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2018年3月

宝物:セレンを描いてもらったよ~

お仕事の繁忙期につき、最近は「予告」も「あとがき」もなく、物語の短い切れ端のような掌編ばかり載せていますが……

今夜は、なぎさんが描いてくださったセレンの絵に癒されたので、寝る前にご紹介をっ!

美麗に描いていただいたセレンと、情けなくて笑っちゃう感じのセレンと、可愛いフィリシアの絵です。
ぜひぜひ、みなさん、見に行ってみてください → こちら です!

なぎさん、いつもありがとうございますheart

動かないで

 せっかく美姫と二人きりだが、野宿なので、それほど面白くもない。せめて、どこか大きな街で、おいしい食べものや飲みものを口にしながら会話を楽しむことができれば、たとえその姫君が自分の口説いてはいけない相手であっても、いくらかは気が晴れようというものを。
 などと、内心で文句を言いながら、月色の長い髪をした若者は、馬の荷から毛布を2枚取り、片方を姫君に渡した。
「あたたかい季節だけれど、明け方は寒くなるかもしれないから、使って」
「そうね」
 青い髪の姫君は、毛布を受け取って、ふんわりとくるまった。もぞもぞと、木の根を枕にしながら、やや心配そうに、
「恥ずかしいから、あまり寝顔を見ないでね」
と、小さな声で釘をさすあたり、乙女心がかわいらしい。
「こちらこそ。お互い、じろじろ見ないようにしよう。おやすみ」
「おやすみなさい」
 姫君は素直に目を閉じて、おそらく疲れていたのだろう、すぐに寝息を立て始めた。
 若者のほうも、木に寄り掛かり、こんな場所では気が休まらないなと思いつつ、そうはいってもやっぱり疲れていて、やがて、うとうととまどろみに落ちた。

 まぶたの裏に朝の光を感じて目を開けると、すぐ傍らに姫君が膝で立っていた。驚きながら、そちらに顔を向けると、姫君は慌てたように、
「あっ、動かないで!」
と言う。なんだろう。寝起きで頭が回らないまま、ひとまず言うことを聞いてじっとしていると、姫君は膝立ちしたまま、
「少しだけ、頭を下げて」
と言う。言われたとおりに頭を下げると、姫君は、彼の頭の上に手を伸ばす。
 実のところ、その位置関係だと、彼は、そうしようと思いさえすれば、姫君のふっくらした胸の谷間を覗きこむことができた。が、彼は礼儀正しく視線を逸らした。この姫君は、彼の友でもあり主君でもあるひとの想い人だから、自分が得をするのは何だか申し訳ない。
 姫君は真剣な様子で、しばらく彼の髪を引っ張っているようだったが、やがて明るい声で、彼の目の前に手を差し出した。
「はい、取れたわ。見て!」
「え。……わっ」
 姫君の華奢な指の間につままれていたのは、きれいな緑色をしたカマキリだった。若者のぎょっとした様子に、姫君は不思議そうな顔をした。
「カマキリは苦手?」
「苦手。虫はダメなんだ」
「そうなのね」
 姫君は、カマキリを近くの草むらに置く。カマキリはしばらく首を左右にかしげていたが、じきに草むらの中に入っていった。

 二人はそれから身支度をして、持っていたパンや干した果物で朝食にした。
 ゆるやかに波を打つ青い髪。姫君は優しい空気をまとい、明るく、みずみずしく、よく笑う。こういう感じの美人は故郷の都にあまりいなかったから、友人が惹かれるのも無理はない。その友人は、別行動をしているが、今頃は慌てて馬を駆っているだろう。姫君と自分を二人きりで残したことを、やきもきしているに違いない。
 そんなに心配しなくても、こんな寂れた場所で、しかも君の好きなひとに、ちょっかいを出したりはしないのに。と、苦笑したところを、姫君に見とがめられた。
「どうしたの? 何を笑っているの?」
「ふふ、内緒。さてと、それではお姫様、そろそろ出発いたしましょうか」
「はい」
 いずれにしても――。
 おおらかで気立てのよい美姫、などという稀有な存在をともなって旅ができるとは、なかなか得難い当たりくじを引いていると言わざるをえまい。
 空は青く晴れて、空気は甘くあたたかく、良い旅日和だ。
 今日も一日、すてきに楽しい旅ができますように!

(完)

(特別に光ってる)

 王都の目抜き通りの裏に、ホリーという少女が引っ越してきた。
「こんにちは。仲間に入れてくれる?」
 そう言って、同じ年ごろの少年少女たちがおしゃべりに興じる広場にやって来た彼女は、このあたりでは珍しい、つやつやした青い髪をおさげにしていたので、迎えた皆は、へえ、という顔をした。おっとりした丸い顔と大きな青い目は、少年たちの胸をときめかせた。
 そわそわした雰囲気を敏感に察して、宿屋の娘のアリスが、つんと澄まして言った。
「髪の色が青いなんて、変なの!」
 アリスと張り合うことの多い仕立て屋のパティも、今日は同意して続けた。
「ほんと、へんてこだわ。かわいそう!」
 ホリーは気にした様子もなく、おおらかに笑った。
「えへへ、あたしのおばあちゃん、クルシュタインの出身だから。あたしの親戚には、髪の青いひと、いっぱいいるんだよ」
 ホリーの笑顔につられて空気がやわらぎかけたとき、
「へんてこじゃないし、とても綺麗だ」
と、よりによってルークが言い出したことで、雲行きは微妙に怪しくなった。輝く金色の髪に、澄んだ青い瞳をしているルークは、明るくて活発で茶目っ気があって、仲間うちで一番の人気者だ。女の子たちがこっそり、「ルークはみんなのものだから、抜け駆けは禁止」と協定を結んでいる、そのルークが、
「変わってるって、いいと思う。ひととは違うところって、つまり、そのひとだけの特別な魅力、ってことだろ」
と、そこまで言った。
 ルークといちばん親しいセレンは、これはあとで面倒なことになりそうだ、と、内心でハラハラした。案の定というか何というか、その日ルークが「じゃあ」と帰って行ったあと、セレンはあっというまに、目を吊り上げた女の子たちに囲まれてしまった。
「セレン! ルークって、実は青い髪の女の子が好みなの?」
「違うわよね、セレン! 人と違う特別なところに惹かれるってことよね!」
「ねえ、セレン。それじゃ、あたしにも特別なところってある?」
 詰め寄られて、セレンは後じさりながら、
「待って、落ち着いて、一人ずつ話して」
 言いながら、他の子たちをちらりと見ると、仲間の少年たちはホリーのほうを取り囲んでおり、助けてくれそうな気配は微塵もない。
 あきらめたセレンは、成り行きとして、女の子たち一人ひとりの特別な魅力を一緒に考えることになった。えくぼの可愛い子、気持ちのやさしい子、お洒落の上手な子、等々。
(ぼくから見たら、みんな綺麗で可愛らしいのに。彼女たちのお目当ては、ぼくではなくて、ルークなんだよなあ)
 いくらか面白くない気分もあったから、セレンは最後に、はっきりと言っておいた。
「あのね、次にルークがいつ来るか知らないけれど、次に来たときには、きっと、今日自分が何を言ったかなんてケロッと忘れていて、べつに誰のことも、特別好きになんてならないと思うよ」

 果たして、次にルークが広場にやって来たのは、ちょうど1週間あとだった。
 少女たちは、すでにホリーとも仲良しになっており、家の手伝いから抜け出してきては、広場でそれぞれにおしゃべりを楽しんでいたが、ルークが来たとわかると、そそくさと家に帰って、なにげないふうを装い、せいいっぱいのおめかしをして戻って来る。
 少女たちが口々に、
「ねえ、ルーク、あたしのクルクル巻いている髪、こういうの、好き?」
「ルーク、あたし、声がきれいだって言われたんだけど、どう思う?」
 などと、てんでに言いながら取り囲むと、ルークはたじろいで、
「急に何を言い出すんだよ」
と応じた。そして、女の子たちがしゃかりきになって話しても話しても、なるほどセレンの予言通り、前に来たとき自分が何を言ったかなんて、なんにも覚えていないのだった。
 少女たちは、まあ最初からわかっていたわよ、という顔になった。そして、ルークがいなくなるのに合わせて、肩を落とし、散り散りになっていった。雑貨屋のエリナが最後に残って、セレンの隣で、ふふっと笑った。
「セレンの言ったとおりだったね」
「そうだね」
「みんなの気持ちもわかるんだけどね。ルークって、お日さまみたいだもん。ルークがいるときって、まるで広場がパアッと明るく光ってるみたいな感じがするよね」
「そうだね」
 親友が褒められているのを聞くと、いつもセレンは、嬉しいような、寂しいような、複雑な気持ちになる。
「そいで、セレンはお月さまみたいだよね」
「……えっ?」
 予想していなかった言葉を聞いて、セレンは聞き返した。
「お月さま。ルークみたいに目立つわけじゃないけど、あたしたちのことをよく見ててくれるでしょ。ルークは、あのひとは本当に特別だけど、セレンも、それとはちょっと違うけど、やっぱり特別。みんな、何か相談するならセレンに相談しよう、セレンならきっと聞いてくれる、って思ってる。それってセレンの、ほかのひとと違う、すごくいいところ」
「……ありがとう」
「うん」
「エリナは、明るくチカチカ瞬いている一番星みたいだね」
「えっ。やだ、セレンったら」
 エリナはちょっと赤くなって、うふふ、と笑った。
「でも、ありがと」
「うん」
 二人で「じゃあね」と言い合って別れた。セレンは帰り道、日の傾きかけた空を見上げた。
(お日さまとお月さま、か。太陽と一緒にいたら、真昼の月が目立たないのは当たり前だよなあ。あんなに眩しい太陽だもの……)
 広場の仲間たちの中で、貴族の子であるセレンひとりだけが、ひょいと時々広場に顔を出すルークの、本当の出自を知っている。
 いずれ、ルークは父親の跡を継ぎ、その頭上に王冠を戴くことになるだろう。彼の治世が太陽のように明るく輝かしいものであるようにと、セレンは友として、半ば確信もしながら、心から願っているのだった。

(完)

(半分こ)

 幼いころの思い出は、当時まだ存命だった父の、穏やかな微笑みから始まっている。
「ユリアは、お花を見るより、おいしいお団子やお饅頭を食べるほうが好きなのだね」
 ふたりで、桃の花の下でお弁当を食べた。あのとき、ユリアは3才くらいだっただろうか。半分に割ってもらった、もちもちした桃色のお饅頭を頬張りながら、にっこり笑い返すと、父は愛おしそうに続けた。
「ユリアは誰に似たのだろうね。元気で朗らかで可愛くて、とても素敵なお姫様だ」
 ユリアが、うふふ、と笑うと、父はユリアの黒髪をなでた。
「お団子やお饅頭はね、必ず半分に割って、誰かと一緒に食べるのだよ」
 はい、と、ユリアは素直にうなずいた。

 優しかった父は、やがて、病で他界した。病弱ゆえ王位を継げず弟に譲っていた彼の、愛情の薄い妻と、遅くに授かった娘は、世の中から忘れ去られ、ますます慎ましく、ひっそりと暮らした。遊びらしい遊びを知らないユリアは、年の近い子供もいない離宮で、いつしか<月の聖者>として術の研鑽に熱中し、齢が十を数える頃には、優れた術者となっていた。
 ユリアは自分の境遇を受け入れていたが、母には不満があるようだった。もともと、王となるひとの妻になるつもりで嫁いだ彼女には、この不遇はまったくの計算違いであり、彼女はもっと華やかな場所で、権力をふるいつつ贅沢がしたかったのだ。
 ユリアの知らないところで何かが進行しており、あるとき、亡き父の弟、つまり国王そのひとと、ユリアの母との縁談がまとまった。国王は、だいぶ前に妻を喪って以降、独り身を通していたが、周囲からの再婚の勧めを、ついに断り切れなくなったのだった。
 ユリアには、義理の兄ができることになった。母からは、仲良くする必要などないと言われたが、できれば親しく話せる間柄になりたいと、少女は願った。

 すぐに、ユリアは義兄を好きになった。第一王位継承権を持つ王子は、ユリアとたいして年が違わなかったが、静かな人柄で、<月の聖者>として優れた腕前の術者であり、端正な容貌を備えてもいた。少女の憧れのまなざしは、たいへんな熱意をもって義兄に向けられることになった。
 いままで、食べることと、術の研鑽にしか興味がなかったユリアは、真剣にドレスを選び、ダンスの稽古をし、淑女としての作法を学んだ。大広間でパーティーがあると、ユリアは着飾って義兄に寄り添い、一緒に会話したり、ときには踊ってもらったりした。
 あるとき、パーティーのさなか、王子のもとにデザート皿が届けられて、上に乗っていたのは、懐かしい、もちもちした桃色のお饅頭だった。王子が食べずに断ろうとするのを見て、
「召し上がればよろしいのに。わたくしと半分ずつにいたしましょう?」
 デザート皿を受け取ろうとすると、王子は静かに首を振って、
「食べてはいけない」
「どうして?」
 ユリアが首をかしげていると、向こうのほうから、母が血相を変えて飛んできた。
「ユリア、何をしているの。お兄さまの召し上がるものを取り上げようとは、お行儀が悪い」
「でも、おかあさま、お饅頭は半分に割って、分け合って食べるものでしょう」
「それは……」
 母は絶句して、それから、悲しそうな顔をした。
「そうね、ユリア。ともかく、こちらのお皿は、下げてもらいましょうね」
 桃色のお饅頭は、誰の手もつかないまま下げられていった。

(お父さまが生きていらしたら、いまのわたくしを見て、どう思うかしら?)
と、ユリアは自室に引き上げて、月を見ながら考える。
(お花を見るより大切な、お饅頭を食べること。それよりもっと大切な、綺麗なお洋服を着ること、お行儀よくすること、上手に踊ること、お兄さまとお話しすること……)
 ふと、父の言葉を思い出す。
(お饅頭は、半分に割って、誰かと一緒に食べるのだよ)
 ぼんやりと反芻して――はっと気づいた。ああ、そういうことだったのか!
(では、お兄さまが召し上がらなかった、あのお饅頭は)
(お母さまが慌てて飛んできたわけは)
(お兄さまに何かあったら、次期国王は)
 頭をなぐられたような衝撃……わたくしが、女王になるのだ!
(だめ、それは違う。ぜったいに違う。わたくしは、お兄さまを守る)
(お父さま、わたくし、何もわかっていませんでした)
 こうして王女は、無垢でいられた幼き日々に、別れを告げる。

 

(完)

90分で一気に書いたお話。
番外編なのか、こぼれ話なのか迷います。

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