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ひとこと通信欄

  • (2017/6/26夜) 「火の鳥」は、早割を使って、のんびりと印刷をお願いしたので、出来上がりは7/15頃です。オフセット印刷です。綺麗に刷れるといいな~。

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2016年6月

星降る夜に(01)

 フルートとゼラルドが先行して道を調べに行き、戻って来ないまま夕日が沈んでしまったある日、セレンとフィリシアは二人きり、田舎の小さな宿に泊まることになった。宿を営んでいるのは年配の夫婦で、元は息子たちが暮らしていたという離れを、宿泊所として提供しているのだった。その息子たちは街に稼ぎに出てしまい、年に一度帰って来るだけなのだと言う。
 セレンもフィリシアも、戻らない二人のことは心配しなかった。予期せぬことのひとつやふたつ起こったところで、あの王子たちは自分の身は自分で守る。かくして、穏やかに夜は訪れて、鍵のない離れの小屋で、フィリシアを屋根裏に上げておやすみを言ったセレンが、窓際の机にランプを置き、少しだけ書き物をしていると、
「ねえ、セレン?」
と、背中に呼びかけられた。
「ん? どうかした?」
 振り返ると、青い髪の姫君が、さっき上がったばかりの屋根裏から、階段を下りて来るところだ。
「あのね、セレン、私たち、すこし出かけて来てもいいかしら」
「私たちって・・・」
「レッティと私」
「えっ、ミルガレーテが――」
 来ているのか、と聞こうとしたが、問うまでもなく、フィリシアに続いて階段を下りて来たのは、輝くばかりの金の髪、雪のように白いほおの、妖精を統べる<光り姫>。
 ふたりの美姫は、並んで床に降り立ち、おとなしくセレンの許しを待っていた。なんとなく、ふたりの寵姫を待たせているような、我ながらけしからぬ錯覚を覚えながら、
「もう夜だから、あぶないですよ、お姫様方」
 セレンがたしなめると、フィリシアが申し訳なさそうに、
「でも、星を見たいの。夜でなければ見られないわ」
と言う。ミルガレーテも、うなずいて、おずおずと、
「この近くに、妖精たちの集う場所があるの。危険な場所ではありません。たぶん今夜あたり、それはそれは綺麗に、星が見えると思うの」
 言いながら、そっと胸の前で手を組み合わせている。
「・・・<光り姫>より綺麗な星など、ありはしませんよ」
 セレンは、半分本気で呟いてしまってから、急いで言葉を継いで、ごまかした。
「どうしても出かけるなら、騎士も一緒にお連れくださいませんか、お姫様方」
 ふたりの姫君は、顔を見合わせ、目で相談して、うなずき合った。それぞれ笑顔で、
「それでは騎士様もおいでください」「よろしくお願いしますね、セレン」
 口々に言われて、つい、両手に花、という言葉を思い浮かべながら、セレンは「喜んで」と応じて、月色の長い髪をひとつに束ね、姫君たちの夜の散策に同行したのだった。

予告:「星降る夜に」

先日お話したとおり、セレンとフィリシアとミルガレーテ、という、たぶん初めての組み合わせで。
短い、やさしい、きらきらしたお話を、と思いながら書いていますが、できあがりはどうなることやら…。
(セレンがお姫様ふたりを口説き始めちゃったらどうしよう…。)
全2回か3回です。よろしくお願いいたします。

進捗状況報告(2016/6/25)

次のお話は、何かこう、うんと短い、ふわっとした、きらきらしたお話が書きたいです。
「幻術の塔」ではあまり出番のなかったセレンと、あと、フィリシアとミルガレーテをつけて、この3人の組み合わせで、どうかしら。
タイトル・・・。「星降る夜に」とか、どうかしら・・・。

なんて、考えているところです。
次の更新で予告が出せるといいな。
もう少し、お待ちくださいね。

お知らせ:ひとこと通信欄

すでにお気づきの方もいらっしゃるかと思うのですが、サイドバーの上のほうに「ひとこと通信欄」を作ってみました。
(スマホ版をご覧の方には、サイドバーは見えないと思います。PC版に切り替えると、見ることができます。)
お話を連載している途中で更新が止まってしまったようなとき、一言、近況をお知らせできたらいいな、と思って、試してみることにしたコーナーです。
「あれ、最近どうしたのかな?」と思うようなときには、ちらっと見てみてください。何か状況が書いてあると思います…たぶん。
ふつうに記事を更新できているときは、不定期に適当なことをつぶやくつもりです。

それから、話は変わりますが、
本日(2016/6/22)午前中は、電子書籍サイトのメンテナンスがあって、電子書籍情報が表示されなかったようです。
アクセスするタイミングによって、「竜王の館」の表紙絵が見られなかった方がいらしたら、お手数ですがもう一度前の記事に戻って、ぜひぜひご覧になってください。
冊子のお取り寄せをなさらない方も、表紙絵のご感想があったらお聞かせくださいね♪

どうぞよろしくお願いいたしますconfidentheart04

表紙ができたよ印刷するよ!「竜王の館(後編)」

「竜王の館(後編)」を、やっとこさ電子書籍に切り出しました。
いつもより長いお話だったので、ちょっと疲れたー。
でもこれで、やっと前編と後編を並べてお披露目できますhappy01

池田優さんが前後編セットで描いてくださった表紙が、もう本当に素晴らしいです…!
池田さん、いつもありがとうございます…!

そしてそして、前後編まとめて印刷して配布することを決意しております。
もっかい中身を見直してから印刷に出そうと思うので、出来上がりは7月中旬くらいになるかな?
お取り寄せ方法はいつものとおりです。初めて申し込まれる方は こちら をご参照ください。
前後編まとめて送っても、送料は変わらず180円なので、今回お得です。
ただ、「竜王の館」は好き嫌いが分かれるお話かもしれないので(今のところ作者が心配しているほど「きらい」という声はありませんが一応)、事前に電子書籍を覗いてみて、本当に欲しいかどうかチェックすることをお勧めしておきます。

刷りあがったら、またお知らせしますね。
「とりあえず取り置いて」という方は、いつでもお気軽にコメントでお知らせくださいwink

ひとやすみ:ハンコの話 & トーナメント結果:「火の鳥」

鳥好きな人のためのハンコ「とりずかん」というのを見つけました。
文鳥やインコやペンギンなどのデザインから1種類選んで、入れたい名前を指定して注文するというもの。個人的に、あひるがいないのが少し残念です。
そして、もちろん「いぬずかん」「ねこずかん」もあるし、うさぎ好きな人のためには「うさぎずかん」があるんだよ!
気になったひとは、「とりずかん ハンコ」などでネット検索してみてください。かわいいです♪

6月のブログ村自作小説トーナメントに出していた「火の鳥」は、準優勝をいただきました。好きなお話なので嬉しいconfidentshine
トーナメント用に1つの記事にまとめたぶん、読みやすくなっているはずなので、未読の方がいらしたら、こちらからどうぞ→ 「火の鳥(トーナメント用)」。
フルート、フィリシア、セレン、ゼラルドの4人がそろっているお話(フルートがメイン)です。

次のお話、どんなのを書こうかなあ。
まだまだ考え中です~。

作者より:「幻術の塔」

ルークはふだん鍛えているとはいえ、慣れないフリークライミングはそれなりに堪えたのではないでしょうか。涼しい顔してるけど、腕しびれてるかも?
いえ、スポーツ万能の彼のことなので、日頃からクライミングもたしなんでいる、という可能性もあります。けろっとしてるかもしれません。そのあたりは、お好みで。

ルークが途中で落ちたらゼラルドがサポートしてくれるだろうと、セレンあたりは思っていそうですが、本当に落ちたらどのくらいサポートしてもらえたかは謎です。
ゼラルドはルークについて、多少のケガは良い薬、なんて思っていそうな気がします。フィアの救出には協力するだろうと思いますが。

次の更新ではブログ村トーナメント結果のご報告(「火の鳥」出品中です)、その次の更新では「竜王の館(後編)」の電子書籍リリースを予定しています。
「竜王の館」は、前後編まとめて印刷に出す覚悟を決めております。取り寄せ予定の方は、お楽しみに!

幻術の塔(05)

 それとも、魔法使い自身を狙うべきだろうか? いや、ゼラルドは言っていた、「まやかしの鍵となる道具がある」と。フィアは宝珠を的とした。きりきりと弓をひきしぼって解き放つと、飛び出した光の矢は、狙いあやまたずに宝珠を砕いた。
 宝珠の破片は四方に飛び散った。同時に、ごふっ、と魔法使いがむせた。黄色い目をぎらつかせて、うめくように、
「きさま、何を・・・、どうして武器を・・・」
 言いながら、その目が急速に光を失ってゆく。宝珠は魔法使いの命の源でもあったのだ。人の形をとっていた輪郭が、どんどんぼやけて、黒い靄になっていく。
 靄はそのまま、薄く広がり、やがて散ってしまった。同時に、足下の感覚が砂を踏むように頼りなくなった。塔が消えようとしているのだ。
 フィアは、急いで駆け降りようと踵を返したが、そこで言葉を失った。上って来た階段は、跡形もなかった。どれだけ見回しても、ただの床しかない。
「どうして!」
 何か仕掛けがあるのだろうか。揺れる塔の最上階で、フィアは膝をついて床を調べたが、何もなかった。降りられない!
 おそるおそる屋上の端まで行って塔の下を覗いてみれば、地上は遠くて、めまいがする。後ずさりしたとき、背後で物音がして、ぎょっとして振り向いた。
 驚いたことに、反対側の端で、ルークが体を引き上げていた。でこぼこした外壁を、ここまで登って来たのだ。
「ルーク! どうしてここに」
 ルークは、登り切って立ち上がり、笑った。
「来るまでもなかったか」
「私たち、降りられないわ!」
「手」
 ルークが差し伸べた手に、フィアは戸惑いながら自分の手を預けた。ルークはうなずいた。
「飛び降りるぞ。いち、にの」
「ええっ」
 見下ろせば、地上はやっぱり遠い、だがルークはおかまいなしだ。
「さん!」
 フィアは、ルークの手をぎゅっと握りしめて、覚悟を決め、一緒に飛び降りた。
 落ちる――。怖かったが、目をひらいていた。ルークの声が聞こえた。
「塔の外だ」
 地上に激突する寸前、ふわりと体が浮き上がって、フィアも理解した。そうか、塔の外に出たから、ゼラルドの力が届いて、支援してもらえたのだ。
 地面に降り立って振り返ると、まがまがしい黒い塔はぼんやりと透き通っており、すぐに跡形もなく消え失せてしまった。間一髪。全身の力が抜けるような気持ちがしたが、つないだ手の心強さのおかげで、なんとか立ったままでいられた。
 歩み寄って来たゼラルドは、いくらか眉をひそめていて、ルークに向かい、
「ぼくがいなかったら・・・」
と、言いかける。そんな彼に、フィアは「ありがとう」を言い、ルークのほうは、
「そのときはロープを使って、なんとかしたさ」
と、笑った。ゼラルドは軽くため息をついて、あとは何も言わない。
 少し離れたところで、セレンが馬たちの番をしてくれていた。スウも一緒にいて、出発する一行に向かって頭を下げた。
「ありがとうございました。もう少し皆さんがここにいてくれたら、きっと、町のみんなもすぐに来て、お礼を言いたがるだろうと思うんだけど・・・」
「ありがとう、でも行きます。元気でね」
「そう・・・、皆さんも、お元気で」
 旅人たちは馬に乗って出発した。フィアは時々振り返って、見送るスウに手を振った。
 まだ昼前なのだった。日暮れまでには、次の街に着けるだろう。

(完)

幻術の塔(04)

 塔の中は、薄暗く、じめじめしていて、嫌な感じだった。青い髪の乙女は、ともかく塔のてっぺんを目指して、螺旋階段を上った。
 スウの話してくれた「鐘」は、どうやって壊したらいいだろう。手が届くようなら、塔の外へ投げ捨てれば、壊れてくれるかもしれない。でも、手が届かなかったら?
 武器になるものを持っていては塔に入れないと聞いていたから、どうせ持ち込むことはできなかったに違いないのだが、それでもフィアは呟かずにいられなかった。
「弓があればいいのに・・・」
 声は壁に響いて、こだました。
(弓があればいいのに)(あればいいのに)(いいのに・・・)
 しかし、こだまの響きは、続けてこう言った。
(なるわ)(弓になるわ)(私たち、弓になるわ)
 フィアが驚いて足を止めると、目の前に、ポウッと白く光る弓が、ゆっくり落ちて来る。その弓につがえるべき矢も。
(矢は1本)(チャンスは1度)(無駄にしないで)
 フィアは、両手を差し伸べて、光る弓矢を受け取った。過去のいけにえの魂が塔にさまよい続けており、自分を助けてくれようとしているのだと、おぼろげに理解した。
「ありがとう」
 輝く弓矢を手にすると、勇気が出た。青い髪の乙女は、さらに階段を上った。
 ずいぶん長く、休み休み上ったあとで、ようやく塔のてっぺんに着いた。屋根も壁もない、吹きさらしの屋上だ。釣り鐘があることを期待していたフィアは、きょろきょろと辺りを見回したが、それらしきものはない。
 はるか頭上で、しわがれた老人の声がした。
「ひっ、ひっ、ひっ。よく来たねえ」
 はっとしてフィアが見上げると、空中に黒っぽい靄がうごめいており、見ているうちに人の形をとって、ひげの長い老人の姿になった。老人は宙に浮かんだまま、黄色くにごった目で、高みからフィアを見下ろした。右手に青銅の鐘、左手に赤く光る珠を抱えていた。
「ひっ、ひっ、ひっ。この鐘を鳴らせば、三つ首の獣が現れ出でて、おまえさんの腕と言わず足と言わず、食いちぎってくれる。その流れ出た血を宝珠に吸わせて、わしの命はまた1年延びるというわけじゃ」
 では、鐘を鳴らすのは、いけにえではなく魔法使いなのか。身震いしながら、フィアは素早く弓をかまえた。魔法使いは、あまり目が良くないようで、頓着する様子はない。青銅の鐘を狙いかけて、フィアは、はっと気づいた。鐘が魔獣の呼び出し用なら、塔の魔法の源は、いけにえの血を吸うという、不気味な赤い宝珠のほうだ。

終わりませんでした。あと一回。

幻術の塔(03)

 町はずれにある塔は、塔が見える者の目に映るところでは、でこぼこした黒っぽい岩で組みあがっており、外壁のところどころに、煤のように見える不思議な植物がからまっていた。その植物がもやもやと茂って揺れているせいで、まるで塔のあちこちから黒い瘴気が立ち上っているように見えるのだった。
 塔の周りには、人が誤って近づかぬよう、ぐるりと柵がめぐらしてあった。柵につけられた扉には、大きな鉄の錠がしっかりと嵌まっていたが、スウが錠前に鍵を挿してガチャガチャやっているところへ、フィアが追いついた。フィアは、スウの手を押さえて、息を切らせながら、必死に止めた。
「待って! 中に入っては、だめ!」
「放して! ・・・あなた、誰? ・・・ゆうべ、うちに泊まったお客さん?」
 スウは、こちらも息を切らせながら抗ったが、相手に気づくと動きをゆるめ、けげんそうな顔をした。
「どうして止めるの? お客さんには関係のないことでしょう」
「・・・人がいないのは、どうして?」
 フィアは、このぶんならスウを止められるのではないかと、加勢を求めて辺りを見回したが、誰もいなかったので、思わず尋ねた。スウは、素直に答えた。
「儀式はできるだけ遅い時間にしようって、みんなで決めたからよ。今年いけにえに選ばれたベリンダの家は、町の向こう側。今頃、町の人たちはベリンダの家に集まって嘆いているわ。だから、今のうちに私が塔に入ってしまえばいいの。塔の入口は、女ひとりなら誰をでも呑み込んでしまうんだから。塔の鐘が鳴れば、みんなも気づく。今年のいけにえは、もう済んだんだって」
「鐘・・・」
「いけにえは、塔のてっぺんまで登って、鐘を鳴らすのよ。そのあと何が起こるのかは、誰も知らない。でも、誰も行かなければ、恐ろしいことが起こる」
 塔のてっぺんにある、鐘。もしかしたら、その鐘こそが、塔を生み出す魔法の中心かもしれない。そう思いつつ、フィアはさらに尋ねる。
「恐ろしいことって、どんなこと?」
「塔から、三つ首の巨大な獣が何頭も出てきて、町を襲うの。十年ほど前に、実際にあったことよ。あたしは子供だったけど、戸を閉め切った家の中にいても、町をうろつく魔獣の唸り声がずっと聞こえていたわ・・・」
「ねえ、聞いて」
 フィアは、スウの手をぎゅっと握った。スウが目を上げる。その視線をしっかりと見つめ返して、
「この塔は、壊すことができるの。塔のてっぺんに、何かあるはずなの。その鐘かもしれないし、近くにある何か別のものかもしれない、それを壊せば、塔も消えるの」
「・・・どうして、そんなことがわかるの」
 スウは、驚いたように目を見開いて尋ねる。
「わかるひとに教えてもらったのよ。ただ・・・」
 フィアが言い淀むのを、スウは不思議そうに眺めて、それから気がついて、言った。
「塔が消えたら、自分は落ちるわね。あの高さから」
 スウが塔を見上げる。落ちれば助からない。フィアも、共に見上げる。
「わからない。降りてくる時間があるかもしれない」
「そうなのね・・・わかったわ。そしたら、手を放してくれる? あたし、行くわ。あなたのことも信じる。もし助からなくても、恨んだりしない」
「・・・」
 フィアは、ゆっくりとスウの手を放した。スウは、鍵を回して錠前を開けた。ふたりは柵の中に入って、塔の入口の前に立った。スウは、青ざめた顔で笑った。
「ここまででいいわ。この入口は、女ひとりにしか開いてくれないの。あなたはもう、引き返して」
 フィアは、きゅっと唇をかんだ。それから、
「ごめんなさい」
と言って、スウを突き飛ばした。スウが地面に転がると、フィアの前で、塔の入口が開いた。
「私が行きます」
と告げて、フィアは塔に入った。追いすがろうとするスウの目の前で、入口は閉ざされた。

あと1回かな。

幻術の塔(02)

「えっ」
と言ったのはセレンで、
「それはつまり、塔が見える者と見えない者がいるということ?」
「この町に住む者には全員に見えるだろう」
と、ゼラルド。ルークも尋ねて、
「塔など無いと信じさせれば、因習から解放できるのか?」
「通りすがりの旅人が何を言っても無駄なことだ」
 返答はそっけない。最後に青い髪の乙女が、
「では、どうすれば、まやかしは消えるの?」
と尋ねると、黒髪の若者は淡々と、
「まやかしの鍵となる道具があるはずだ。おそらく、塔の」
「てっぺんに?」
 フィアが言ってみると、ゼラルドは、黒い瞳にいくらか興味の色を浮かべた。
「そう、てっぺんに。勘が良いね」
「以前、似たようなことがあったから。そのときは、塔を登り切ったところに本がひらいてあって、それを閉じたら、塔が崩れて・・・」
「ありそうな話だ」
「ねえ、ゼラルド。あなたなら」
 フィアは、控えめに、だが期待を込めて、尋ねた。
「もしかして・・・もしかして・・・そのまやかしの鍵となるものを、外から壊すこともできるのではないの?」
「残念だが、否だ」
 ゼラルドは、あっさり答えた。補うように言葉を足した。
「この町の塔は、魔法の産物だ。魔法は、聖者のことわりとは異なる法則で動く。塔の内側に対して、ぼくは何の手出しをすることもできない」
「そうなの・・・」
 青い髪の乙女は、悲しそうな顔をした。一行は、しばしの間、どのようにしたら塔の呪縛を解くことができるかについて考えたが、良い案は思い浮かばなかった。
 翌朝。旅のしたくをして宿から出た旅人たちは、町はずれのほうを見て、めいめいが、思い思いのことを口にすることになった。
「あの塔が、まやかし? 本当に?」と、疑い深い口調でセレンが言って、
「まがまがしい塔・・・」と、フィアが身震いする。
「ぼくには見えない」と、ゼラルドが静かに言い、
「ぼくにも見えない。あると信じれば見えるのか? ・・・ああ、見えた。なるほど」と、ルークが独り言のように言う。
 ゼラルドが、驚いたようにルークを振り返った。
「見たり見なかったりを切り替えられるのか」
「ああ。そういうものなのだろう?」
「いや、違う。・・・君らしい」
「みんな、見て! 向こうに走っていくのは、スウじゃない?」
と、フィアが言った。ゆうべ見かけた、スウと呼ばれていた娘の、決然とした後ろ姿が遠ざかっていく。
「止めなくちゃ。スウのことも、ベリンダという人のことも。誰も、あんな塔に入ってはいけないわ!」
 そう言いながら、青い髪の乙女は、自分も走り出していた。

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