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鬼(トロル)の花嫁

 ある山の奥深くに、鬼が棲んでいた。体が大きく、凶悪で、よく人里に下り、人間・家畜を襲った。困った人々は、美しい娘をひとり選んで生贄とし、晴れ着を着せて里から送り出した。
 娘は、人ひとりがようやく通れる細い道をたどって、鬼の棲みかに着いた。鬼は美しい花嫁を歓迎し、大切にもてなした。
 娘は働きもので、気立ても良かった。鬼は、娘と暮らす山の毎日が楽しくて、人里に下りることがなくなった。このままいつまでも二人で暮らしたいと願った。
 だが、娘は先に寿命が尽きて、世を去った。鬼はその場に座り込んで亡骸を抱き、何百年も泣いた。

 あるとき、鬼のすみかを通り過ぎる者があった。背の高い若者で、さらさらと伸びた長い髪は、月のように淡い金色をしていた。鬼を見ると、若者は穏やかに言った。
「こんにちは。ここを通り抜けてもよいでしょうか」
 鬼は若者に、腕に抱いた妻を見せた。そうせずにはいられなかった。
「見てくれ、俺の花嫁は美しいだろう」
 問われた若者は、そこに骨をしか見出さなかったが、優しく微笑んで、「美しい方ですね」と答えた。鬼は満足した。
「そうか。通るがいい」
 若者は通り過ぎて行った。

 やがて、今度は、鬼のすみかを通り過ぎる乙女があった。ゆるく波打つ長い髪は、北方に特有の青い色をしており、鬼に気づくと、朗らかに言った。
「こんにちは。ここを通ってもいいでしょうか」
 鬼は、腕の中の妻を見せた。そうせずにはいられなかった。
「どうだ、俺の花嫁は美しいだろう」
 問われた正直な乙女は、鬼を見て、骨を見て、また鬼を見て、少し考えてから、
「美しいひとは、いつまでも美しいのですね」
と言った。鬼は満足した。
「そうだな。通るがいい」
 乙女は通り過ぎて行った。

 そして次に、また、若者が通りかかった。陽光色の髪と、意志の強そうな青い目をした彼は、鬼には興味を示さずに通り過ぎて行こうとしたが、鬼は立ちふさがって、尋ねた。
「俺の花嫁は美しいだろう」
 若者は、鬼の腕の中を見て、ためらいなく、
「美しい骨だ」
と応じた。
 骨――? 鬼は、はっとして、腕の中をまじまじと見下ろした。涙で曇った目には、それまで、まぶたを閉じた妻の顔しか映ってはいなかったが、このとき、その顔の向こうに骸骨が重なって見えた。
 鬼は、怒りと悲しみに激昂し、妻の亡骸を片腕に抱いたまま、残りの片腕を振り上げて若者に襲い掛かった。若者は、帯びた剣を抜いて応戦した。あっけなく、鬼の腕1本が切り落とされた。
 鬼は、痛みと苦しみにうずくまった。若者は黙って立ち去った。

 最後に、謎めいた若者が現れた。黒い髪、黒い瞳、白い肌をした若者は、鬼に気づくと、無言のまま鬼の前に立った。鬼は、泣きながら尋ねた。尋ねずにはいられないのだった。
「俺の花嫁は美しいだろう」
 若者は静かに応じた。
「見えぬものが見えるなら、聞こえぬものも聞こえよう」
 聞こえぬもの――? 鬼は耳をすませた。ふと、愛しい人の呼ぶ声がしたように思った。
 鬼は耳をすませて、無心に聞き入った。若者は通り過ぎて去った。

 それからしばらくの間、鬼は毎日、妻を片腕に抱いたまま、妻の優しい声を聞いていた。
 懐かしい、在りし日々の夢を見た。
 そして、いつしか、鬼も、骨となった。

予告なしでしたが、本編のつもりです。

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コメント

月路さん、今年もよろしくおねがいいたします(^_^)
久しぶりにポチ回りしましたら、お話がアップされてて
拝見しましたが、鬼が切ないですね。
とても好きなお話でした。

kayokoさん、
本年もよろしくお願いいたします!

お正月から切ないお話でいいかしら、とためらいつつ、
救いのある優しいお話だからと思って、アップしました。
好きなお話と言っていただけて、ほっとしました。
どうもありがとうございますshine

月路さんおはようございます。

鬼が腕をもがれるのは、最早フラグですかね(^_^;)

山に住まうのは、隠者に魔導の使い手に
罪人や訳有の人…
異人なのか、ネアンデルタール人的な旧人なのか
この世界では普通に亜人類なのでしょうね…

何気に人ならぬ者に優しいので
嫁の元に送ってやるのかとも思いましたが
ゼルに豆で退治されなかったですね
そんな事を考えつつ楽しく読ませていただきました。

ではまた

とり3さん、
コメントありがとうございます♪

鬼の腕については、なんというか、様式美みたいなものかもしれませんし、
比較的、攻撃しやすい部位だから落とされてしまうのかもしれません。
このお話では、「鬼」は西洋の鬼=トロルのイメージですが、
山奥で時空のひずみに入った旅人たちが日本に迷い込んだようなふうに、
和風な鬼のイメージで読んでいただいてもいいなと思います。
あるいは、たまたま巨体で長命に生まれついて忌避された人間なのかも…。

お楽しみいただいて何よりです。ありがとうございます♪

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