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  • (2018/07/19夜) 「旅へ」も、電子書籍と冊子に切り出そうと画策中です。

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動かないで

 せっかく美姫と二人きりだが、野宿なので、それほど面白くもない。せめて、どこか大きな街で、おいしい食べものや飲みものを口にしながら会話を楽しむことができれば、たとえその姫君が自分の口説いてはいけない相手であっても、いくらかは気が晴れようというものを。
 などと、内心で文句を言いながら、月色の長い髪をした若者は、馬の荷から毛布を2枚取り、片方を姫君に渡した。
「あたたかい季節だけれど、明け方は寒くなるかもしれないから、使って」
「そうね」
 青い髪の姫君は、毛布を受け取って、ふんわりとくるまった。もぞもぞと、木の根を枕にしながら、やや心配そうに、
「恥ずかしいから、あまり寝顔を見ないでね」
と、小さな声で釘をさすあたり、乙女心がかわいらしい。
「こちらこそ。お互い、じろじろ見ないようにしよう。おやすみ」
「おやすみなさい」
 姫君は素直に目を閉じて、おそらく疲れていたのだろう、すぐに寝息を立て始めた。
 若者のほうも、木に寄り掛かり、こんな場所では気が休まらないなと思いつつ、そうはいってもやっぱり疲れていて、やがて、うとうととまどろみに落ちた。

 まぶたの裏に朝の光を感じて目を開けると、すぐ傍らに姫君が膝で立っていた。驚きながら、そちらに顔を向けると、姫君は慌てたように、
「あっ、動かないで!」
と言う。なんだろう。寝起きで頭が回らないまま、ひとまず言うことを聞いてじっとしていると、姫君は膝立ちしたまま、
「少しだけ、頭を下げて」
と言う。言われたとおりに頭を下げると、姫君は、彼の頭の上に手を伸ばす。
 実のところ、その位置関係だと、彼は、そうしようと思いさえすれば、姫君のふっくらした胸の谷間を覗きこむことができた。が、彼は礼儀正しく視線を逸らした。この姫君は、彼の友でもあり主君でもあるひとの想い人だから、自分が得をするのは何だか申し訳ない。
 姫君は真剣な様子で、しばらく彼の髪を引っ張っているようだったが、やがて明るい声で、彼の目の前に手を差し出した。
「はい、取れたわ。見て!」
「え。……わっ」
 姫君の華奢な指の間につままれていたのは、きれいな緑色をしたカマキリだった。若者のぎょっとした様子に、姫君は不思議そうな顔をした。
「カマキリは苦手?」
「苦手。虫はダメなんだ」
「そうなのね」
 姫君は、カマキリを近くの草むらに置く。カマキリはしばらく首を左右にかしげていたが、じきに草むらの中に入っていった。

 二人はそれから身支度をして、持っていたパンや干した果物で朝食にした。
 ゆるやかに波を打つ青い髪。姫君は優しい空気をまとい、明るく、みずみずしく、よく笑う。こういう感じの美人は故郷の都にあまりいなかったから、友人が惹かれるのも無理はない。その友人は、別行動をしているが、今頃は慌てて馬を駆っているだろう。姫君と自分を二人きりで残したことを、やきもきしているに違いない。
 そんなに心配しなくても、こんな寂れた場所で、しかも君の好きなひとに、ちょっかいを出したりはしないのに。と、苦笑したところを、姫君に見とがめられた。
「どうしたの? 何を笑っているの?」
「ふふ、内緒。さてと、それではお姫様、そろそろ出発いたしましょうか」
「はい」
 いずれにしても――。
 おおらかで気立てのよい美姫、などという稀有な存在をともなって旅ができるとは、なかなか得難い当たりくじを引いていると言わざるをえまい。
 空は青く晴れて、空気は甘くあたたかく、良い旅日和だ。
 今日も一日、すてきに楽しい旅ができますように!

(完)

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コメント

このお話を読んだ時、フィリシアとセレンのカマキリに対する反応が真逆過ぎて
すごーく面白かったのです。。(私はどちらかというとフィリシアサイドw)
天真爛漫な姫君の純粋な心優しさや
セレンの、色んな事を考えてて、下心も全く無きにしも非ずながら(笑)、
ちゃんと他方面へ心遣いのできる、優しくて良いところが見られて
お気に入りのお話の一つになりました(*・ω・*)
嗚呼、フィリシアに摘まれたカマキリになりたい…w←

なぎさん、
先にいただいたご感想の絵と文に加えての、ご訪問とコメントをありがとうございます!

セレンも、フルートと出会ったばかりのころは、おそるおそる、森に棲む虫たちと付き合えていたのですが。今はすっかり都会派になってしまい、バッタやカマキリ等に苦手意識を持っているようです。
カマキリの一匹や二匹が視界に入ったくらいで逃げだしたりはしませんが、心の中で「あっちに行け、あっちに行け…」と思っていそう。
今回のお話では、ご自慢の髪に乗っていたとあって、少しばかりショックだったかもしれませんcoldsweats01

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