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ひとこと通信欄

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辻占い(トーナメント参加用)

 旅先で、新しく訪れた街を歩くとき。フィリシアがその街を知らないのと同じように、その街もフィリシアのことを知らない。今日のように賑やかな大通りを歩いて、たくさんの人とすれ違っても、その中の誰ひとりとして、彼女が大国の王女であることも、生まれながらに死の呪いを受けていることも、大陸の果てにある解呪の聖泉を目指していることも、知りはしない。
 そのことを、フィリシアは心地よいと思う。一挙手一投足を検分されることなく、のびのびと歩き回れるのは素敵なことだ。食べものの店や、仕立屋や、工芸品の店などを、ひやかして回るのは楽しい。行き交うひとの服装や髪形が目新しいのも、わくわくする。
 昨日より空気がつめたく感じられて、もうそんな季節になったのね、と、ふと思ったとき、茶葉を売る出店を見つけた。それならお茶を買って戻りましょう、そう思ったフィリシアの心の声が聞こえたかのように、売り子がにこにこと声をかけて来る。
「お客さん、きれいな青い髪ね、遠くからいらしたの? お茶、安くしておくわよ。よそではちょっと手に入らない、このあたりの名産品よ。ほら、こんなにいい匂い」
 茶葉を少し、フィリシアの手に乗せてくれた。くん、と匂いをかいでみると、やさしく爽やかな香りがする。
「それとも、こっちのほうが好き? 寝る前に飲むと、いい夢が見られるわ」
 もう片方の手にも、違う種類の茶葉を乗せてもらった。こちらはほんのり甘い花の香り。
「本当ね、両方とも、とても良い匂い。どちらにしようかしら・・・」
 右手と左手を見比べるフィリシアの耳に、たまたま、そばを通りすがった子供たちの声が聞こえた。小さな女の子ふたりが、「今日もお花がよく売れるといいね」と話している。「花」という言葉が、ぴょんと胸に飛び込んで来たような気がした。
 フィリシアは時々、辻占いをする。迷っていることを「辻に聞いて」、そのとき聞こえた言葉に助けてもらうのだ。だから今も、その「花」で決めた。
「こちらをください」
と言って、青い髪の姫君は、花の香りのする茶葉を買った。
 ふふ、おみやげができた!
 宿に戻ったら、おかみさんからお湯をもらって、熱いお茶をいれよう。そう思うと、自然に口元がほころんで来る。
 紙包みを抱えた胸が、早くもぽかぽかと温まるように感じながら、フィリシアは軽やかな足取りで、宿に戻って行った。

 二階建ての民家を二軒合わせたくらいの、こざっぱりした、食堂を兼ねた宿屋に戻ってみると、どうやら、フルートとセレンは出かけており、黒髪の若者ひとりが部屋にこもっている様子だった。
 それなら、買って来たお茶を入れるのは夕食後、みんなが揃っているときに――と、いったん思いかけながら、フィリシアはすぐに考え直した。茶葉は数回分を買ってあるから、夜は夜でまた別のこととして、今、ゼラルドと二人で時間を過ごせるなら、それもいい考えだ。なぜって、心の中で、「もし私にお兄さまがいたら、このような感じかしら」と、空想を楽しむことができるから!
 そうは言っても、ゼラルドのほうは、一人の時間を邪魔されたら迷惑に思うかもしれない。フィリシアが部屋の外で、声を掛けるか掛けないか逡巡していると、内側からドアが開いて、彼が姿を見せた。
 いつもと変わらない、謎めいた黒い瞳で、ゼラルドはじっとフィリシアを見つめた。それから、小さく首をかしげ、冷淡な穏やかさで口を開いた。
「ずっと部屋の前に立たれていては、術に集中できない。用向きは何だろう」
「ごめんなさい、あのね。お茶を買って来たの。フルートもセレンもいないけれど、よかったら、一緒に。いかが?」
 ゼラルドは首をかしげたまま、さらにフィリシアを見つめてから、ふ、と微かに笑った。
「君がそう言うなら、いただこうか」
 二人は、昼下がりで空いている食堂に行って、隅の席を使わせてもらった。テーブルを挟んで、向かい合って椅子に掛け、入れたての、湯気の立つお茶を口に運んだ。飲みものの温もりと、花の香りが体に沁みて、フィリシアの顔がほころんだ。
「おいしい!」
「そうだね」
 ゼラルドは静かに同意した。それ以上は何も言わないが、伏せた視線は和らいでおり、口元にはほのかな笑みが浮かんでいる。気に入ってくれたのなら嬉しい、と、姫君は満足する。
 そのまま、居心地のよい沈黙を楽しんでいたいとフィリシアは思ったが、器が空になり次第、このささやかなお茶の時間は終わってしまうだろう。常日頃、話したいと思いながら言い出せなかったことを、話してみようか。フィリシアはそっと聞いてみた。
「ねえ、ゼラルド。あなたは、私の呪いが解けるまで、一緒に来てくださるの?」
「・・・迷惑でなければ。可能である限りは、そうしようと思っている」
「よかった! そうしたら、そのあとは、どうするの?」
「・・・」
「いなくなってしまう・・・?」
「人と人が出会えば、いつか必ず、別れは訪れるものだから」
と言って、ゼラルドは視線を合わせ、フィリシアに言い聞かせるように、穏やかに言葉を継いだ。
「そのときが来ても、嘆くには当たらない。むしろ、ぼくが君たちと出会い、ひとときでも共に過ごせたことを、ぼくのために喜んでもらえたら嬉しいと思う」
「ゼラルド・・・」
 フィリシアが言葉に迷うと、黒髪の若者は、いつもの冷ややかな微笑を浮かべた。
「それとも、君は、『ひとたび手のうちにあっても、そのあと失われたものは、手に入らなかったのと同じ』と考えるのかな」
「・・・いいえ。宝物になったものは、失われたとしても、ずっと宝物なのだと思うわ」
 フィリシアはまじめに答えて、うつむいた。飲みかけのお茶が、器の中で揺れている。
「私ね、なんとなく、あなたがずっと居てくれるような気になっていたの。帰り道も、一緒に帰るのだとばかり思っていたの。でも、この前、フルートと話をして、そういえば、どこまで一緒に行くのか、きちんと決めたわけではなかったのだと思い出して・・・、気になったから、お別れがいつになるのかを辻に占ってみたら、『もうすぐ』と言われたの」
「辻占は、自分のことを占うには悪くない手段だけれど、他人のことを占うのには、あまり向いていないよ。そして、その占いは外れている。まだ少し、先のことだから」
「そうね。まだ少し、先のことよね」
 フィリシアは目を上げて、自らを力づけようとするように微笑した。
「そのときが来るまで、ここにいる二番目の妹のことを、よろしくね」
「二番目の妹」
「私のこと。ローレインにいらっしゃる妹さんより年上だけれど、新参だから、二番目」
「・・・ぼくは、君の兄になれるほど、出来の良い人間ではないと思う」
「それを言うなら、私のほうこそ。でも、あなたはいつも私を助けてくれて、今日もこうして、一緒にお茶を飲んでお話してくれて、そういうことが、私、うれしいの」
「・・・そのようなことで良いのなら」
「ありがとう!」
 フィリシアは明るい笑顔になった。ゼラルドも、微かに、笑った。

 フルートとセレンは、日のあるうちに外から帰って来て、フィリシアとゼラルドが食堂の隅で語らっているのを――というより、楽しそうに話しているのはフィリシアで、ゼラルドは静かに聞いているだけだったが――見つけた。
「あの二人、あれほど仲が良かったか?」
と、戸惑ったように言ったフルートは、そのまま二人のテーブルまで歩いて行き、
「ただいま。何を話して――」
「あ、おかえりなさい! 二人とも、お茶はいかが? いま入れて来るから、待っていて」
 青い髪の姫君は、屈託なく笑って、立って行ってしまった。
「いや、その、何を」
と、フルートが視線を移すと、黒髪の若者のほうは、小さく首をかしげ、こちらも少し戸惑ったように、
「・・・君に話すほどのことは、何も」
と言った。フルートは複雑な表情になったが、じきにフィリシアがお茶を入れて戻って来ると、話題はお茶のことになって、なんとなく、それで納得してしまったのだった。

(完)

第24回 自作小説ブログトーナメントに参加しています。約3,210字。
よろしければ、一言ご感想をいただけると嬉しいです♪

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コメント

お花の香りのお茶飲んでみたくなりましたが
寝る前に飲むと良い夢が見られるお茶欲しいです(*'▽')☆彡

物語が今度どうなっていくのか
楽しみにしています。

ホシノさん、
コメントありがとうございます♪

紅茶専門店などに行くと、いろんな香りのお茶が置いてあって、ときめきます。
良い夢が見られるお茶、私も欲しいですheart04

お話の順番をあまり気にせず、過去と未来を行ったり来たりして書き連ねているので、読みづらいこともあると思うのですが、気の向いたときにお立ち寄りいただけたら嬉しいです。
励みになります。ありがとうございますconfidentclover

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