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三本角の怪物(01)

 地中深くの迷宮には、角の三本ある巨大な怪物が棲むと伝えられた。100年ほどの昔、この迷宮を造って怪物を封じ込めることに成功したのは、当地の領主の先祖だったという。以来、代々の領主の怒りに触れたものは、老いも若きも、この迷宮に送り込まれた。また、貧しさゆえに盗みを働いた孤児や、想う相手と駆け落ちしようとして捕らえられた娘など、哀れな罪人もすべて、怪物への生贄とされた。もし、怪物に捕まることなく出口にたどり着き、外へと逃れ出る者がいるならば、その者は罪を赦されて放免されることとなっているのだが、常に見張りの立つ出口から、生贄が一人でも出て来たことはなく。つまり、まだ怪物は迷宮の奥に生きていて、ささげられる贄たちを貪り食っているのだ。
 ――と、そのような説明を受けて、黒髪の若者が迷宮に閉じ込められたのは、たまたま宿泊先で土地の有力者に目を付けられ、無理難題を持ちかけられて、にべなく断ったからだった。もっとも、呼び集められた衛兵たちは、若者が何かを一言二言つぶやいただけで体が言うことをきかなくなり、縛りあげることはおろか、触れることすらできなかったのだが、若者のほうは、迷宮のことを聞かされると、軽く首をかしげ、「いいだろう」と独り言のように言って、むしろ自ら進んで迷宮へと案内され、閉じ込められるままになったのだった。
 このとき、幾人かの力弱き罪人も、共に迷宮に放り込まれた。それは、領主の不興を買った娘たちや子供たちで、これらの生贄たちは、陽の射さない地下の迷宮の中、頼りないカンテラの灯を掲げて震えた。黒髪の若者――ゼラルドは、彼らを顧みることなく無言で歩き出し、結果、おのずと先導の役割を担うことになった。通路はじめじめしており、よほど地中深くに掘られていると見えて、上方を照らしても闇があるばかり、天井を見定めることはできなかった。
 ゼラルドのあとを歩きながら、生贄たちは、互いに声をかけて励ましあった。半日ばかり、くねくねした道をたどり、時間の感覚をなくしてしまったころ、紛れもない獣のにおいが鼻をつくようになった。やがて、彼らの目の前に立ちはだかったのは、毛の長い大きな獣。
 ゼラルドがカンテラの灯を掲げて、怪物の巨体を映し出すと、後方の女子供は悲鳴をあげた。灯の中には、人間の倍ほども背丈があり、大きな目を爛々と光らせ、頭部に三本の太い角を生やした、四足の怪物がいた。弱きものたちが恐怖に駆られて散り散りに逃げようとする気配を察して、ゼラルドが、
「みな、離れるな!」
と、声を張った直後、別の、くぐもった声が、
「恐れる必要はない・・・」
と言った。しばし、沈黙が落ちた。その声が怪物から発せられたのだと理解した生贄たちが再び騒ぎ出すより前に、ゼラルドは会話を試みていた。
「人語を話せるのか」

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