2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

ひとこと通信欄

  • (2017/12/11朝)また休日出勤などあったので、本編進んでおりません…。ふえーん…。

ランキング参加中!

  • 記事がお気に召したらクリックしていただけると、作者の励みになります。(1日1回まで)

    (投票せずに順位を確認したい方はこちらから。)

SF「夜景都市」(未完)

最近のトラックバック

プロフィール

  • 城

    雪村月路
    snow.moon.rainbow☆gmail.com
    (☆を@に変えてください)
    Twitter: @ariadne_maze
    ブログ更新量について
    愛読書100冊

    うちの子同盟 うちの子同盟

無料ブログはココログ

« ひとやすみ:名探偵コナン×ライブミステリー 洋上の迷宮に行ってきた! | トップページ | こぼれ話:時系列順(ご参考) »

聖者の護符(トーナメント参加用)

 話に聞いていたとおり、荒れ野の中に、一軒ぽつりと宿屋があった。遠くからでも宿屋とわかるのは、大きな看板が出ているからだ。がっちりした体つきの、宿の主人らしき男が、夕焼け空の下で、旅人たちに向かって手を振っている。
 一行が馬で近づくと、主人は笑顔で声をかけて来た。
「こんばんは、みなさん。今日はここに泊るのがよろしかろうよ。どこかで聞いて来ただろうけども、ここらは夜になると、あやしげなものがウロウロするからね。ともかく、屋根のある所にお入んなさい」
「ありがとう、世話になるよ」
と、4人を代表して、金髪の若者が、こちらも笑顔で返した。あたりを見回しながら、
「それにしても、本当に何もないところだな。宿を続けるのは大変じゃないか?」
「やあ、それでも、ここらに一軒泊まれる場所がないと、旅の人たちは皆さん困るだろうから」
 宿の主は誇らしげに、
「幸い、うちには、旅の聖者様からいただいた、ありがたい御守りもある。何を恐れることもなく、商いを続けていけるよ。さ、どうぞ」
 一行は、馬を馬小屋につないだ後、ひとりずつ中に入った。しんがりになった黒髪の若者は、軒先に吊るされた護符を見て、足を止め、しげしげと眺めた。銀の細工にまじないを彫り込んだものが、いくつも組み合わされて吊り下がり、揺れている。彼の視線に気づいた主人が、
「ああ、それが聖者様の護符だよ。何と書いてあるのかは分からないけども、ご利益は確かだ」
「・・・手を触れても?」
「いいとも」
 ゼラルドは護符に触れて、そっと、裏返したり、透かしたり、揺すったりした。宿の主人は何度もうなずいて、
「護符というものに詳しいひとは、皆さん感心なさるようだよ。わしには、何が何やら、さっぱりだがねえ」
「・・・これほど見事な護符を初めて見た」
 ゼラルドはつぶやいて、何かを問うように、視線を宿の主人へ向けた。主人は、いくらか戸惑った顔をしたが、
「それをくださった聖者様は、荒れ野の中に行き倒れていたんだ。文無しでね。連れて帰って、何日か泊めて食べさせたら、元気になって、金がないから代わりにと言って、これを置いて行かれたのさ」
「・・・」
 何かを懸念するかのように黒い瞳を揺らしたゼラルドは、しかし、何も言わずにうなずいて、その場を離れた。

 客室は3つあったので、フィアがひとつ、ゼラルドがひとつ、残りのひとつをルークとセレンが使うことにした――と言いながら、実際には、ルークは夜遅くまで台所にいて、宿の主人と世間話をした。話題は自然と、「夜になると荒野をうろつく怪しいもの」のことになった。
「お客さんも、もう少ししたら、窓の外を覗いてみたらいい。白くてぼんやりした、なんだか気味の悪いものが、いっぱい出て来るから。あれは何なのかねえ、亡くなった人の魂なのかねえ・・・」
「悪さもするのか?」
 金髪の若者が尋ねると、主人は、うん、と頷いた。
「するよ。人を襲う。昔からそうだったけども、ここ何年かで、ますますひどくなった。まあ、護符のおかげで、ここには近づけないようだがね」
 そんなことを話していると、黒髪の若者が部屋から出て来た。マントを羽織り、外出用のいでたちをしている。
「ゼラルド? 珍しいな。まだ起きていたのか」
 ルークが問いかけると、ちらりと視線を投げて寄越した。
「聖札を見た。外にいるあれを排除するのが、ぼくの役割だ」
 ルークは立ち上がり、窓のそばに寄った。果たして、外には、宿を遠巻きにするようにして、宿の主人が言ったとおりの、「白くてぼんやりした、なんだか気味の悪いもの」が、いくつもモヤモヤと飛来していた。それらは宙を漂いながら、ふたつの目とおぼしき黒い穴を伸び縮みさせており、心の寒くなるような光景を作り出していたが、その真っただ中に、ゼラルドの言う「あれ」がいた。ひときわ大きな白い靄が、はっきりと人のかたちに凝って、目と口とおぼしき黒い穴を、虚ろに開いたり閉じたりしていた。
 ルークは振り返った。世間話の続きのような口調で言った。
「手を貸そう。剣で切れるよな?」
「切れるだろうが、手を借りる必要などない」
「勝手についていくさ」
「お客さん! ふたりとも、何を言ってるんだね。やめたほうがいい」
 宿の主人が驚いて声をかけると、
「心配いらない」
 金髪の若者は、戸口に向かいながら振り返り、にこっと笑った。
「かなわないと思ったら、とっとと逃げて来るからさ」

 ふたりの若者が外に出ると、月明かりの下で、靄のような亡霊たち――としか思えないもの――は、遠巻きにしながら、ゆらゆらと飛び回った。その真ん中で、くっきりと白く浮かび上がっている亡者は、口のように見える虚ろな穴から、しゃがれた声を無理やり押し出すようにして、しゃべった。
「そ、れ、を・・・、よ・・・こ・・・せ・・・」
 ゼラルドは、軽く首をかしげて、尋ねた。
「寄越せとは、何をだ」
「見、え、ぬ・・・、が・・・、近、く・・・」
 亡者は、ほうっ、と白い息を吐き、のろのろと片手をあげて、ゼラルドを指さした。
「寄越さ、ぬ、なら・・・我、は、ルイー、ラ・・・名に、お、いて・・・命じ、る。・・・滅、ぼ、せ!」
 言い終えたとたん、まわりの靄めいた亡霊たちは、いっせいに飛び上がって、こちらに向かってきた!
 剣を抜こうとしたルークを、ゼラルドは手で制した。その口元には、妖しく冷ややかな微笑が浮かんでいた。
「名には、名を。我はゼラルド・ルインドゥーラ・ルーズヴェルン。この名において、汝らに命じる」
 黒髪の王子が片腕を動かすと、銀の腕輪が重なり合ってシャランと鳴った――と同時に、靄のような霊たちは、てんでに飛びかかろうとした形のまま、ぴたりと動きを止めた。まるで、時間と空間が、一枚の絵に凝り固まってしまったかのような光景だった。中央の亡者だけが、のろのろと伸び縮みして、かすれた声で呻いた。
「ルイン、ドゥー、ラ・・・」
 ゼラルドは、かまわずに淡々と続けた。
「死霊たちよ、聞け。汝らを絡め捕えた鎖は、すでに断ち切られた。汝らをこの地に縛るふるき主を討ち、あるべき場所へ帰れ」
 ゼラルドは、腕を伸ばして、白い亡者を指さした。止まっていた時間は再び動き出し、靄たちは、ねじれるようにして方向を変えると、亡者に向かって飛びかかって行った。
「お・・・お・・・お・・・!」
 幾多の靄が亡者のまわりに集い、渦を巻き、そして、どこへともなく飛び去った。曇りなく冴えかえった夜空の下、さっきまで白い亡者のいたところには、1体の骸骨が転がっていた。骸骨は、カタカタと歯を鳴らしてしゃべった。
「よこせ・・・、よこ、せ・・・、護、符・・・」
「護符。これに触れれば、汝が滅びるだろうに」
と、ゼラルドは言いながら、何を考えたものか、宿の軒先に吊るされていた護符をシャラシャラと取り外した。骸骨へと歩み寄り、突き付けた。
「これが、汝の望みか」
「お、お・・・」
 骸骨は、怯む様子を見せたが、ぶるぶると震えながら骨だけの腕を伸ばし、聖者の護符に触れた。そして、音もなく崩れた。
 骸骨であったものは、いまや、ひとつかみの灰だった。そして、その灰は、直後に吹いた風にさらわれて、散った。
 ひとり立つゼラルドの隣に、ルークが歩み寄った。
「たしかに、何の手助けもいらなかったな」
 ゼラルドは答えず、ただ、手の中の護符を見つめていた。
 ルークも護符を見た。護符は月明かりを受けて銀色に輝いていたが、亡者が触れたせいなのだろう、最下部が欠けてしまっていた。
「哀れな末期だ」
「ルーク・・・気づいていたのか」
 ゼラルドが目を上げる。金髪の若者は、答えるともなく、
「護符の話を聞いたときに思った。魍魎の行き交う荒野で、行き倒れた旅人を守ったのは、もとより所持していた護符の力ではないのか。その護符を手放したあと、旅人は無事に目的地に辿りつけたのか、と」
「・・・」
 ふたりの若者は黙り込む。彼らはおそらく、すでにその答を知っている。
 かの聖者は思ったのだろう。「あのとき譲り渡してしまった護符が、この手にあったならば」と。その念が、亡骸を荒野へと帰らせたのだ。
「・・・あの亡者は、この地に古くから住む悪しきものに、取り込まれてしまっていた」
 言いながら、ゼラルドは月の女神の印を切った。
「いまは自由だ。安らかに眠れ」
 ルークも、片手を胸にあてて、短く祈った。安らかに眠れ。

 若者たちが宿に戻ると、窓から一部始終を見ていた主人が、驚きとねぎらいの声をかけてくれた。一方で、話し声は全く聞こえなかったらしく、「聖者様の護符が、化け物の親玉を滅ぼしてくれた」と、欠けた護符に感謝を捧げているようだった。
「しかし、お客さんたちが化け物を返り討ちにするとはねえ! あの気味の悪いものたちは、もう戻って来ないかね?」
「あれらは戻らないが、また別の異形が寄り付かないとも限らない。護符は、明るくなってから、ぼくが直そう」
 そう言ったゼラルドは、翌日、出発前に、約束どおり護符を直した。欠けた部分を補うために、自分の腕輪をひとつ外して繋ぎ合わせ、小さな声で何か唱えながらあれこれ試した末に、ようやく納得できる形になったらしく、元通りに軒先に吊るして下げた。
「正確には再現できなかったが、欠けているよりは良いだろう」
「おお、ありがとう。前と同じに見えるよ。十分だ」
 みなで外に出て、馬の準備をしながら、風になびく青い髪を押さえたフィアが、口にした。
「今日はあたたかくて、風がやわらかい・・・」
「ああ」
 同意したルークが、ふと気づくと、黒髪の若者は、ゆうべ骸骨が灰と化したあたりを見つめていた。まるで、そこに誰かが立っているかのようだった。ルークの視線に気づいて、ゼラルドは振り返った。
「この土地は、新しい加護を得た」
 それだけ言って、彼は馬の準備に戻った。
「そうか」
とだけ、ルークも応じた。宿の主人が見送りに出て来たので、にこっと笑って声をかけた。
「じゃあな、おやっさん。元気で」
「お客さんたちも、元気で」
 ほどなく、旅の一行は出発した。
 宿の主人が立って見送る傍らでは、新しく銀を接がれた護符が、陽光を受け、きらきらと光っている。

(完)

第19回 自作小説ブログトーナメントに参加しています。約4,085字。
よろしければご感想をお聞かせください。

« ひとやすみ:名探偵コナン×ライブミステリー 洋上の迷宮に行ってきた! | トップページ | こぼれ話:時系列順(ご参考) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/568827/64048974

この記事へのトラックバック一覧です: 聖者の護符(トーナメント参加用):

« ひとやすみ:名探偵コナン×ライブミステリー 洋上の迷宮に行ってきた! | トップページ | こぼれ話:時系列順(ご参考) »