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2016年7月

人魚の歌(01)

 旅の一行は、聖泉<真実の鏡>をあとにしてイルエン国まで戻り、晴れて王城におもむき、解呪の報告をした。
 城の人々はみな、フィリシア姫の呪いの解けたことを喜び、ささやかな祝いの席を設けてくれた。だが、喜んでばかりもいられない事情もあった。というのは、宮中の占い師たちが、いっせいに警告を発し始めたのである。
 あるものは、夜空の星の落ちるさまを見て。あるものは、祈りの炎に浮かぶ幻を見て。あるものは、託宣を得る獣骨のひび割れた形によって。凶兆に震えながら、彼らは口をそろえて言った――注意せよ、注意せよ。やがて大いなる闇の攻め寄せ来たらん・・・。
 そんな中、ゼラルドは人目を避けて素性を隠したまま、淡々と出発の準備を整えており、イルエンに戻ってから二日後の夜、仲間たちに別れを告げようとしていた。
「明朝、発とうと思う」
と、黒髪の王子は、仲間うちだけが集まった小さなサロンで、いつものように静かに言った。謎めいた黒い瞳で、フルート、フィリシア、セレンを順番に見つめ、しばし逡巡したあと、意を決したように口をひらいて、こう言った。
「君たちと共に過ごした時間は、ぼくにとって、とても幸福な時間だった。ありがとう」
 彼らしくない真っすぐな謝辞は、仲間たちを少しばかり戸惑わせた。そして、みなの視線は自然に、この旅を率いてきた金髪の王子に集まった。フルートは、友人たちの無言の要請に応えて、こちらも率直に言った。
「ゼラルド。君が帰国するのは、攻め寄せる<大いなる闇>とやらと関係があるのではないか? ぼくたちが少しでも君の力になれるなら、その戦いに、ぼくたちも同行したい」
「足手まといだ」
 黒髪の王子は、にべもなく断った。フルートは、ふっと笑った。
「君の占い札も、そのように言っているのか?」
「・・・」
 ゼラルドは、不意をつかれた顔をした。するりと愛用のカード一束を出し、切り交ぜて、何枚かめくり、驚いた顔で凝視して、さらに切り交ぜ、何枚かめくり、再び凝視した。しばし呆然としているようだったが、はっと我に返り、ちらりとフルートを見やって、軽くため息をついた。
「君のその自信は、いつもどこから湧いて出るのか・・・」
「返答は?」
「・・・たしかに、君たちもまた、鍵の一部らしい。非常に不本意だが・・・」
 ゼラルドの歯切れの悪さを見れば、彼が本当に、心底「不本意」に感じていることに疑いはなかったが、フルートは穏やかに言った。
「では、もうしばらく共に行こう。ぼくたちももう、出発の準備はできている」
 ゼラルドは物憂げにうなずいた。そうして、彼らは揃って発つことになったのだった。
 黒髪の王子が一度はあとにした祖国、神秘の国ウェルザリーンへ。

(今回のお話の中では、ウェルザリーンに着きません。)

予告:「人魚の歌」

途中まで書いてみて、何度も書き直して、まだ不安も残っているのですが…。
それでも、たぶん書ききれる!と思うので、予告を出します。
いえ、長さはそれほど長くなくて、全4回くらいなのですけれども。

今回は、冒険の、かなり終盤のお話です。
これまでにも帰り道のお話として、「あかずの扉」や「聖なる森」を書いてきましたが、
今回の「人魚の歌」は、フィリシアの呪いが解けたあと、まだ帰途にはついていない時点のお話です。
ここで明らかになるいくつかの事柄によって、「解呪のあとって、そういう展開なのか」と驚く方もいらっしゃるでしょうし、「うすうす気づいていたよ」と得心なさる方もいらっしゃるのだろう、と思います…。

あさって日曜日にスタートします。
よろしくお願いいたします!

進捗状況報告(2016/07/26)

どうやら、次作はシリアスなお話になりそうです。
終盤のお話をひとつ、先取りして出すことになります。
半分くらいゼラルドの話で、半分くらいフィリシアの話。
出だしを書き始めたところです。

「こんなに終盤のお話を始めちゃって、ちゃんと書ききれるかしら」と不安なので、
「大丈夫」と自信が持てるところまで書けてから、公開しようと思います。
お待たせしていますが、もう少しだけお待ちください。
次回の更新では予告が出せると思います…!

配布開始♪「竜王の館(前後編)」「一角獣の角」

お待たせしました~。
冊子3種類、印刷から上がってきましたので、配布を開始します。

「竜王の館(前編)」「竜王の館(後編)」は、池田優さんに表紙を描いていただきました。
前編と後編を並べるとこんなふうに見える、すばらしい演出です。

Photo_5

「一角獣の角」は、彩音ちなさんに表紙を描いていただきました。
初めて裏表紙まで作ったので、広げるとこんなふうです。

Photo_3

3冊とも、とても素敵な冊子に仕上がりました。幸せ~heart

お取り寄せを希望される方は、いつものように、ご希望の冊子名とともに、送料180円分の切手をお送りください。(3冊でも送料変わらず180円で一度にお送りできます。)
初めてのお取り寄せのときは→ こちら(配布物在庫状況の記事) を参照してお申し込みくださいね。

夏バテしてるけど、ちょっと元気出た…!
次作はもう少しお待ちください。
どうぞよろしくお願いいたします♪

進捗状況報告(2016/07/19)&トーナメント結果「大道芸人の賭け」

どうやら夏バテしています…。
まだまだこれからが夏本番なのに…。

休日のたびに寝て過ごしてしまう…。
時間がもったいない…。
けど、急がば回れで、休養が最優先だと思うから…。

次作については、気分的に、フィリシアのお話になりそうな雲行きです。
明るく元気なお話か、もの悲しく寂しいお話の、どちらに転ぶか、まだちょっとわからなくて。
もの悲しいお話になる場合は、終盤近くのお話を1個先取りすることになると思います。

***

トーナメント結果のご報告。
「大道芸人の賭け」は、9作品中、3位をいただきました。
(ブログ村のトーナメントは3位決定戦をしない仕様のため、3位は2作品あります。)
私の出品が常にシリーズ物で、読んでくださる方が単品での評価をしづらいだろうことを考えると、毎回よく健闘しているのではないか、と思っています。

***

「竜王の館」(前後編)と「一角獣の角」は、印刷に出していて、今週末に刷り上がって来る予定。
どちらのお話も、どのくらいきれいに印刷できるのか、期待と不安がまぜこぜです。
ハラハラドキドキ、いましばらくの辛抱です。

次回のブログ更新は、こぼれ話になる予定。
と言いつつ、元気が出なければ、週末に「冊子ができたよ」の記事を書くまでお休みするかも。
そんな感じで、よろしくお願いいたします。

表紙ができたよ印刷するよ!「一角獣の角」

じゃーん!

今回は、彩音ちなさんにお願いして、表紙を描いていただきました。

実は、この表紙の絵、裏表紙まで続いています。
こういう絵です!

Photo

裏表紙まで描いてもらったのは初めてなので、印刷するのにワクワクします。
〆切はまだ先だったのですけれど、早く仕上げてくださって、このタイミングでのご案内となりました。
たぶん、竜王の館(前後編)と合わせて3冊送っても、送料は変わらないんじゃないかしら?
「印刷したよ」の続報をお待ちくださいね♪

よろしければ、絵のご感想をお寄せいただけたら嬉しいですconfident

大道芸人の賭け(トーナメント参加用)

 治安のよい、にぎやかな街だ。天気もいい。遊びに出るなというほうが無理な話で、金髪の王子は例によって、ルークと名乗って見物に出かけることにした。
「ぼくも行く」
と、セレンが、月色の長い髪を束ねながら付いて来る。どうせ、美女を見つけるまでの間だけに決まっているのだが。
 ふたりで大通りを歩いていくと、やがて噴水のある大きな広場に出た。何か見世物をしているらしく、人だかりがしている。
「何だろう?」
と、ルークが言うと、彼より少し背の高いセレンには何かが見えたらしく、
「ナイフ投げ、かな?」
「へえ!」
 ルークの青い瞳がきらめいた。ナイフ投げなら、ルークにも心得がある。実のところ、専用の小ぶりのナイフを常に10本持ち歩いているくらい、お気に入りの趣味なのだ。
「俺より上手かどうか、見て来る」
「はいはい、ご随意に。ぼくは興味ないから」
と、セレンは早くも別行動になった。
 ルークが、するりと人ごみに潜りこんでみると、ナイフ投げの芸人は、最後の見世物を始めたところだった。見たところ、ルークより一回り年上で、髭を短く刈り込んだ、栗色の髪の男だ。パン、パン、と手を叩き、男は良く通る声で口上を述べた。
「さあさ、お立合い! はやぶさテッドの最後の出し物だよ! これなる女性は、我が最愛の妻、メリーアン。彼女が、なんと! ナイフの的に、はりつけになってしまうのだ! 10本のナイフが少しでも逸れれば、愛しい妻を傷つけてしまう。どうする、テッド! もちろん、髪一筋だって傷つけやしないさ! とくとご覧あれ!」
 愛らしい顔立ちの、小柄な女性が、観衆に向けてお辞儀をしてから、ナイフの的に向かって歩いて行った。的となっている板は、ちょうど人ひとりくらいの大きさだ。女性は、自分で目隠しの布をつけ、ぴったりと板に背中を合わせて、はりつけの姿勢になった。
「いつでもいいわ、テッド!」
「よし。では、1本目!」
 ひゅん、と風を切って飛んだナイフは、タンッと小気味よい音を立てて、メリーアンの左耳の横に突き立った。おお、と観衆がどよめいた。
「2本目! 3本目! 4本目! 5本目!」
 タンッ、タンッ、タンッ、タンッ。メリーアンの肩、手首、腰、膝をかすめるように、ナイフは正確に板に突き刺さり、ビーンと震えている。観衆は息をのんで見守った。
「あと5本! 6本目、7本目、8本目、9本目、――さあ、これで10本目だ!」
 タンッ、タンッ、タンッ、タンッ、タンッ! メリーアンの反対側をかすめるように、膝、腰、手首、肩、最後は右耳の横! 口上通り、ナイフ使いは、髪一筋として妻を傷つけることはなかった。
 はやぶさテッドは、ナイフに囲まれた妻に向かって歩いて行き、10本のナイフを引き抜いてから、妻の目隠しを外した。メリーアンは嬉しそうに笑って、夫に抱きつき、髭だらけの頬にキスをした。それから二人は、観衆に向かって、深々と一礼した。
「以上、はやぶさテッドのナイフ投げでございました! お代はそちらの帽子の中へ!」
 観衆は、惜しみない拍手を送った。チャリン、チャリンと、帽子は見る間に硬貨でいっぱいになった。
 見物の客が散り散りになってから、ルークは、後片付けをしているナイフ使いに陽気な声をかけた。
「はやぶさテッド、あんたは凄いな! きっと、あんたが狙ったら、針一本分だって的を外すことは無いんだろうな」
「はは、そりゃあ、これで飯を食ってるからな」
 テッドは振り返り、気さくに笑った。ルークは興味津々に、
「俺はルークっていうんだ。なあテッド、俺が投げるのを見てくれないか? 10本投げると2本くらい外すんだけどさ、何が悪いのか、自分だと分かんないんだ」
「帽子に代金、入れてくれたか?」
「もちろん」
「じゃ、もっかい、的をここに置くから、ちょっと投げてみな」
 木の板を置いて後ろにさがったテッドは、金髪の若者がナイフを10本取り出すのを見て、「ほほう」と言った。ルークは右手で、1本ずつ丁寧に投げた。
 タンッ。タンッ。タンッ。ガチッ。タンッ。
 タンッ。ガチッ。タンッ。タンッ。タンッ。
「ほら、2本、刺さらなかっただろ?」
「きれいに投げるなあ。ルークは筋がいい」
 はやぶさテッドは、まず褒めた。それから、腕を組み、あごをなでて、
「そうだな、たぶん、ほんのちょっとだけ、手を離すのが早いんだな」
「そうかな」
「ほんのちょっぴりの差なんだ。もう一度、やってみな」
 回収してもらったナイフを受け取って、ルークはもう一度投げてみる。
 タンッ。タンッ。タンッ。タンッ。タンッ。
 タンッ。タンッ。タンッ。タンッ。タンッ!
「ほんとだ!」
「な、そういうことだ。にしても、大したもんだよ、ルーク。10本、ほとんど同じところに刺さってるじゃないか」
「いや、だいぶずれてるよ。テッドほど正確に狙えない」
 二人が意気投合して喋っていると、役人の服を着た年配の男がやって来た。
「おお、はやぶさテッド、まだここにいたな」
「何ですか、お役人さん。俺は何にも悪いことは」
 警戒するテッドに、
「うんうん、おまえさんに耳寄りな話を持って来た。領主様が、あんたの芸を見たいそうだ。明日の昼、お屋敷の庭で披露すれば、金貨10枚くださるそうだぞ」
 ひゅうっとルークが口笛を吹いた。テッドの背中をどんと叩いて、
「凄いな、テッド!」
「お、おう。おうよ!」
 テッドは緊張しながら、胸を張った。妻のメリーアンが嬉しそうに頷いているのを見ながら、自分も頷いて、
「そのお話、お受けします! 領主様に、よろしくお伝えください!」
 大きな声で答えて、晴れやかな笑顔になった。役人も笑って、
「じゃあ、明日の昼に、迎えに来るからな。わしも楽しみだ」
 そう言って、去った。

 そして、翌日。
 街は朝から、はやぶさテッドの話題で持ち切りだった。望むなら誰でも、街外れにある領主の館を訪れて、テッドの素晴らしいナイフさばきを見物して良いと、おふれが出されていた。前日にテッドの技を見た者たちが、口をそろえてテッドの腕前を誉めそやし、お祭り気分を盛り上げたから、たいていの者は「ちょっと見に行ってみようか」という気持ちになっていた。
 昼になり、テッドとその妻のメリーアンが迎えの馬車に乗って館に到着したときには、すでに、広い庭は準備万端だった。しかるべき場所にナイフ投げの的がしつらえられ、見晴らしの良い場所には領主の席が設けられ、その反対側にはロープが張られて、見物客がわらわらと詰めかけていた。警備の役人も動員されている。
 テッドとメリーアンが姿を現すと、観衆は喜んで、思い思いに、「がんばれよ」「しっかりね」などと声をかけた。テッドは緊張していたが、歓声に力づけられ、ふと、ルークの応援が聞こえた気がして、観客席を振り返った。思い思いに手を振っている観衆の中にルークを見分けることは出来なかったが、心強く感じて、テッドは観衆に手を振り返し、「よしっ」と自分に気合いを入れた。
 そうして、はやぶさテッドの公演は、とてもうまく行った。ナイフ5本を次々に投げあげては受け止めるジャグリング。遠くで燃えているロウソクにナイフを投げつけ、火を消してみせる技。後ろ向きにナイフを投げる技、ジャンプしながらナイフを投げる技、同時に3本を投げて的に当てる技・・・。
 最後に、メリーアンを的の前に立たせ、体すれすれに10本のナイフを投げつける大技が、今日も見事に決まった。領主も役人も観衆も、ナイフ使いとその妻に、惜しみない拍手と喝采を贈った。
 領主は拍手しながら立ち上がった。芸人夫婦が頬を上気させてお辞儀をすると、
「すばらしい技だった、はやぶさテッド! 約束の褒美を取らせよう。だが、その前に」
と、領主は言って、役人に合図した。役人は、ナイフ投げの的となった板を片付け、それよりも距離の遠い場所に、人の頭ひとつぶんほどの大きさの的を設置した。領主はうなずいて、言葉を続けた。
「さて、テッド。あの的は、さきほどの的より、小さく、遠い。ナイフ10本を投げ、全て当てることが出来たなら、約束の金貨10枚に加え、さらに100枚を褒美に取らせよう。ただし、1本でも的を外したら、100枚はもとより、始めの金貨10枚も、なかったことにする。どうだ、挑戦するかね?」
 観衆がざわざわした。金貨100枚あれば、1年間、遊んで暮らせる。テッドは新しい的の大きさと距離を、真剣に目で測った。・・・いける。
「喜んで、挑戦させていただきます」
 観衆の中から、聞き覚えのある声が「がんばれよ!」と声をかけてくれた。テッドはうなずいて、ナイフを構えた。集中して、狙いを定め、投げた。
 タンッ、タンッ、タンッ、タンッ、タンッ、
 タンッ、タンッ、タンッ、タンッ、タンッ!
「ほう、これは見事、見事!」
 領主は手を叩いた。観衆もどよめいて、手を叩いた。口々にテッドの技を褒め称える人々は、少しばかりテッドのことをうらやんでいる様子でもあったが、褒賞が金貨100枚とあっては仕方のないことだろう。
「では、約束どおり、金貨100枚を追加しよう。だが、その前に」
と、領主は言った。合図された役人たちは、ナイフの的を撤収し、さらに離れた場所に、人のてのひらほどに小さな的を設置した。まさか――。
 領主は、おもちゃを見つけた子供のように、楽しそうに言った。
「さあ、テッド、次の的はあれだ。あの的には、さしものそなたも歯が立つまい。しかし、もし、あの的に10本のナイフを当てることが出来たなら、褒美として・・・、ふうむ、そうだな・・・、よし、この街にそなたの屋敷を建ててやろう。そして、街の住民から10人の美女を選んで妾とし、20人の屈強な男を選んで奴隷とし、金貨1000枚を与えて住まわせてやろう。時々、私のために働いてもらえれば、それでいい。だが、1本でも外したら、それは全部、なかった話。今までの金貨110枚も全て没収だ。ははは、どうだ、挑戦するかね?」
 その場にいた誰もが耳を疑ったため、会場は、しばし静かになった。テッドとメリーアンは、言われたことをよく理解できずに、ぽかんとしていた。
「テッド、それはだめだ!」
と、誰かが大きな声を出して、まず観衆が我に返り、騒然となった。10人の妾って、誰のことよ? 20人の奴隷って、誰のことだ? 金貨1000枚って、それは、あたしたちが、俺たちが、額に汗した稼ぎの中から支払った税金じゃないか?
 立ち尽くすテッドの頭の中を、言葉がぐるぐると回っていた。「金貨1000枚。金貨1000枚。金貨1000枚・・・」
 メリーアンが、不安そうに言った。
「あんた。もう、やめようよ」
「いや。俺は・・・やるぜ」
 テッドは、遠くに見える小さな的を、穴があくほどに見つめた。俺の腕が試されているのだ。そして、俺なら、きっと、できる!
「やらせてください、領主様」
「ほほう! そう来なくてはな!」
 領主は、嬉しそうに手をもんだ。テッドはナイフを構え、集中した。
「テッド、よせ!」
 観衆の中から誰かが叫んでいたが、気にしなかった。遠い小さな的に向かって、ナイフを10本、投げた。
 タンッ。タンッ。タンッ。タンッ。タンッ。
 タンッ。タンッ。タンッ。タンッ。・・・タンッ!
 ナイフは、素晴らしい技量によって、すべて的に当たった。テッドは身動きせずに、その的をじっと見つめた。夢じゃないよな? 夢じゃないよな? 夢じゃ・・・。
「ほう、ほう、ほう!」
 領主は手をたたき、目を細めた。
「それでは、待たせたが、約束どおり――」
「待ってください! そんなの、俺にだってできます!」
 観衆の中から、一人の若者が進み出た。陽光のような金髪に、青い瞳が印象的な、美しい若者だった。
「俺にも同じことができるって証明したら、俺は何ももらわなくていいから、はやぶさテッドへの褒美を取り消してください」
 テッドは裏切られた気持ちになって、腹を立てて言った。
「ルーク。どうして俺の邪魔をする。そもそも、おまえさんにゃ、あれは無理だ」
「テッド、俺だって争いたくはない。褒美を辞退してくれ」
「俺がこの腕でつかんだ幸運を、手放せというのか? 何をたくらんでいやがる。金貨1000枚は、もう俺のもんだ!」
「じゃあ、こういうのはどうだい、テッド。10人の妾と20人の奴隷を辞退して、あんたが屋敷を建ててもらったあと、普通に使用人を募ればいいんじゃないか?」
「だめだ、だめだ! 俺は何ひとつ辞退なんかしないぞ。全部、俺がこの腕で手に入れたんだ。全部、この俺のものだ!」
「そうか」
 ルークはナイフ10本を取り出した。1本を右手に持って、2、3回、投げあげては受け止めるのを繰り返したあと、
「仕方ないな」
 その1本を高く投げあげ、残りの9本を右手に移し、落ちて来たナイフを左手で受け止めた。
「領主様、投げていいですか」
「ふむ、やってみるがいい。そなたが成功したら、テッドへの褒美は取りやめよう」
「1本だって当たるものか」
 テッドの罵り声を聞き流し、ルークは的に向かい、ナイフを構えた――昨日とは違い、左手で。
 左手? と、テッドが思ったときには、既に1本目のナイフが放たれており――
 ―― タ、タ、タ、タ、タ、
 タ、タ、タ、タ、タンッ! ――
 あっというまの出来事だった。テッドは目を疑った。ルークの放ったナイフは、さっきテッドが当てたナイフをよけながら、10本とも、あの小さな的に突き刺さっていた。
 観衆が、どよめいた。自然に、拍手と、歓声が湧き起こった。
 領主も、驚いたようだった。
「これはこれは。して、本当にそなたは、何もいらないのか?」
「いりません」
「わしのために、働いてみないか?」
「旅の身ゆえ、お許しを」
「そうか、残念だ。では、この二人に拍手を!」
 観衆は拍手した。領主は立ち上がった。テッドははっと我に返った。
「お待ちください、領主様。それでは私は・・・」
「うむ? 褒美を取りやめる、と、そう言わなかったか」
「・・・!」
「しかし、まあ、この若者が何もいらないと言うなら、金貨110枚は、そなたにくれてやろう」
 領主が役人に合図をすると、役人はテッドに、ずしりと重い皮袋をくれた。テッドは皮袋を開けて、金貨の数を数えた。ちょうど110枚あった。
 ほっとして顔を上げると、もう領主の姿はなく、ルークの姿もなく、観衆はぞろぞろと引き上げて行くところで、傍らのメリーアンが泣き笑いしていた。
「おつかれさま、あんた。あたしは、これで良かったんだと思うよ」

 テッドは、街を発つことにした。メリーアンと一緒に門に向かう途中、偶然、ルークとすれ違った。ルークは、ちらりとテッドを見たが、知らん顔だった。それで、テッドも複雑な思いで目をそらした。
 道端にいた誰かが、「ごらん、はやぶさテッドだよ」と言った。
「ああ、あなたが、はやぶさテッドさん? もう発つのですか」
 呼ばれて、テッドがためらいながら振り返ると、声の主は、長い金色の髪をした、背の高い若者だった。
「ルーク、挨拶くらいしないのか? 君、右手でもナイフが投げられるようになったって、あんなに喜んでいたじゃない」
 行き過ぎかけていたルークが、「ああ、そうだっけ」と言いながら戻って来た。テッドを見た青い瞳に、少しだけ、親しさが戻っていた。
「ありがとな、テッド。元気で」
「・・・うん。ルークも、元気で」
「あたしからも。ルーク、ありがとう」
 メリーアンが言った。ルークは、テッドを見て、メリーアンを見て、にこ、と笑った。テッドとメリーアンも、笑った。
 じゃあ、と、手を上げて、彼らは別れた。気が付いてみると、テッドの胸は、不思議とすがすがしかった。
「よーし、俺も、もっともっと腕を上げてやるぞ」
と、テッドは口に出して言った。胸の中に、ルークの投げたナイフのリズムが刻み込まれていた。あれを越えてやるんだ。
 ―― タ、タ、タ、タ、タ、
 タ、タ、タ、タ、タンッ! ――

(完)

第18回 自作小説ブログトーナメント に参加しています。約6,330字。
よろしければご感想をお寄せください♪

作者より:「星降る夜に」

ふわっとした、きらきらしたお話を書きたいと言って書き始めたお話は、文字通り、「きらきらしたものが、ふわふわ飛んでいくお話」になりました。単純…coldsweats01
人選はこれで良かったように思いますが、いかがだったでしょうか?

ちなみに、フルートとゼラルドのほうは、たぶんこのとき、闇姫と邂逅していたのではないかと思われます。季節は初秋といったところ。
また、フルートが、道を先行するにあたり、相棒としてゼラルドを選び、セレンを残しているのにも、いろいろ理由があるかもしれません…し、ないかもしれません。お好みでwink

次回の更新は、月例のトーナメント出品で、今回は「大道芸人の賭け」を出そうと思っています。
その次の更新では、新しい電子書籍「一角獣の角」のお披露目をします。
そのあとの更新予定は、内容未定です。
よろしくお願いいたします♪

星降る夜に(03)

 ミルガレーテは、ふと、泉を指さした。
「見て、そろそろ始まるわ」
 言われてみれば、泉はコポコポと軽やかな音を立てながら、水面に映る星影を揺らしており、その一方で、心なしか、揺れている星影は大きくなり、数を増しているようだった。
 そのきらめきに感嘆したフィリシアが、
「まるで、星の湧き出ずる泉のようね!」
と言うと、ミルガレーテはうなずいた。
「そうなの。とても珍しい光景なの。ほら・・・」
 指さす先で、揺れる泉からは、なんと、星影が浮かびあがって、柔らかな光を放ちながら、次々に空中へと漂い出ていた。セレンは思わず自分の目を疑い、蛍か何かと見間違えているのではないかと、よくよく見つめてみたが、どの光も、どう見ても「光の粒」そのもので、あまり目を凝らしすぎたら目を傷めてしまいそうなほど輝いているのだった。
 泉を飛び出した星影たちは、ゆらゆらと揺れ、ふわふわと広がりながら、空へと上って行った。幾らかは、空まで届くことができず、途中からゆっくりと下降に転じ、見上げている客人たちの上に舞い降りた。フィリシアやセレンの肌に落ちた星は、粉のように砕けて消えた。髪や服の上に落ちた星は、それより長く光り続けたが、指でさわれば、やはりシュンと消えてしまうのだった。
「フィルと一緒に見ることができて、良かった」
と、光降る中で、ミルガレーテが幸せそうに言った。
「フィルに見せたいなって、ずっと思っていたから」
「すてき・・・」
と、青い髪の姫君は言って、胸の上で両手を重ねた。
「レッティと一緒に見ることができて、私もうれしい。あまりにも綺麗で、泣いてしまいそう・・・」
 セレンが自らを無粋な者のように感じていると、ミルガレーテが彼を振り返った。
「セレンも。来てくれて、良かった」
 きらきらと目を輝かせて、続けた。
「もし、セレンがここにいなかったら、私はきっと、ああこの景色をセレンにも見せたかったなって、悔やんだと思うから。セレンと一緒に見られて、良かった」
 とても光栄だ、とセレンは思ったが、うまく言葉になりそうもなかったので、ただ微笑み返した。ミルガレーテはにこにことフィリシアのほうに向きなおり、フィリシアは空を見上げたまま、
「そうね、セレンも一緒に来られて、良かった。フルートにも、ゼラルドにも、見せてあげられたら良かったのに・・・」
「そうね」「そうだね」
 三人はそのまましばらく、そうやって星屑を浴びながら、そこで星を眺めていたのだった。

 そのあと、また一緒に宿まで戻ってきて、おやすみを言い合ってそれぞれ床について、翌朝、目を覚ましたセレンは、夢を見たような気持ちだった。光り姫の編んでくれた星屑の腕輪を、この手首に嵌めてもらったような気がしたけれど、あれは本当にあったことだろうか。
 けれど、彼が髪を櫛で梳いていると、ふわりと一粒、光の粒がこぼれ落ちた。
「あ・・・」
 ゆらゆらと揺れながら、天井に向かって上って行こうとする光を、思わず手をのばして捕らえようとして、指がふれた瞬間、光は砕けて消えてしまった。かすかな喪失感。
 ――だが、それでは、夢ではなかったのだ。
 今日も、ひとめ会うことができたら嬉しい。そう思いながら念入りに身支度を整えた彼は、呼んでも起きて来ないフィリシアを起こそうとして屋根裏への梯子を上り、さすがに遠慮がちに覗いてみたところ、そこに二人の姫君が眠っているのを見つけて、しばらく身動きできずにその様子を見つめたあと、声をかける勇気が出ずに、そっと梯子を下りたのだった。

(完)

星降る夜に(02)

 ミルガレーテが、いくらか魔法を使ったようで、三人は不思議な匂いのする小道をたどり、やがて、小高い丘に、岩棚の連なる場所に着いた。岩棚には、ぽっかりとくり抜かれたような大きな穴があり、そこにこんこんと水が湧き出て、泉になっているのだった。
「さあ、着いたわ。妖精たちよ、今日はひととき、私たちに場所を貸してくださいね」
 月と星の光を浴びながら、ミルガレーテが花のように笑って、くるりと一回転する。
 満天の星空が広がっていた。気のせいか、いつも野宿するときより、さらに空が近い。
 もし、姫君がどちらか一人だけだったら、雰囲気に流されて、うっかり口説いてしまったかもしれないな――と、セレンは思って、楽しそうな二人の姫君を見ながら、内心ほっとした。これなら誠実な騎士でいられそうだ。良かった。
 姫君たちは、空を見上げてひとしきり喜んだあと、泉のそばで、服が濡れないように気を付けながら、かがんで何かを始めたようだ。セレンがのぞき込むと、ミルガレーテが、なんと、泉に浮かぶ星影を、細い指でつまみあげて遊んでいるのだった。
「ほーら。これは少し青みを帯びているわね」
「いいな、レッティは。私もやってみたいのに」
 フィリシアの指は、水を揺らして星影を散らしてしまう。ミルガレーテは微笑みながら、
「フィルに星冠、編んであげる」
 拾った星影を器用につなげて、小さな輪にして、フィリシアの頭に乗せた。冠はきらきらと光りながら、夜気の中ともフィリシアの髪ともつかぬところに、すうっと溶けて行った。
「きっと、少しはフィルの中に溶けたわ。お守りになると思う。私のいないときも、フィルを守ってくれますように」
 言いながら、ミルガレーテはもうひとつ、もっと小さな輪を編む。振り返って、
「はい、セレンには、腕輪を」
 予期していなかったので、セレンはびっくりして、おそるおそる手を差し出した。ミルガレーテはセレンの、男にしては華奢な手首に、星影の腕輪を嵌めてくれた。腕輪は光りながら、これもまた、夜気の中とも、セレンの腕の中ともつかぬところへ、やわらかく溶けて行った。
「お守り・・・?」
「そうよ」
「ありがとう・・・」
 いとしい姫君の編んでくれたお守りが、自分の中に溶けている・・・。
 ミルガレーテは、はにかんだように笑った。
「私のいないときも、セレンが守られていますように。私の心は、いつもあなた方と共にあります」
と、言った。「あなたと」ではなくても、じゅうぶん幸せだ、とセレンは思った。

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