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2016年12月

作者より:「冥婚騒動」

このお話に出て来る冥婚の儀式は、現実世界の冥婚の様子とは、あまり関係がありません。
旅ならではの、「自分の出身地にはない儀式や慣習と出会うことの情趣」みたいなものを意識して書き始めたのですが、呪術的なイメージの強いお話になったかもしれませんね。

思ったより長くなり、終わってみると、全4回にしてもいい量でした。
でも、どうにか年内に仕上げることができたので、区切り良く新年を迎えられます。

今年を振り返ると、恒常的に仕事が忙しく、創作を含めて趣味の時間が減ってしまったのが残念でした。
それでも、多少なりとも趣味に使える時間のある幸せ、というふうに見れば、自分なりに頑張ったよね、と思います。
来年も、頑張りすぎないように気を付けながら、頑張ります。

それでは、皆さま、良いお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします。

冥婚騒動(03)

 老婆は、じろりとゼラルドをにらんだ。
「ほれ、婿殿だって、カチュアを好いてくれておる。カチュアは本当に美人で気立てが良くて、あたしの自慢の孫娘でね。亡くなったあと知人に祟っているのは、たださびしいだけなのさ。この結婚が成立すれば、霊障も収まって、みんなが幸せになる。あんたは邪魔しないで、ささ、とっとと出てっておくれ」
 老婆はゼラルドを押しやろうとした。ゼラルドは老婆をよけながら、ともかく呼びかけた。
「セレン、死霊を鎮めるのに君が人柱になることはない。こちら側に戻りたまえ」
 聞こえているのかいないのか、二つのぼんやりした人影は向き合っており、娘のほうが、長いリボンのようなものを手に持って、相手の腕に結び付けようとしている。
 多少の危険を冒しても、強引に介入せざるを得ないだろうか、とゼラルドが覚悟したとき、背後で部屋の戸が開いて、落ち着いた声がした。
「どうだい、様子は」
 入って来たのは、フルートだった。老婆はキイキイと悲鳴を上げて、両目を手で覆った。
「ひい、何をする。熱い。まぶしい。冥界とつないだ部屋に日光を入れる阿呆があるか!」
「日光?」
 金髪の王子は不思議そうに、煙に包まれた部屋と老婆とを見比べ、説明を求めるようにゼラルドに視線を移した。ゼラルドは、自分でもおかしいほど安堵しながら、助けを求めた。
「亡くなっている女性と、弱っているセレンとを、結婚させるための儀式だ。婿になれば亡者の世界へと連れ去られるようだが、セレンは言われるまま連れ去られようとしていて、埒が明かない。君から、あの愚か者を引き留めてくれないか」
 フルートは、澄んだ青い目でゼラルドを見つめ、にこ、と笑った。
「引き留めてくれたのか。ありがとう」
 返す言葉のないゼラルドから視線を外し、眠っているセレンのほうへ言った。
「セレン? 加減が悪くて弱気になるなら、ついていようか?」
 ゼラルドに見えている二つの人影は、フルートには見えていないようだ。だが、背の高い人影は、自分の腕に巻かれようとしたリボンをほどいた。そのリボンを、相手の娘の髪に結わえてから、溶けるように輪郭を崩し、細い優しげな炎に姿を変えたかと思うと、炎はすうっと揺れて、寝台で眠るセレンの体の中へと消えた。
 月色の髪の若者は、目を開けた。物憂げな視線で、フルートを見て、ゼラルドを見て、それから、おぼろげな輪郭の乙女のほうを見て、言った。
「カチュア。ひとりで行ける?」
 乙女の影は、うなずいた。向きを変え、部屋の隅へと向かって歩き、そのまま壁を通り抜けるようにして消えて行った。老婆が、驚いたように言った。
「カチュア? いいのかい? 行くのかい? だって、あんなに。あんなに・・・」
 セレンは、けだるげにフルートを見た。
「ひとりで休むから、この騒がしいお姉さんを連れて行ってくれる?」
「ああ」
と、フルートは答えた。二人の若者が老婆を連れて部屋を出て行ったあと、セレンはため息まじりに、
「かわいかったな、あの子・・・」
 つぶやいて、目を閉じて、眠りについた。

 夕方ごろ、階下に降りて来たセレンの表情が明るくなっていたので、フィリシアはほっとした。本当は、以前フィリシアが疲労で体調を崩したとき、セレンがあれこれ気を回してくれていたので、恩返しに看病をしたかったのだが、
「何もしなくていいさ。逆にセレンが気を遣うから」
 フルートからそう言われて、なるほどそれもそうかと思い、遠慮したのだった。
「セレン、気分はどう?」
「まあまあだよ、ありがとう。うっかり、見知らぬ女性と結婚しかけたけれど。聞いた?」
「聞いたわ。亡くなったひとと結婚することを、冥婚というのですってね」
と、姫君はうなずいて、目を伏せた。
「ふだんは連れ去られたりしないのだと・・・、セレンは優しいから見込まれたのね」
 近づいてきたフルートが、セレンのうしろから、頭をポンとはたいた。
「君は弱っていると惚れっぽくなるしな」
 少し離れたところから、ゼラルドも冷淡に言った。
「死霊の結婚相手に望まれるなど、愚か者の自業自得以外の何物でもないだろう」
 そして、彼らは別の場所に宿をとって移動し、あの痩せた老婆にはもう会うことがなかった。ただ、カチュアという孫娘の祟りについては、宿でも聞かされる機会があった。死後、様々な怪奇を引き起こして、知人、友人たちを悩ませていたらしい。
 乙女の霊が、素直に言うことを聞いて去ってくれたことを思うと、セレンは、
(たしかに、これも何かの縁ではあって、仲人の見立ても良かったのだろうな)
と、そんなふうに思った。そして、
(一緒に行けなくて、ごめんね)
と、ひとときを、乙女のために祈ったのだった。

(完)

長くなりましたが、年内に終わらせました!

冥婚騒動(02)

 分厚いカーテンが引かれているせいで、真昼だというのに、部屋は薄暗かった。加えて、部屋のどこかで焚かれているらしい紫色の煙がもやもやと立ち込めており、いっそう視界を悪くしていた。煙はほのかに、悲しげな甘い匂いがした。
 目をこらすと、板張りの床の真ん中には寝台がひとつ置いてあり、月色の髪をした若者が、倒れこむような形で横たわって眠っていた。そのすぐ手前の床に膝をついて屈みこんでいる老婆は、枯れ木のような手に握った白いチョークで、怪しげな図形を熱心に描き広げており、振り返ってゼラルドを認めると、手をかざしてキイキイと喚いた。
「これこれ、入って来るんじゃないよ。うう、まぶしい。あんたの炎は青白い割に、なんだかずいぶん強く光るじゃないか? 後生だから、この婆の目をつぶさないでおくれ。あたしは謙虚な仲人に過ぎないし、人と人を結ぶ縁を邪魔するのは、野暮というものだろうに」
「・・・」
 ゼラルドは、冷静に観察した。床の図形は見たことのない形だが、何らかの儀式を執り行うためのものに違いない。セレンは穏やかな表情で眠っているだけのように見える――が、寝台の向こうにぼんやりと、煙に包まれて立っている長身の人影は、セレンにずいぶん似ているような・・・。その隣にもうひとつ、寄り添うように立っている人影は、シルエットから見て、晴れ着に身を包んだ見知らぬ娘のような・・・。
 老婆は、輪郭のはっきりしない娘のほうに向き直り、猫なで声で呼びかけた。
「さあさあ、ともかく、これでもう寂しくはないだろう、カチュア。早いところ婿殿を連れてお行き。そして二度と戻るんじゃないよ。そりゃあ、あんたは可愛い可愛い孫だけんど、もう向こう側に渡った人間だものさ」
 娘はうなずいて、隣に立つ「婿殿」の腕に手を添えた。「婿殿」は、こちらも輪郭がぼやけているが、抵抗することなく連れて行かれようとする。
「待て、セレン」
と、ゼラルドはあわてて呼んだ。長身の影は振り返った。顔立ちははっきりしなかったが、セレンの魂に何か関係のあるものに違いなかった。とはいえ、呼び止めたものの、何をどう話せばよいのだろう。ゼラルドは困惑し、つい、思ったことをそのまま言葉にしてしまった。
「美女ならば死霊でもかまわないのか。節操がないにも程があるだろう」
 言ってから、あまりにもくだらないことを口にしてしまったという思いで、軽い自己嫌悪に陥った。いや、それというのもセレンのせいだ。いっそ、このような軽薄な愚か者など、引き留めずに黄泉路へと送り出してしまえばよいのではないか。
 返事があるとは思っていなかったが、驚いたことに、人影は、さやさやと囁いた。
「寂しいと思う誰かが、寂しくなくなるのなら、それでいいから・・・」
 ゼラルドは、はっとした。何かが「ああ、そうか」と腑に落ちた。落ちたけれども、それではどう応対したらよいのかといえば、余計にわからなかった。

のびました。あと1回あります。

冥婚騒動(01)

 いつでもどこでも誰にでも優しい若者、と見えるセレンが、実は、気のおけない仲間うちでは、しばしば神経質だったり我儘を言ったり機嫌が悪かったりする、ということを、このふた月ほどでフィリシアも理解していた。が、少なくとも彼はフィリシアに対しては、旅の仲間として接しつつ、いつも穏やかな笑顔を向けてくれていて、そのおかげでフィリシアが救われるように感じたことも一度や二度ではなかったから、その日、セレンの様子がいつもと違うことに最初に気づいたのがフィリシアだったのも、不思議なことではなかった。
 フルートやゼラルドが「ああ」とか「そう」としか返事をしてくれない、他愛のない世間話に、ふだんなら楽しそうに付き合ってくれるセレンが、今日はあまり返事をしてくれず、しだいに無表情になっていく。たまたま目が合ったときなどに、ちらりと笑みを見せるその視線も、常とは違う、物憂げな色をしている。
「ねえ、セレン、どうしたの」
と、フィリシアは、昼食のために立ち寄った町の食事処で、心配になって尋ねた。
「どうって?」
「私、あなたの気に障るようなことをした?」
「君が? そんなことないよ。どうして?」
「それなら、もしかして、具合が悪い?」
「・・・少し。大丈夫、夕方まで辛抱すれば大きな街に着くから。そうしたら早めに休むよ」
 その言葉はフルートの耳にも入ったので、王子は初めて気が付いて振り返り、じっとセレンの顔を見て、セレンの肩をつかんだ。
「なんだよ、離せよ」
と振り払われて、その手首をつかみなおし、もう片方の手をセレンの額に当てて、言った。
「熱がある。早く言え」
「大丈夫だってば。もっと落ちつく場所に着いたら、休ませてもらうから」
 そのやりとりを、ちょうど店の二階から下りて来た老婆が聞きつけたらしい。
「お連れさん、具合が悪いのかね?」
 骨と皮ばかりに瘦せ細った老婆は、きいきいする声で言った。目ばかりが光っている。
「いかんねえ。上の階で休まれるといいよ。なんなら泊まっておくれ」
「ありがとう。ゼラルド、セレンを頼む。ぼくは馬を見て来る。フィリシア、手伝ってくれ」
 フルートが出て行ってしまったので、ゼラルドは眉をひそめつつ、仕方なくセレンに付き添った。セレンはあきらめた顔で、老婆に付いておとなしく階段を上がった。
「それじゃあ、お連れさんにはこちらの部屋で休んでもらおうね」
 老婆は、セレンを連れて奥の部屋に入り、ゼラルドに頷いてみせて、バタンと扉を閉めた。ゼラルドは引き返しかけた――が、なぜ、「一緒に入って、戸を閉めた」のだろう? ふと違和感を覚え、なかば無意識に聖札を3枚めくった。示されたのは、「死者」「婚姻」「儀式」。
 日頃のおこないが悪いからそういう厄介事に巻き込まれるのだ、という気がしないでもなかった。しかし、放っておくわけにもいかないだろう。黒髪の若者は、扉を開けた。

予告:「冥婚騒動」

予告を出してみます!
主人公格4人(フルート、フィリシア、セレン、ゼラルド)が出て来る、短いお話。
全2回と思われます。

ちゃんと年内に完結させて、あとがきまで書いて、1年を〆たいです。
いえ、お話としては、べつに何の区切りでもない話なのですが。
無理のない範囲で、できるところまで頑張ります☆

トーナメント結果:「三本角の怪物」 & 気になるイベント

10日ばかり、更新間隔が空いてしまいました。
仕事で忙しくしていたら、風邪をひいてダウンしました…。
熱やら咳やらがひどく、病院に行ってインフルエンザの検査をしたところ、お医者さんが、
「インフルエンザの反応がね、出ないんですよね…」
と、不思議そうな顔をして言ったくらいに、症状の似た風邪ですcoldsweats01
ようやく起き上がって、記事を書けるくらいに回復しました。

***

「三本角の怪物」は、トーナメントで準優勝をいただきました。ありがとうございます。
ただ、最近の自作小説トーナメントは、出品するひとも、読んでくれるひとも、数が少なくて、盛り上がりに欠けています。
せっかくのイベントを盛り立てて行くには、どうしたらいいのかなあ。

***

遊びに行きたい、気になるイベントは、謎解き関係で、こんなの見つけています。

1.ホテル体験型謎解きイベント
  「本と歩く謎解きの夜」推理作家センゴクからの挑戦状

 箱根仙石原プリンスホテルで、「奇妙な本」を片手に謎解きをする、という内容。
 開催期間は、2017年1月10日~3月16日(途中、除外日あり)。
 宿泊プランと日帰りプランを選択できます。謎解き時間は4時間~8時間くらいとのこと。
 ゆったり贅沢に、宿泊プランで、ディナーも食べて、謎解きしたいなあ。
 公式サイトは→ こちら

2.星の王子さまミュージアム「星の王子さまと不思議な贈り物」

 仙石原エリアの、星の王子様ミュージアムで、謎解きキットを使って楽しむイベント。
 現在、常設イベントで、参加料1000円(入館料は別途)。
 大人が1時間で解けるくらいの問題とのことなので、気軽に参加できますね。
 前述の仙石原プリンスホテルに行くなら、宿泊して美術館めぐりしつつ、これも参加したい。
 公式サイトは→こちら

3.ミステリー・ザ・サード2017「一二三発見伝(ひふみはっけんでん)」

 「今ここで起こった事件に巻き込まれる」がテーマの人気イベント「ミステリー・ザ・サード」。
 目の前で起こる事件。残されている遺留品。観察力や記憶を頼りに、犯人を特定します。
 2017年の東京公演は、代々木上原で、2017年3月の週末に開催予定。
 大掛かりなお芝居なので、参加費用は11,000円。でも毎回楽しいから、ぜひ行きたい。
 公式サイトは→ こちら

***

「遥かな国の冒険譚」の新作は、年内は無理かもしれません…。
まだ諦めてないけど…。

以上、ご報告・ご案内でした。

進捗状況報告(2016/12/8)

年末で、あわただしくしています。
年末と年度末は、やっぱり忙しいものですねえ。
残業は嫌いなのに、お仕事があふれます…。

それはさておき、サイト開設から6年経ちました。
物語も、全体の6割くらい、書いてきたような気がします。
が、いまだに「みんなが旅に出たときのお話」が出来てないのは、どういうわけなのかsweat02

年が暮れるまでに、なんとか、あと一つくらいはお話を書きたいなあと思っています。
とはいうものの、考える時間と書く時間を取れるかどうかは、はなはだ不透明。
うーん。まあ、なるようになれ。無理のない程度にがんばります!

三本角の怪物(トーナメント参加用)

 地中深くの迷宮には、角の三本ある巨大な怪物が棲むと伝えられた。100年ほどの昔、この迷宮を造って怪物を封じ込めることに成功したのは、当地の領主の先祖だったという。以来、代々の領主の怒りに触れたものは、老いも若きも、この迷宮に送り込まれた。また、貧しさゆえに盗みを働いた孤児や、想う相手と駆け落ちしようとして捕らえられた娘など、哀れな罪人もすべて、怪物への生贄とされた。もし、怪物に捕まることなく出口にたどり着き、外へと逃れ出る者がいるならば、その者は罪を赦されて放免されることとなっているのだが、常に見張りの立つ出口から、生贄が一人でも出て来たことはなく。つまり、まだ怪物は迷宮の奥に生きていて、ささげられる贄たちを貪り食っているのだ。
 ――と、そのような説明を受けて、黒髪の若者が迷宮に閉じ込められたのは、たまたま宿泊先で土地の有力者に目を付けられ、無理難題を持ちかけられて、にべなく断ったからだった。もっとも、呼び集められた衛兵たちは、若者が何かを一言二言つぶやいただけで体が言うことをきかなくなり、縛りあげることはおろか、触れることすらできなかったのだが、若者のほうは、迷宮のことを聞かされると、軽く首をかしげ、「いいだろう」と独り言のように言って、むしろ自ら進んで迷宮へと案内され、閉じ込められるままになったのだった。
 このとき、幾人かの力弱き罪人も、共に迷宮に放り込まれた。それは、領主の不興を買った娘たちや子供たちで、これらの生贄たちは、陽の射さない地下の迷宮の中、頼りないカンテラの灯を掲げて震えた。黒髪の若者――ゼラルドは、彼らを顧みることなく無言で歩き出し、結果、おのずと先導の役割を担うことになった。通路はじめじめしており、よほど地中深くに掘られていると見えて、上方を照らしても闇があるばかり、天井を見定めることはできなかった。
 ゼラルドのあとを歩きながら、生贄たちは、互いに声をかけて励ましあった。半日ばかり、くねくねした道をたどり、時間の感覚をなくしてしまったころ、紛れもない獣のにおいが鼻をつくようになった。やがて、彼らの目の前に立ちはだかったのは、毛の長い大きな獣。
 ゼラルドがカンテラの灯を掲げて、怪物の巨体を映し出すと、後方の女子供は悲鳴をあげた。灯の中には、人間の倍ほども背丈があり、大きな目を爛々と光らせ、頭部に三本の太い角を生やした、四足の怪物がいた。弱きものたちが恐怖に駆られて散り散りに逃げようとする気配を察して、ゼラルドが、
「みな、離れるな!」
と、声を張った直後、別の、くぐもった声が、
「恐れる必要はない・・・」
と言った。しばし、沈黙が落ちた。その声が怪物から発せられたのだと理解した生贄たちが再び騒ぎ出すより前に、ゼラルドは会話を試みていた。
「人語を話せるのか」
「話せるとも。我はその昔、人と親しく暮らしていたのだからな」
 怪物は、ゆっくりと話した。怪物が口を開けるたび、鋭い牙が見え隠れした。
「我は、裏切られたのだ。我は、快適な住まいを与えられるはずであった。だが、実際に与えられたのは、この暗く湿った迷宮であった。どういう魔術なのか、あるいは我が愚かなだけか、ともかく、我はここから出ることが叶わぬ」
「なるほど。では、この迷宮を人が通り抜けることについては、どう思っているのか」
「無事に通り抜けてほしいと願っているとも。その手助けもしよう」
 その言葉を聞いて、迷える人々は、おお、とどよめいた。ゼラルドは冷静に会話を続けた。
「手助けとは」
「天井に穴の開いた場所がある。そこまで案内しよう。地揺れがあったときにできた穴だ。我には届かない高さの、我には小さすぎて通れない穴だが、人の子ならば、我の背に登って脱出できる。今までにも多くの客人を、その穴から見送ったものだ」
 ゼラルドは少し考えて、納得した。今までこの迷宮に入れられた者が逃れ出た試しはないと聞いていたが、怪物が別の秘密の抜け穴から虜囚を逃がし、その穴が別の街につながっているとしたら。虜囚は元の街には戻るまい。話のつじつまは合う。
 怪物は向きを変え、のそり、のそりと歩き始めた。人々はおそるおそる、後に続いた。
 彼らは、またしばらく歩き続けた。小さな子らが、もう歩けないとベソをかくと、怪物は子供たちを背に乗せてくれた。果たして、ようやく怪物が立ち止まったとき、その真上には人ひとりが通れるほどの穴があって、外から光が差し込んでいた。
 怪物は、進んで人間たちの踏み台になった。とらわれた人々は、喜んで怪物の背に登り、次々に穴から外に出て行った。ゼラルドは、怪物の傍らで静かに人々を見守っており、ついに彼ひとりが残されると、怪物が不思議そうに聞いた。
「なぜ、おぬしは登らないのだ」
「最後のひとりを逃がす気はなかろう。気づかぬふりで殺されてやるわけにもいかない」
「・・・」
「その牙は、肉を食らう牙だ。また、食らわねば、生きてはおられまい」
「・・・そのとおりだ。ここには他に食べるものがない」
 怪物は認めた。ゼラルドは、じっと怪物の目を見つめて、言った。
「試してみる気があるなら、私が、そなたを迷宮から出そう。そなたは、現在の領主が他の食べものを差し出すかどうか、見定めたらよいだろう」
 怪物は目玉をギョロギョロと動かして、答えた。
「聞かぬぞ。人間が再び我をだまそうとしても、そうはゆかぬ。逃がすものか」
「そうか」
 怪物は牙の生えた口を大きく開けて迫った。ゼラルドはトンと地を蹴って、術の力でふわりと浮かびあがると、金色の長剣を抜き放ち、怪物の首を一息に切り落とした。
 三本の角を持つ獣の頭が、ごろりと地面に転がった。何かを言おうとするように顎がもぐもぐと動いたが、すぐに動かなくなった。

 その日、迷宮の出口で番兵たちの守る扉から、初めて人が現れた。迷宮を通り抜けた若者は、三本の角がある獣の首を引っさげており、あわてて駆け付けた領主が、
「そんなばかな。あの迷宮の出口は・・・」
と、動転して口走りかけるのへ、物憂げに、
「今日より、あの迷宮には出口がある。迷宮のぬしは、このとおり、もういない」
 そう言って、怪物の首を置いて立ち去った。若者を引き留める者はなかった。
 ――怪物の首は、目を閉じて、笑っているように見えたという。

(完)

第23回 自作小説ブログトーナメントに参加中です。約2,250字。
一言ご感想をお聞かせいただけると嬉しいです。

作者より:「忘れられた町」

前半と後半の境目を間違えて、おさまりの悪い載せ方になってしまいました。
そして、なんだか悲しい感じのお話になりました…。

悲しくない終わり方だって選べたはずではありますが、目を凝らして一番はっきり見えたのが、この終わり方だったので、これを選びました。
こういうのを読みたい気分のときもあるから…、と、いうことなのかな。
お話の中の季節も、大詰め間近な冬ですしね。

次は、悲しくないお話を書きたいな。
仕事に追われて、なかなか創作の時間が取れないけど、がんばります。

忘れられた町(02)

「すぐ立ち去ることには賛成だが」
と、ゼラルドが、こちらも静かに意見を述べた。
「急ぐにしても、騒がずに、そっと通り抜けるほうがよいだろう。もし、これが何者かの術によるものなら、術者の気を引かないことが何よりも重要だろうと思う」
「君がそう言うなら、そうするさ」
 フルートがそう応じて、旅人たちは口をつぐみ、ざわざわと胸騒ぎを覚えながらも、ふだんと変わらない速さで、ポクポクと馬の歩を進めたのだった。

 しんと静まり返って動かない町のありさまは、まるで、人形の暮らす町のようだった。注意深く見ると、どうやら住人は皆、心配事を抱えながら家へと戻る途中で動けなくなってしまったらしく、深刻な顔をして玄関近くで彫像と化していることが多かった。
 屋根から飛び立った直後と思われる小鳥が、羽を広げたまま宙に浮いている光景にも出会った。動きを止められた鳥が、地に落ちずにいられるのはなぜだろう・・・。
 そうこうするうち、町の中心を通り抜けて、反対側に出た。そして、入ったときと似たようなアーチ型の門に辿り着いた。そこには一人の女性が立っていて、長いローブを羽織り、曲がりくねった杖を振り上げた姿で固まっていた。旅人たちは、おそるおそる女性の前を通り過ぎたが、特に何事も起こることはなく。全員無事に門を出て、道端の草が風に吹かれて揺れているのを見たとき、一行はようやく安心したのだった。
 セレンが、門のアーチを見上げて言った。
「こちらが正門で、森に面したほうが裏門だったのだね。町の名前も、これなら読み取れそうだ。ええと・・・メジ、テ、レニエ・・・ではなくて・・・メジテラニア?」
 そう口にしたとたん、風景が、ゆらりと揺らいだ。杖を持った女性が急に動いたので、旅人たちは驚いて身構えた。
 女性は門の中から、外にいる旅人たちを眺め、悲しそうな顔をして、言った。
「それでは、やはり、私たちは<最後の日>を避けることができないのですね。じきに<嘆きの姫>がやって来て、この地は虚無に溶けて消えるでしょう」
「どうしたら助けられる」
と、フルートが即座に返した。杖を持った女性は、首を振って、言った。
「私たちは、<嘆きの姫>をあざむくため、果てない時の狭間に身をひそめ、世界から忘れ去られることを選びました。でも、それで生きていると言えたのかどうか。いいえ、私たちは、さだめを受け入れることにします。たとえ底なしの虚無にのみこまれても、あなたがたが私たちを覚えていてくれるなら、そのほうが嬉しい」
 そのとき日が翳り、不自然に、ひどく暗くなった。杖の女性は、さびしそうに笑った。
「さようなら、旅のかた。お元気で」
 そして、旅人たちの見ている前で・・・彼女は灰色に染まり、輪郭がぼやけ、宙に溶けて霧散した。その背後では、町だった場所もまた、曖昧に滲み、色彩を失い、何もかもが暗い灰色に塗りつぶされた。
 再び陽光が射して暗灰色の霧を払ったとき、そこにもう、町の姿はなかった。剝き出しの、えぐれた地面が広がっているのみ。
「そんな。そんなことって・・・」
 フィリシアが、かすれた声をもらした。セレンも、まじまじと目前の光景を眺めて、言葉が出ない。
「ゼラルド」
と、フルートが呼びかけた。ゼラルドは、いくらか青ざめていたが、視線を返し、うなずいた。そう、この闇の滲みかた。<嘆きの姫>とは、<闇姫>のことではないのか・・・?
 一行は、しばらくそこに留まって、そこにあった町の運命を考えた。
 それから、静かに向きを変えて、旅を続けたのだった。

(完)

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