2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

ひとこと通信欄

  • (2017/8/13朝)創作活動が進みません~。少しばかり夏休みをいただきます~。

ランキング参加中!

  • 記事がお気に召したらクリックしていただけると、作者の励みになります。(1日1回まで)

    (投票せずに順位を確認したい方はこちらから。)

読者アンケート実施中♪

  • 所要時間は5分くらい?
    個人情報の入力はありません。
    よろしくお願いいたします。
    こちらから。

SF「夜景都市」(未完)

最近のトラックバック

プロフィール

  • 城

    雪村月路
    snow.moon.rainbow☆gmail.com
    (☆を@に変えてください)
    Twitter: @ariadne_maze
    ブログ更新量について
    愛読書100冊

    うちの子同盟 うちの子同盟

無料ブログはココログ

« 人魚の歌(02) | トップページ | 人魚の歌(04) »

人魚の歌(03)

 海辺の館で、その晩、フィリシアは、波の音が気になって、なかなか寝付けなかった。生まれ育った内陸のクルシュタインは南東に湾があったから、完全に海のないリーデベルク出身のフルートやセレンよりは、彼女のほうが少しは海に親しいはずだった、が、こんなに近くで、こんなに長く、寄せては返す波の音にさらされたのは初めてで、遠い異国にいることをしみじみと感じつつ、気持ちが乱れて、眠れなかったのだった。
 耳を澄ますと、どこかから、聞きなれない節回しの歌声も聞こえてくる。この館の誰かが歌っているのだろうか。とぎれとぎれに聞こえる女性の声は、こんなふうに歌っていた。
(かのひとの ゆるく波打つ長い髪は 黄金を紡いで絹に変えたよう)
(白く滑らかな そのひたい 透きとおる桃色の頬)
(きらめく瞳は 虹の色 かの人の いずこにあるや)
 偶然だろうけれど、まるで、ミルガレーテのことを歌っているかのようだ。今頃、どこでどうしているのだろう。いずこにあるや、私も知りたい。
(われに尋ねよ われこそは ひろき海原 わたりゆくものなれば)
(われのみは かのひとの 涙のそそぐ果てを知る)
 違うひとのことだと思う。ただの、はやり歌の歌詞なのだと思う。思うけれども、そう歌われると、尋ねに行きたくなる。その方はどこにいらっしゃるのですかと。
 フィリシアは思い切って起きだして、寝間着の上に外套を羽織った。歌声の主を探し出し、すこし言葉を交わせば、気も休まって、眠れるようになるだろう。歌が外から聞こえているようだったので、裏口から出てみると、歌声が大きく聞こえるようになった。月明かりの中を、フィリシアは声のほうに歩いた。海のほうだ。
 波打ち際を歩いてしばらく行くと、大きな岩がいくつか連なった場所があり、声の主は、その岩のひとつに座っていた。それは、白い人魚だった。いや、昼間に見れば白ではないのかもしれなかったが、少なくとも今は、月明かりを浴びて、髪の色も、肌の色も、鱗の色も、真っ白に輝いているように見える。
 そういえば昼間、ゼラルドが、「人を海に引きずり込む人魚」の話をしていた。と、思い出したフィリシアは、少し離れたところで立ち止まった。人魚は、フィリシアに気づいて、歌をやめ、真剣な目で、じっとフィリシアを見つめた。
「こんばんは」
と、フィリシアは微笑んで挨拶をした。
「こんばんは。本当に来てくれたのね」
と、白い人魚は、緊張した面持ちで言った。フィリシアはうなずいた。
「歌詞が気になったから。誰のことを歌っていらっしゃるの」
「私の妹のこと」
と、白い人魚は言って、目を伏せ、つぶやくように言った。
「もうずっとずっと前に、泡になって海に還ってしまった妹のこと。もう会えない。悲しくて歌うの。海の底で歌い続けていたら、いつのまにか、私、こんなに白くなってしまったの」

« 人魚の歌(02) | トップページ | 人魚の歌(04) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/568827/64012758

この記事へのトラックバック一覧です: 人魚の歌(03):

« 人魚の歌(02) | トップページ | 人魚の歌(04) »