ、ナゼ、卵ヲ持ッテイル・・・≫
 大鳥は燃える両羽根を開き、卵の上にかぶせた。しばらく無言だったが、やがて、
≪コレハ・・・ヒトノ穢レニ触レタ・・・≫
と言った。周りの鳥が一斉に強く燃え上がった――彼らも人語を解するのだ。
 だが、大鳥はゆっくりと続けた。
≪穢レニ触レタガ・・・清メラレタ・・・。ヌシラガ、守ッテ、クレタノカ≫
「そうだ」
と、フルートは言い切った。大鳥は、両羽根で卵をそっと撫でた。
≪感謝スル。・・・雛ヨ、生マレ来ヨ≫
 卵は、もぞ、と動いた。さらに、もぞもぞ、と動いたあと、卵の殻にひびが入り・・・内側から殻を破って、幼鳥が現れた。小さく、べったりと炎に濡れ、燃え上がっている。
≪雛ハ、スグ、飛ベルヨウニナル≫
と、大鳥は言った。
≪ヌシラニハ、感謝ノ印ニ、コレヲ≫
 大鳥は首を曲げて、自らの羽を一本引き抜き、地面に置いた。羽はしばらく燃えたあと、炎を失い、何の変哲もない羽になった。朱色に見えるのは、周りの炎のせいか。
≪コレヲ持ツ者ハ、ドンナ寒サノ中デモ、決シテ凍エナイ≫
「ありがとう」
 フルートは羽を拾い上げた。その目の前で、雛鳥は体を伸ばし、翼を広げ始めた。
 雛鳥が首を伸ばした先に、大鳥が自らの翼を差し出すと、雛は何度か、炎をついばむような動作をした。雛鳥の、ぺたりと寝ていた羽毛がふんわり立って、体の割に大きな翼がパタパタと動き始める。確かに、生まれてすぐに飛べるようだった。不思議な鳥だ。
 大鳥が言った。
≪人ノ子ヨ、アリガトウ。コレヨリ先ハ、我ラガ、雛ヲ守ル≫
 まるでそれが合図だったように、周りの鳥たちが飛び立ち始めた。大鳥も翼を広げた。フルートとゼラルドは、数歩、後ろに下がった。
 大鳥は飛び立った。雛鳥も飛び立った。頼りない小さな姿を、別の鳥たちが取り囲んだ。
「この羽は、君が持てばいい」
 フルートは、大鳥から受け取った羽をゼラルドに差し出した。
「卵の穢れとやらを清めたのは、君なのだろう、ゼラルド。それに、君は寒さに弱い」
「穢れと呼ばれる者にこそ、御守りが必要だろう。ぼくはいい」
 静かに告げられたその言葉に、フルートは、はっとした。
「穢れとは、まさか」
「おそらく、そうだ。どれほど明るく優しい姫君でも、死の呪いをかけられていることに変わりはない。その理不尽な呪いを解くためにこそ、ぼくたちはこの旅を続けている」
 二人は、その場に立ったまま、すべての鳥が夜空へと飛び立つのを見送った。
「この光景を、フィリシアとセレンにも、見せてやりたかったな」
 フルートが言った。ゼラルドは無言で、フルートの腕に軽く触れ、宿へと空間を跳んだ。

 二人の帰りを待っていたフィリシアとセレンに、フルートは一部始終をかいつまんで語り聞かせた――穢れに関することのみ伏せた。
「フィリシア。これは君に」
 フルートが朱色の羽を渡そうとすると、フィリシアは笑って、
「私はクルシュタインの出身よ。寒さには強いわ。ゼラルドに渡したほうが」
「ぼくなら、違う羽の御守りを、もう持っているから」
 黒髪の若者は、赤い羽を取り出して見せた。言葉少なに、以前飼っていた鳥の羽だと言った。なるほど、たしかにゼラルドは鳥が好きらしい、とフルートは思ったが、黙っていた。フィリシアは朱色の羽を受け取った。
 そして翌朝、日の出とともに、旅人たちは、この迷路のような街の東門に立っていた。
 開門と同時に、馬を連れて街道に出れば、行く手ではぐんぐんと日が昇ってゆく。
「あっ、あれを見て!」
 馬に乗ろうとしていたフィリシアが、急に東の空を指した。
「あの雲の形!」
 指し示された空では、ちぎれた雲が重なり合い、朝日に照らされ、まるで、光り輝く大きな鳥が、翼を広げて飛んでいるように見えた。ほんのひとときの、空のいたずら。
「今日は、いいことがあるかも」
 嬉しそうにフィリシアが言う。
「ああ」「そうだね」
と、フルートとセレンが応じた。
 そうして、一行は出発する。
 解呪の聖泉は、まだ遠い。

(完)

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第17回 自作小説ブログトーナメントに参加しています。

約7,940字。コメントはお気軽に♪

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コメント

第17回 自作小説 トーナメント
ちょっとヒヤヒヤしましたが、
おかげ様で、なんとか今回も開催できます。
ご参加ありがとうございました。
参加者が増える事を祈りつつ、
続けられる限り、続けてゆきたいと思います。

みんもっこすさん、こんにちは。
前回は初めて、出品者数<投票者数になりましたね!

1か月に1回は、けっこうハイペースでハードル高いと思いつつ、
わかりやすいのは毎月開催だとも思います。
いずれにせよ、参加者が増えるように、できることをしたいです。

「小説家になろう」や「カクヨム」に投稿しているひとたちの中にも、
少しはブログ村の住民がいらっしゃるでしょうから、
「我こそは」と思う方に情報が届いてほしいですけど、難しいですね…。

こんにちは♪

街は迷路のよう。盗賊団からの被害を防ぐため。
街に迫ってくる炎の群れに
不穏を感ぜずには、いられない。
場面は変化するが、炎に対する不穏は冷めることなく瞬時に引き継がれ、
読み手は準備の無いまま、フルートとゼラルドと共に火の鳥の群れに対峙することになる。
そして、不穏は荘厳に昇華する。

今回もさすがだと思いました。
迷路に迷うシーンを先に見せているから、
書き手の視点から見ると、盗賊団に辿り着こうと迷っているうちに読み手の中にある不穏が薄れてしまうのではないかと思わせるのですが、そこはゼラルドの能力が巧く効いている、と感じました♪

小奈鳩ユウさん、
コメントありがとうございます♪

楽しんでいただけたようで良かったです。
私が書くものは、「私が楽しい」ことを第一の目的として生まれるのですが、ほかのひとも楽しんでくださるのは、やはりとても嬉しいです。

「火の鳥」というタイトルを見た時点で、読者は心の準備が完了してしまうのではないか、つまり、街で迷っているうちに読み手が脱落してしまうのではないか、というような心配は確かにあったので、ご感想を拝見して、それでもなんとか最後までお話をつなげられているのかな、と安心することができました。いえ、読み手にもよるのでしょうけれど…。

「書くひとも読むひとも楽しい」ように、これからも精進しようと思います。
貴重なご感想をありがとうございました!

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