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軽薄な石像(03)

 石像だった若者が、フィリシアの片手を握ったまま、ずいと身を乗り出したので、フィリシアのほうは、控えめに身を引いた。若者は、希望に燃える目でフィリシアを見つめた。
「かの彫刻家は、ぼくに向かって言いました。『さて、色男さん。あなたの隣に、ひとりぶんの席がありますね。そこに、あなたのお気に召すような美女が座ったとき、ほんの数分、あなたの体は人間に戻るようにしてあげましょう。そして、もし、あなたが人間でいる間に、隣の美女とキスすることができたら、あなたを自由の身に戻してあげましょう』――つまり、ぼくがこれから言いたいことは、もうおわかりでしょう?」
「え」
 フィリシアが目を丸くして、言葉を失っていると、石像の若者は、うっとりと続けた。
「今までにも何度か、美しい女性が隣に座ってくれたことがありました。でも、ぼくは気がせいて、ろくな説明もせずに迫ってしまい、突き飛ばされて、逃げられて、おしまいだった。今日は違う。ぼくは全てを説明したし、あなたはとても優しい目をしたお嬢さんだ。どうか、ぼくの石化の呪いを解くために、ほんの一瞬、あなたの唇をぼくに貸してくださいませんか」
「あの、少しだけ、待って・・・」
 呪いを解くために、という言葉は、姫君の心を動かした。けれど、あまりに急な展開だったので、心の準備をさせてもらいたい。そう思った姫君の、片手をぐっと引き寄せて、若者は顔を寄せていた。
「待たない。時間がないんだ」
「ま、待って。お願い。・・・やめて!」
 フィリシアは必死に体を振りほどいた。自由なほうの手を振り上げ、
 ――ばちんっ。
 気づいたときには、思い切り、若者の頬を張っていた。
 若者は、フィリシアから手を離し、張られた頬をさすった。
「ご、ごめんなさい・・・。でも、私・・・」
 フィリシアが謝ると、若者は、傷ついた目でフィリシアを見て、ため息をついた。
「いいんです。また、だめだった。何がいけなかったのか考えます。すみませんでした」
 そう言って、くるりとフィリシアに背を向け、石像の恋人の手に口づけて、その体はだんだん白っぽくなり、みるみるうちに、石に戻ってしまった。
 もう少し早くから話の行方が見えていて、十分に心の準備ができていたら・・・。
「フィリシア?」
 困ったような声が降って来て、傍らを見れば、陽光色の髪をした王子が、水の入った皮袋を持って立っていた。姫君の顔が、ほんのり赤くなった。
「フルート。もしかして、今の・・・」
「力いっぱい殴っていたな」
 言ったほうには悪気はなかったが、姫君のほうは、蛮行を恥じてますます赤くなった。フルートは頓着せず、姫君に水袋を渡した。ひんやりと冷たい水。
「ありがとう」
「フィリシア。ぼくのことも、殴りたかったのなら、殴っていいんだぞ」
「・・・?」
「何でもない。このひとたちは、また石に戻ったのか」
「そうなの。女のひとのほうは動かなかったけれど」
 聞いて、王子は首をかしげた。
「いや、動いていた。ぼくに向かって、早く来いと手招きしていた」
「ふたりとも動いていた? それなら、もしかして」
 呪いの解ける条件。人間でいる間に、隣の美女とキスすること。「隣の美女」とは。
 フィリシアは石像たちに向かって話しかけそうになって、思いとどまり、口をつぐんだ。きっと、若者が自ら気づかなければならないことなのだ。
「ん?」
「・・・ふたりは、いつか人間に戻れるのだと思うわ」
「君の具合は、少しは良くなりそうか?」
 心配そうに気遣ってくれる王子は、石像のことなどどうでも良さそうだ。フィリシアは水の袋を頬に当てて、微笑んだ。
「大丈夫、ありがとう。行きましょう」
 フィリシアにかけられた死の呪いを解くために、彼らもまた、旅を行かなければならない。
 姫君は、しばし目を閉じて石像たちの幸運を祈ったあと、馬上に戻ったのだった。

(完)

たいへんお待たせしました!

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コメント

こんばんわ(*^^*)

続き待ってました~heart04
深いですね~。
フィリシアがあっさりキスしても意味ないですもんね。
いつか気付くのかな?^^;

フィリシアの健気さとフルートの気遣いが可愛かったですlovely
雪村さんもご無理されないでくださいね~^^

弥沙さん、
コメントありがとうございます♪

続きを待っててくださる方のいる幸せ! 嬉しいです、ありがとうございますshine
石像の若者は、いつか気づくだろうと…、たぶん…、どうでしょうか…coldsweats01

フィリシアもフルートも、それぞれに一所懸命な感じのするお話になりました。
微笑ましく見守っていただけたようで、作者の私もにこにこしています。

仕事が落ち着いて、元気になってきましたので、
マイペース、マイペース。と唱えながら、少しペースアップできたらいいなと思います☆

月路さん♪

来訪ありがとうございます!
どうぞお風邪など召さず
お元気で年末お過ごしくだいね。

「軽薄な石像」拝見しましたgood

月路さんお早うございます(^^)/

石像のバカ者じゃなかった若者は
多分一生気づかない気がします…

石像になった理由を考えれば
恋人の石像の隣で、他の美女とキスは
無いですよねw

解呪という事でキス少し考えてしまう
フィリシア。

かつて初心なお姫様のファーストキスを奪って泣かせた事を
思い出すフルート。

二人の今後の進展はどうなるんですかね?

ではまた?(^o^)/

montiさん、
ごぶさたしてしまってすみません…!

あれよあれよというまに秋になり、冬になろうとしています。
もっとゆっくり時間を味わいたいなあと思います。
montiさんも、ご無理のありませんようにconfidentheart04

とり3さん、
コメントありがとうございます♪

石像の二人は、後世までそのまま、街道脇に残っているかもしれませんね。
恋人と二人で取り壊されることになって、初めて何かに気づいたり、とか。

フルートとフィリシアは、たぶん国に帰るときまで、こんなふう…かも…?
いつも丁寧にお読みいただいて、ほんとにありがとうございます…!shine

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